突然の大雨。
傘もなく、抗うことも敵わないままびしょ濡れになってしまった和は、陰鬱な気持ちに拍車がかかって嘆息を一つ。
部室で、廊下で、昼休みにも放課後にも部活中にも余所余所しく振る舞う男に怒って。
友達だから、部活仲間だから───傲慢な物言いなのは自覚している。
それでも彼に強く当たるのは、或いは彼をフッたことを受け入れたくないからだ。
余所余所しく振る舞うのも、仕方ない。
そう思っていても、余所余所しくされると嫌なものを感じずにはいられない。

(何より)
(何より───)

優希と咲は二人の関係の異変を感じても、なんら手出しはしなかったのに。
京太郎が和にフラれたことを早々に察知し、京太郎への距離を縮めた女──竹井久。
部活中、からかっていた姿はフェイクで。
部活後、一旦は帰路に着いた和が忘れ物に気付き、部室に戻ったときに見てしまったもの。
声は噛み締めていたものの泣いている京太郎と
、彼を真正面から抱き締めて受け止めている部長の姿。

(須賀くんが、そんなに本気だったなんて)
(部長が、あんなに優しく受け止めるなんて)
(───こんなに、距離が開くなんて)

嘆息が止まらない。
ただの部活仲間でさえいられない予感。
否、自分が竹井久なら、間違いなく部活を休ませるだろう。
接点を極力減らし、彼の中での比重を徐々に増やし、甘やかして受け入れて依存させ、自分がいなくてはいけなくなるまで絡め取る。
それを容易に思いつき、実行せしめる悪辣さと頭脳があるのが、部長だ。

(でも───何が正解なんて分からない)
(だから、良い友達でいたいと思った)
(良い友達でさえいられれば、前にも後ろにも進めるから)

雨に濡れた桃髪が、妙に重い。
カバンも、制服も、何もかもが重く。
顔をも濡らす雨のせいで、頬を伝うそれの正体すら理解出来ずに。

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最終更新:2020年04月06日 22:59