東京 恵比寿

咲「はぁ……」
和「咲さん、呼んでおきながらため息つかないでください」
健夜「ごめんね、宮永さん。成り行きで」
咲「いえ、こちらこそ大した御もてなしもできず」
はやり「しっかり宮永さんこんなところに住んでるんだねー、羨ましいなー」

 瑞原プロから、なに気取っているんだ小娘という心の声が聞こえてきた。なんでこんなことになってしまったのだろうか、本当に。
 私、宮永咲は魔王という異名をつけられている女性雀士だ。今日も今日とて試合があり、ばったり小鍛冶プロと瑞原プロと出くわし何故か女子会をすることに。
 でも、私だけ二世代(重要)離れていて気が重たかった。なので、仕事が終わっているであろう和ちゃんも呼び出したのだ。

うん、はじめはよかった。いくら騒いでもお隣さんは居ないから迷惑にはならない。そも、事務所が「お前はもう有名人だからしっかりとした場所に住んだ方が良い」と言われたのであまり使っていないお金を使って仕方なしにタワーマンションをワンフロア契約したのだ。

はやり「はやーでも、良い夜景だねー」
咲「えぇ、良い眺めですよ。日中は」
和「え?夜景じゃなんですか?」

 そういって窓を開けてベランダに出る瑞原プロと和ちゃん。二人とも、いつまでも乙女だなー。

咲「外に何が見ます?」
はやり「きれいな夜景以外なにもないよ」

 そっか、二人には見える景色がそう見えるんだね。

健夜「どれどれ?」

 小鍛冶プロもベランダに出る。

咲「下に何が見えます?」
はやり「だから、まばゆい夜景だってば」
咲「ここら辺って、マンション以外にも普通の民家もあるんです。住宅街なんです。あれは夜景じゃない」

最近は眼下に広がる家明かりを数えては「一家団欒がひとーつ、ふたーつ……」と呟いている日々だ。
 意味を理解した三人はリビングに戻ってきた。注文した宅配ビザやチキン、適当に頼んだ高級なワインやシャンパンも開けて食事を勧める。でも、いくら食べても胸の空虚感は満たされない。
 このとき、私は酒でおかしくなっていたのかもしれない。なぜか姉に言われて録画しておいた番組を皆で見ることになった。その番組が悪魔の所業とは知らずに。

咲「えっ?こんなの見ろってこと?お姉ちゃん」
和「咲さん。その番組……そういえば照さん、須賀君と半年ほど前……」
咲「うん、結婚したんだ。お姉ちゃん。私の旦那様と」
はやり「やめて!せめて宮永さんだけで見て!」
健夜「お願い!」

 もう遅い、死なば諸共だ!番組を再生する。タイトルは


新婚さんいらっしゃい


菊「それでは参りましょう。新婚さんいらっしゃーい!」

 あのBGMとともに拍手が鳴り響く。司会の二人のアバントークもそこそこに一組の夫婦が入ってきた。京ちゃんとお姉ちゃんだ。

川瀬「どうぞー」
菊「こりゃまた、でっかい旦那さんで」

ドッwwww

会場から笑いが起こる。あぁ、京ちゃんの顔だ。いま、こんな顔になったんだ、カッコイイナー。あと、お姉ちゃん。同じ宮永の血なのになんで胸があるのさ。和ちゃん曰く松実玄さんくらいって。

川瀬「それではお名前とお歳からどうぞ」
「長野県長野市から来ました。須賀京太郎、26歳です」
「妻、照。28歳です」
菊「いやー、若いとは思ってましたが意外と年いってまんな。いや悪い意味じゃなく」
川瀬「奥さんは、まだ十代に見えますね」

はやり「ちっ小娘が」
健夜「年下に先を越された……」

 あーやっぱり再生するんじゃなかったな。自分もダメージが大きいよ。そう思って停止しようとすると和ちゃんが私の手を掴んだ。

咲「和ちゃん?」
和「最後まで見ます」

 聞くと、理想の王子様の参考にしたいそうで。

菊「ご主人、お仕事は」
「飲食店。割烹-須賀で厨房に立ってます」
菊「苗字と一緒やけど。あなた、家族経営ですかい?」
「えぇ、一応」
川瀬「事前に調べたデータだと直営の料亭-須賀。そこが和食の名店で老舗だそうです」
菊「あらまー。ということは宣伝も兼ねて」
「もちろんです。是非、お越しになってください」
菊「否定しないんかい」

 ドッwwww

再び、会場が沸く。

川瀬「ということはいずれは料亭を」
「はい、妻と一緒に」
菊「こう言っちゃあなんですが、名家名店というとお嬢様というイメージがあるんやけど。ご主人が婿入りで?」
照「いえ、私が嫁入りしました」
菊「生粋の坊ちゃん来た」ズテーン!

 ドッwwwww

 会場が爆笑に男性司会者が転び女性司会者が椅子を直す。

菊「それで奥さん、きっかけは?」

 これは聞きたい。なにせ、きっかけもありふれた話しかきけていないのだ。

照「きっかけは、中学三年のときの給食委員会です」

 え?は?なにそれ?私聞いてない。高校時代、お姉ちゃんと私と学校のメンバーで会ったことくらいだよ。知っているの。

照「そのとき、先生から新しいメニューを考えてくれってことになりまして。でも私自身も給食委員ははじめてだったもので」
川瀬「レベル高いですね」

 そのときは確か、お父さんたちが離婚寸前の時だったよね!?なにしてるのお姉ちゃん!家族ギスギスしていたときに!

京太郎「そのとき、僕の家で作ろうということになりまして」
菊「はー、料理人の血が騒いだわけですかい」
川瀬「そのとき旦那さん、中学一年ですよね。すごいですねー」

 そこからは話題が進む。やれ、その時作ったリンゴのどら焼きが校内で人気だっただの。京ちゃんがお姉ちゃんに勉強教えてもらっただの。お姉ちゃんの高校の部活のインタビューにお店の手伝いが役に立っただの。

菊「部活のインタビューって奥さん。高校時代、なにやってはったん?」
照「麻雀部です。一年、二年とインターハイで団体と個人。優勝しました」
菊「あ、思い出した。宮永照さん」
川瀬「えっと……」
菊「あんた、知らんのかいな。当時の煽り文句で確か、インターハイといえば彼女の事っていうのがあってな」
照「でも三年のときの団体優勝は逃しまして。まぁ、姉妹喧嘩もいい感じに収集ついたので良かったです」

 いま新たに喧嘩勃発しそうだよ。なんで中学一年の時、京ちゃんを紹介してくれなかったのさ。

健夜「宮永さん。おちついて」
はやり「負け犬の遠吠えだぞ☆」
和「みっともないですよ」
咲「痛いキャラづくりの年増、夢女子、アラフィフ」
「あ?」

 勝負の舞台に立っていなかった人と、当時彼なんか眼中になかった人に言われたくない。

菊「もしかして麻雀の宮永プロは……」
照「妹です」
川瀬「奥さんはプロにならなかったのですか」
照「はい、京ちゃんと一緒に居たかったので。あと、女性雀士は異性との結婚運が極めつけに悪いので。前例もありますし」

 その前例って私たちかな?お姉ちゃん。

和「私はプロじゃありませんから」
咲「彼氏いるの?和ちゃん」
健夜「前例……」
はやり「小鍛冶プロとは違うもん。実家暮らしじゃないもん」

菊「しかしいいとこの坊ちゃんでしょ?他に相手とか居ったんちゃいます?」
川瀬「あと嫁姑とか、家柄とか」
照「えぇ、後から聞いたのですが実は彼の親戚が鹿児島にいまして。他にも見合い相手が」
京太郎「でも、最後には僕たちを親は信じてくれましたし」
川瀬「彼の家の手伝いとかが功をなしたと」
菊「運命のめぐりあわせですかい」
照「えぇ、京ちゃんのオカルトのおかげでもありますね」
川瀬「オカルト?」

 お姉ちゃんは麻雀界では表立って言われていないが暗黙の内に認知されているオカルトの説明をする。

川瀬「なんか超能力みたいですね。で、奥さんはご主人の……その、オカルトは見抜いたんですか」
照「はい。彼、いわゆる座敷童みたいな人でして。互いに持ちつ持たれつ、バランスよくを心掛けてます。おかげで彼好みの身体に」
京太郎・菊「」ズテーン
菊「!?」
川瀬「wwwwwww」イスナオシナオシ
菊「長年、この番組やってきて転び芸パクられたのはじめてや。なんで旦那さんも転ぶんや」
京太郎「いやー、未だにそんなの信じてるとは……」


 え?なに?じゃあ、お姉ちゃんの胸が大きくなったのって京ちゃんのオカルトのおかげ?私だってレディースランチ協力したじゃん。

和「あれだけ迷子になっていれば」
咲「あぁ、だから和ちゃんも未だに結婚できないんだね」
和「そんな、オカルトありえません。須賀君もそう言ってるじゃないですか」

 後ろ二人がマネージャーさんに電話してる。何をする気だ。アラフィフたちは。

照「まぁ、オカルトなんて迷信かもしれませんが、おまじない程度には私は信じてます。そのあと秋ごろに彼が東京に遊びに来ました」
菊「はぁ、んで奥さんがインターハイ終わってご主人が東京に来たと」
京太郎「はい。親の仕事の付き添いで。仕事でランチ食べた後、一人で彼女の家に」
川瀬「よく親御さん許してくれましたね。お家デートですか?」
照「京ちゃんが作ってくれたお菓子と一緒に本人も美味しくいただきました」
菊・川瀬「wwwww」ズテーン
菊「まみちゃんも転んだの番組初やで」

 え?じゃあ京ちゃん、秋にはもうお姉ちゃんとデキてたの?

健夜「宮永さん」
はやり「かわいそー」

 もう、二人に言い返すどころじゃない。

照「で、ピロートークの後、私から大学卒業したらお店の経営は私がするってプロポーズしました」
川瀬「大学でいい人は居なかったんですか?」
照「彼、一筋です」
川瀬「愛されてますねー。それで、なにか付き合っていた頃の思い出とかないですか」
照「そうですね。思い出に残ってることはいずれは結婚するって話をするため彼の家に行った時の事ですね」

 お姉ちゃんが大学生の頃の話らしい。

菊「ほう」
照「彼が長野の駅まで迎えに来たのはよかったのですが、一度彼のご実家に向かった後、経営している本店。料亭の方に連れ出されて」
川瀬「はい」
照「そのとき彼のお義母さんの車で彼と三人でお義父さんが待つ料亭に向かうことになりました」


ドッwwwww

そんなことあったの!?

はやり「小鍛冶プロは絶対にヘマするね」
健夜「人のこと言えないでしょ」
和「あわわわ」

 三人の反応は三者三葉だ。絶対、この三人はバカをするに違いない。

菊「初顔合わせで彼氏の母親と密室って、拷問みたいな時間ですやん。なんの記念やねん」
川瀬「それでどうしたんですか?」
照「そのとき、パニックで彼に話しかけよとしたんですが、いきなりお義母さんのまえでフランクだと失礼かと思って須賀さんと呼んだのですがそうしたら彼が"母さん、呼ばれているよ"って。他にも"好きだよ、照さん"って」

ドッwwwwwwww

川瀬「旦那さん、奥さんに酷な質問ですよ」
照「まぁ、彼にからかわれたのか多少は落ち着いたのですが、また思考停止に陥ることに」
川瀬「何があったんですか?」
照「着いたら彼と彼のお義父さんが料理を作るから、楽にしてくれと言われと言われ貸し切りの部屋で彼のお義母さんと二人きりにさせられました」

菊「」ズテーン
川瀬「」イスナオシ

 ええええ!?私なら心臓止まっちゃう……

菊「旦那さん、一緒にいてあげなさいよ」
京太郎「彼女に不味い料理を食べさせるなって事と、親父が彼女の食事マナーとか好みとか見たかったんです」
照「ものすごく緊張して料理の味、まったく分からなくて美味しいとしか言えなかったです。他に何か言えばよかった」


菊「新婚生活はどんな感じです?」
照「ちょっと困ることがありまして。彼、結構モテるんですよ」
川瀬「人気者でいいじゃないんですか。店の評判にも繋がりますし。女性の評判って大きいですよ」
菊「ご主人、今まで何人泣かせてきましたの?」
照「高校時代の互いの知り合いが頻繁に営業だとか、お客さまとしてやってくるんです。十人くらい?」
京太郎「さすがにそんなには」

 十人?思い当たるのは優希ちゃん、染谷先輩、あと和ちゃんの親友とかかな?

菊「それでも、ご主人は奥さんを選んだんじゃないですか。信頼してあげなさいよ」
照「うぅーん、でもその女の子達は私達の共通の友人が多いんですけど、結婚してからも頻繁に誰かしら家やお店に押しかけてきて、財布が心配になるくらい。で、私の目の前で京ちゃんを誘惑するんです。彼、女性の懐に入るの上手で見事、男っけない女性は皆落ちちゃって」
菊「ご主人、爆発しなはれ」
京太郎「言い方ぁ!」

ドッwwwww

川瀬「ちょっとwwwww」
菊「しかしご主人も、その女の子達に誰かええ男紹介してあげたらええやないですの」
照「それが前にわたし同伴前提で彼が合コンをセットしたんですが。女の子たち話題が絞り出せず、合わずで男性が引いちゃって」
京太郎「もう、僕の男の知り合い皆、結婚しました」
菊「こらアカンわ」

ドッwwwwwww

イイナーオネーチャンシアワセソウデー

川瀬「それじゃあこれからもお二人、お店がんばって。仲良くしてください。ありがとうございました!」
京・照「ありがとうございました」


なお、この後のペアマッチの親権衰弱でアメリカ旅行があたり旅行先で子どもがデキたのは別の話。

カンッ



咲「どこで、間違えたのかな…………なにやってるんです?小鍛冶プロ、瑞原プロ」
はやり「彼のお店に行くんだぞ☆お姉さんとお食事だよ☆」
健夜「とりあえず、高級ホテルのレストラン予約した」
咲「なんでホテル!?瑞原プロもやめてください」
和「できました!」
咲「なにが?」
和「ネットの掲示板に悩み相談です」
咲「えっと……魅力的な料理人の男性がいますが彼は妻帯者です。私は弁護士なのですが、どうすれば良い感じに彼にアプローチできますか?答え、敗訴だよ!」


モイッコカンッ

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最終更新:2021年06月25日 22:25