とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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 とある日曜日の朝

 あれからさらに、五年の時が経った。
 その五年間で私は大学を卒業し、卒業した後はすぐには就職はせず、大学院に進学した。
 その進学した大学院でも修士課程、博士課程と四年間勉強をし、その学生時代に書いた論文が評価され、私は今はとある企業の研究所に所属している。
 さらに言えば、今の私は今までですっかり慣れ親しんでいた名前と同じく御坂美琴ではなく、上条美琴。
 オマケに今は今年で四歳になろうという幼稚園に行っている娘が一人いて、計三人の家族構成。
 就職してからも仕事も順調であり、何事も問題なく幸せいっぱいの生活を送っている。
 送ってはいる、はずなのだが…

「―――というわけなんだ。わかったか?母さんの笑顔は本来父さんだけのものであってだな、お前に対してはおまけなんだぞ?」
「えぇ~~!そんなのいや!おかあさんの笑顔は麻琴のものでもあるの!」
「なにおぅ!?」
「…………アンタ達、一体誰の何を取り合ってんのよ」



My anxiety!



 彼からのプロポーズは無論あの時のもので、返事はその場で即答した。
 『遅いのよ、馬鹿。どれだけ待ったと思ってんの』と、少し彼を罵倒する言葉を添えて。
 しかもその時、彼からのプロポーズで嬉しさ余って彼に抱きつき、あまりの抱きしめる強さで彼がおちそうになったのも今ではいい思い出。
 加えて、その時に贈ってくれた、文字通り給料三ヶ月分はするであろう結婚指輪は今なお輝き続けている。
 それは今でもなお私のかけがえのない宝物。
 その後、しばらくしてから落ち着きを取り戻し、何故あの時のような微妙な時にプロポーズをしたのかと尋ねてみると、彼曰わく『プロポーズは仕事が落ち着いて、指輪やその他諸々の金が貯まってきてからすると決めていた』らしい。
 その言葉を聞いた時、別にその言葉だけに対してではないのだが、少しだけ世界が滲んだ。
 不覚にも、心の底から感動してしまったのだ。
 彼に対する抑えきれないほどの大きな感情が、実を結ばないのではないかと思った時もあった。
 その感情が実を結んでも、自分に対して興味がないのではないか、などという疑念を抱いた時もあった。
 しかしあの時の彼はどうだろうか。
 私のことを考えて考えて行動し、なおかつその考えたことを実行してくれた。
 おまけに飾り気のあるものを贈ってくれたことのない彼から、指輪というとても意味あるものをくれた。
 これほどのことをしてもらえて、感動しないことなどあり得るのだろうか。
 あの時はそんな考えすら思い浮かんできていた。

 そして正式に籍をいれ、結婚式を挙げたのは私が大学を卒業してすぐ。
 初夜は結婚する前から散々一緒に寝ていたはずなのに、何故だか少しドキドキしたのを覚えている。
 むしろ今までよりも堂々としていてもいいくらいだったのだが、いつもとは違うように思えて気恥ずかしい気持ちに襲われていた。
 そこから少し時が経って、二月。
 私のお腹の中に彼との間に子供が出来たのを知った。
 その時点ですでに三ヶ月までいっていたらしい。
 子供は一人は欲しいとは思っていたので、そのことに関しては医者に言われた時は別段ショックを受けたということはなく、素直に嬉しかった。
 彼にもそのことを告げたら、初めは驚いた様な素振りを見せていたが、内心はやはり嬉しかったらしくその日はえらくご機嫌だった。
 ただ一つの気がかりであった大学院の方は、出産でかなり大変であろう時がちょうど夏休みと重なり、そこまでの支障はきたさなかった。
 そして九月、元気な女の子が誕生。
 名前は二人の名前から一文字ずつとって、麻琴と命名。
 容姿は髪が少しだけ黒みがかかっているのを除けば、私の幼少時代の頃とかなりそっくりである。
 多忙を極めると予想していた夏休みが終わった後も、彼が仕事で育休をとってくれたということもあり、私にかかる負担はかなり軽減された。
 大切な子供を、いきなり保育所などに預けることには彼もかなり抵抗があったらしい。
 そんなこんなで産まれてからも割とスムーズに事は進み、子供も自分である程度のことができるようになるまですくすくと育った。
 確かに忙しい日々ではあった。
 大学院の勉強やその研究、大半は彼がやってくれたが家事と炊事に育児。
 よくもあそこまでこなせたものだと今思う。
 しかし同時に、楽しくも充実しており、幸せだと感じていた。
 大好きな彼と愛すべき子供との生活、他には何もいらないとまで思っていた。
 一昔前のことはそれでいい。
 大切なのはあくまで今なのだから。
 だが最近、ふと思う。
 今現在目の前にいる二人は、果たしてこのままで大丈夫なのかと。

「だってだって!おとうさんがおかあさんの笑顔独り占めするんだもん!」
「…………あぁそう」
「だってよ!麻琴が母さんはよく自分に対して笑ってくれるって言ってくるんだぞ!?」
「……………………あぁそう。アンタもういいわ、とりあえず黙ってなさい」
「ひどっ!?」

 親バカ、世間一般で言うところのこの言葉の定義は恐らく、我が子の可愛さのあまり親が愚かな言動をすることを指すのだろう。
 しかし我が家ではそれは少し違う。
 無論それが当てはまらないわけではないが、やはり一つ決定的に違う。
 本当に親がバカなのだ。

「アンタね、今いくつよ?子供に年齢合わせんじゃないわよ」
「うぅ、だってよ…」
「だって?じゃあ何?私を論破できるちゃんとした理由が何かあるって言うの?」
「…………ありません」

 体を萎縮させ、申し訳なさそうな態度を彼はとる。
 最近の彼は、流石にいつもというわけではないのだが、休日などで一家が揃う時などは大抵子供と馬鹿をしている。
 明らかに年齢に不釣り合いな子供との論争、喧嘩。
 これでは誰が親なのかわからない。
 無論、公の場ではこのようなことは絶対なく、その喧嘩や論争もお互いに楽しんでやっているようなのでいいと言えばいい。
 だがいくら家の中で止まっているからといって、このままでもいいものなのかと、少し心配。
 どうも家の中、私の前だと人が変わって困る。
 このまま父親としての威厳というものがなくてもいいのか、などと思うこともしばしば。

「ふふん、おとうさん怒られてる~」

 そこへ、麻琴が彼に対して指差し、笑っている。
 こうも簡単に笑われる父親というのも如何なものかと思うのだが…

「アンタも、それ以上言うときつーーーいお仕置きが待ってるわよ?」
「…………ごめんなさい」

 そう言うと、麻琴も父親同様縮こまる。
 これでも察することができるように、我が家での一番の権力者は彼ではなく私。
 彼はおろか、娘の麻琴も私には全く上がらない。
 それほど怖い母親を演じているわけでもないのだが、普通に接している内にこうなってしまった。

「全く……それに、別に私は笑いたい時に笑ってるの。別に二人どちらかのものでも誰のものでもないから」
「えぇ~!じゃああの時の『俺だけを見て笑ってくれる』って言葉はなんだったんよ!」

 その私の言葉に真っ先反応したのは麻琴ではなく彼。
 それもあろうことか、あの時の言葉を添えて。

「なっ!!ば、バカ!こんな時にそんな恥ずかしいこと言うな!ていうか、赤の他人にはしてないし、自分の娘にいちいち嫉妬してんじゃないわよ!」
「……………でもよ、」
「でも?でもって何よ!?」

 色々と言い過ぎた勢いのせいか、つい返答にも怒鳴ってしまった。
 しかし彼はその言葉にも怯むことなく、正面から私の目を見据え、

「自分の大好きな、愛する人を独り占めしてたいって思うのは普通じゃないか?」
「~~~っ!!??」

 自分の子供が目の前にいるなどということを一切無視し、そう言い放った。
 そうなると私は羞恥のせいで顔は赤らみ、体中熱くなり、目には若干の涙がたまる。
 麻琴は麻琴で齢三歳というまだまだ世の中というものを全く知らない子供のくせに、何かを悟ったかのようにニヤニヤと多少腹の立つ笑みを浮かべる。
 理屈勝負での彼との言い合いはいつも勝てる、勝てるから家の中での権力は私が一番強い。
 しかしこういった理屈抜きの、人の想いが入り混じった言い合いでは彼にはどうしても勝てない。
 いつもこうやって最終的に顔を赤くさせられ、何も言えなくなる。
 しかもそれをわざとではなく、素でやってくるからなお質が悪い。
 きっと彼の頭は理屈などでできていないのだ。
 そもそも昔から、出会った当初からそうだった。

「もぅ……いいわよ、ばか」
「ほらほら、麻琴がいるまえで泣くなよ」

 そう言って、彼は恥ずかしさで目に若干の涙を浮かべる私を隠すように、私を抱きしめる。
 先ほど私は自分の笑顔は誰のものでもないと言った。
 しかし此処、彼の腕の中は他の誰のものでもない、自分だけの場所。
 自分だけがいることが許される絶対の場所。
 こういったところで私は大好きな、愛する人を独占している。
 だから、いいのだ。
 世の中の様々な場所よりも落ち着けて、気持ち良いこの場所で、私はそう心の中で呟いた。

「いつでもお二人さんはラブラブですなぁ~。いやー熱い熱い」
「なっ…!」
「お前……一体誰にそんな言葉を教えてもらったんだ?」
「舞夏おねえちゃん!おとうさんとおかあさんがラブラブしてる時に言ってみろって言われたの。どう?どう?」
「「あのやろう…」」

 期待に満ちた純粋な目をした麻琴の視線無視し、声を揃えて人の子供に余計なことを吹き込んだ張本人へと軽い怒りを示す。
 舞夏お姉ちゃんこと土御門舞夏とは、私が中学生の時から未だに交流があり、私と彼がどうしても手が離せない時などに麻琴の世話を依頼しているのだ。
 今では立派な一人前のメイドさんの彼女だが、昔から馴染みもあり頼めば快く引き受けてくれる。
 その点に関しては本当に心のそこから感謝しているのだが、余計なことは吹き込まないでほしい。

「はぁ……まぁ冗談はさておき、そろそろ行く?」
「おっと、もうこんな時間か。じゃあ行くか?」
「いくいくー!」

 今日は二人揃って一日中休みなこともあり、最近学園都市最新鋭の技術を結集した最高のアミューズメントパークとかいう触れ込みで注目を集めている、言うなればすごい遊園地へ家族全員で行く予定。
 麻琴は行くことが決まる前から行きたいと言っており、そのせいか行くことが決まったもう一週間ほど前から既に楽しみにしていた。
 そろそろ行かなくては遊ぶ時間がなくなってしまう。
 せっかくの楽しみを潰してしまってはあまり可哀想。

「じゃあ行くか、みんな準備はいいかー?」
「うん!」
「できたからこっちにきたんでしょうが」

 私は元々、化粧などの準備をするために支度をしていた。
 だから支度を終えた先ほどから、何やら馬鹿をしていた二人の場所へと向かったのだ。

「じゃあ麻琴、先に外でてるね!」
「おいおい、そんなに急がなくても遊園地は逃げないぞ……って、もういってるし。やれやれ…」
「お父さんは大変ねぇ…」

 バタバタと一直線に玄関へと駆けていった麻琴の背中を見つめ、私は小さく笑う。

「まぁ、こうやって子供にかまってあげられるうちはいいさ。俺は楽しくやってる。それに…」
「それに?」

 何やら区切りの悪いところで彼は言葉を切る。
 それに対して疑念を抱いた私が不思議そうな視線向けていると、やがて彼は玄関口へと向けていた視線を私自身へと向け直し、

「俺には美琴がいるしな。それだけで十分だ」
「っ!!も、もぅ…」

 ニカッと、明るく無邪気な笑顔を私に見せ、そう言い放った。
 私は彼のそんな笑顔が好きだった。
 彼がそういった笑顔をする度、決まって私はドキッと、心臓の鼓動を早くする。
 おまけにそういう時は決まって恥ずかしいことを言う。
 それはわざとなのか、素でやっているのか。
 しかし何度見ても何度聞いてもそれは昔から変わらない。
 そのたった一つの笑顔で簡単にドキドキさせられてしまうのが何故だか悔しい。
 嬉しい気持ちもあるのだが、やはり悔しいのだ。
 だからそれに対抗すべく、私も少し反抗してみることにした。
 玄関へと歩みだす彼に後ろから抱きつき、彼が後ろへと顔を向けるのを見計らって、

「みこっ?!」

 優しく、彼の頬へとキスをした。
 触れている時間は長くはないが、優しく、そっと啄むように。

「……、……私も同じよ?」
「……そっか」

 少しの沈黙の後、顔を赤らめたままの私は上目遣いでそう言った。
 なんとなく、彼に顔を向けづらくなり、彼が返事をしたらすぐに腕をとき、そのまま玄関へと歩きだした。
 彼は動きだす様子は見せていない。

「美琴!」
「……?」

 振り向くと、彼は動かず、先ほどの位置に立ったままであった。
 だがしかし、彼は口だけは動かし、尋ねる。

「お前は今、幸せか?」

 愚問だ。
 突然何を言い出すかと思えば、そんなこと。
 そんな問いの答えなど、一つ以外に有り得ない。
 彼もそれは恐らくわかっている。
 だって、さっき私が言ったことは要はそういうことだ。
 わかっていて、敢えて聞いてきている。
 そんな問いかけに、素直に答えてやるのもどこか癪だ。

「さあ?どう思う?」

 だから振り向いて、悪戯っぽく、それでいて満面の笑みを浮かべて、そう答えた。
 その答えをどう思ったのか、始めはきょとんとした表情を見せていた彼はその後フッと、小さく優しく笑い、何も言わずゆっくりと私の前まで歩み寄り、私の前でピタッと止まる。
 彼は私がどう思っているなど、恐らくお見通し。
 だから今度は私が小さく笑い、その後目を閉じ、心持ち顎を上げた。
 これはいつも決まっている動作。
 この流れで彼が恐らくとるであろう行動はなんとなく読める。
 だからこその私の行動。
 彼も私の肩に手を置き、そのまま彼の顔との距離は縮まり、今度は唇同士で―――

「もう!おとうさんもおかあさんも遅…」
「「!?」」

 バタンと、勢いよく扉が開く音がしたと思ったら、すぐさままたバタンと勢いよく扉が閉まった。

「……えーっと」
「おとうさんもおかあさんもラブラブするのはいいけど、早く行こうよ!」
「……えらくご立腹のようね」
「……だな」

 急いで靴を履き、私と彼は二人で一緒に玄関の外へと出る。
 迎えてくれたのは、頬をむーっと膨らませつつも、顔を少し赤らめている可愛い愛娘だった。
 実際はキスは未遂で終わったのだが、背中から見たら既に触れているように見えたのかもしれない。

「ごめんごめん、もう行くから、ね?」
「おかあさんがおとうさん好きなのはわかるけど、今は遊園地でしょ!」
「うっ…」
「あはは、言われてるぞ、母さん?」
「おとうさんも!」
「アンタもね、お互い様よ」
「はぃ…」

 結局、こうなった時のこの子には適わないかもしれない。
 でも、今回は自分たちが悪いので、それも仕方ない。
 彼は彼でやれやれといった表情を見せ、麻琴の左手をとり、しっかりと手を繋いで駅までの道のりを歩きだす。
 彼も状況を察しているからこそ、この行動。
 私も便乗して麻琴の空いている右手を優しく握る。

「えっ?あ、あれ、おとうさん?おかあさん?」

 その私達の行動を不思議だったのか、麻琴は少し戸惑った表情を見せる。
 それに対して、私も彼も何も言わない。
 ただ、麻琴に優しく笑いかけるだけ。
 そうしていると、麻琴の表情も次第に明るく、そして笑顔になっていく。
 語らずも、自然と笑顔が生まれてくる家庭がある。
 いつも優しく、そしてたまにかっこよく頼りがいのある大好きな彼がいる。
 私と彼との間に産まれた、いつも元気で、今はむくれているがいつも可愛い娘がいる。
 一時はこれ以上ないくらいの絶望を、不幸を感じたこともあった。
 一時は彼と想いが繋がらず、じれったい時もあった。
 一時は彼としばらくの間離れ離れで辛い時もあった。
 一時は彼の自分に対する態度のことですごく不安だった。
 それは過去、苦くもあるが、それも大事なものとして受け止めている。
 だが今は違う。
 最高の家庭に、最高の家族に囲まれ、私は今、これ以上ないくらいに―――幸せだ。


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