「兄さん」

520 「兄さん」 ◆2JvVFiwWtQ sage 2008/06/09(月) 00:01:07 ID:NAtL7f9c
兄さん――
それは世界そのもの。
兄さん――
それは生きがい。
兄さん――
最も愛すべきもの。
奪われるくらいなら……私は……




「兄さん」

今日の朝も私は朝食の用意をしていた。
兄さんは寝ぼすけさんだから私がしっかりしなきゃいけないもんね。
さて、兄さんを起こしに行かないと。
「はぅぅ~」
兄さんの寝顔はいつ見てもかわいい。
優しい天使のような顔つき。
おもわず食べたくなっちゃうな…なんてこんなこと考えてる場合じゃなかったわ。
「兄さんー起きてくださいー。朝ですよー。」
「う~ん、瑠璃か。おはよう。」
「おはよう。兄さん。朝食できてますよ。」
「ああいつも苦労かけてすまないな。ありがとう。」
「いいんですよ、兄さん。」
兄さんがありがとうと言ってくれる…。
それだけで私はとっても幸せ。




521 「兄さん」 ◆2JvVFiwWtQ sage 2008/06/09(月) 00:01:57 ID:kTAoyGdt
食事を済ませると私たちはいつも一緒に登校する。
ラブラブに手を繋いで……なんてしたいんだけど兄さんは一緒に登校するのも恥ずかしいみたい。
なので兄さんは色々理由をつけて1人で行こうとしますが、そんなの私は許しません。
そんなときは私が上目遣いで目を潤ませながら
「兄さんはそんなに瑠璃のことが嫌いですか?嫌いじゃないなら一緒に行けますよね?」
なんて言えば
「わ、悪かった。さぁ一緒に行こうか。」
なんてかわいく顔を赤らめながら言って顔を背けちゃう。
そんな純情な兄さんも私は大好き。
兄さんが上目遣いに弱いことくらい知ってる私に兄さんが敵うはずないんだから。
そんないつもの楽しいやり取りをして私たちは登校していると
「なぁ、瑠璃。瑠璃は恋人とか好きな人はいないのか?」
「いませんよ。」
突然の質問に驚いたけど即答。
だって私が愛するのは兄さんだけですもの。
「では兄さんは好きな人いるのですか?」
「うーんまぁな。」
「それは誰ですか?」
私の表情が一瞬にして凍りつく。
「クラスの女の子だよ。」
兄さんは照れながら言いました。
しかし私はそれどころではありません。
兄さんが私以外に好きな人がいる――そんな絶望的な事実を知ってしまったから。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いニクイニクイ二クイニクイ二クイ
「…ニクイ…」
「ん?瑠璃なんか言ったか?」
「い…え…何でも……ありま…せん……」
なんとか私はそう言う。
「そうか、ならいいや。」
私はその感情を振りはらうために悪戦苦闘していると学校についてしまった。
もうどす黒い感情は封印した。
「瑠璃、じゃここでバイバイだ。」



522 「兄さん」 ◆2JvVFiwWtQ sage 2008/06/09(月) 00:02:40 ID:NAtL7f9c
「はい、兄さん。」
私は飛びっきりの笑顔でお別れした。
でも内心私は憂鬱だった。
だって放課後まで兄さんに会えないんだもん。
階段を昇って教室に着くといつものように声を掛けられる。
「おはよう、瑠璃。」
「おはよう、茜。」
一応友達である茜が挨拶してきた。
なんで一応かって?
それは茜がお兄ちゃんに憧れてるから。
それだけは誰であろうと許せない。
お兄ちゃんは私だけのものなんだから。
「いつ見ても、誠先輩素敵よね。」
毎度毎度朝はこう呟く。
思わず黙れ豚なんて言いたくなっちゃう。
あなたなんかが神聖な兄さんの名前を呟くなんて。
一応の友達だからそこまでは許してあげる。
「誠先輩て人気なのよねー。でも彼女いないんだよねー。」
兄さんが人気なのは事実。
だって私が愛しちゃうくらいだもの。
ここまでで茜はやめておけばよかった。
だって次の言葉が惨劇の幕開けになってしまうのだから…。
「私告白してみようと思うの。瑠璃ちゃん手伝って?」
この言葉で私は怒りが頂点に達する。
ふざけるな雌豚が。
目抉るぞ。
危うくそんな言葉を言いかける。
「ね、瑠璃ちゃん妹だからできるでしょ?」
「なんていうかお兄ちゃん女の子に興味ないみたいなんだよね。だから手伝えないよ。」
冷静に私は突き放す。
ここで引けば許してやろうと思って発した言葉だ。
「そんなことないと思うよ。だって先輩も男の子なんだから。だから協力してくれなくても1人でやるわ。」
私のどす黒い感情に火がついた。
ここまで言って引き下がってくれないお馬鹿さんは………………殺しちゃわなきゃね。



523 「兄さん」 ◆2JvVFiwWtQ sage 2008/06/09(月) 00:03:19 ID:NAtL7f9c
私に近づいてくるやつはいつも、こう。
兄さんに近づこうとする害虫。
害虫なんだから駆除して当然。
小学校の先生が言ってたわ。
「害虫は駆除しても問題ない。」ってね。
今までだってたくさんの害虫を駆除したわ。
半年前は兄さんに告白する後押しして欲しいなんて言った害虫を文字通り駅のホームで「後押し」してやったわね。
2カ月前は兄さんに告白した害虫を告白したその夜にバラバラにして犬の餌にしてやったわ。
今度はどんな風に駆除しようかしら。
そうね…今度は燃やしてみようかしら。
茜の丸焼き…いい響きだもんね。
だから私はあえてこう答える。
「わかった。協力するわ。」
「ありがとー。瑠璃のことも大好き。」
茜は笑顔でそんな風に答える。
そんな話をしていると授業が始まるチャイムが鳴った。
授業は極めて退屈。
だって兄さんより教えるのが下手なんだもん。
そんなことを思っていると、ふと朝のやり取りを思い出した。
兄さんに好きな人がいる…。
害虫のせいですっかり忘れていたけれど兄さんの心を惑わせる害虫も駆除しないと。
そうね…家に帰ったらまず名前を聞き出さないと。
とりあえず今日は先に茜を始末しないとね。
私は夜が楽しみでどす黒い微笑みを浮かべていた。



524 「兄さん」 ◆2JvVFiwWtQ sage 2008/06/09(月) 00:03:50 ID:NAtL7f9c
放課後。
私は家に帰るとガソリンスタンドで灯油を調達した。
あとはどこに呼び出すかである。
人目につきにくい場所じゃないといけないからな……。
そうだ海辺の倉庫にしよう。
告白に海辺はロマンチックだからなんて言えば馬鹿な害虫はのこのこ来るだろう。
私は携帯で害虫にこう死の招待状を出した。
「8時に海辺の倉庫ね。海辺はロマンチックだからここにしたわ。」
しばらくすると
「そんなことまで考えてくれてありがと。やっぱ瑠璃は優しいね。」
なんて馬鹿丸出しの返信が来た。
私は害虫が待ち合わせ場所に来ることを確認するとウキウキしながら家をでた。

私は10分前に待ち合わせ場所に着いた。
頭上では星がキラキラと輝いている。
これはいい燃やし日和ね、なんて考えていると害虫がやって来た。
「瑠璃お待たせー。仕事が早くて助かるよ。あれ、誠先輩は?」
私は害虫の呼びかけに答えずに灯油を浴びせる。
「きゃっ、冷たい。瑠璃何するのよ。」
「茜の丸焼きを作るのよ。」
朗らかな声でそう告げるが目は笑っていない。
「意味わからないよ。悪ふざけはやめて…」
害虫は最後まで言葉を発することができない。
なぜなら私が彼女に火をつけたから。
「きゃぁあああああああ」
そう悲鳴をあげながら害虫がのたうち回る。
私は声をあげて笑う。
だってその姿が芋虫みたいで愉快なんだもの。
ひとしきり笑うと冷たい声で告げる。
「兄さんに近づこうとするからいけないんです。バイバイ茜。」
茜は火を消すためになんとか海に飛びこんだ。
しかし火は消えたがほとんど体力のない状態で海に入るのは無謀だった。
そのまま溺れ沈んでいってしまう。
「あら、茜の丸焼き失敗しちゃったわ。」
そう言ってカラカラと笑いながらその場を去った。

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最終更新:2008年06月15日 22:46
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