鬼子母神3

760 名前:鬼子母神3 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/23(土) 18:48:52.90 ID:tS8WkTWV [2/7]
「はあぁぁ…」

アサネは不機嫌この上なかった。
こっちに住んでから一か月、自分とコン太を取り巻く状況は悪化していたのだ。
―――原因はコン太の周りを付きまとう女、である。
コン太曰く、ただの友達と言っていたが、アサネはどうにかならないかと策を考えていた。
しかし、大していい考えが浮かぶことはなくズルズルと日にちだけが過ぎていった…。

「アサネ?どうしたの?」

そんなアサネでも友人は出来る。
今、話しかけてきた彼女が最初の友人であり、名前は大久那キオナといった。

「―――別に…」
「…コン太君のことでしょ?」
「……」

転校初日からアサネは、ブラコンとして知れ渡ることとなっていた。

「早狩さんってお堅いと思ってたけど、意外に面食いだったんだね…。ホントびっくりしたわぁ…」
「―――!!」
「ちょ…そんな怒らないでよ…、別にあの二人がまだ付き合ってると決まったわけじゃないし…」

もし、そうなったら―――

「コンは人がいいからね…、酷い目に合わないか心配なのよ」
「はいはい、ブラコン乙、と」
「あんた発言が痛々しいわよ…」
「えっ?!都会じゃ皆こういうのが流行ってるんでしょ?」

ほんとに田舎者だな…。
何処でそんな言葉を知ったんだか。
アサネは、酷く疲れてしまっていた。

「まぁ、私も早狩さんのことはちょっと気に食わないところがあったから、協力してあげてもいいわよ」
「?」
「あの二人が引っ付かないように邪魔すればいいんでしょ」
「あからさまにやると、バれるわよ」
「だからさりげなく…でしょ?その代わり―――」

761 名前:鬼子母神3 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/23(土) 18:50:01.76 ID:tS8WkTWV [3/7]
「コン君のお弁当っていつも美味しそうだね」
「ああ、これはアサ姉の手作りなんだ」
「ふーん、ホントいいお姉さんだね…」

一か月も経てば、男女の仲もそれなりに進展するもので…。
早狩ユキはコン太に対して小泉君からコン君へと呼び名を変えていた。

一方のコン太も彼女のことをユキちゃんと呼んでいた。
なので周りから見れば、二人は付き合ってると思われても不思議ではなかった。

「……ねえ、今度私が作ってきてあげようか?」
「弁当?」
「うん、私は自分で用意するから、手間は変わらないのよ」
「うーん、どうしようかな…」

今まで、アサネを除く女子に縁がなかったコン太にとってこの誘いは、甘美なものであった、が―――

「(アサ姉が何て言うかな…)」

都会に居た頃から、アサネの手作り弁当を食べてきたコン太である。
弁当のほか夕飯など、ほとんどアサネが作るモノを食べた。
それは今も変わらず、叔母さんと二人並んで台所で支度する姿を毎日見ている。

つまりアサネは、自分が作ったモノ以外をコン太が食べることを異常に嫌がったのだ。
友達付き合いや、学校行事で遅くなると外食することもあるのだが…。
そうなるとアサネが一度ならず泣きだすこともあった…。

762 名前:鬼子母神3 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/23(土) 18:51:33.77 ID:tS8WkTWV [4/7]
「―――あぁ、いたいた。あなたが小泉君ね」
「…うん、そうだけど?」

目の前に突然女子が現れた。
コン太が会ったことのない子だ。

「初めまして、私は大久那キオナといいます。お姉さんのアサネとは同じクラスで」
「アサ姉の友達?よろしく」

コン太は安堵していた。アサネがちゃんと友人を作っていたからだ。
…都会にいた頃は色々とあったので心配していたのだが、杞憂だったようだ。

初対面ながら親しげな二人を早狩ユキは気に食わなかったようだ。

「大久那さん、何か用事ですか?」
「そうそう。コン太君、部活に入らない?」
「へっ?」
「―――と言っても、規模が小さいから皆同好会みたいなものだけど…」
「…例えばどんな部活?」
「私んとこは、囲碁将棋部だよ。まぁ晴れた日とかは外で適当に遊んでるけどね」
「(なるほど…、部活勧誘に来たわけだな…)」
「大久那さん、小泉君は家庭に色々と事情を抱えてるのよ」
「…早狩さん、決めるのはコン太君次第でしょ?」

いつの間にか、女子二人が火花を散らしていた…。
しかし、コン太は部活のことを考えていたため気付いてなかった。

「いいよ、入らせてもらうよ」
「えっ?!」
「ホント?!ありがとう!!」

二人は対照的な反応をした。

「アサ姉も入ってるんだよね?」
「ええ、当然よ!」
「ちょ、ちょっと、コン君…」
「じゃあ、放課後に入部届を持ってきてね」

キオナはそれだけ言うと、走り去っていった…。

「もう、コン君。今日は図書室で勉強するんじゃなかったの?」
「あ?!忘れてた…、ごめんユキちゃん。でも明日でもいいんじゃない?」
「数学の小テストで泣きを入れてきたくせに、もう助けてあげないよ」
「そんなぁ…、でもああ言っちゃったから今日だけは勘弁してよ…」
「―――はぁ…、わかったわ。明日は絶対よ!」

早狩ユキは念を押して言った。さらに―――

「あと、条件として明日のお昼にお弁当作ってくるから、それを絶対食べること!!」
「あー、うーん…、わかったよ」

コン太はどうやってアサネに言い訳するか考えていた…。
もっとも、言い訳が通用する相手ではないのだが。

763 名前:鬼子母神3 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/23(土) 18:53:12.20 ID:tS8WkTWV [5/7]
「ささ、どうぞ」
「失礼します」

キオナは教室のドアを開けると、コン太に入るよう促した。

「コン…」
「アサ姉…」

中には、アサネ、コン太、そしてキオナの三人しかいなかった…。

「…ねえ、もしかしてこれだけ?」
「たはは…、ホントはもっといるけど幽霊部員がほとんど…」
「こんなんでよく勧誘したわね…」

キオナがコン太と早狩ユキとの仲を邪魔するために出した条件が、アサネの囲碁将棋部への入部だった。
呆れ顔のアサネだったが、部活を口実に早狩ユキからコン太を離せる上、学校内でも一緒に過ごせるのが嬉しく、内心満足していた。

「だから、勧誘したのよ。一応私が部長代理ということで…。で、何するー?オセロ、トランプ…色々あるけど?」
「ここ、囲碁将棋部だよね…?」
「いいのよ!囲碁なんてルール知らないし、将棋もなんかめんどくさいしー!」

その日は結局、何回か大富豪をやるだけでお開きとなった。
コン太は放課後の時間を勉強に充てるべきだったと悩んだが、アサネが存外楽しんでいたため、いいだろうと思った。
ちなみに、キオナは連戦連敗だった…。

764 名前:鬼子母神3 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/23(土) 18:54:33.29 ID:tS8WkTWV [6/7]
「アサ姉はクラスメイトと上手くやってるみたいだね」
「キオナのこと?そうね…、あの子人当りがいいのよ」

帰りの田んぼ道を歩く二人。
夕焼けが二人を染め、トンボが辺りを飛んでいた。
山々の木々は緑から茶色へと移り行き、秋らしさが滲み出ていた…。

「なんか安心したかも。アサ姉大丈夫かなってずっと心配してたし…」
「私のことは大丈夫よ、それよりコンの方が気になるけど…」
「ユキちゃんとは結構仲がいいよ。他の皆とも普通だし」

ユキちゃん―――
アサネの怒りと疲労が一気に増した。
もし早狩ユキ本人がこの場にいたら―――

「ア、アサ姉…?」
「―――?どうしたの、コン?」

つとめて冷静に答えたアサネ。
しかし、コン太はアサネ本人が機嫌が悪くなったのを察知していた。

「(あ、そういえば弁当どうしよう…)」

こんな状況で言えるはずもなく、そのまま一日が終わってしまった。
明日はコン太にとって過酷な一日になりそうである…。

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最終更新:2013年10月16日 08:02
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