俺と香苗とキモウトの朝

130 俺と香苗とキモウトの朝 sage 2008/03/10(月) 23:47:01 ID:S2uMRc9M
「イッヒッヒ」
 こんな馬鹿な笑い方をするのは妹の純子ぐらいのものだなあと思いながら薄目を開ける
と、案の定そうだった。ベッドに横たわる俺を、小柄な人影が見下ろしている。
 ぱっちりした大きな瞳に、思わず摘まみたくなるぐらいに小さい形のいい鼻、微笑むと
猫っぽい形になる可愛らしい唇、ぷにぷにした柔らかい頬と完璧なラインを描く顎筋。
 文句なしの美少女だ。兄という立場上、幼いころから見慣れている俺ですらそう思う。
世のロリコンどもがこいつを見たら、誘拐とか監禁とか物騒なことを考えてしまうかもし
れない。
 だがしかし、そんな理想のロリータフェイスも、そこに浮かんでいるのが欲望まみれの
下品極まりない馬鹿笑いとあっては台無しもいいところだ。っつーか涎を垂らすな、床が
汚れるだろうが。
「ジュルリ……うへへ、何も知らずに眠ってやがる……馬鹿なお兄ちゃんだぜ!」
 馬鹿はお前だ。
「ハァハァ……やっべー、たまんねぇっすよ俺、今すぐこの唇犯しちゃっていいッスか先輩」
 よくない。っつーか先輩って誰だ。
 俺は心の中で突っ込みを入れながら、さてどうしたものかと考える。どうやら、眠って
いる内に純子の侵入を許してしまったらしい。俺としたことがひどい失態だ。こんなこと
なら罠でも仕掛けておくんだった。このアホなら漏れなく全部に引っかかって、物凄く愉
快な醜態を晒してくれただろうに。
「いや、落ち着けわたし。目覚めのキッスの前に、まずしなくちゃならないことがある!」
 落ち着いたのなら出て行ってほしい。
 そう思う俺の前で、純子は勢いよく布団の端を引っつかんだ。
「当然、まずはおにんにんだーっ!」
 ああ、やっぱりこいつは馬鹿だ。布団が剥ぎ取られて冷たい空気が体に迫ってくるのを
感じながら、とりあえず一発蹴りをお見舞いしてやろうと身構える。だが、俺の足が跳ね
上がるよりも早く、純子が悲鳴を上げた。
「うぎょあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 いつも思っていることだが、あと少しでいいから可愛い声が出せないものだろうか。嫁
入り前の娘が、なんてみっともない。
 心の中で溜息をついたとき、俺はふと、奇妙な感覚を覚えた。布団を被っているときは
気付かなかったが、なんだか右の方に自分のものではない人の温もりを感じるような。
 そう思って体の向きを変えて、ぎょっとした。俺の隣で、長い黒髪の美人さんが健やか
な寝息を立てている。一瞬頭が真っ白になったが、よくよく見るとこっちも見知った顔
だった。
「テメーッ! 誰の許可を得てお兄ちゃんの布団に入り込んでんだコラーッ!?」
 純子が怒鳴る。お前こそ誰の許可を得て俺の部屋に入り込んでんだコラ。
 馬鹿の怒鳴り声に反応して、美人さんが悩ましい吐息を漏らしながら身じろぎする。美
しい睫毛がかすかに震え、ゆっくり開く目蓋の向こうから宝石のように輝く黒い瞳が現れ
た。美人さんは目の前に寝ている俺を見つけると、眠たげに、だが嬉しそうににっこりと
微笑んだ。
「おはよ、浩二」
 なんて甘美な声なんだろう。流れるような黒髪の向こうに覗く悪戯っぽい微笑みは、陳
腐ながらも天使に例えたくなるほどの愛らしさだ。


131 俺と香苗とキモウトの朝 sage 2008/03/10(月) 23:48:05 ID:S2uMRc9M
「お、おお、おはよう」
 そんなわけで俺がどもりながら挨拶を返すと、
「挨拶してる暇があったら地獄に落ちろやクソアマァッ!」
 案の定、馬鹿が雰囲気を読まずに暴走を始めた。常に持ち歩いているらしい包丁を大き
く振りかざし、俺の隣に横たわる美人さんに向かって躊躇なく振り下ろす。美人さんはそ
の包丁の方をちらりとも見ないまま、わずかに腕だけを動かして、鋭い切っ先を二本の指
で挟み取る。いつ見ても惚れ惚れする絶技だ。
「うふ。浩二のベッドって、なんだかいい匂いがするねえ」
 美人さんは俺の枕を引っつかむと、顔を埋めて鼻を鳴らし始める。実に艶かしいその仕
草に、俺は少し顔が熱くなるのを感じた。とりあえず、努めて素っ気ない口調で言ってやる。
「嗅ぐなよ、バカ」
「そーだっ! お兄ちゃんのベッドをくんかくんかして、その臭いでオナニーしていいの
はわたしだけだっ!」
「誰もそんなこと許可してねえっ!」
 ほとんど反射的に、馬鹿な妹を怒鳴りつける。ちなみにこの馬鹿、今は美人さんの指か
ら包丁を引き抜こうと躍起になって、顔を真っ赤にしている。しかし、奴が全身全霊の力
を込めているらしいというのに、包丁を挟む二本の指はぴくりとも動かない。美人さんは
空いている手を頬に添えて、楽しそうに笑った。
「相変わらず仲がいいねえ、浩二と純ちゃんは」
「よくねえよ」
「当たり前だよ、ラブラブのドロドロに決まってんだろーが! オメーが入る隙間なんか
その汚ねえ膣口ほどもねーんだよこの雌豚ッ!」
「お前はちょっと黙ってろバカ!」
 正反対の答えを即座に返す俺たちの前で、美人さんは上機嫌に目を細めている。
 この美人さん、名前は香苗と言って、我が家の隣に昔から住んでいる幼馴染である。年
は俺と同じ。昔から綺麗な顔立ちだったが、それに加えて最近では体の発達が著しく、気
さくながら大人っぽい雰囲気と相まって、見ているこっちがたまにどぎまぎしてしまうほ
どだ。顔も体も幼いままの純子とはえらい違いだ。
「あーっ! お兄ちゃん雌豚の汚ねーエロ乳見て発情してるーっ! チクショーッ、わた
しだってあと3年あればーっ!」
 訂正。俺の妹は顔と体だけじゃなくて頭もある意味幼いままだ。頼むからエロ知識より
も先に、ちょっとでいいから分別をつけてほしい。
「いやん、浩二のえっち」
 香苗がふざけるように身をくねらせながら、空いている方の腕で胸の辺りを覆い隠す。
隠すというか押し潰すというか。細い腕の下、薄い寝巻きの向こうで非常に柔らかいマ
シュマロ的物体がぐにぐにぷにぷにしていて、なんというかこう、
「性欲を持て余す」
「エロ乳に当てられてお兄ちゃんが壊れたーっ!」
「はっ……しまった、つい本音が!」
「何ていうか、やっぱり浩二と純ちゃんって兄妹だよね」
 ケラケラと明るく笑いつつ、香苗が「さて、と」と小さく呟く。その体がつむじ風のよ
うに回転したかと思うと、一瞬で香苗と純子の位置が入れ替わった。すなわち、ベッドに
押さえつけられる純子と、その腕を捻りあげて関節技を決めている香苗とに。
「いつ見ても惚れ惚れする神技だな」
「やだもー、そんなにおだてないでよ浩二ったら。あたしぐらいの年の子だったらこのぐ
らい誰だってできるよー」
「勝手にそんな恐ろしい世界観を構築しようとしないでくれ」


132 俺と香苗とキモウトの朝 sage 2008/03/10(月) 23:49:07 ID:S2uMRc9M
「っつーかいたいいたいいたいいたい! な、なにこれ、なにがどうなってんの、なんで
わたし一瞬にしてお兄ちゃんのベッドに這い蹲ってうへへへお兄ちゃんの臭いだぁ」
「痛がるかにやつくかどっちかにしろバカ」
 俺は溜息をつきつつ、ベッドから足を下ろした。立ち上がると同時に、香苗がぎりぎり
と純子の腕を極め始める。
「さー純ちゃん、今日も朝の運動を楽しみましょうねー」
「やめろぉぉぉっ! はなせクソアマァッ! 助けてお兄ちゃーんっ!」
 純子の悲鳴を背中に聞きながら、俺はカーテンを開け放つ。ガラス窓の向こうから、眩
しい朝日が降り注いだ。今日もいい天気、実にいい目覚めだ。
「ところで、純子はともかくとして、なんで香苗が俺のベッドに入り込んでたの?」
「だってー、夜中に監視カメラチェックしてたら、純ちゃんがこそこそ浩二の部屋の方に
向かうのが見えたからー」
「ちょっと待て、監視カメラなんか仕掛けてんのかお前」
「風呂とトイレのはわたしに寄越せ!」
「黙れ馬鹿」
「だって、浩二と純ちゃん、見ててとっても楽しいしー。ま、そんなわけで、純ちゃんを
お仕置きと称していじめるいい口実が出来たと思ったわけ」
 香苗は悪びれずに笑いながら、純子の背中にぐりぐりと膝を押し込み始める。「あ
ぎゃっ、ひぐっ、ぐぎゃぁっ!」と、純子が実に耳障りな悲鳴を上げた。
「うわーん、いだいよぉっ! だずげでおにいぢゃーん!」
「いつものことながら絵に描いたような自業自得だな」
「そうだねー。ほーら、もーっと痛くなるよー?」
「ひぐぅぅぅぅっ!」
「ハァハァ……やっべー、涙目の純ちゃん激かわいー」
「やめろぉっ、撮るなぁっ!」
「えへへへ、今日のオカズゲーット」
 香苗は左手一本で純子の両腕を極めつつ、右手でデジカメのシャッターを押すという器
用な真似をやってのける。まあこいつのスペックはいろんな意味で桁外れなので、今さら
驚きはしないが。
「ほどほどにしといてくれよ、香苗。こんなでも一応妹だし」
「了解。まあとりあえず折る直前ぐらいまで負荷をかけてみようかなーって」
「そんな! 助けてよお兄ちゃん!」
「正直気が進まん」
「浩二って結構サドだもんね」
「あ……そっか、お兄ちゃん、痛がるわたしを見て興奮してるんだ」
「そんな性癖は一切ない」
「照れなくてもいいのにっていだだだだだだっ! ちょ、やめ、指、わたしの指が、指がーっ!」
 ボキボキボキボキィッ! という破滅的な音と純子の悲鳴に背を向けて、俺は自分の部
屋を出た。
 今日も実にいつも通りの朝だった。早く飯食って学校行こう。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年03月16日 19:59
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。