「どうして──どうして──」

背筋と、豊満なおもちを震わせながら。
冬休みの間、泊まり込みで雇ってくれている旅館の娘が、夜這いを仕掛けてきたのかと思っていたけれど。

「どうして…京太郎君は、私のお風呂も…お姉ちゃんのお風呂も…覗かないの…?」
「俺には同志──玄さんが何を言ってるのか分からないんですが」

紅に染まった頬は、湯上がりだから…というわけだけではないのは、理解出来る。
それでも、流石に『入浴してるのを覗いて欲しかった』というのは斜め上過ぎた。

「やっぱり、私やお姉ちゃんのおもちだと……物足りないのです…?」
「いや、むしろ大好物です……はっ!」

涙目の玄さんの震え声に否やと応えると、ダイブしてくる小さな影。
とはいえ、この程度は慣れている。
受け止めると、そのまま胸に顔を押し付けられる。
下腹部に当たるおもちの感触が心地良く、しかし危うい。

「本当に、本当に、京太郎君の大好物なの?」
「大好物ですとも!……ただ、俺は清澄の学生で…玄さんとは、冬休みが終わったらまた別れないといけないでしょう?」
「……寂しいのです」

俺だって、と言いたくなるのを、必死になって噛みしめる。
互いに寂しさを紛らわす為の愛なら、そんなに虚しいものはないから。

「また、春休みにも来ますよ」
「毎日連絡してもいいかな?」
「それで玄さんの寂しさが紛れるなら、喜んで」
「浮気はしちゃ嫌なのです…」
「しませんって」

浮気するような相手もいない。
というか、これは傷心旅行もどきの果てに泊まり込みで働かせて貰っているのだ。
どういってもグスグスと鼻声を止めない美少女を抱き締めながら、湧き上がる感情の名前を理解出来ずに。

「ねぇ、京太郎君……?」
「はい?」
「今ね、お姉ちゃんがお風呂に入ってるの」

それは知っているが。

「私ももう一回入るから、三人で一緒にお風呂に入りたいのです」

──それは、まさに悪魔の囁き。
だが、鼻声でねだる美少女の願いを踏み躙る勇気は俺には無くて──

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最終更新:2020年04月06日 23:15