「私、また告白されたんですよ」

わざと大きめの声で言うと、咲さんと優希が怪訝そうな顔をして。
視線が顔に向き、ついで胸を見て。
闇の深そうな色になったのを眺めながら、心は部室に隅にいる人にのみ注がれていました。
『誰に?』『どう答えたんだ?』などと聞かれることを期待しつつも、自分から聞きに行くのは憚られるが故の、軽いジャブ。

「うーん、やっぱり胸なのかな?」
「アイドル顔にオバケみたいなおっぱいだじぇ、そりゃモテるじょ」

なんて失礼なとは思っても、口には出せず。

「京ちゃんはどう思うの?」
「どうって……別に気にはならないかな。俺ってほら、彼女いるし」
『!!?!?』

その驚愕は、果たして誰のものなのか。
口をパクつかせる三人を尻目に、須賀君はメールを返し、課題を進めてと手を止めることもしません。
心ここに在らずといった風情の三人では、満足に練習できる筈もなく。
気を紛らわせる意味で、咲さんは書店に向かい、優希はタコスを食べに行きと、早々に帰り。

「須賀君、恋人っていつの間に作ったんですか?」

放課後の夕暮れの中、二人きりの部室。
もう少し勇気があれば、この上なく魅力的なシチュエーションなのですが。

「ん?あぁ、恋人にしたい娘はいるけどな。まだまだ前途多難、叶わぬ夢ってやつさ」
「じゃあ、今は恋人いないじゃないですか」
「似たようなもんだ」

ケラケラ、カラカラと笑いながら、課題をカバンに仕舞っていく姿さえ、どことなく恋しくなっているのに。
この人は、なんで。

「ほら、俺って和に釣られて麻雀部に入ったクチだからさ。かっこつけてないと、和目当てって周りにバレるしな」
さて帰るか、と立ち上がった姿を目にして、私は須賀君の言葉を反芻。
……和目当てがバレる、ということは、もしかして。

「………須賀君?」
「あー、やっぱりバレるか。頭良いから…」
「私が咲さんや優希に言ったらどうなるんでしょうか?」
「ほら、ダメだろ?……嘘にしないために、さっさと彼女見つけねーとなぁ…」

夕焼けが眩しくて、互いの顔も満足に見られない。
本当に僅かの勇気を振り絞って、須賀君に抱き着いて。

「私、告白されたとは言いましたけど、受けたとは言ってませんよね?」
「和?……やめたほうがいいぜ、俺が勘違いするからさ」
「……勘違いじゃないです。……私は、須賀君だけですから」

互いの顔がはっきりと見えないだけで、酷くストレスが溜まります。
今は、須賀君の顔を見つめていたいのに。
今は、須賀君に顔を見つめられたいのに。
抱き着いていた身体を抱き締められ、髪を撫でられて。

「……さ、帰ろうか」
「まだ、須賀君といたいです」
「それじゃ、うちに来るか?」
「……はい!」
須賀君が歯を噛み締めた音が仄かに聞こえて、私は覚悟を決めました。
大きな掌に私の掌を重ねて、指同士を絡めあって。

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最終更新:2020年04月06日 23:22