とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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「嘘つき!」
 そう言った御坂美琴は真剣な眼差しで、上条当麻を睨みつける。
「何でだよ。いきなり嘘つき呼ばわりかよ」
 上条は憮然とした顔をして返した。
「アンタ、本気で言ってんの?」
 美琴の声に更に険しさが混じる。
「ああ、本気さ。本気だとも」
 上条の声が負けじと大きくなる。
「なら聞かせてちょうだい。
世界を救うか、私を救うか選べってなったら、アンタ、どっち選ぶの?」
 美琴がズバリと上条に斬り込む。
 斬り込まれた上条は、予想はしていたものの、その迫力に思わずたじろぐ。
「俺は…もちろん、両方選ぶ!」
「嘘よ!」
 美琴が言い放つ。
「私はロシアでアンタを救えなかった。
私じゃどうしようもなかった。
私の手を振り払って、アンタは世界を救いに行ったのよ―」
 美琴の両目からまた涙がこぼれ始めた。あの時の絶望感が蘇り、心が悲鳴を上げる。
 絶望を浮かべたあの時の美琴の顔を、上条は再び今、この場所で目にすることになろうとは思っていなかった。
 あの時と違うのは、今回の原因が上条自身であったことだ。
 そのことが、上条の精神を大きく打ちのめす。
 分かっていたとはいえ、いや、本当は全く分かっていなかった。
 自分がどれ程、美琴の中で大きな部分を占めていたかを、今改めて、目の前で思い知らされいるのだった。
 美琴は泣きながら、上条に向かって叫んでいた。
「―もう、いやよ。絶対いや。
もうあんな思い、したくない。
アンタが私の目の前から消えた時の気持ちなんて…、アンタわかんないでしょ!
あんな思いするくらいなら、死んだ方がましだわ…。
アンタのこと、こんなに好きにならなけりゃ良かった!」
 さっきまでの安らぎも、幸福感も全て吹き飛ばされ、上条は惨めな敗北感と、大きな喪失感に苛まれていた。
「―美琴…、スマン、俺は…、お前に…」
 そう呟くので精一杯だった。
 美琴はそんな上条を見て、流れる涙を拭おうともせず、わざと明るい表情を作った。
―結局、私の手には余っちゃうってことよね。
―今の私は、当麻の邪魔にしかならない。
―なら、結論は決まってる。
―当麻の為…ならしょうがない…か。
―これが惚れた弱みってやつかな。
 美琴は目を伏せ、ため息をついた。
 自分の気持ちを見ないようにし、それを無かったことの様に振舞うために。
 彼女も上条同様、自分より、相手を思い遣ることを良しとする人間だった。
「ごめん、当麻。言い過ぎちゃったね。
大丈夫、アンタは何も悪くない。全部私のわがままだってこと。
私のわがままで、アンタを縛りつけたくない。
私のためにアンタの生き方は曲げてほしくない。
でも私は黙ってアンタを見送るなんて、したくないの。
アンタの帰りを、心配しながら待つなんて、二度としたくない。
約束なんて、どうだっていい。
アンタは生きて、この学園都市に帰ってきてさえくれればいいから」
―結局私とアンタの道は、交わらなかったってことよね。
―はは、そう思ったらなんかすっきりしちゃった。
 流れる涙を手のひらで拭い、美琴は明るく振舞おうとする。
「私のことは、気にしなくて大丈夫だから。
私はレベル5学園都市第三位よ。
何があっても乗り越えていく自信はあるわ。
私の『自分だけの現実』を、もう一度確立することぐらい、どうってこと無いから。
美琴さんをなめるなって、ことよ」
 美琴はそういうと、黙ったままの上条を抱き締めた。
 やがて両手を上条の頭に回すと、引き寄せ、ちょっと背伸びをする。
 上条の顔に、目を瞑った美琴の顔が近付いたと思ったら、唇に柔らかく触れた。
 美琴はそれまでの思いを伝えるかのように、ゆっくりと上条の唇の感触を味わった。
 やがて、思い残すことはないかのように顔を離し、やさしくささやいた。
「いままでありがとう。これが私の最初で最後の、当麻への気持ち。
この気持ちは今夜で終わり…。
ただこれだけは忘れないで。
私、御坂美琴は、いつも上条当麻の味方よ。
何があっても、私は当麻の支えになるってことだけはね」
 これだけ言うと、涙を手のひらで拭い、走り出した。



「待てよ!」
 上条は、走り出した美琴の腕をつかむ。
「もう終わったの!離して!」
「待てってば!」
 振り払おうとする美琴を、上条はその手を離さまいと力を込める。
「終わってない!まだ終わってない!」
「痛い!離して!これ以上!私だって…」
「いやだ!俺だっていやだ!」
「見ないで、お願い…。そんな目で…。余計につらくなるから…」
 顔を背け、抗う美琴の肩を、上条の手ががしっと捕まえた。
―ここで離したら、間違いなく後悔する。
―上条当麻、お前はあれを繰り返してはいけないんだ。
―お前はそれでいいのか?
―お前は…本当にそれでいいのか?
 そう自分に言い聞かせた上条の脳裏にあるのは、あのロシア上空で見た美琴の泣き顔だった。
「こっちを向け!美琴!こっちを向くんだ!」
「いや…。いやよ…。離して…」
「だめだ!今度は離さない!何があろうと絶対に離さない!」
 上条はそう叫ぶと美琴をその胸に抱き締めた。
「絶対にお前を逃がさない!今度こそは離さない!
頼む、俺から離れないでくれ!お願いだから!頼む!
俺は…失いたくないんだ!お前のことを!
だからお願いだ…。俺から離れないでくれ…」
 上条の声が泣いていた。
「わかってるさ…。わかってるよ!俺のわがままだってのは!
でも失いたくないんだよ…。
こんな俺にだって…、失いたくないものがあるんだよ!
頼むから…、もうこれ以上不幸にはなりたくないんだ!」



 美琴は上条の言葉を聞き、彼の背中に手を回した。やがてその顔を上げ、上条の泣き顔を見た。
 上条をあきらめられない気持ちが、愛おしさに変わり、思わず言葉が口をついた。
「私だって、アンタを…不幸にはしたくない…。
アンタが幸せになるなら、私が不幸になってもいい。
ううん、私がアンタを幸せにする。アンタを不幸のどん底から引っ張りあげてあげる。
アンタが離れられないなら、ずっと一緒に居てあげるから。
アンタはもう、失うものなんて…何も無いんだからぁ!」
 そうして美琴は上条にぐっと抱きつき、再び顔を彼の胸に埋めて呟いていた。
―バカ…、バカ…、ほんとにバカなんだから。
―アンタにそんなこと言われたら、私が離れられるわけないじゃない。
―アンタが苦しむ方が、私には耐えられない。
―アンタが苦しむくらいなら…、私が代わってあげるから。
 やがて上条が、涙を拭い、ポツリと語りだした。
「…ありがとう。美琴。
わがままだって分かってるけど、言わずにいられなかった。
それに…」
 美琴が上条の顔を見上げる。
「何?」
 その顔を見ながら、上条が語りかける。
「俺さ、記憶喪失だろ。
だから好きとか、愛してるってのが、どんなものかわからないんだ。
なんにも無くてからっぽなんだよ。
でもなぜかお前と離れたくないって気持ちだけはわかったんだ―。
―正直、お前に好きって言われても、どうしたらいいのかわからないんだ。
でも一緒に居たい、離れたくないって気持ちだけはある。
この気持ちだけでは、ダメか?」
 それを聞いた美琴は、上条の心がなんとなく分かった気がした。
―そうか、コイツは赤ちゃんと同じなんだ。
―記憶を失って、昔の自分を失って、何もわからなくて、何も知らなくて…
―自分の気持ちさえもわからない…
―そんなコイツに答えを求めるのは酷、なんだよね…
「居たいって気持ちに嘘は無いのでしょ?」
「ああ、嘘じゃねぇ」
「じゃ、なんで一緒に居たいって思うの?」
「―それがよくわからないんだ。何か胸の中がもやもやしているんだけど、それが何かわからない」
 上条の気持ちの先に、何かがあるのはわかった。
 美琴はおそらく、自分が経験してきた事と同じなんだろうと思う。
「私には多分、わかるわ…」
「わかったんなら教えてくれよ」
「ううん、だめ。教えられない。それはこれからアンタが自分で気づかなければいけないこと、だから」
 上条はその言葉に、一瞬何か言いかけたが、結局やめた。
「―そうか、わかった…。で、さっきのお願いは…」
 美琴はまた涙がこぼれそうになる。
「もちろんよ。ずっと一緒に居てあげる。ただし、条件があるわ…」
―私、ズルイ女。でも、これくらいのことは許されるわよね。
 美琴は笑顔で上条に向かい合った。
「まずアンタは必ず、私の元へ生きて帰ってくること。何があってもね。
そして必ず私に向かって『ただいま』を言うこと。
後は、アンタがその約束を守れるような、何か証しをもらうわ」
「なんだ、そりゃ?」
 戸惑いを隠せない上条。
「何をすればいいんだ?」
「そうね。とりあえず、帰りましょ」
 美琴は上条の手を引っ張った。
「アンタのおかげですっかり冷えちゃった。
もっと暖かいとこ、行きましょ」
 そんな美琴の笑顔は、やっぱり最高だ、上条は思った。
―そんな美琴の笑顔が、俺は…、好きなんだ。
 手を引かれた上条は、それを認識した。
「で、どこへ行きたいのでせうか?」
「決まってるじゃない。アンタの部屋よ!」
「美琴…、お前…」
「こんな状況で、女の子を一人帰すなんてこと、するはず無いわよね。
それとも何?アンタ、私に恥かかせようってわけ?」
 美琴が口を尖らせる。
「ええと…、美琴サン、それは…って…」
 上条の心臓の鼓動が早くなった。
―お姉さまが帰る場所はわたくしのお部屋ではございませんの
 白井の言葉が、上条の脳裏に甦る。
 その時、美琴が上条の胸に飛び込んできた。
「帰りたくない。ずっと一緒に居て…」
 ぎゅっと抱きついてきた美琴の背中に、上条はやさしく手を回した。
「俺も帰したくない。ずっと一緒に居たい…」
 上条はそんな美琴の顎に指を添え、そうっと顔を持ち上げると、やさしく唇を重ねた。


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