「せっかくの七夕なのに、曇り空ね」

その声色に篭った感情を察しかねて、京太郎は首を傾げた。
窓の外を見る顔は伺えず、答えようもない。

「年に一度しか逢えない。人間で考えたら悲惨なものよね」

「年に一度も逢えないより、ずっとマシじゃないですか?」

目と目が合う。
何を無粋なと言いたい気持ちと、しかし否めないのも事実だという気持ちがあった。

「……須賀くんは、どう思うの?」

「恋愛にうつつを抜かしてサボってたんです、自業自得でしょうよ」

「須賀くんならどうしてたのかしら」

「んー、恋はしたこともありますけど恋人がいたことはないんですし、分かりません」

もしかしたら彦星みたいに入れ込むかも知れませんね、と笑う。
その声色に、クスクスと笑い声が返る。

「なら、須賀くんが入れ込む姿。見てみたいかも知れないわね」

「相手がいませんよ。和にフラれたばっかりなんですよ俺」

さもあらん。
和にとって、京太郎は部活仲間の範疇を出るものではないのだ。
あの娘は苦労するんだろうなと苦笑して。

「じゃあ、私に入れ込んでみない?」

「入れ込むような相手なら突き放すんでしょ、知ってますからね俺」

打てば響くようなやり取りが心地良い。
湿り気を増した空気を嫌ってか窓を閉めて。

「あら、私に入れ込むなら受け入れるわよ?……尤も人生の全部、同じ墓場に入るまで入れ込んでもらうけど」

「蟻地獄ですかソレ」

「蟻地獄よ、女はそんなものなの」

冷めたお茶で渇いた喉を潤して。
二人の穏やかな時間は、雨音が響いてきてもなお、終わることはなかった。

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最終更新:2020年04月06日 22:59