幕間 Bet

232 :幕間 Bet ◆3AtYOpAcmY :2013/11/25(月) 17:22:38.59 ID:j6wrbbao
 帝都の片隅に、夜霧に潜むように存在する一軒のバーがある。
 酒井由貴乃は、とある気心の知れた知己に呼ばれ、会いにきていた。
「翼さん。来ました」
「ええ、ご足労ね」
 由貴乃に合わせ、目的の人物である半川翼が軽く会釈する。
「久しぶりですね。このところ、兄の周辺も特に目立った動きはありませんでしたから」
「そうね、学校でも相変わらずってとこね。操もそれは一緒よ」
「それで翼さん、ご用って何ですか?」
 訊かれた彼女は、一呼吸の間の後に答えた。
「淳良さんが帰国するそうよ」
「そうですか、いよいよ彼も年貢の納め時なんですね」
 苦笑いするかのように、語る。
「あと、私自身も決意したことがあるわ」
 興をさかせる翼の口調に、由貴乃は答えを促した。
「何ですか」
 先程よりやや長い間を置き、彼女は徐に切り出した。
「篠崎亜由美を殺すことにしたわ」
 一転して、張り詰めた空気が二人の間に立ち込める。
 少しの間があり、緊張を幾許かほぐさんとするかのように、由貴乃が深く息を吐いた。
「操先輩は立ち直れないかもしれませんね」
「ええ、そうね」
「翼さんは、それでもいいんですか?」
「それでも操が他の女と一緒に幸せになるのが耐えられないの。
 操には、私だけの操でいてほしいから」
 翼はグラスに残っていた分をすべて飲み干す。
「それより由貴乃ちゃん、あなたこそいいの?
 希一郎くんのそばに、あなた以外の女が居座るなんて」
「それでも、私は兄から笑顔が消えるのが耐えられないんです。
 兄には幸せでいてほしい。笑っていてほしい。
 ……そして、私もその傍にいさせてほしい。
 それだけなんです」
「……そう。頑張って」
「翼さんこそ」
 そう静かに声をかけあい、拳を突き合わせる。
 それから、彼女らはバーから左右に真っ直ぐ広がる道を、反対に去っていった。

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最終更新:2015年12月01日 13:56
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