とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

06章

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第六章 キス Next_stage_or_more_one


「……………………………………………」
「……………………………………………」
「………………………………………バカ……」
「…………………………すまん………………」
上条はとりあえず謝った。上条と美琴はさっきから全く会話をしていない。さっき観覧車の中で起こってしまった出来事を恥じているのだ。若さゆえの過ちと言うか何というか。花火きれいだったなーと場違いにも上条は思い出す。
結論から言う。美琴のファーストキスも上条のファーストキスもまだその純潔を守っている。

美琴は失敗したのだ。

美琴の唇は上条の目に当たり、上条の唇は美琴の首辺りに直撃した。上条は目に美琴の歯があたり、「んぎゃあ!」と情けない悲鳴をこぼし、美琴は耳に上条の息がかかって「ふにゃー!」と鳴き、それはそれは目も当てられない青臭い青春の一ページになってしまったのだった。美琴に言わせれば「花火にびっくりしたから失敗したのよ!ホントはすごいキスうまいんだから!」との事で、しかしそれはそれで少し複雑の気持ちになる上条なのだった。
そもそも美琴があれほど観覧車に乗りたがったり、もじもじしたり、テンパっていたのは『アンタとのキスは観覧車の一番上でしたいふにゃー』というなんとも乙女チックな理由からのものだったらしい。
人騒がせな…、と上条は呆れたが別に怒っているわけではない。むしろ嬉しいのだ。美琴が自分をそこまで求めているなんて思いもしなかった。あとはこれで普通にキスがうまく言ったら言うことなしだったのだがその辺りは、仕方がない不正はなかった、と割り切るしかない。
「………」
「………」
「………、」
「………」
「………すまん」
今はもう三人とも上条の家にいる。美栄はなにかとさっきのことについて言及してきたが上条たちはうまくはぐらかした。
昨日と同じく既に美琴&美栄その後上条の順で風呂は済ませた。ちなみに美琴は上条宅のシャンプーではどうも洗った感じがしないらしく、遊園地からの帰りの途中でいつも使っているシャンプーを買い、ついでにパジャマ(お子様系統)、くし(キャラクターグッツ)、ボディーソープー、料理の材料、(上条は知らないが)大人の下着などなど上げたらキリがないくらいの生活必需品を買え揃えしたのだった(実際はキスが失敗したのでその腹いせからくる衝動買い)。しかもそのすべてが上条がいつも通っているやっすいスーパーなどではなく、見るからに高そうな物ばかり売っている成金専用スーパーみたいなところで買ったので、上条の3か月分くらいの生活費と同じ金額になったのだ。恐るべしお嬢様だ。
こんな金の価値を知らないお嬢様が将来自分の家の家計簿を握るとなると…と上条は身震いを隠せない。
「ふぁー……、パパ……?……なんでママ顔真っ赤なの……?……あれどうして……?」
美栄が上条に聞いてきた。確かに美栄の言うとおり美琴の顔は相変わらず赤いままだ。しかし美栄の本当の目的はその理由を聞くことではなく、眠るまでのわずかな間上条に構っていて欲しい、というところだろう。その証拠に目は据わっており既にベッドの中にもぐりこんでいる。
「んー?甘酸っぱい青春の一ページを思い出しているからだよー若いっていいねー」
そう言った瞬間、座布団が飛んできた。ピッチャーは言うまでもない、レールガンこと御坂美琴。それは音速の3倍で上条の頭を吹き飛ばし、壁を貫いた。嘘である。しかし座布団が顔にクリティカルヒットし、恐ろしくなった上条はそのことについてもう特に言い立てないことにした。
「……ふーん……そっか……」
「そうだよー」
「………ん……………………………」

 …スースー… …スースー…

美栄の眼が完全に閉じる。どうやら寝たようだ。それを確認すると上条は身体を大の字にし、ぶはああああああああああーっと一気に息をした。なんだかんだで美栄がいるときが一番気が張っていたような気がする。泣かないように、転ばないように、迷子にならないように常に神経を張り巡らせ、美栄はそんな親の気持ちを知ってか知らずかあっちへ行ったりこっちへ行ったり本当に大変だった。
「どれどれー」
美琴は思い出~黒歴史編~のアルバムを硬く閉じて心の押入れに封印したようで、ぐいぐいっと美栄の顔を覗きに来る。美琴の何気ない横顔に一瞬ドキッとした上条だったが、すぐに立ち上がるとそれがバレてしまうかなーと思い、ぐっとこらえる。
「あ~やっぱ私似で愛らしい顔してんなー。なんていうのかしらねこういうの。美しい?気高い?神々しい?」
「んー………親ばかに一票」
「あ、それ言えてるかも。アンタ何気にうまいこと言うわね。」
くくくくく、ふふふふふと美栄を起こさないように二人は静かに笑う。なーんちゃって、このくらいの冗談ならもう何の躊躇もなく言える。まぁあんなこと言ったり、されたりすればそりゃそうだ。
「あぁー、しっかし、つかれたわねー」
「んーそうだなー」
そういって二人は美栄から目を離し、ベッドの隣にあるスペースに楽な姿勢で座りなおす(というか美琴はゴローとだらしなく寝っ転がった)。お嬢様がんなことしてもいいんかよ?と上条は言いそうになったが言っても無駄なのでやめておく。
「………」
「………」
気付いたら10分くらい経っていた。
二人とも特にやることもなくどこも見ていないような淀んだ瞳でどこかを見ている。相変わらず美琴はだらしなく、ぐてーとしている。上条はあぐら座りに疲れて女々しくお姉さん座りをし始める。しばらく沈黙になりテレビでもつけようかなーと思ったところに、美琴がいつもと違う、熱を帯びたような声で、「………アンタさー」と口を開いた。
「………、ヌーサレーゼのときも聞いたけどさー、………こんな私でいいわけ?これから大変だと思うわよ?私、一生アンタにへばり付いていく所存だから」
「………、あんま何度も言わせんなよ。痴女のお前と違って上条さんはピュアなんですから」
「痴女言うな、ビリビリすんぞー。ってかアンタ、質問に答えろー」
「………、質問?………なんだっけ?もう一度言ってみ?ん?」
暗にもう一度「付いていく」のところの台詞を要求する上条は、実は美琴がいったことをもう一度聞きたかったりした。こういう素直な美琴はよく考えたら初めてな気がするので少し興奮したりする。
しかし美琴がしてきた行動はそれ以上に上条を揺さぶった。

「一生こういうこと、してもいいのかってこと」

美琴は猫がゴロン~と転がるような愛らしい仕草で上条の太ももに頭を乗せてきた。思わず「うお!」と口にした上条は慌てて立ち上がろうとするが、美琴が「ダーメ」と言い、その動きを制したので身動き一つ出来なかった。
「…………………、オメーな」
「どう?ドキドキしちゃった?じゃあーイエスオアノーで」
「………………、」
ぶっちゃけた話、自分の太ももの上からこちらを上目遣いで見つめてくる美琴の顔はめちゃくちゃ可愛い。上条は今まで可愛いなーと思う女の子を何度も見てきたが、これは次元が違いすぎる。まずオーラからして違う。上条には美琴からなんかピンク色の未知の粒子が発せられているようにさえ見える。口からはイチゴのような匂いが漂ってきて、髪からはシャンプーの清潔な匂いがする。目は眠いのかとろーんとしていてそのせいで色っぽく見える。
しかし上条には素直に「ドキドキしたよ」と言ってあげられるような色ボケ性能は搭載されていない。
「……………、ボンジュール」
と素直じゃない上条は力なくボソッと言う。
「こらーイエスオアノーだよピュアな上条君ー」
美琴は満足できる返事が返ってくるまで何度も同じ要求をしそうな様子だ。ならば上条も黙り続けるまで!と口をチャックできつく閉め、もう一生しゃべりませーん、とでも言いそうな勢いで美琴に対抗する。
「………………」
「………………」
すると上条の考えが読めたのか、美琴は「じゃあ私はアンタがしゃべるまで一生可愛い顔しなーい」とでも言いたげに、ピタリとつまらないそうな顔になり、それまで出していた未知の粒子を出さなくなった。
「………………」
「………………」
「………………」
「……………っ、…」
沈黙。
カチ…カチ…と時計の音が気になり始めた。時計は見ていないが優に3分くらいは経っただろう。
しかし可愛い美琴の顔を覚えてしまった上条としてはこの沈黙は辛すぎる。
「………………」
「…、………、…っ…、…たく、イエスだよイエス…」
と上条がそう言った途端、美琴は大して驚いた様子でもなく、とりあえず「わぉ!」とわざとらしく声に出した。そして、おお!がんばったねじゃあご褒美に可愛い顔してあげるーとさっきまでの笑顔を復活させた。どうやら上条の「イエス」にやたら満足したらしく美琴は上条の太ももの上で嬉しそうに頭をグルングルンし、調子に乗って上条のシャツの中をいじり始める。上条は流石にそれはまずいと思ったので、美琴の手を握り、慌ててその行動を中断させる。だが恥ずかしがった上条の様子を見て、美琴は更に調子付いた。
「じゃ、じゃあ、つ、次はゆ、勇気を出してー!『上条当麻は御坂美琴を一生愛します』!イエスオアノー!」
美琴はこの『イエスオアノー』が偉く気に入ったらしく、しつこくこの手段で聞いてくる。正直疲れている上条としてはさっさ寝たいというか恥ずかしい。
「…………………、」
「ほ、ほらほら早くー。また泣いちゃうぞー」
本当に泣いたら流石に軽蔑するな、と上条は思う。まぁもう上条は美琴を泣き止ます方法を知っているので大した脅威ではないが。というかなんで女というのはこう何度も同じような事を聞くのだろう?と上条は少し疑問に思った。
「………、」
「………、」
しばらく経つと美琴はタチの悪いことを思いついたガキ大将のような顔をし、何かひらめいたようだ。正直このタイミングで美琴が思いつくことなど、どうせ自分を辱めることだろうとあながち外れではない予想を上条はする。
「あ!じゃあ優しい美琴先生がアンタに素敵な提案をしてあげようかしら?」
「………どうせろくでもないだろうから却下………」
「そう言わないでさ!絶対アンタ喜ぶと思うわよ?」
まるで美栄のようにキャピキャピする美琴。やはり親子なんだなーと上条はぼんやり思う。
「…………、」
「なんなら賭けていいわよ?一生私のことレモンちゃんって呼べるかもよ?どうどう?」
「……………、言うだけ言ってみろ」
「空里さんにもらったあの服着てあげようか?」
それを聞くと上条の背中がまるで蜂に刺された少年のようにピクンッと跳ね上がる。美琴はそんな上条の様子を見逃さなかった。
「あ!今アンタ!ピクッてなったでしょ?なったわよね!?着て欲しい?着て欲しいんだー!」
「う、うるへー!」
「言えてないしー!ださー!」
「いいからもう寝ろ中学生!」
「あっと……」
そういうと上条は美琴の頭をそっと床に置き、さっさと美栄がいるベッドに入る。
「あ!ちょ、ちょっとアンタ!ほんとに寝ちゃうの!?ねー!?」
独り置き去りにされた美琴は「ならこの鬱憤をどこで解消すりゃいいんだー!?」と酔っ払いみたいな様子で顔を赤くしプンプンする。しかしやがて何かを悟り「はっはーん」と目を光らせた。
美琴がベッドの中にもぐりこみ
「アンタの考えが読めたわよ」
「………………、(無視無視……寝よう)」
上条と美琴の距離は10センチとない。上条は美栄を抱き枕にして本気で寝ようとしているのだが、美琴はまるで「お前好きなやつだれ?」みたいな中学生のようになかなか寝ようとしない。というかよく考えたらまさにその中学生のわけでこういう話が好きなのも無理な――――――
「初めてはベッドでしたいんでしょー?」
「ぶううううううううううううう!!」
上条は「い、いきなりなんて事を言い出すかこの子はー!?」と美琴を見た。そこには上条よりか10倍は真っ赤な顔のトマトみたいな美琴が横になっていた。
「え……、あ、あああ、あ当たり……?」
「なわけあるか!いいからもう寝ろ!!つ、次話しかけたら、たた、たたたき出すからなー!!!」
「ったくもー冗談通じないなー」
「ね、寝ろ中学生!!」
いい加減上条の本気が伝わったのか、急に美琴はシュン……と素直になった。
「ま、ア、アンタがそうしたいなら私は別にいいんだけどさー………おやすみ………」
美琴が少し電流をだしたと思ったら、電気が消えた。なんとも便利なやつだ。上条はそう思いながら力強く目を閉じた。


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