十月十四日 木曜日 晴
昨十三日 内務ニアリテ 〓〓整理中 〓〓ニ照火シ班長ニ〓見セラル。直ニ頭ヲ窓ヨリ出シテ ポカリト〓カナル制裁ヲ受ク。入校以来二週間、最初ノ事ナリ。サレド之ヲ以テ「大イニ撲ラルベシ、若シ制裁ヲ受ケザレバ見込ナキモノトシリ喜バズ…」ト云ヒシ父親ニ顔ヲ合ハセ得ルナリ。本日地上教育。報告ノ際声低シト注意ヲ受ク。〓ク練リテ〓声ヲ産ムベシ
下〓、中田様ヨリ来状アリ
十月十五日 金曜日 晴
地上教育訓練中又モ制裁ヲ受ク。喜バシキ事ナリ。午前 地上教育、午後 飛行場整備作業。南東ノ風、天高シ。訓練愈軌道ニ乗ラムトス。之ヲ以テ又心身ヲ錬磨シ技術ヲ習得セム。
我口頭ノ〓表頗ル悪シ、矯正セサルベカラズ
来状アリ
旧友 （姓名）君
注・想
- 「喜」は「七」を「森」と同じように重ねた文字で表記されている。
- 書き出しの数行はインクのにじみが強い。
十月十六日 土曜日 晴後曇
休務
臨時大祭により休務。
起床後直ニ飛行場ニテ作業ヲナス 八時終了。空腹ニ詰メタル朝餉ノ美味サ。勤労ノ後ノ食事ノ真価。
十時十五分 東京ノ方ニ向ッテ遙拝式ヲ擧行。
十三時ヨリ少年飛行兵第二教育班ト対抗野球試合ヲ行フ。第一教育班精悍ニシテ断然圧倒セシメタリ。二十時二十分燈火管制ヲ行フ。久方振リニテ身体ヲ休メ明日ヘノ精気ヲ養フ。
午後ノ陽光ノ中デ〓トシテ故郷ヲ想フ。故郷ヲ想ヒテ國ヲ想フ。國ヲ想ヒテ我ガ行ク道ヲ想ヒ、道ヲ想ヒテ戦身ヲ省ミル。励マザルベカラズ 慎マザルベカラズ。
十月十七日 日曜日 曇時々雨
曇リ日。突然ニ降リ来ル雨。
今日ヨリ愈々飛行機ヲ操ル。地上試運転。
舵ノ予想ヨリモ〓キヲ知ル。地上滑走。
注・想
- 「臨時大祭」同日、昭和天皇、香淳皇后が靖國神社御参拝されている。
- 休日には野球する余裕があった。
十月十八日 月曜日 晴
第一回飛行機搭乗
遂ニ空中ニ舞イ上リ飛行場附近ヲ眼下ニ見タ。第一回同乗。地形慣熟ニテ高度八百米。緑色、土ノ色、遠ク烟ル太平洋。邉ク人家、道路、恰モ地図ヲ見ル如キ想ヒガスル。然シ乍ラ傾キ降下ノ時ハ心地ヨカラズ。ノメリ出ルガ如キ悪感激シカリ。着陸後ハ再ビ乗リ度キ気ガ激シクス。第二回目操舵〓得、又々空中ニ上ル。始メテ動カス手足。従舵性良キ為激シク動クヲ見テ又之ニ帰ス。
今日飛行中注意セラレタルモノ別ニナシ。然シ其ノ声未ダ小サシ。爆音ノ中ニテ咽喉ヲ絞ル、サレド未ダ尚ヤサシ。降下、左右傾ノ外心地悪キモノナシ。明日ハ水平飛行予定。如何ニ行クヤ。注意事項ヲ厳守シテ溌剌行ハントス。落合様ヨリ来翰、拝読ス。上海行モ未決ノヨシ。
十月十九日 火曜日 曇
六時五十分集合。本日課目、水平。水平直線飛行。昨日ニ比較シテハ幾分飛行ニ馴レタル心地シテ機ノ傾キト共ニ身体モ傾ケルコトヲ得、極メテ自然ナリ。旋回ノ折モ
前方、地平線ノ急速ナル動キヲ注視シ居ル。猶又昨日ニ比シテハ〓ル飛行中ニ、心ノ余裕ガ少ク乍ラモ出来テ来タ様ニモ思ワル。訓練愈々軌道ニ入リ忙シクナレリ。昼食ヲ済マセテ休憩シテモアラズ、直チニ午後ノ教育ハ開始サル。愈々〓々新兵教育ラシクナレリ。當然ノコトナリ。然レドモ部隊ノ新兵ニ比シテハ（来劫ナルモ）古兵等在ラズシテ、心モ身モ楽ナルベシ、然リ。
十月二十日 水曜日 晴
「上昇降下」此ガ本日ノ課目。
愈々機上ニ在リテ落着キノ産レテ来ル時ダ。心ニ余裕ガ出来テ来タ。ケレドモ未ダ＼／簡単ニ云ヘナイ。三日前ニ比ベテノ事。本日ノ飛行爽快ナリ。
来状、六供ノ義一兄、横浜ノ従姉ノ事知ラセ来レリ。他ニ本〓校長、対比地師、渡部君アリ。凡テノ者懐シク親シミアリ厚謨アリ、応ヘザルベカラズ。
風雲愈々急ナルヲ覚ユ。身ニ近ク感ズ。六時二十分燈火管制実施。
注・想
- 「思・想」など表記ぶれがあるが、ニュアンス違いがあるのか不明。
- 意外と早く飛行感覚に慣れたらしい。
十月二十一日 木曜日 曇
朝雨有リ雲低〓スル空ヲ飛翔ス。白雲眼下ニアリ、冷気ヲ感ズ。〓ヨシ。相模原ノ辺リ。操舵滑ラカナラントシテ未ダ固キヲ覚ユ。徐徐ニ、高速ニ改メサルベカラズ。日々心清々シク快シ。
来壯、金子今月以来始メテノコト、荒尾、及ビ田中ノ義姉。
貯金為樋〓書記殿ヨリ一通アリ公用。
今夕ヨリ班長室勤務、他ニ増田見習士官。
十月二十二日 金曜日 晴
入校して、はや二十日あまり二日とはな（※ここまで一本抹消線）既ニ三週ヲ経タ。而シテ搭乗時間二時〇九分。最早五日トハナリタ。徐々ニ馴レ来レル思ヒハスレド未ダ遠キ道程ナルヲ覺ユ。道程牛ノ如ク一歩一歩ヲ確トシテ踏ミシメ行クニ如カズ、我今故郷ヲ離レテ相模ニ在リ。何ガ故ニ斯ク在リヤ。省ミザルベカラズ。風雲益々急ヲ告ゲ、大海ノ疾風迫ラントス。若者タル、軍人タル、日本臣民タル誇ト修練ニ傾注、國難ニ馳セザルベカラズ。
注・想
- 22日冒頭は珍しくひらがな交じりだが、抹消線が引かれている。
《以下作成中》
最終更新：2010年12月13日 01:20
