パンドーラー12

360 名前:パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/06/22(日) 20:37:09.90 ID:1U8ko4x5 [2/6]
―――午前6時。
5月の朝はまだ冷たさを残していた。

トシヤはこの時間になり、ようやく帰宅した。
朝帰りするのは2度目だ。
ただ今回は…。

「ただいま…」

家の中は静まりかえっていた。

トシヤはマキを探した。

「(マキ姉さんに言わなければ―――)」

彼女はすぐに見つかった。
リビングで膝を抱えてうずくまっていた。
風呂にも入っていないのだろうか、着の身着のままである。
傍には携帯が放り出されていた。

さっき確認したから分かる。
おびただしい数の着信があった。勿論マキから…。

「姉さん…」

何と声を掛ければいいか…。
その雰囲気だけでマキが異常な状態だとトシヤは感じた。
そして、もう一つの思い当たりも…。

彼女は、マキは、自分を諦めていなかったのだ。
トシヤはそれを悲しく思った。
同時に、心のどこかで嬉しさも感じていた。

嬉しさ?

バカな考えだ、トシヤは頭から追いやるようにした。

361 名前:パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/06/22(日) 20:38:11.41 ID:1U8ko4x5 [3/6]
「ただいま、マキ姉さん」
「―――」
「メールでまた帰りが遅くなるって送信したよね」
「―――」
「実は…彼女が出来たんだ」

ビクッ!

かすかにマキは身体をふるわせた。

「その人の家に泊まってきたんだ」
「…」
「あの日に、普通の姉弟になるって約束してくれたけど、今のままじゃ無理みたいだね」
「…」
「僕には恋人が出来た。だからマキ姉さんも誰か恋人を作るべきだよ。
そうして年月が経てば、お互い間違っていたって気付くときも来るだろうからさ」
「…」
「まずはその一歩を始めたいんだ。マキ姉さんも同じ風にしてくれると嬉しい…」
「…」
「…また話し合おう」

そう言って、トシヤは自身の部屋に戻っていった。

マキは…。



昼頃になり、トシヤの携帯に着信があった。
ミコトからだ。

「もしもし、トシヤ君?」
「はい、ミコト先輩」
「先輩っていうのは、よして…」
「えと、ミコトさん…」
「うん」
「…用件はなんですか?」
「昼食でもどうかと思って」
「わかりました。すぐに行きます」

正直、ありがたかった。
マキと同じ屋根の下にいるのが、気まずかったからだ。
原因は自分なのだが、マキも問題がなかったとはいえないだろう。
そうトシヤは自己を正当化する言い訳をたてた。

362 名前:パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/06/22(日) 20:39:24.90 ID:1U8ko4x5 [4/6]
ミコトのマンションに来るのも何だか慣れてきてしまった。
そう思いながらトシヤは入り口に向かった。
オートロックになっているため、インターホンからミコトを呼び出す。

「こんにちは、ミコトさん」
「ようこそ、トシヤ君。どうぞ」

程なくして、入り口が開いた。



デリバリーピザで腹を満たした後、今後についてミコトが提案してきた。

「お姉さんの自立を促すためにも、トシヤ君は家から離れるべきだよ」
「はぁ…でも一人暮らしするお金なんてありませんが…」
「何を言っているんだい?ここに住めばいいじゃないか」
「え?!」
「私一人で持て余していたことだし、お金だって心配はいらないよ」
「いや、流石にそれは…」
「遠慮することはないよ。ちょっと早いけどお互いのための同棲と思えばいい」
「?!!」
「これからは私も自炊の仕方を勉強しなければいけないな、ああ、生活用品も買ってこなければ…。ベッドは―――思い切ってダブルを―――」

彼女が、目の前の女が、何を言っているのかトシヤには分からなかった。

「ちょっと待って下さい!僕らはまだ付き合いたてじゃないですか!」
「だからこれから愛を深めていこうじゃないか」
「考えが飛躍していますよ、それに姉さんともちゃんと話し合っておきたいですし」
「以前、君たちを見かけたが…お姉さんの君を見る目は異常だったよ」
「え?」
「まるで、夫婦とでもいわんばかりに…ね。話し合いが出来る相手ではないよ」
「でも…それでも僕の姉なんです。とりあえず今日は失礼します。ご馳走様でした」

そう言って玄関に歩を進めたが…。

363 名前:パンドーラー12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/06/22(日) 20:40:10.28 ID:1U8ko4x5 [5/6]
「?!」

トシヤは急に視界がグラついた。

「トシヤ君?疲れたのかい?」
「―――」
「しばらくここで休んでいくといいよ」

トシヤは恐怖を感じた。
心配する口調のミコトが―――笑っていたから―――

そして、そのまま意識を手放した。



遡ること、1時間前。
ミコトのマンションの入り口にユリコが立っていた。
トシヤを偶然見かけたので、後を尾行してきたのだ。
そのまま、マンションに入っていくトシヤを見ていた。

「―――もしかして、ここに?」

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最終更新:2015年03月22日 02:07
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