とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

03章-1

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匿名ユーザー

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3.惹き合い


「・・・・・・美詠?」

明朝、上条当麻はいつもの通り風呂場を自身の聖地(寝床)で起き
朝食を作ろうと風呂場から出たのはいいが、キッチンには先客がいた。

「おはよ、お父さん」

美詠は色も模様もついていない貧相なエプロンを着て朝食を作っていた。
エプロンをつけた姿に昨晩、夕飯を作ってくれた美琴の姿が重なってしまい
上条は美詠と目が合わせられなかった。

「あ、あぁ、おはよう。
 ・・・・・・朝飯作ってくれたのか・・・・・・ありがとな」

そういうと美詠は少し照れくさそうに頭を掻いた。

「いいって、いいって・・・・・・あぁ、お父さん
アイツと美春起こしてきてくれない?私、皿に盛り付けするからさ」

了解と返して床で布団を敷いて寝る当瑠と
いつもは真っ白暴飲暴食シスターが占拠するベッドに寝ている美春を揺すって起こす。

「ふあぁぁ・・・・・・なんだ、親父か・・・・・・」

「何だとは何だ、御坂の方が良かったのかよ」

「いやいや別に・・・・・・それが許されるのは親父だけさ」

ニヤリ、と笑って返されて、上条はムッとするが
それを無視して、未だ寝ている眠り姫をもう一度起こしにかかる。

「美春、朝だぞ起きろ」

「・・・・・・みゅ・・・・・・パパ?」

目を擦ってのろのろと美春も起き上がる。
ごはんだぞ、と一言言うと、急激に目を見開きベッドから跳ね起きた。

「あさごはん!!はやくはやく!」

「おいおい、まずは顔を洗って・・・・・・て、ベッドで飛び跳ねるな!」

どこかデジャブを覚えてしまったが、なんとか飛び跳ねる美春を押さえて
朝食が置かれたテーブルに座らせる。
テーブルにはすでに着替えまで終えた当瑠とエプロンをはずした美詠が待っていた。

「それじゃ、食べようぜ」

当瑠が手を合わせて、いただきます、と合掌する。
美詠と美春もそれに合わせて慣れたように言い、上条は箸と茶碗を持っていて
美春に「おぎょーぎがわるいよパパ」と五歳の娘に注意されてしまった。

「あぁ、そうだ」

上条は食事をした後、今思い出したと言うような感じで言った。

「・・・・・・今日は学校で補習があるからさ、留守の方頼めるか?」

当瑠と美詠が目を数秒合わせる。
美詠の方が何事かあったのかすぐに逸らしたが、当瑠は首をかしげ答えた。

「分かった・・・・・・あぁ、でも、俺たちも別に出かけていいよな?」

「ん?まぁ、戸締りはしっかりしてくれよ」

「分かってるよ・・・・・・補習はいつからなんだ?」

そういえばその事は考えていなかったな、と上条は一瞬慌てる。
だが、そこは補習慣れした赤点生徒だ、即座に答えは用意できた。

「十時からだ、もうチョイしたらいく準備するよ」

携帯の時刻表示と当瑠を交互に見ながら言う
表情や、口調には焦りは出ていないはずだ。
当瑠はもう一度分かったと言うと、歯磨きをしている美春の隣にいくと
一緒に並んで歯磨きをし始めた。

(さて、俺も準備するかな・・・・・・)

無論、それは補習の準備などではなかったが。

常盤台中学の朝は早い。
それは長期休暇の今の時期も変わらない、というよりも習慣は体を勝手に動かすもので
ほとんどの学生は同じ時間に起き、同じように朝食をとるのだが。

「ん~~どうしよう」

御坂美琴は自分のベッドに腰をかけ、ハンガーに掛けて並べてある
服を睨みながら朝食にとテイクアウトした食堂のサンドウィッチを頬張る。

「・・・・・・私服か、制服か・・・・・・悩むわね」

今日は彼女にとっての大切な日だ。
好きな男性に誘われて行く初めてのデート・・・・・・
いつも通りの自分で行くか思い切って私服を着ていくか、それを彼女は悩んでいた。

「・・・・・・普通だったら私服よね、でも、センス悪いとか思われたら」

とりあえず、自分の今掛けられている服を見て改めて子供っぽいなぁと思う

「やっぱり、制服のほうがいいわね・・・・・・はぁ・・・・・・」

今度ファッション雑誌片手に洋服屋に行こう、と心に決めて制服を手に取る。
着慣れた制服がなんだかとても忌々しく思うが、仕方ない。

「さてと、着る服はこれでいいとして・・・・・・次は・・・・・・」

今度は自分の机の棚をごそごそと探り始める。
迫ってくる約束の時間にワクワクと期待感を持ち、それと同時に不安や緊張もある。
ただ、それ以上に想い人の少年と今日一緒にいられるのが嬉しくて、楽しみで
美琴は自然と笑顔になってしまっていた。

時刻は十時三十分上条当麻はいつもの公園の自販機前にいた。
補習をサボっているわけではないし、元々嘘なので、学校なんか行くはずがない。

「結局、学ランで来ちまったけど・・・・・・変じゃないよな?」

嘘を突き通すため、学生服を着て寮を出てきたのはいいが
今は長期休暇のため、外を歩いている学生は私服の者が多い。
だがそこは学生の街、学園都市だ、常盤台のように休日も制服着用の学校もあるし
風紀委員などは制服を着ているので、決して目立つような事はない。
(ただそれは上条の通う高校が一般的な学校のためなので、
常盤台などの名門校の制服はその服装だけで目立ってしまうのだが)

「御坂はまだ来てないか・・・・・・あー!何緊張してんだ俺!落ち着け落ち着け!」

手には汗を多量にかいている、さっきから手を何度も拭いているのだが
いっこうに手汗は消えてくれず出続けている。

「あー!もう!くそ!」

「・・・・・・何頭抱えてんの?知恵熱でも出した?」

「――――――――――!!」

後ろからいきなり声をかけられて、ビクゥ!と背筋を伸ばす上条。
振り向くと、待ち人である御坂美琴が学生鞄ではない肩にかける小さな鞄を持ち
訝しげな表情で上条を見ていた。

「み、御坂・・・・・・お、おっす」

「ん。・・・・・・てかアンタも制服のなのね、私服無いの?」

なんだか哀れんだ目で見られています。

「い、いや、これにはわけがあるんだ!」

慌てて身振り手振りで今朝のことを話しつつ、自分が学生服を着ている理由を答えた。
理由を聞くと美琴はふぅん、と納得したような納得していないよな微妙な返事をしている。

「・・・・・・なんか、悪い事したわね」

「うん・・・・・・でも、さ・・・・・・」

「?」

上条の途切れ途切れの返事に美琴がどうしたのかと言う顔になる。

「邪魔・・・・・・されたくねぇんだよ、お前とのデート」

「な――――!」

美琴の顔が一気に真っ赤になり、手を物凄いスピードで振り回す。

「ななな!何恥ずかしいこと言ってんのよ!ば、馬鹿じゃないの!?」

バチバチと青白い光を周囲に撒き散らし、地面に黒い跡が増えていく。

「お、おい!電撃飛ばしながら怒るなよ!あぶねぇだろうが!」

必死に美琴の近くまで来て肩に手を置く。
それで電撃は納まったが、上条は自分が手を置いた位置にドキリとしてしまい
手を肩からすぐに離した。

「あ、アンタが変な事言うからでしょ!」

全く、と腕を組んで落ち着く美琴。
それは、上条にそう見えるだけであるのだが、ほっと上条は溜息をついた。

「じゃ、じゃぁ、行くか・・・・・・」

踵を返して、目的地の方向へ向かう。
緊張して大股になってしまったのには気づかない。

「う・・・・・・うん・・・・・・ま、待ちなさいって!」

エスコートをする上条が先にずんずん進んでしまい、美琴が慌てて追いかける。
いつもの追いかけっこのような感じになってはいるが二人の雰囲気と気持ちは全く違っていた。

学園都市の第六学区は大きなアミューズメント施設である。
観光客を狙った詐欺が多いことでも有名な学区ではあるが、それ以上に
最新の科学技術を使用した大型のゲームセンターや、テーマパークなどがあり
遊び好きな学生たちの溜まり場となっていると言う話も聞いている。

「・・・・・・で?何処に行くのよ?」

そんな『遊び場』を上条と美琴は歩いている。
学区内に入ってすでに三十分ほど経っているのだがそれらしい施設は見当たっていない。

「えっと・・・・・・もう少しだ、後十分くらい?」

「そう・・・・・・」

そのまま何もしゃべらないまま十分が経過した。
ついたぞ、と言う上条の言葉が聞こえて美琴は顔を上げる。

「ここって・・・・・・」

そこには見覚えがあった。
学園都市内で配られていたチラシや、テレビのCMで見た事のある場所だったからだ。

「最近開いたばかりの、アミューズメントパーク・・・・・・」

友人たちがしきりに行きたい、一緒に行こう!と言っていた場所だった。
ここ最近開園された超大型アミューズメントパーク。
チケットも予約しないと取れないと聞くほど人気があると聞いていたので
多分、行くのは無理だろうな、と美琴自身も諦めていた場所。

「ほら行こうぜ」

上条が多少先に行って手招いている。
慌てて上条の隣まで行って、問い詰める事にする。

「な、なんでアンタ、この場所に?」

予約してもそのチケット自体の入手が難しいその場所に何故上条が入れるのか。
それは、勿論チケットを持っているからなのだが、どうやって?という疑問があった。

「・・・・・・ふふふ、上条さんには心強い友人がいるという事ですよ」

不適に笑う上条。
ちなみに、上条がチケットを持っている理由は先週、隣人の土御門が
「いつも世話になってるお礼だにゃー」とか裏のありそうな事を言って
無理やり渡したと言う話があったのだが美琴は知る由もない。
ただ、上条がこの後土御門ととある事件に巻き込まれるのだがそれは別のお話である。

「ま、深いこと考えんなよ、時間なくなっちまうぞ?」

「あ、うん・・・・・・そうね」

疑問もあったが上条が自分と入るのも大変な場所の貴重なチケットで
誘ってくれたのが嬉しい気持ちの方が強かった。

「じゃ、じゃぁ行きましょ!」

上条よりも先に行くつもりで駆け出す美琴。

「お、おい!俺が行かないと入れねぇぞ!?」

どんどん離れていく美琴を上条は苦笑しながら追いかける。
美琴が笑顔を見られるのが恥ずかしくて
走ってしまったということに上条は気づいていなかった。

アミューズメントパーク、もとい『遊園地』には当然だが多くの人でごった返していた。
歩けば人と肩がぶつかるし、足元も見えないので転びそうになる。

「あ~、こりゃ乗り物乗れっかわかんねぇな」

返事は返ってこない。

「・・・・・・御坂?」

入園した時までは隣にいた美琴の姿がそこにはなかった。
忽然、と表現した方が良いだろう。
焦って周りを見回しながら、声を上げる。

「御坂!!何処だ!!」

「こ、ここ!」

今度は返事が返ってきた。
声が聞こえた方を向くと、人ごみから手が一本上がっている。
上下に何度も揺れているので背伸びかジャンプをしているのだろう。
人の波に流されないようにその人物の場所まで行くと、美琴がほっとした表情でいた。

「良かった・・・・・・完全に逸れたと思った」

危ない危ない、と上条が言うと

「それはこっちのセリフなんだけど・・・・・・勝手に先に行っちゃっし」

「ご、ごもっともです・・・・・・」

浮き足立って専行してしまったのは上条なのでいい返す事もできない。

「と、とりあえず、行こう」

今度は離れないようにするからさ、と言って進もうとする。


「・・・・・・!!」



と、突然手を掴まれた。



「み、御坂さん!?なぜ、手を握ってらっしゃるんですか!?」

今まで何度も手を繋いだ事はあったのだが、上条が気づいていなかったので
上条としては女の子から握られるのは(記憶としては)初めてだった。

「は、逸れたら・・・・・・た、た、大変でしょ?」

美琴は顔を真っ赤にして、掴む力を強くする。
その手の感触が妙にやわらかくて、すべすべしたものだったので
上条の本能に多いに衝撃を与える。

「い、いやいやいやいやいや!しかしこれは上条さん的には緊張するもでして
他にも色々と方法があると思うんですよね例えばそうそうお互いしっかり肩を並べて
歩いたりとか話をしながら歩くとか遊園地なんだから何乗るとか色々話す事もありますし」

一気にまくしたてこの窮地(主に上条の)を脱しようとする。
上条にとってすでに御坂美琴という人間はいままでの腐れ縁とかではなく
『異性として意識する女性』になっているので当然な反応だ。

しかし、女の子とは常に狼(野郎)共よりも天然で上手だ。
まともに美琴の顔を見れずにいた上条だったが、何とか美琴の顔を見る。
美琴は嫌がられたと思ったのか、目を少し潤ませた涙目で上条を上目遣いで見ていた。

「・・・・・・・・・・・・だ、ダメ?」

ソンナフウニ イワレタラ コトワレナイジャ ナイデスカ

「よ、喜んで!!」

美琴の手をしっかり掴み歩き出す。湧き上がる欲望を押さえつけて、だ。
ここが遊園地で人がたくさんいて良かったと、改めて思う上条だった。

『遊園地』は学園都市で展開されるだけあって、幼稚園・小学生
更にはカップルの学生の為のアトラクションが用意されている。
普通の乗り物も二人乗り以上のものに改良されていたりするので
どんなものでも多人数でも十分に楽しめた。

「ねぇねぇ、お腹空かない?」

予約制のチケットを持っている二人は並ぶ時間もかなり短縮できるので
多くのアトラクションを短い時間で、ストレスを感じずに乗れた。
時間も忘れて場所を転々としていた。

「あー、そういえば、そうだなぁ」

携帯の時計を見て上条が返す。
時刻は二時をさしていて、お昼時は過ぎていた。
そして、空腹を意識した上条のお腹がぐぅとなってしまった。

「・・・・・・あ」

「・・・・・・ぷ、空いてるんだ?」

クスクスと笑う美琴。
上条はあははと照れくさそうにつられて笑う。

「あー、じゃ、どこかで食べるか?」

お店は、と地図を出して探す上条の手が止められる。
美琴が繋いでいる手とは逆の手で押さえつけていた。

「・・・・・・どうしたんだ?」

上条が美琴の顔を覗き込んでくる。
その近づいた距離に美琴はドキドキしてしまうが、一度唾を飲み込む。

「わ、わたし・・・・・・お弁当作ってきたのよ」

「え?わざわざ?」

美琴は着ていく服を決めた後、大急ぎで常盤台の調理室を借りて作ったのだ。
寮監には怪しまれたし、寮生たちには何事かと思われるし、ルームメイトからは攻撃を受けた。
それは全てを押しのけて、なんとか完成したものなので
時間的には微妙だったが、勇気を出した。

「お昼時は過ぎてるけどさ、食べない?」

「せっかく作ってきてもらったってのに俺が断ると思うか?」

「そ、そんな事ない、けど」

「じゃぁ、食べよう」

手ごろな広場を指差し、ほらほら座ったと場所を取る。
美琴は遠慮がちに上条の隣に座って、小さな肩がけの鞄から
これまた小さな弁当箱を取り出す。

「はい、どうぞ」

「サンキュー」

弁当と箸を上条が受け取り、弁当の蓋を取る。

「おー、おかずには玉子焼きとミートボールそれと・・・・・・」

ほー、ほー、とふくろうみたいになっている上条を見ながら
美琴も自分の分の弁当を取り出して、上条よりも先に食べ始める。

「さて、いただきます!」

美琴が食べ初めて少しして上条も食べ始める。
昨晩のようにがっついて食べるようなことはなかったが
一口ごとに、うまいうまいと言って食べる上条が小さな子供みたいで
美琴はクスッとまた笑ってしまう。

「・・・・・・美味しい?」

「うん?美味いぞ?食べたりないくらいだ」

え?と上条の返事に呆けてしまい、弁当の中を確認すると
上条の弁当のおかずはすでに上条の腹の中に消えてしまったようで
すっかり空になってしまっていた。

「・・・・・・男子って凄いのね」

もっと大きいのにすればよかったと後悔する。
だが、まさか育ち盛りの男性がこんなに食べるとは普段その姿を見ていない
美琴からすれば、量の配分が分からないのは当然だ。

「ん?育ち盛りですからな!」

どうだ、と胸を張る上条。
その姿は可笑しかったが、美琴はふと弁当を見る。
おかずは十分に残っている。

「・・・・・・ねぇ?私のおかずいる?」

とたんに上条の目の色が変わる。

「くれるのか!?」

その勢いには驚いてしまったが、美琴は弁当を上条に差し出す。

「うん。私、そんなに食べないし」

「おぉ!サンキューな!」

上条が弁当を受け取ろうとするが、美琴は手の届くぎりぎりで
お預けするように上条から弁当を遠ざける。

「お、おい、くれないのかよ?」

残念そうな顔をする上条だが、美琴は気にせず意を決して箸でおかずをつまむ。

「・・・・・・食べさせてあげる」

「・・・・・・は?」

上条の中で時間が凍りついたようだ。
固まって瞬きすらしないまま口をだらしなくあけている。

「あのぅ、御坂さん?」

しばらくして上条が笑顔のような困惑したような奇妙な顔をして口を開いた。

「な、なによ・・・・・・」

いくらデートに誘ってくれた相手でもやっぱり無理があるのだろう。
美琴は少し残念だった。
だが、上条の繋げた言葉は美琴にとって衝撃だった。

「・・・・・・食べさせて、くれよ」

「―――――――え?」

美琴が確認するように上条を見る。
上条は美琴と目が合うと、顔を少し赤くして目をそらす。
そして、ゆっくりと目線を美琴に戻してもう一度同じ言葉を言う。

「食べさせて欲しいのですが」

「あ・・・・・・!あぅ、えっと、その・・・・・・」

自分で言ったはいいが、美琴自身は上条の返答が予想外で思考が追いついていない。

「俺が食べちまうぞ?」

意地悪そうに笑い、美琴から弁当を奪おうとする。

「そ、それはダメ!!」

必死に弁当を死守して弁当と上条を交互に見る。

「わ、分かった・・・・・・食べさせて上げるわよ」

美琴の中で上条に食べさせたいという欲求が勝ったようだ。

美琴が残っている玉子焼きを箸でつまむ。
そして、真っ赤な顔をして上条に箸を向ける。

「・・・・・・ほ、ほら、早く口をあけなさいよ」

「お、おう」

上条も美琴以上に顔を赤くして中々口を開こうとしない。

「アンタさ・・・・・・無理してない?」

つまんでいたおかずを弁当箱の中に戻す。
上条は慌てたように手を振って否定する。

「そ、そんな事ねぇよ!」

「・・・・・・ホント?」

美琴は自分がわがままを言ってしまい上条に迷惑をかけたのではないかと思う。
だが、上条は美琴が悲しそうな顔をしているのを見て
赤くした顔のまま真剣な顔をして、美琴を見据えた。

「御坂・・・・・・気を悪くしたんなら謝る」

ごめんな、と頭を下げる上条。
その姿が本当に真剣そのものだったので今度は美琴が慌ててしまった。

「い、いいわよ!私の方こそ今日わがままばっかり言って、その、ごめん・・・・・・」

お互いに頭を下げる姿は周りから見れば妙なものだったが
二人は真剣だった。
暫くはお互いに頭を下げる状態だったが、時間が経つと頭を上がった。

「・・・・・・御坂」

「何?」

「・・・・・・食べさせてくれよ」

今度はお前に嫌な思いさせないからさと言って美琴に弁当箱を持たせる。

「・・・・・・わ、分かった」

今度こそ・・・・・・とおかずをしっかりとつまみ上条のほうに向ける。
上条がゆっくりと口を開けて、放り込まれるのを待つ。

「あ・・・・・・あーん」

美琴は時々テレビだとか街中で見るカップルがしていて
自分の妄想や夢の中で上条にしていた事を思い出しながら
上条の口の中におかずを優しく突っ込む。

「あー・・・・・・ん・・・・・・ん!美味いなやっぱ!」

何回かおかずを噛んで、ニカッと笑う上条。
その表情にドキドキしてしまう美琴。

「良かった・・・・・・嬉しい」

「――――――か」

自然と上条に釣られて笑顔になる。
その時に上条が美琴の顔を見て思わず『可愛い』と言いかけたのを美琴は気づかなかった。
そして、二人を見つめる影があることにも。

「まぁ、嘘だなんていうことは分かりきってはいましたが」

当瑠は美春を肩車して、いちゃいちゃ空間を作り出している
未来の夫婦の姿を美詠と人の波に隠れながら観察していた。

「昨日の夜からバレバレだったけどね」

昨日の夜、つまり上条が美琴を寮まで送りデートの約束をした後のことだ。
帰っていた上条に当瑠が話しかけたが返事をしないし、ニヤニヤとあさっての方向を
見ているだけだったので、何かあったのがバレバレだった。
そして、今日の朝、上条が出かけると言った時、尾行を二人は決行したのだ。

「当日券で入れたのはラッキーだったわね」

美詠がわずらわしそうに人ごみを見て言う。
こんなところに上条が行くとは思っていなかったので遊園地に入ったときは
どうしようかと冷や冷やしていたのだが、ぎりぎり当日券が三人分購入でき尾行を続ける事ができた。
だが、当瑠の方の顔は優れない。

「・・・・・・なんか妙なんだよな」

「え?」

「いや、なんでもねーよ」

当瑠の疑問に思っているのは、何故自分たちが『当日券』で入ることが出来たのかだった。
予約をしてもその日のチケットが取れるか分からない人気のスポットで
開園から暫く経った時に来た自分たちが当日券を買えたのが妙だった。
当瑠は周りの人間をもう一度観察する。

(・・・・・・どうみても一般客じゃない奴等が混じってやがるな)

つまり、特別な権限を持って入園した者たちが多くこの場所にいると言う事だ。
周りにいる人間は学生のほかにもチラホラと教師たち、大人の姿も見える。

(風紀委員に警備員か・・・・・・何かあるのか?)

当瑠の勘が警告している。
当瑠は父親程ではないにしても不幸な人間だ。
路地裏を通れば怖いお兄さん方に目をつけられるし
助けようとした女の子になぜか能力を使われて追いかけっこする破目になったり
歩いていれば青信号で車が突っ込んできたりと
危機に対する事に関してはある程度察知することが出来るようになっている。

「・・・・・・美詠、美春を頼んだ」

「え?」

すっと立ち上がり、美詠が当瑠の方を向いた時に彼は走り出した。
一気に距離は離れていき美詠の姿は人ごみに消えて見えなくなった。

「ちょっとー!当麻さんと美琴さんはどうすんのよー!」

そんな叫び声が聞こえたが当瑠は気にすることなく走り続けた。

人ごみの合間を走りぬき、当瑠がやってきていたのは
関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアの前だ。

「すみませーん」

コンコンと二度ノックをし声をかける。
このドアが直接スタッフルームに繋がっているわけではないだろうが
それでも通路を通りかかった従業員が気づいてくれるはずだ。

「はいはい、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」

思惑通り、迷惑な客が来たときの対応の声で制服を着た従業員がドアから顔を出した。

「ちょっと、聞きたい事があるんですけど」

そう言って当瑠は袖につけていた物を見せ付けた。
従業員の男の顔色がさっと変わる。

「―――――風紀委員の子か」

当瑠がつけていたのは風紀委員がつける腕章だ。
ただ、彼自身は当然風紀委員に籍を置いてはいない。
腕章はサボり目的で友人と話し込んでいた風紀委員から拝借したものだ。
勿論とられた事にその風紀委員は気づいていないが。

「犯人は捕まったのかい?」

――――犯人。
当瑠の予想は的中した、この『遊園地』内に事件が起きている事が確定する。
当瑠は自分の予想が当たったことに若干不安を覚えるが、それを顔には出さない。

「・・・・・・いえ、まだ捕まっていないんですが。
今回の事を少し整理をしたくて、詳しい話をもう一度聞こうと」

風紀委員は学生だが、やはり影響力はかなり大きいようだ。
従業員の男は何の疑問も持たず当瑠をスタッフルームに入れた。

「じゃぁ、話すけど・・・・・・聞いたら現場に戻ってくれよ?」

念を押す従業員にはい、と愛想笑いで答えると、話を始めた。
まず、今日の開園直後、『遊園地』のサイトにメールが一通届いたらしい
確認したのは話しをしている従業員ではないが、メールを見た従業員は
イタズラだと思い報告をしなかったそうだ。(無責任な話だが)
メールの内容は今日『遊園地』内に爆弾を仕掛るとの事
説明はかなり省かれているがとりあえずテロの予告である事は間違いない。

「・・・・・・それで?」

当瑠が続きを促すと従業員は話を続ける。

「爆発が・・・・・・開園から一時間後に実際に起きたんだ」

かなり小規模な爆発だったらしいが、その一発でメールは本物と判明。
メールの報告をしなかった男はクビの宣告を受けたらしいが自業自得ではある。
その後、警備員と第六学区の風紀委員に捜査命令が発令し現在に至っているそうだ。
不法侵入の形跡がないことから、一般客として入園し
能力者が結託し合ってお互いの能力を使いながら監視の目をかいくぐり
爆弾を仕掛けたと言う事は分かっているようだ。
そして、多くの客が入園した今簡単に退園をさせる訳にはいかなくなっていることも。

「・・・・・・ありがとうございました」

従業員が話を止めたところで、お礼を言ってスタッフルームのドアを開ける。

「あぁ、君」

呼び止められて振り向くと、従業員が不安と懇願が入り混じった表情をしていた。

「・・・・・・私には協力も何も出来ないが」

従業員はそう言った後に頭を下げて続けた。

「頼む、何も知らずに楽しんでくれているお客様達を助けてくれ」

この従業員には好感が持てるな、と当瑠は思った。
仕事に対して不満を垂らして適当にこなしたりする大人がいる中
誠実に、他人のことを心配してくれる人もいるんだと、当瑠は少しだけ暖かい気持ちになる。

「任せてください」

間が空いてしまったが、当瑠は愛想笑いではない笑顔でその『願い』に返した。

「あーあ・・・・・・あの馬鹿はいっちゃうし、当麻さんと美琴さんは見失うし・・・・・・」

美詠は当瑠がいなくなった後、しばらく不満をタラタラと言っていた為
目的である上条と美琴を見失ってしまっていた。

「お兄ちゃんどこいっちゃったのかなぁ?」

手を繋いで隣にいる美春は心配そうに周りをキョロキョロと見回している。
少しでも気を抜けば手を解いてどこかに言ってしまいそうな危なっかしさがあった。

「勝手にどこか言っちゃダメよ、あの馬鹿は放っておいてお父さんたちを探しましょ」

そう言って、あらぬ方向に行こうとする美春を自分の向かう方に引っ張る。
美春はまだ少しだけ心配そうな顔をしていたが、あるものを見つけると途端に顔を輝かさせた。

「あ!ゲコ助!!」

彼女が見つけたのは可愛らしいと言えばそれなりの等身大のカエルのマスコットだ。
ただ、美春が言う『ゲコ助』とは微妙に何かが違う気がした。

「・・・・・・なんか微妙に違うわね・・・・・・私は良く知らないけど」

『ゲコ助』については外見的な特徴であれば美春から良く見せられているので
多少は分かるが、ほとんど同じものに見える。
ただし、近付いて何が違うのか判断した美春は首をひねっている。

「なんだかめのおおきさがちがうね?」

「お姉ちゃんにはさっぱりわからないんだけど・・・・・」

だが、美春は『ゲコ助』に似ているカエルのマスコットにはかなり興味があるご様子だ。
ぺたぺたとマスコットに触って隣にあるキャラクターショップを凝視している。

「・・・・・・そのぬいぐるみだとか、キーホルダー欲しいの?」

ずらりと並べられたカエルのマスコットのキーホルダーとぬいぐるみ(その他にも色々あるが)
それを指差すと、美春の顔が更に輝いた。

「いいの!?」

物凄い勢いです。

「いいわよ、美春ちゃん良い子にしてたから、買ってあげる」

その勢いに多少引き攣った笑いになってしまったが、美春はそれに気づかず
猛スピードでキーホルダーとぬいぐるみを二つずつもってレジに向かった。

「二つもいるの?」

お金を払いつつ美春に聞くと、美春は首を大きく縦に振った。

「うん、ママにもかってあげるの」

そういえば、あの人も好きだったなと思いながら
しかしそれでは気づいたときに買ってしまってダブるのではないかと思った美詠だが
口には出さずに美春に小袋に入ったキーホルダーを手渡し、自分は大きめのぬいぐるみの入った袋を持つ。
ありがとーと可愛らしく笑ってくれた美春の頭を撫でてあげ、顔を前に向ける。

「あれ?」

そこには見覚えのあるツンツン頭と茶色の髪をしたカップルがいた。
二人は若干離れた距離を保っているが、しっかりと手を繋いでいる。

「・・・・・・やっと見つけた」

美春の手を引いてキャラクターショップから出て、二人の後を追う。
追いかけた先は大きな広場で人が一番集まるところのようだ。
そしてそこにあるアトラクションは一つだけだった。

「・・・・・・か、観覧車?」

時刻を見ると六時半過ぎだ。
そろそろ日が落ちて暗くなり始める時間帯。
きっと二人はこれを最後に遊園地から出るだろう。

「こ、これは見逃す手は無いんじゃない!?」

一気に距離を詰め、人の間をうまく取って二人に近付き観覧車の列に並ぶ。
デートはついにクライマックスを迎えたようだ。

観覧車には十分ほど並んで入ることが出来た。
時刻は六時四十分、上条は景色を楽しみにしながら観覧車に乗り込む。
この『遊園地』の観覧車は一周するのに二十分程度かかる、かなりゆったりとした乗り物だ。
加えて大型のため上へ行くほど観覧車から内から見える景色は格別らしい。

「今から見える景色が楽しみね」

向かい合うように座る美琴が上条に笑いかけてくる。
上条はそうだな、と気のない返事でなんでもないような素振りをするが
実際かなり緊張している。

「あ、見てみて七学区!」

上条の返事がそっけなかったのを気にしてか窓を見ると
すぐに指を差してはしゃいだ声を上げた。
上条も窓の方を見ると、確かにそこには学び舎の園を初めとした
第七学区を象徴する建物が見え始めている。

「一番上まで言ったら何処まで見えるのかな?」

落ち始めた日の光に美琴の顔が照らされる。
その姿が幻想的で美しくて上条は思わず喉をごくりと鳴らしてしまう。
今、自分を邪魔する人間はいない、この空間に入り込んでくる人間は誰一人いない。
日が完全に落ち真っ暗になれば他の観覧車からも姿は見えなくなる。
そうなれば・・・・・・と上条はそこまで考えて自分の邪な考えを振り払う。

(何考えてんだよ俺は!落ち着け!今は景色を楽しむんだ!)

落ち着け落ち着けと自分の本能を理性で押さえつけて
美琴のほうを見ないように心がける。
だが、数秒するとチラリと美琴のほうに目を向けてしまい
時々美琴と目が合うと光速にも勝てるのではないかと思える速度で目を逸らす。
そんな事を繰り返している内に頂上まで後少しとなる。

「日が落ちてきたわね・・・・・・」

「あ、あぁ・・・・・・」

徐々に美琴の姿も暗がりに隠れていく。
それにホッとしながらも少し残念に思って美琴のほうに顔を向ける。

「・・・・・・御坂」

姿が見えない今なら、少し落ち着いて美琴に話しかける事ができる。
声をかけると返事はすぐに返ってくる。

「なに?」

まだ、早い。
上条は口から出る言葉を抑えようとするが止まる事は無い。
日が落ちてきたためか観覧車内の電気が点々とつき始める。

「・・・・・・あのさ、俺」

「どうしたのよ?」

もう駄目だ、言ってしまおう。

「俺・・・・・・お前と・・・・・・」

グラッと観覧車が揺れる。
観覧車の中を照らそうとしていた電気がフッと消えてしまい
観覧車の中はまた暗闇に染まる。

「・・・・・・な、なんだ!?」

観覧車も止まってしまったようで、上条たちが乗った観覧車は頂上一歩手前で膠着する。
美琴が能力で電気をいじったのかと思ったが、そんなことをすれば大惨事になるので
その考えを打ち消す。

「なに?何が起こってんの?」

周りを見回す美琴と呆然とする上条。

(あれ・・・・・・?でも、これって・・・・・・?)

上条の思考は戻っていき、ある答えにたどり着く。



―――――――これはもしかして自分が望んでいた展開では?


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