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Understanding――(離界シアター)」(2010/04/07 (水) 00:56:32) の最新版変更点

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**Understanding――(離界シアター) ◆EchanS1zhg  【零】 『理解なんてものは、おおむね願望に基づくもんだ』  【序】 少し窮屈なシートに深々と身体を預け、少し息を吸ってそして静かに吐くの繰り返し。 室内の照明は落とされており、光源はスクリーン……に反射する映写機からのものが唯一。 その光は当然のうように意味合いを持ち、ぼくは、それと隣の彼女も、それをじっくりと鑑賞している。 まるで日常の世界から切り離されたかと錯覚するような、居心地がよく、また安心ならない不思議な空間。 逆に、スクリーンを隔てた向こう側には、ここから切り離された世界の姿が映し出されている。 離れた世界同士の境界。映し出す密やかなる暗闇の箱。密室の中の劇場。 離界シアター。 ありていに言えば、ぼくこと戯言遣いと、現状においてはぼくの主たるハルヒちゃんは映画館の中にいた。 時計を確認すればあと半時ほどで二回目の放送の時間がやってくる。 そして、その時間までをぼくと彼女はこの映画館の中で目の前に映し出されている”これ”を見て過ごすと決めた。 ただそれだけ。 そう、ここでもう切ってしまってもいいのだけれども、それはいささか不親切にすぎると思うので(誰にとって?)、 ぼく自身も整理よく物事を考えたいところだし順を追って起承転結折り目正しく振り返ることにしようじゃないかと思う。 では、はじまりはじまり――……。  【起】 一悶着……などと一言で片付けてしまっていいものだろうか。 事件あるいは実験。ともかくとして最初の放送の後に起きたアレを後にぼくはサイドカー付のバイクを走らせていた。 堀に沿って城内を東に。 あらかじめ下見は済ませておいたから滞りなく進むことができ、そしてなんらトラブルもなく橋を渡ることができた。 ここでひとつ忘れていたことを思い出す。正しくは忘れていたというよりも吹っ飛んでいたことだろうか。 ぼくの記憶力の悪さについて語るのはまた先に置いとくとして、思い出したのは先ほどこの橋を渡っていた者達のことだ。 そもそもとして、どうして移動を開始したかというとそれは誰かと接触する為にほかならない。 ハルヒちゃんに言われるまでもなく、最初からぼくだって、そして誰だってそう考えてこの世界の端を右往左往しているのだろう。 橋に差し掛かったところでぼくは下見の時に見かけた二人組のことをはっと思い出した。 片方は金髪の男。もう片方は修道服を着た女。彼と彼女はここを、何かから逃げるように走り去っていった。 追うべきか否か、これをハルヒちゃんに進言するか否か、それを思考する。 ハルヒちゃんは徒党を組んでいる者達を探そうと言った。 たったの二人が徒党と言うのかどうかは微妙なところだけど、しかし情報を得られるというのなら接触を考えないこともないだろう。 けど。 ぼくはそのことをサイドカーの中に納まっている彼女には伝えなかったし、あの二人を追おうともしなかった。 第一に、あの二人はハルヒちゃんの言うSOS団団員ではありえない。 聞いている風貌とは全く一致しないし、変装癖があるとも聞いていない。ならば重要度は僅かながらに下がる。 第二に、彼と彼女は誰かに追われている風にも見えた。つまりトラブルを抱えているわけだ。 おそらくはホールで起きた何かによるものだろう。なので、君子危うきに近寄らずとぼくは主張することにする。 そして第三に、……というか、これがそもそも根本的な問題なのだけれども、あの二人がどこに行ったのかわからない。 都合よく足跡が残っているわけでもないし、追うとなれば相当に頭を振り回すことになるだろう。 ここでバイクを止めてハルヒちゃんと喧々諤々などというのはさすがに遠慮したい。つまり、これが本音。 縁があったらどこかで行き逢うだろう。そう(勝手に)決めて、ぼくは橋を渡りきった。 城の敷地内から出て、道なりに西に、そして南に。 持たされた地図は簡易なものだったけれども、おかげで逆に道に悩むこともなくすいすいと進むことができた。 市街は城に入る前も通ってきたのだけど、やはり夜中と日が明けた後ではまったくその印象が異なっている。 暗闇の中に沈む建物の影や、夜空に浮かび上がる建物のシルエットなんてのはまったくの背景でしかなかったけど、 白光の中に姿を現したそれらは風景としての自己主張を始め、イメージと雰囲気を見るものに喚起させていた。 通りの両端に見える商店街。 庶民的な蕎麦処。銀色が眩しい金物屋。塗装の剥げたガードレール。雨だれの後がはっきり見える吊り看板。 並んだ店舗の内の二割ほどはシャッターを下ろしたままで、一言で言えばうらびれたとそういう雰囲気。 そんなイメージの中をゆっくりとバイクで過ぎ去り、ほどなくしてぼくらはそこに辿りついた。 大通りが丁字に別れるその北東角。赤煉瓦で組まれた古めかしい五階建てほどのビル。 正面にはガラス戸の分厚い扉だけがあって、その直上には映画のタイトルを書いた大きな看板。 看板のタッチも劇画のそれで、決してプリントされた写真を貼っただけなんてものではない。 上品でもなく優雅でもなく、古過ぎもせずただのレトロ。所謂昭和の香り。そんな映画館がそこにあった。  【承】 映画館の中の姿は、外観の印象から想像できるものとほとんど変わらなかった。 自動ドアではないガラス戸を押して入ると、そこはすぐに、一応はそれといった風の狭いロビーになっていた。 長く踏み続けられたせいか、くすんだ赤色をしている絨毯が床に敷かれており、入り口の脇には申し訳程度のカウンターがある。 輪ゴムで束ねられた入場券に、お金を入れておく為の小さな金庫。そして切られた半券を捨てるためのゴミ箱。 こじんまりとしていて、いい意味で薄汚く、決して昭和の日本に思い入れなんかないのに何故かノスタルジーを感じてしまう。 世界の端や生き残る為の殺人なんてものからは程遠い、どこか安心できる空間がここにあった。 「わっ! なにこれ……?」 当然のように入場券を出すことなくカウンターの先へと進んでいたハルヒちゃんが、そこで驚いた声をあげた。 それは独り言だけど自問ではなく、ぼくにここまで来いというアピールなのだろう。 ここで無意味な反骨精神を燃え上がらせるほどぼくも体力に余裕があるわけではないので、意図を汲むことにする。 「ハーゲンダッツだね。しかもストロベリー味」 「そりゃ見ればわかるわよ」 これも一応売店風といった台の裏側。そこにある小さな冷蔵庫の中をハルヒちゃんは覗き込んでいた。 中々以上に好奇心旺盛で無遠慮な彼女の視線の先――つまり冷蔵庫の中なのだけど、そこにはそれがぎっしりと詰まっていた。 発言した通りに、ハーゲンダッツのストロベリー味ばかりが、ぎっしりと、みっしりと、印象を加えればずっしりと。 「館主さんが好きなんじゃないかな?」 「……まぁ、それが常識的な解答よね。それでもちょっと不思議だけど」 言って、ハルヒちゃんはハーゲンダッツをひとつ手に取り、ベリベリと蓋をはがした。本当に無遠慮な子だと思う。 まぁ、緊急事態におけるモラルやマナーの扱いなんてのはともかくとして、やはりというかなんというか、それはただのアイスだった。 「いーもひとつ食べる?」 「うんにゃ、ぼくはハーゲンダッツは抹茶味しか食べないって決めているんだ」 勿論大嘘だけど。 もしこれがトラップならなにも二人一緒に踏むことはないと、ただの杞憂でしかない警戒心からくる発言だった。 この後、ハルヒちゃんが無事だというなら、ぼくも前言を撤回して頂くことにしよう。 「あたし、こっちを見てくるからいーはここで待ってなさい」 ハーゲンダッツをぺろりとたいらげたハルヒちゃんはそんなことを言って狭い通路の先へと行ってしまった。 こんな状況でどうしてぼくは彼女の単独行動を許したのか。それは少し頭を上げてみれば簡単に解る。 『WC』――アイスを食べて身体が冷えたからなのかそれともずっと我慢していたからなのかどうか知らないけど、 ここでぼくも一緒に行きますとは言えない。言えば、戯言遣いは変態野郎の謗りを免れることができなくなってしまう。 「さてと……」 そう声に出して、広くはないロビーの中をぐるりと一周してみることにする。 ハーゲンダッツをひとつ取り出し、それを食べながら歩いてみるが、別にここで何かが見つかるとも思ってやしない。 見渡せば一瞥ですむだけのスペースだ。 大扉を開ければ上映室に入れるが、ぼくが一番乗りをしたと知れば彼女は気分を悪くするだろう。 なので、ただつらつら漫ろに、ぼくはこのロビーの中だけを暇潰し半分に見て周ることにする。 「”空(そら)の境界”……あ、違うや。”空(から)の境界”なのか」 壁に貼られた一枚のポスターを見て、随分とひねたタイトルだなと思った。 しかしながら、同じ一字なのに読み方ひとつでこうも印象が変わるとなると、なかなか秀逸なものだとも言えるんじゃないか。 いやまぁ、それはさておき、このポスターはこんなうらびれた映画館の中では場違いなほどに奇麗なものだった。 別にそこに描かれているものがではない。単純に張られて間もないものなのだと、そうわかっただけだ。 つまり上映が始まって間もないということ。なのでここから、この映画館は最近新しい映画を仕入れたことが推察できる。 「立地条件も悪くないし、見た目に反して案外繁盛しているのかもね」 だからといって、これがぼくやこの状況に対して意味のあることかと言うと、それは全くないと断言できたが。 しかし、普段から頭の回転数を維持しておくのは悪くないことだろう。こういった状況でもある訳だし。 「”病気の国”……、”天壌を翔る者たち”……」 並んで張り出されている他のポスターも見てゆく。こちらはどうやら少し古いらしかった。 片方には近代都市の昼間の風景が、もう片方には夜間の風景が描かれている。 タイトルから察するに、前者は社会派ドキュメンタリーで、後者は痛快アクション娯楽の類だろうか。 こんな風に言うってことは、つまりこれまでの三つの映画に対しぼくは心当たりがなかったということだ。 もっとも、映画通でもなんでもないので、だから不自然とか、別世界のとかなんて軽々とは口にできないけれども。 「これは、なんだ……?」 そして四枚目のポスターを見て、思わずそんな言葉を口から零してしまった。 何もない。ただの真っ黒なポスターで、真ん中に白抜きで――『消失』――とだけ書かれている。 他には何も書かれていないので、これじゃあ本当に映画のポスターなのかも判別がつかない。 四本目の映画がないから空白の変わりにこんなポスターを貼っているとも思えるが、しかしそれすらも謎だ。 「”消失”か……ミステリじゃ定番だけどね」 まぁ、これも現状には関係しないのだろう。そう思って、ぼくはただその前を通り過ぎる。 ぐるり一周。たったハーゲンダッツ一個食べる時間のうちに狭いロビーの探索は終わってしまった。 空(から)になったアイスの容器をゴミ箱に捨てて、もう数分。 少し帰って来るのが遅いなと思い始めた頃になってようやくハルヒちゃんはなんともない顔で戻ってきて、 そしてようやくぼくたちは重い扉を押し開けて上映室の中へとその身を滑り込ませた。  【転】 扉を潜ってみれば、そこから見て右側すぐにスクリーンがあり、左側に階段状に並んだシートの列があった。 シートの数は100席弱と言ったところか。 外観の印象通りここもこじんまりとしたもので、スクリーンにしても映画館としては大きいとは言えないサイズだ。 「なにもやってないし、誰もいないわね……」 そして、そのスクリーンには何も映し出されていなかった。 この世界の端とやらが無人である以上、従業員やなんかがいるわけもなく、 またその代わりを果たそうという酔狂な人物もいるはずがない。 加えるに、上映していない映画館に人が留まるわけもなく、あらゆる意味でここが無人なのは当然のことだった。 「まぁ、しかたないんじゃない」 そんな言葉で以上の推論を曖昧に提示してみる。 不満顔のハルヒちゃんも、それは当然のことだと元々わかっていたのだろう。 まぁね。と返すと、ずかずかとシートが並んだほうへと進んで行き、真ん中当たりで席についた。 「当てははずれたわけだけど、次はどうするんだい?」 「今から考えるのよ」 ハルヒちゃんの隣に腰掛けるとなるほどいい席だというのがわかる。 横軸縦軸どちらで見てもど真ん中。 しかもすぐ前が通路になっていて幅がある為、前の席にだれか座っていても頭の動きが気になるようなこともない。 多少行儀が悪いが、これだけスペースがあれば足を伸ばすことも可能だ。 スクリーンからも遠からず近からず、ちょうど視界内に収まる感じで、まさにベストポジションと言えた。 しかしそんな上等な席についても、スクリーンが真白なままでは無意味どころがむしろ有害とも言えた。 ただゆっくり座りたいだけならなにもこんな窮屈なシートよりも、ロビーに出てソファにでも腰かければいい。 何より、真白なスクリーンは映画の待ち時間を連想させてどうにも気分がよくない。 待つことに苦痛を感じる性質ではないけど、こんな心理実験みたいな環境は好ましくなかった。 「すぐ戻るからここで待ってなさい。絶対に動いちゃだめよ」 彼女もそう感じたのか、ぼくにそんなことを言うとまたしても一人でどこかへ行ってしまった。 とは言っても、今回もまた彼女の行く先は簡単に推測できる。 映画館で映画が上映がされてないとしたら普通の人間はどうするか。それは先にも述べたとおり立ち去るのみだろう。 しかし、それは普通の人間の場合の話。ハルヒちゃんのような酔狂な人間だと――、 「鳴かぬなら、鳴かせてしまえ、ホトトギス……か」 そうするのであろう。上映されてないなら、自分で上映してしまえばいいということだ。 おそらくはさっきトイレに行った時に、その奥にあるであろう従業員以外立ち入り禁止の区域も確認していたのだろう。 故に帰って来るのが遅れた。別にハーゲンダッツがお腹に当たったとかそういうわけじゃなかったってことだ。 ではどうしてぼくに動くなと言ったのか。 それは多分、彼女は”映写室からだと上映室内の、そしてスクリーンの様子が見えない”と勘違いしているに違いない。 実際にはそうでないのだけど、ともかくとして彼女はぼくにこれから始まる映画を見過ごさないよう任せたのだ。 ここから考えるに、彼女はここで上映される映画に”意味”がありえると、多少ながらも考えているらしい。 「手当たり次第、動かせばなにかヒントが出てくるなんてご都合……ゲームでもあるまいし」 あるわけがない。とは思うのだが、しかしなにせ世界の神たるハルヒちゃんのことである。 彼女が”ここにヒントがあるといいな”と思えば、それぐらいの可能性は実現させてしまう可能性はなくもない。 むしろ、この程度だからこそ実現の可能性は高いのかもしれないとも言える。 彼女はああ見えて、心の中に常識というものを強く持っている。 故に、荒唐無稽な現象を起こさせるには四苦八苦するであろう訳で、逆にこの程度なら容易に実現するかもしれない。 現実の改変が、ハルヒちゃんが思いこむことで実現するというのならば。 こんなにも雰囲気があり、そうと思えば意味深に取れるこの映画館。 地図上の施設として当たりをつけて来たのに空振りに終わった歯がゆさと納得のいかなさ。 そして、彼女自身が自分のひらめきに対し、期待して、もしかすればと思い、その実強くそうであって欲しいと願っている。 もしそうならば。 「こんなことが実現するのかもしれない」 考えているうちに室内の明かりは全て落ちていた。それでも手元が見えるのは目の前のスクリーンが光源になっているからだ。 では、そこに何が映っているのか。 映写機のスイッチを入れたのはハルヒちゃんに違いない。 では、”これ”が彼女の願望の現われなのだろうか、それはしかし今は判別がつかない。おそらく、この先も不確定だろう。 「これは……」 映画を映すはずのスクリーンには、なぜか《地図》が映し出されていた。 ぼくたちに配られたあの地図とそう大差はない。升目の区切りや、印の置かれた施設なんかも全くの一緒だ。 強いて違いをあげるとするなら、道や建物なんかがきっちりと細かく書かれている程度にすぎない。 これが、ハルヒちゃんの願望が齎した結果なのか、人類最悪の仕込みなのか、また別のものなのかはわからない。 だがしかし、しばらくこれを見続けている必要があるだろうとその時すぐにぼくは気がついた。 《地図》というものは本来静止画だ。実際、目の前に映し出されている《地図》にしてもそれは一見変わりはしない。 そうなのだけれども。 「黒く塗りつぶされているのはすでに消失したエリアか……」 そう。地図上の『A-1』から『A-5』までの升目が真っ黒に塗りつぶされていた。 一見なんでもないようなことに思えるが、しかしこれは実におかしい。 もし、この映像が静止画でしかないとするのならば、 5つまでエリアが消失した段階で、ちょうどぼくたちがこれを見つけるというのは、あまりにもタイミングがよすぎる。 逆に、今このタイミング以外で見つけたとするならば、あまりにも無意味がすぎる。 もし、この映像が動画だとしたらどうか。エリアが消失する時間はもとより決まっていたのだ。 ならば、あらかじめ2時間ごとに升目が塗りつぶされてゆく72時間分の映像を用意しておけばいい。 72時間というと映画としては異常で、フィルムが足りないと思われるかもしれないが、なにもフィルムである必要もない。 今時、ハードディスクなどの記憶媒体から映画を上映するところも珍しくはないのだ。 しかし、この推論はやはり今というタイミングだからこそ否定されてしまう。 これが動画だった場合。再生が開始されたのは”たった今”なのだ。 ならば、今映っている《地図》はこの世界の始まったばかりと同じく、エリア消失は起こってないはずとなるはず。 「そもそも一連のフィルムじゃない可能性もあるけれど」 少なくとも、この《地図》はリアルタイムで更新されてゆくと”想像”するべき代物だ。 変化がエリア消失だけだとするならば、ぼくたちにとって意味合いは薄いけど、しかし捨て置くこともできない。 これに意味があると”期待”するならば、次に変化が起きるであろう12時まではこれを観察しないといけないのだ。 「アイスなんて食べているんじゃなかったな」 腕時計を見て、失敗を自覚する。現在の時刻は10時よりほんの少しだけ過ぎた頃だ。 つまり、そのほんの少しだけ先にこれを発見していれば、生まれたばかりの”疑問”はすぐに解決できていたのである。 「まぁ……いいか」 事態の開始より10時間。そろそろ一度休息を取るような頃合だ。  【結】 「休憩……?」 「そう。時には足を休め、次に動く時のための力を蓄えることも重要だよ。長丁場だしね」 「あんたがそんなに働いていたとは思えないけど」 「SOS団は構成員に対して、その権利を認めることと、団員の体調を維持するために努める義務があると思う」 嫌なこと言う時だけは饒舌になるのね。って、確かにそれが傍から見たぼくの印象かも知れない。 自覚もあるけれども、しかし再確認すると本当にぼくって嫌なやつみたいだな。 しかも、それを反射的に否定できないところがまたなんともなところだ。 さておき。 ぼくはハルヒちゃんを説得することに成功し、二人して次の放送がかかる時間までここで休憩しようということになった。 彼女としても、理由を聞けば自分が映し出したこの《地図》が気になるらしく、そうと決まれば堂々としたものだ。 今は、ポップコーン片手に炭酸飲料と、映画鑑賞するにあたっての正統(?)な装備でスクリーンを睨みつけている。 「しかし、なんでわざわざいくつかの建物だけを地図に記しているのかしら?」 鑑賞中の映画(?)には動きも音声もない。とくれば、こういう風に考察じみた会話を始めることになる。 「君が言っただろう? 拠点にするって。  最終的には狭くなるとしても、やっぱりこの世界の端とやらは60人ほどで使うには広すぎるよ。  だからこそ、当てを作る為にわざわざ印を打っているんじゃないかな。実際、ぼくたちはそう動いているわけだしね」 まずまずの模範解答かと思ったが、隣から聞こえてきたのは大きな溜息だった。 「言ったんだから、そんなことはわかっているわよ。そんなの当たり前の前提でしょう。  得意満面に語るのはいいけどね、あんたの脳みそなんてこっちのが遥かに凌駕してるんだからもう少し考えなさい」 なんとも手厳しい。 つまりはもっと根本的なところをハルヒちゃんは問題としていたのか。 ぼくたちは思考の取っ掛かりや、移動するにあたっての目的として地図上の施設を活用しているわけだけど、 そういった実用のされ方ではなく、この舞台を作り上げた者が持つこれらの施設をセレクトした意図というものを。 「あんたも考えたらわかるんだから、できるところで手を抜くのはやめなさいよね。  余裕ぶって失敗なんてね。いっ……ちばん後で後悔するんだから。  いつでも全力出して、未来の自分に胸を張れるように生きるのが理想ってものよ」 これも彼女の神としての力か、はたまた洞察力の賜物か、または偶然か、なんにせよ痛いところを突いてくる。 今すぐにでも彼女の足元にひれ伏して謝り倒したいぐらいだ。 勿論、そんなことは思うだけだけど、しかしこの流れはよくない。話題を進めていかないとどうにかなってしまいそうだ。 「そう言えば、ハルヒちゃんはどこの建物からスタートしたんだい?」 「どこって……えーと、この地図だと『D-3』の中にある三叉路のあたりかしらね。  それで、そこらへん見て周って、あの声を聞いて近づいてみようかなって思ったところであんたに行き会ったのよ」 おや? なんということだろう。今の今になって、どうやらぼくは根本的な勘違いをしていたらしいと気づいた。 いや、この時点で気づけたのは僥倖なのか。なんにせよ、動き出す前に気づけてよかった。 ”登場人物はみんな地図上に記された施設からスタートしている”なんて勘違い、引きずったら大変なことになるところだ。 「……どうしたのよ?」 「あぁ、いや別に……なんでもないよ」 正直に話すとまた馬鹿にされそうだったので、そしらぬ顔で誤魔化してみた(つもり)。 しかし、そうか……そうでない人もいるってことか。 学校の屋上ですぐに古泉くんと会ったから、てっきりみんなそうなのかと勘違いしてしまっていた。 ホールにだって人が集まっていたみたいだし……なんにせよ自分で決めた前提条件ってのは常に疑うべきだと再認識。 「で、いーはどこからスタートしたの?」 「『E-2』にある学校からだよ。夜の学校だなんて長居したい場所でもないので早々に立ち去ったけどね」 あぁ、けど、これは大変困ったことになった。じゃあどうやって友のやつを探し出せばいいんだ? 断言できるひとつの事柄は、あいつは絶対にスタート地点から移動しないだろうってこと。 だから、施設を巡っていけばいつかは行き当たるとそう楽観していたんだ。 なのにそうじゃないパターンもあるだなんて……これは、真剣に、困った。当て所ないってレヴェルの話じゃない。 そこらの民家やビルの中にいるとするなら、それこそ一軒一軒見て周らねばならないわけで……、 これは改めてあいつを探す方法ってのをしっかりと考えないといけないという話だ。 「学校ねぇ……そういえば、地図には”学校”としか書いてないけど高校だった小学校だった?  それと少しでもなにか変わったものは見かけなかった? こういうヒントっぽいやつ」 「ヒントっぽいものか。確かに、ここにあるなら他のところにもあるんだろうって考えるのが自然なんだろうけど、  けど学校と一口に言っても随分と広かったからなぁ。それにせいぜい屋上から校庭を見下ろしたぐらい……で、と?」 言われてみれば、もしかして”あれ”が”そう”なのかというものが脳裏に浮かんだ。 全くもって奇麗さっぱりに意識してなかったというか、状況が状況だし、普通ならやはり見過ごすだけなのだろうけど、 しかしそう言われて意識してみれば確かにそれっぽいものをぼくは”学校の屋上から見つけていた”。 「なによ? どんな些細な情報でもきりきり白状しなさい」 「うん。屋上から見たよ。  あれは……なんて言うのかな。例えるならミステリーサークル……?  文字か図形なのかはよくわからなかったけど、そういうものが白線で校庭にでかでかと書かれているのは”見た”」 一見すれば、誰かの悪戯か、それとも何か行事の後かとそう思える”白線の模様”が校庭に書かれていた。 ナスカの地上絵のように、まるで空(そら)から見下ろすことを前提としたようなあれは一体本当は何なのか。 ”校庭に立った状態じゃ大きすぎて認識できなかった”ろうし、暗い中じゃあはっきりと記憶することもできなかったけど、 ”日が昇って明るい今ならもう一度屋上まで行けばはっきりと認識することができるに違いない”。 「ふーん……それは一見の価値ありっぽいわね。  それに学校って言ったらみんな馴染み深いし、そこを拠点にするってのもありえる話だわ」 「じゃあ、この次は学校に?」 「日が暮れるまでには行きたいけど、間に温泉があるしそっちにも寄って行こうかしらね。  お湯に浸かれる機会があるならそうしたいし、こっちもこっちで拠点向きだもの」 「温泉に行って、次は学校か……まぁ、順当だね」 温泉か。温泉ね。ふむ。いや、別に何かを期待するってわけじゃないけど。少し思いついたことがあった。 「さっきの地図上の建物の件なんだけれどもね……おすすめの”デートスポット”というのはどうだい?」 ……すごく睨まれました。  【終】 ――とまぁ、以上の過程を経てぼくたちは現状へと至った。 スクリーンに映し出された《地図》を見ながら、ただじっと身体を休めているだけ。 話し合うようなネタにしても早々に尽きたし、何より一度脱力してみればどれだけ疲労していたのかも実感できた。 なので、眠らない程度に意識を覚醒させたままシートに身体を預け、僅かばかりの休息をとっている。 時折、飲み物で乾いた口の中を潤しながら考えるのはやはりこの後についてのことだ。 どうにも違和感が拭えない。 この生き残りという事態が始まった時、この先に展開される物語は血みどろのそれだろうとぼくは考えていた。 しかし現状はそうではない。 死人が実際に出ている以上、どこかで血みどろの物語は展開されているのだろうけど、しかし”ぼく”の前にそれはない。 朧ちゃんにしたって死にはしたけど、あれは断じて殺しあったり生き残りあった結果ではないのだ。 ハルヒちゃんがいるからこそ、なのかもしれないけど、どうにも流れという”タスク”をかけられている気がしてしまう。 この後も、ずっと血みどろに遭うことがなかったとしたらぼくはどこに到達するというのか。 これが何者かの意図したことだと言うのならば、ぼくは……いや、ハルヒちゃんは一体どういう登場人物なのか。 「戯言なのか……」 意味を深く取りすぎているのかもしれない。今はこんなことを考えてもしかたないだろう。 とりあえずはハルヒちゃんから目を離さないこと。その上で友やSOS団の仲間とやらを探すことにしよう。 今は、それだけ。それ以上はその時になったらまた考えればいい。 では、映画館にちなんだ知識をひとつ披露して、この話を締めるとしよう。 映画史上、初めて音声として放たれた台詞はこんなものだったらしい。 ――『お楽しみはこれからだ』 ”これ”が誰にとっての物語なのかはぼくには見当もつかないけれど、多分、誰にとってもこれはそうな言えるとぼくは思う。 戯言だけどね。 【E-4/映画館/一日目・昼】 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康 [装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖 [道具]:デイパック、基本支給品 [思考・状況]  基本:この世界よりの生還。  0:12時に映し出された《地図》が変化するか確認し、これの機能を把握する。  1:次に温泉へと向かい、その次に学校へと向かって校庭に書かれた模様を確認する。  2:放送で示唆された『徒党を組んでいる連中』を探し、合流する。  3:↑の為に、地図にのっている施設を回ってみる。 【いーちゃん@戯言シリーズ】 [状態]:健康 [装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、クロスボウ@現実 [道具]:デイパック×2、基本支給品×2、22LR弾x20発、クロスボウの矢x20本、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ [思考・状況]  基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?  0:12時に映し出された《地図》が変化するか確認し、これの機能を把握する。  1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。  2:↑の中で、いくつかの事柄を考え方針を定める。  ├涼宮ハルヒの能力をどのように活用できるか観察し、考える。  └玖渚友を探し出す方法を具体的に考える。  3:一段落したら、世界の端を確認しに行く? もう今更どうでもいい?  ※  映画館のスクリーンに、すでに消失したエリアが黒く塗りつぶされた《地図》が映っています。  ※  学校の校庭に白線で引かれた謎の幾何学模様@涼宮ハルヒの憂鬱(笹の葉ラプソディ)が存在します。 投下順に読む |前:[[オルタナティブ]]|次:[[街角にて ― Alternative ―]]| 時系列順に読む |前:[[オルタナティブ]]|次:[[街角にて ― Alternative ―]]| |前:[[死者・蘇生(使者・粗製)]]|涼宮ハルヒ|次:[[ ]]| |前:[[死者・蘇生(使者・粗製)]]|いーちゃん|次:[[ ]]| ----
**Understanding――(離界シアター) ◆EchanS1zhg  【零】 『理解なんてものは、おおむね願望に基づくもんだ』  【序】 少し窮屈なシートに深々と身体を預け、少し息を吸ってそして静かに吐くの繰り返し。 室内の照明は落とされており、光源はスクリーン……に反射する映写機からのものが唯一。 その光は当然のうように意味合いを持ち、ぼくは、それと隣の彼女も、それをじっくりと鑑賞している。 まるで日常の世界から切り離されたかと錯覚するような、居心地がよく、また安心ならない不思議な空間。 逆に、スクリーンを隔てた向こう側には、ここから切り離された世界の姿が映し出されている。 離れた世界同士の境界。映し出す密やかなる暗闇の箱。密室の中の劇場。 離界シアター。 ありていに言えば、ぼくこと戯言遣いと、現状においてはぼくの主たるハルヒちゃんは映画館の中にいた。 時計を確認すればあと半時ほどで二回目の放送の時間がやってくる。 そして、その時間までをぼくと彼女はこの映画館の中で目の前に映し出されている”これ”を見て過ごすと決めた。 ただそれだけ。 そう、ここでもう切ってしまってもいいのだけれども、それはいささか不親切にすぎると思うので(誰にとって?)、 ぼく自身も整理よく物事を考えたいところだし順を追って起承転結折り目正しく振り返ることにしようじゃないかと思う。 では、はじまりはじまり――……。  【起】 一悶着……などと一言で片付けてしまっていいものだろうか。 事件あるいは実験。ともかくとして最初の放送の後に起きたアレを後にぼくはサイドカー付のバイクを走らせていた。 堀に沿って城内を東に。 あらかじめ下見は済ませておいたから滞りなく進むことができ、そしてなんらトラブルもなく橋を渡ることができた。 ここでひとつ忘れていたことを思い出す。正しくは忘れていたというよりも吹っ飛んでいたことだろうか。 ぼくの記憶力の悪さについて語るのはまた先に置いとくとして、思い出したのは先ほどこの橋を渡っていた者達のことだ。 そもそもとして、どうして移動を開始したかというとそれは誰かと接触する為にほかならない。 ハルヒちゃんに言われるまでもなく、最初からぼくだって、そして誰だってそう考えてこの世界の端を右往左往しているのだろう。 橋に差し掛かったところでぼくは下見の時に見かけた二人組のことをはっと思い出した。 片方は金髪の男。もう片方は修道服を着た女。彼と彼女はここを、何かから逃げるように走り去っていった。 追うべきか否か、これをハルヒちゃんに進言するか否か、それを思考する。 ハルヒちゃんは徒党を組んでいる者達を探そうと言った。 たったの二人が徒党と言うのかどうかは微妙なところだけど、しかし情報を得られるというのなら接触を考えないこともないだろう。 けど。 ぼくはそのことをサイドカーの中に納まっている彼女には伝えなかったし、あの二人を追おうともしなかった。 第一に、あの二人はハルヒちゃんの言うSOS団団員ではありえない。 聞いている風貌とは全く一致しないし、変装癖があるとも聞いていない。ならば重要度は僅かながらに下がる。 第二に、彼と彼女は誰かに追われている風にも見えた。つまりトラブルを抱えているわけだ。 おそらくはホールで起きた何かによるものだろう。なので、君子危うきに近寄らずとぼくは主張することにする。 そして第三に、……というか、これがそもそも根本的な問題なのだけれども、あの二人がどこに行ったのかわからない。 都合よく足跡が残っているわけでもないし、追うとなれば相当に頭を振り回すことになるだろう。 ここでバイクを止めてハルヒちゃんと喧々諤々などというのはさすがに遠慮したい。つまり、これが本音。 縁があったらどこかで行き逢うだろう。そう(勝手に)決めて、ぼくは橋を渡りきった。 城の敷地内から出て、道なりに西に、そして南に。 持たされた地図は簡易なものだったけれども、おかげで逆に道に悩むこともなくすいすいと進むことができた。 市街は城に入る前も通ってきたのだけど、やはり夜中と日が明けた後ではまったくその印象が異なっている。 暗闇の中に沈む建物の影や、夜空に浮かび上がる建物のシルエットなんてのはまったくの背景でしかなかったけど、 白光の中に姿を現したそれらは風景としての自己主張を始め、イメージと雰囲気を見るものに喚起させていた。 通りの両端に見える商店街。 庶民的な蕎麦処。銀色が眩しい金物屋。塗装の剥げたガードレール。雨だれの後がはっきり見える吊り看板。 並んだ店舗の内の二割ほどはシャッターを下ろしたままで、一言で言えばうらびれたとそういう雰囲気。 そんなイメージの中をゆっくりとバイクで過ぎ去り、ほどなくしてぼくらはそこに辿りついた。 大通りが丁字に別れるその北東角。赤煉瓦で組まれた古めかしい五階建てほどのビル。 正面にはガラス戸の分厚い扉だけがあって、その直上には映画のタイトルを書いた大きな看板。 看板のタッチも劇画のそれで、決してプリントされた写真を貼っただけなんてものではない。 上品でもなく優雅でもなく、古過ぎもせずただのレトロ。所謂昭和の香り。そんな映画館がそこにあった。  【承】 映画館の中の姿は、外観の印象から想像できるものとほとんど変わらなかった。 自動ドアではないガラス戸を押して入ると、そこはすぐに、一応はそれといった風の狭いロビーになっていた。 長く踏み続けられたせいか、くすんだ赤色をしている絨毯が床に敷かれており、入り口の脇には申し訳程度のカウンターがある。 輪ゴムで束ねられた入場券に、お金を入れておく為の小さな金庫。そして切られた半券を捨てるためのゴミ箱。 こじんまりとしていて、いい意味で薄汚く、決して昭和の日本に思い入れなんかないのに何故かノスタルジーを感じてしまう。 世界の端や生き残る為の殺人なんてものからは程遠い、どこか安心できる空間がここにあった。 「わっ! なにこれ……?」 当然のように入場券を出すことなくカウンターの先へと進んでいたハルヒちゃんが、そこで驚いた声をあげた。 それは独り言だけど自問ではなく、ぼくにここまで来いというアピールなのだろう。 ここで無意味な反骨精神を燃え上がらせるほどぼくも体力に余裕があるわけではないので、意図を汲むことにする。 「ハーゲンダッツだね。しかもストロベリー味」 「そりゃ見ればわかるわよ」 これも一応売店風といった台の裏側。そこにある小さな冷蔵庫の中をハルヒちゃんは覗き込んでいた。 中々以上に好奇心旺盛で無遠慮な彼女の視線の先――つまり冷蔵庫の中なのだけど、そこにはそれがぎっしりと詰まっていた。 発言した通りに、ハーゲンダッツのストロベリー味ばかりが、ぎっしりと、みっしりと、印象を加えればずっしりと。 「館主さんが好きなんじゃないかな?」 「……まぁ、それが常識的な解答よね。それでもちょっと不思議だけど」 言って、ハルヒちゃんはハーゲンダッツをひとつ手に取り、ベリベリと蓋をはがした。本当に無遠慮な子だと思う。 まぁ、緊急事態におけるモラルやマナーの扱いなんてのはともかくとして、やはりというかなんというか、それはただのアイスだった。 「いーもひとつ食べる?」 「うんにゃ、ぼくはハーゲンダッツは抹茶味しか食べないって決めているんだ」 勿論大嘘だけど。 もしこれがトラップならなにも二人一緒に踏むことはないと、ただの杞憂でしかない警戒心からくる発言だった。 この後、ハルヒちゃんが無事だというなら、ぼくも前言を撤回して頂くことにしよう。 「あたし、こっちを見てくるからいーはここで待ってなさい」 ハーゲンダッツをぺろりとたいらげたハルヒちゃんはそんなことを言って狭い通路の先へと行ってしまった。 こんな状況でどうしてぼくは彼女の単独行動を許したのか。それは少し頭を上げてみれば簡単に解る。 『WC』――アイスを食べて身体が冷えたからなのかそれともずっと我慢していたからなのかどうか知らないけど、 ここでぼくも一緒に行きますとは言えない。言えば、戯言遣いは変態野郎の謗りを免れることができなくなってしまう。 「さてと……」 そう声に出して、広くはないロビーの中をぐるりと一周してみることにする。 ハーゲンダッツをひとつ取り出し、それを食べながら歩いてみるが、別にここで何かが見つかるとも思ってやしない。 見渡せば一瞥ですむだけのスペースだ。 大扉を開ければ上映室に入れるが、ぼくが一番乗りをしたと知れば彼女は気分を悪くするだろう。 なので、ただつらつら漫ろに、ぼくはこのロビーの中だけを暇潰し半分に見て周ることにする。 「”空(そら)の境界”……あ、違うや。”空(から)の境界”なのか」 壁に貼られた一枚のポスターを見て、随分とひねたタイトルだなと思った。 しかしながら、同じ一字なのに読み方ひとつでこうも印象が変わるとなると、なかなか秀逸なものだとも言えるんじゃないか。 いやまぁ、それはさておき、このポスターはこんなうらびれた映画館の中では場違いなほどに奇麗なものだった。 別にそこに描かれているものがではない。単純に張られて間もないものなのだと、そうわかっただけだ。 つまり上映が始まって間もないということ。なのでここから、この映画館は最近新しい映画を仕入れたことが推察できる。 「立地条件も悪くないし、見た目に反して案外繁盛しているのかもね」 だからといって、これがぼくやこの状況に対して意味のあることかと言うと、それは全くないと断言できたが。 しかし、普段から頭の回転数を維持しておくのは悪くないことだろう。こういった状況でもある訳だし。 「”病気の国”……、”天壌を翔る者たち”……」 並んで張り出されている他のポスターも見てゆく。こちらはどうやら少し古いらしかった。 片方には近代都市の昼間の風景が、もう片方には夜間の風景が描かれている。 タイトルから察するに、前者は社会派ドキュメンタリーで、後者は痛快アクション娯楽の類だろうか。 こんな風に言うってことは、つまりこれまでの三つの映画に対しぼくは心当たりがなかったということだ。 もっとも、映画通でもなんでもないので、だから不自然とか、別世界のとかなんて軽々とは口にできないけれども。 「これは、なんだ……?」 そして四枚目のポスターを見て、思わずそんな言葉を口から零してしまった。 何もない。ただの真っ黒なポスターで、真ん中に白抜きで――『消失』――とだけ書かれている。 他には何も書かれていないので、これじゃあ本当に映画のポスターなのかも判別がつかない。 四本目の映画がないから空白の変わりにこんなポスターを貼っているとも思えるが、しかしそれすらも謎だ。 「”消失”か……ミステリじゃ定番だけどね」 まぁ、これも現状には関係しないのだろう。そう思って、ぼくはただその前を通り過ぎる。 ぐるり一周。たったハーゲンダッツ一個食べる時間のうちに狭いロビーの探索は終わってしまった。 空(から)になったアイスの容器をゴミ箱に捨てて、もう数分。 少し帰って来るのが遅いなと思い始めた頃になってようやくハルヒちゃんはなんともない顔で戻ってきて、 そしてようやくぼくたちは重い扉を押し開けて上映室の中へとその身を滑り込ませた。  【転】 扉を潜ってみれば、そこから見て右側すぐにスクリーンがあり、左側に階段状に並んだシートの列があった。 シートの数は100席弱と言ったところか。 外観の印象通りここもこじんまりとしたもので、スクリーンにしても映画館としては大きいとは言えないサイズだ。 「なにもやってないし、誰もいないわね……」 そして、そのスクリーンには何も映し出されていなかった。 この世界の端とやらが無人である以上、従業員やなんかがいるわけもなく、 またその代わりを果たそうという酔狂な人物もいるはずがない。 加えるに、上映していない映画館に人が留まるわけもなく、あらゆる意味でここが無人なのは当然のことだった。 「まぁ、しかたないんじゃない」 そんな言葉で以上の推論を曖昧に提示してみる。 不満顔のハルヒちゃんも、それは当然のことだと元々わかっていたのだろう。 まぁね。と返すと、ずかずかとシートが並んだほうへと進んで行き、真ん中当たりで席についた。 「当てははずれたわけだけど、次はどうするんだい?」 「今から考えるのよ」 ハルヒちゃんの隣に腰掛けるとなるほどいい席だというのがわかる。 横軸縦軸どちらで見てもど真ん中。 しかもすぐ前が通路になっていて幅がある為、前の席にだれか座っていても頭の動きが気になるようなこともない。 多少行儀が悪いが、これだけスペースがあれば足を伸ばすことも可能だ。 スクリーンからも遠からず近からず、ちょうど視界内に収まる感じで、まさにベストポジションと言えた。 しかしそんな上等な席についても、スクリーンが真白なままでは無意味どころがむしろ有害とも言えた。 ただゆっくり座りたいだけならなにもこんな窮屈なシートよりも、ロビーに出てソファにでも腰かければいい。 何より、真白なスクリーンは映画の待ち時間を連想させてどうにも気分がよくない。 待つことに苦痛を感じる性質ではないけど、こんな心理実験みたいな環境は好ましくなかった。 「すぐ戻るからここで待ってなさい。絶対に動いちゃだめよ」 彼女もそう感じたのか、ぼくにそんなことを言うとまたしても一人でどこかへ行ってしまった。 とは言っても、今回もまた彼女の行く先は簡単に推測できる。 映画館で映画が上映がされてないとしたら普通の人間はどうするか。それは先にも述べたとおり立ち去るのみだろう。 しかし、それは普通の人間の場合の話。ハルヒちゃんのような酔狂な人間だと――、 「鳴かぬなら、鳴かせてしまえ、ホトトギス……か」 そうするのであろう。上映されてないなら、自分で上映してしまえばいいということだ。 おそらくはさっきトイレに行った時に、その奥にあるであろう従業員以外立ち入り禁止の区域も確認していたのだろう。 故に帰って来るのが遅れた。別にハーゲンダッツがお腹に当たったとかそういうわけじゃなかったってことだ。 ではどうしてぼくに動くなと言ったのか。 それは多分、彼女は”映写室からだと上映室内の、そしてスクリーンの様子が見えない”と勘違いしているに違いない。 実際にはそうでないのだけど、ともかくとして彼女はぼくにこれから始まる映画を見過ごさないよう任せたのだ。 ここから考えるに、彼女はここで上映される映画に”意味”がありえると、多少ながらも考えているらしい。 「手当たり次第、動かせばなにかヒントが出てくるなんてご都合……ゲームでもあるまいし」 あるわけがない。とは思うのだが、しかしなにせ世界の神たるハルヒちゃんのことである。 彼女が”ここにヒントがあるといいな”と思えば、それぐらいの可能性は実現させてしまう可能性はなくもない。 むしろ、この程度だからこそ実現の可能性は高いのかもしれないとも言える。 彼女はああ見えて、心の中に常識というものを強く持っている。 故に、荒唐無稽な現象を起こさせるには四苦八苦するであろう訳で、逆にこの程度なら容易に実現するかもしれない。 現実の改変が、ハルヒちゃんが思いこむことで実現するというのならば。 こんなにも雰囲気があり、そうと思えば意味深に取れるこの映画館。 地図上の施設として当たりをつけて来たのに空振りに終わった歯がゆさと納得のいかなさ。 そして、彼女自身が自分のひらめきに対し、期待して、もしかすればと思い、その実強くそうであって欲しいと願っている。 もしそうならば。 「こんなことが実現するのかもしれない」 考えているうちに室内の明かりは全て落ちていた。それでも手元が見えるのは目の前のスクリーンが光源になっているからだ。 では、そこに何が映っているのか。 映写機のスイッチを入れたのはハルヒちゃんに違いない。 では、”これ”が彼女の願望の現われなのだろうか、それはしかし今は判別がつかない。おそらく、この先も不確定だろう。 「これは……」 映画を映すはずのスクリーンには、なぜか《地図》が映し出されていた。 ぼくたちに配られたあの地図とそう大差はない。升目の区切りや、印の置かれた施設なんかも全くの一緒だ。 強いて違いをあげるとするなら、道や建物なんかがきっちりと細かく書かれている程度にすぎない。 これが、ハルヒちゃんの願望が齎した結果なのか、人類最悪の仕込みなのか、また別のものなのかはわからない。 だがしかし、しばらくこれを見続けている必要があるだろうとその時すぐにぼくは気がついた。 《地図》というものは本来静止画だ。実際、目の前に映し出されている《地図》にしてもそれは一見変わりはしない。 そうなのだけれども。 「黒く塗りつぶされているのはすでに消失したエリアか……」 そう。地図上の『A-1』から『A-5』までの升目が真っ黒に塗りつぶされていた。 一見なんでもないようなことに思えるが、しかしこれは実におかしい。 もし、この映像が静止画でしかないとするのならば、 5つまでエリアが消失した段階で、ちょうどぼくたちがこれを見つけるというのは、あまりにもタイミングがよすぎる。 逆に、今このタイミング以外で見つけたとするならば、あまりにも無意味がすぎる。 もし、この映像が動画だとしたらどうか。エリアが消失する時間はもとより決まっていたのだ。 ならば、あらかじめ2時間ごとに升目が塗りつぶされてゆく72時間分の映像を用意しておけばいい。 72時間というと映画としては異常で、フィルムが足りないと思われるかもしれないが、なにもフィルムである必要もない。 今時、ハードディスクなどの記憶媒体から映画を上映するところも珍しくはないのだ。 しかし、この推論はやはり今というタイミングだからこそ否定されてしまう。 これが動画だった場合。再生が開始されたのは”たった今”なのだ。 ならば、今映っている《地図》はこの世界の始まったばかりと同じく、エリア消失は起こってないはずとなるはず。 「そもそも一連のフィルムじゃない可能性もあるけれど」 少なくとも、この《地図》はリアルタイムで更新されてゆくと”想像”するべき代物だ。 変化がエリア消失だけだとするならば、ぼくたちにとって意味合いは薄いけど、しかし捨て置くこともできない。 これに意味があると”期待”するならば、次に変化が起きるであろう12時まではこれを観察しないといけないのだ。 「アイスなんて食べているんじゃなかったな」 腕時計を見て、失敗を自覚する。現在の時刻は10時よりほんの少しだけ過ぎた頃だ。 つまり、そのほんの少しだけ先にこれを発見していれば、生まれたばかりの”疑問”はすぐに解決できていたのである。 「まぁ……いいか」 事態の開始より10時間。そろそろ一度休息を取るような頃合だ。  【結】 「休憩……?」 「そう。時には足を休め、次に動く時のための力を蓄えることも重要だよ。長丁場だしね」 「あんたがそんなに働いていたとは思えないけど」 「SOS団は構成員に対して、その権利を認めることと、団員の体調を維持するために努める義務があると思う」 嫌なこと言う時だけは饒舌になるのね。って、確かにそれが傍から見たぼくの印象かも知れない。 自覚もあるけれども、しかし再確認すると本当にぼくって嫌なやつみたいだな。 しかも、それを反射的に否定できないところがまたなんともなところだ。 さておき。 ぼくはハルヒちゃんを説得することに成功し、二人して次の放送がかかる時間までここで休憩しようということになった。 彼女としても、理由を聞けば自分が映し出したこの《地図》が気になるらしく、そうと決まれば堂々としたものだ。 今は、ポップコーン片手に炭酸飲料と、映画鑑賞するにあたっての正統(?)な装備でスクリーンを睨みつけている。 「しかし、なんでわざわざいくつかの建物だけを地図に記しているのかしら?」 鑑賞中の映画(?)には動きも音声もない。とくれば、こういう風に考察じみた会話を始めることになる。 「君が言っただろう? 拠点にするって。  最終的には狭くなるとしても、やっぱりこの世界の端とやらは60人ほどで使うには広すぎるよ。  だからこそ、当てを作る為にわざわざ印を打っているんじゃないかな。実際、ぼくたちはそう動いているわけだしね」 まずまずの模範解答かと思ったが、隣から聞こえてきたのは大きな溜息だった。 「言ったんだから、そんなことはわかっているわよ。そんなの当たり前の前提でしょう。  得意満面に語るのはいいけどね、あんたの脳みそなんてこっちのが遥かに凌駕してるんだからもう少し考えなさい」 なんとも手厳しい。 つまりはもっと根本的なところをハルヒちゃんは問題としていたのか。 ぼくたちは思考の取っ掛かりや、移動するにあたっての目的として地図上の施設を活用しているわけだけど、 そういった実用のされ方ではなく、この舞台を作り上げた者が持つこれらの施設をセレクトした意図というものを。 「あんたも考えたらわかるんだから、できるところで手を抜くのはやめなさいよね。  余裕ぶって失敗なんてね。いっ……ちばん後で後悔するんだから。  いつでも全力出して、未来の自分に胸を張れるように生きるのが理想ってものよ」 これも彼女の神としての力か、はたまた洞察力の賜物か、または偶然か、なんにせよ痛いところを突いてくる。 今すぐにでも彼女の足元にひれ伏して謝り倒したいぐらいだ。 勿論、そんなことは思うだけだけど、しかしこの流れはよくない。話題を進めていかないとどうにかなってしまいそうだ。 「そう言えば、ハルヒちゃんはどこの建物からスタートしたんだい?」 「どこって……えーと、この地図だと『D-3』の中にある三叉路のあたりかしらね。  それで、そこらへん見て周って、あの声を聞いて近づいてみようかなって思ったところであんたに行き会ったのよ」 おや? なんということだろう。今の今になって、どうやらぼくは根本的な勘違いをしていたらしいと気づいた。 いや、この時点で気づけたのは僥倖なのか。なんにせよ、動き出す前に気づけてよかった。 ”登場人物はみんな地図上に記された施設からスタートしている”なんて勘違い、引きずったら大変なことになるところだ。 「……どうしたのよ?」 「あぁ、いや別に……なんでもないよ」 正直に話すとまた馬鹿にされそうだったので、そしらぬ顔で誤魔化してみた(つもり)。 しかし、そうか……そうでない人もいるってことか。 学校の屋上ですぐに古泉くんと会ったから、てっきりみんなそうなのかと勘違いしてしまっていた。 ホールにだって人が集まっていたみたいだし……なんにせよ自分で決めた前提条件ってのは常に疑うべきだと再認識。 「で、いーはどこからスタートしたの?」 「『E-2』にある学校からだよ。夜の学校だなんて長居したい場所でもないので早々に立ち去ったけどね」 あぁ、けど、これは大変困ったことになった。じゃあどうやって友のやつを探し出せばいいんだ? 断言できるひとつの事柄は、あいつは絶対にスタート地点から移動しないだろうってこと。 だから、施設を巡っていけばいつかは行き当たるとそう楽観していたんだ。 なのにそうじゃないパターンもあるだなんて……これは、真剣に、困った。当て所ないってレヴェルの話じゃない。 そこらの民家やビルの中にいるとするなら、それこそ一軒一軒見て周らねばならないわけで……、 これは改めてあいつを探す方法ってのをしっかりと考えないといけないという話だ。 「学校ねぇ……そういえば、地図には”学校”としか書いてないけど高校だった小学校だった?  それと少しでもなにか変わったものは見かけなかった? こういうヒントっぽいやつ」 「ヒントっぽいものか。確かに、ここにあるなら他のところにもあるんだろうって考えるのが自然なんだろうけど、  けど学校と一口に言っても随分と広かったからなぁ。それにせいぜい屋上から校庭を見下ろしたぐらい……で、と?」 言われてみれば、もしかして”あれ”が”そう”なのかというものが脳裏に浮かんだ。 全くもって奇麗さっぱりに意識してなかったというか、状況が状況だし、普通ならやはり見過ごすだけなのだろうけど、 しかしそう言われて意識してみれば確かにそれっぽいものをぼくは”学校の屋上から見つけていた”。 「なによ? どんな些細な情報でもきりきり白状しなさい」 「うん。屋上から見たよ。  あれは……なんて言うのかな。例えるならミステリーサークル……?  文字か図形なのかはよくわからなかったけど、そういうものが白線で校庭にでかでかと書かれているのは”見た”」 一見すれば、誰かの悪戯か、それとも何か行事の後かとそう思える”白線の模様”が校庭に書かれていた。 ナスカの地上絵のように、まるで空(そら)から見下ろすことを前提としたようなあれは一体本当は何なのか。 ”校庭に立った状態じゃ大きすぎて認識できなかった”ろうし、暗い中じゃあはっきりと記憶することもできなかったけど、 ”日が昇って明るい今ならもう一度屋上まで行けばはっきりと認識することができるに違いない”。 「ふーん……それは一見の価値ありっぽいわね。  それに学校って言ったらみんな馴染み深いし、そこを拠点にするってのもありえる話だわ」 「じゃあ、この次は学校に?」 「日が暮れるまでには行きたいけど、間に温泉があるしそっちにも寄って行こうかしらね。  お湯に浸かれる機会があるならそうしたいし、こっちもこっちで拠点向きだもの」 「温泉に行って、次は学校か……まぁ、順当だね」 温泉か。温泉ね。ふむ。いや、別に何かを期待するってわけじゃないけど。少し思いついたことがあった。 「さっきの地図上の建物の件なんだけれどもね……おすすめの”デートスポット”というのはどうだい?」 ……すごく睨まれました。  【終】 ――とまぁ、以上の過程を経てぼくたちは現状へと至った。 スクリーンに映し出された《地図》を見ながら、ただじっと身体を休めているだけ。 話し合うようなネタにしても早々に尽きたし、何より一度脱力してみればどれだけ疲労していたのかも実感できた。 なので、眠らない程度に意識を覚醒させたままシートに身体を預け、僅かばかりの休息をとっている。 時折、飲み物で乾いた口の中を潤しながら考えるのはやはりこの後についてのことだ。 どうにも違和感が拭えない。 この生き残りという事態が始まった時、この先に展開される物語は血みどろのそれだろうとぼくは考えていた。 しかし現状はそうではない。 死人が実際に出ている以上、どこかで血みどろの物語は展開されているのだろうけど、しかし”ぼく”の前にそれはない。 朧ちゃんにしたって死にはしたけど、あれは断じて殺しあったり生き残りあった結果ではないのだ。 ハルヒちゃんがいるからこそ、なのかもしれないけど、どうにも流れという”タスク”をかけられている気がしてしまう。 この後も、ずっと血みどろに遭うことがなかったとしたらぼくはどこに到達するというのか。 これが何者かの意図したことだと言うのならば、ぼくは……いや、ハルヒちゃんは一体どういう登場人物なのか。 「戯言なのか……」 意味を深く取りすぎているのかもしれない。今はこんなことを考えてもしかたないだろう。 とりあえずはハルヒちゃんから目を離さないこと。その上で友やSOS団の仲間とやらを探すことにしよう。 今は、それだけ。それ以上はその時になったらまた考えればいい。 では、映画館にちなんだ知識をひとつ披露して、この話を締めるとしよう。 映画史上、初めて音声として放たれた台詞はこんなものだったらしい。 ――『お楽しみはこれからだ』 ”これ”が誰にとっての物語なのかはぼくには見当もつかないけれど、多分、誰にとってもこれはそうな言えるとぼくは思う。 戯言だけどね。 【E-4/映画館/一日目・昼】 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康 [装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖 [道具]:デイパック、基本支給品 [思考・状況]  基本:この世界よりの生還。  0:12時に映し出された《地図》が変化するか確認し、これの機能を把握する。  1:次に温泉へと向かい、その次に学校へと向かって校庭に書かれた模様を確認する。  2:放送で示唆された『徒党を組んでいる連中』を探し、合流する。  3:↑の為に、地図にのっている施設を回ってみる。 【いーちゃん@戯言シリーズ】 [状態]:健康 [装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、クロスボウ@現実 [道具]:デイパック×2、基本支給品×2、22LR弾x20発、クロスボウの矢x20本、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ [思考・状況]  基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?  0:12時に映し出された《地図》が変化するか確認し、これの機能を把握する。  1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。  2:↑の中で、いくつかの事柄を考え方針を定める。  ├涼宮ハルヒの能力をどのように活用できるか観察し、考える。  └玖渚友を探し出す方法を具体的に考える。  3:一段落したら、世界の端を確認しに行く? もう今更どうでもいい?  ※  映画館のスクリーンに、すでに消失したエリアが黒く塗りつぶされた《地図》が映っています。  ※  学校の校庭に白線で引かれた謎の幾何学模様@涼宮ハルヒの憂鬱(笹の葉ラプソディ)が存在します。 投下順に読む |前:[[オルタナティブ]]|次:[[街角にて ― Alternative ―]]| 時系列順に読む |前:[[オルタナティブ]]|次:[[街角にて ― Alternative ―]]| |前:[[死者・蘇生(使者・粗製)]]|涼宮ハルヒ|次:[[零崎人識の人間関係]]| |前:[[死者・蘇生(使者・粗製)]]|いーちゃん|次:[[零崎人識の人間関係]]| ----

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