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「ピラニア2」(2006/09/17 (日) 13:20:55) の最新版変更点
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*ピラニア by 691さん
**2
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ジャケットのがさつく布地越しに、上田さんの体温が伝わる。
頬にはニットのちくちくした感触。
私は無言のまま、上田さんに抱きついたまま動かずにいた。
薬のせいなのか、それとも心のそこで望んでいたことだからなのか、
途方もなく気持ちがよかった。
彼からのいらえはない。
悟られないように、心の中でため息をついた。
あの島で、上田さんに伝えた精一杯の言葉を思い出す。
ベストを尽くせていないのは私のほうだ。
情けない。
この身体と身体の一部がでかいだけで何の役にも立たない朴念仁を相手にして、
こんなことで気持ちが伝わるなら、間違いなくとっくに伝わっているはずだ。
今だって、この唐変木は微動だにしない。
・・・自分から仕組んだ状況のはずなのに?
さすがに不審に思って、頭を上げて顔を覗き込んだ。
----
「・・・うえだ、さん?」
上田さんは、目を閉じたまま動かない。
「おい上田、まさか気絶したのか?」
襟元をぐいと引いて、顔を近づける。
頬を叩いてやろうと手を添えて、
・・・と、瞬時に上田さんの右手が動いた。
「な・・・」
頭をがしっと掴まれたかと思ったら、もう片方の手が顎に添えられる。
というか、大きな手が頬ごと掴むように包みこんだ。
頭を掴む手が、わしわしと髪を撫でる。
「・・・そんなわけ、あるか」
「上田さん」
額同士が触れ合って、熱が伝わる。
きっと、私の熱も伝わってるはずだ。
----
「きっかけを作りたかったと言ったろう」
「・・・・・・」
無言で頷いた。
「情けないだろう、笑えよ。嫌なら突き飛ばしていい」
「・・・・・・」
今度は、無言で首を振った。
そして、すうっと息を吸うと、きっと上田を見上げた。
「・・・わた・・・私も!」
遠まわしな振る舞いなんかじゃ、
消え入りそうな声なんかじゃ、こいつには伝わらない。
もっと大きな声で、遠まわしな言葉なんかじゃなくて、
ちゃんとストレートに、その瞳を見据えながらはっきりと口に出して。
上田さんが驚いたように目を見開く。
今なら言える気がした。
「私も情けない。なんでたったひとことが言えないんだ。
こんな時じゃないと、こんなふうに一服盛られないと言えないんだって」
「・・・やま、だ」
----
私はいつの間にか、涙を流していた。
「いいぞ、笑えよ上田。私、お前が好きだ」
上田さんの口が『YOU』の『ゆ』の形を紡ぐ。
だけど何も言わせたくなくて、掌で口をふさいだ。
「こんな馬鹿なことされても許せるくらい好きなんだ!
・・・てか、ずっと、すき、だったんですよお・・・だからあ」
『お前も、ちゃんと言え!』って続けるつもりだった。
でも、続かなかった。
続けることができなかった。
私の押し当てた掌を払いのけた上田さんが、
涙に濡れて震える私の唇に、彼のそれを押し付けてきたから。
きっと酸いも甘いもかみ分けた他人が今の私たちを見たならば、
キスというには幼稚すぎる接触に微笑すらこぼしたに違いない。
それでもこれは私たちにとって、確かに意味を持ったくちづけだった。
----
唇をはなし、視線を交わし、また押し付ける。
その繰り返し。
途中から恥ずかしくなって、目を閉じた。
それでもキスはやまない。
「・・・YOU」
ようやく離れた唇が、私を呼ぶ。
ゆっくりと目を開けると、上田さんが今まで見たことないような顔でわらっていた。
「俺も、君が好きだ。
・・・ああ、やっと言えたな」
言葉と同時に、ぎゅうっときつく抱きしめられた。
私も抱き返す。
顔をうずめたジャケットから、上田さんの匂いがする。
涙が次々に溢れてくる。
しあわせで、眩暈がした。
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*ピラニア by 691さん
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ジャケットのがさつく布地越しに、上田さんの体温が伝わる。
頬にはニットのちくちくした感触。
私は無言のまま、上田さんに抱きついたまま動かずにいた。
薬のせいなのか、それとも心のそこで望んでいたことだからなのか、
途方もなく気持ちがよかった。
彼からのいらえはない。
悟られないように、心の中でため息をついた。
あの島で、上田さんに伝えた精一杯の言葉を思い出す。
ベストを尽くせていないのは私のほうだ。
情けない。
この身体と身体の一部がでかいだけで何の役にも立たない朴念仁を相手にして、
こんなことで気持ちが伝わるなら、間違いなくとっくに伝わっているはずだ。
今だって、この唐変木は微動だにしない。
・・・自分から仕組んだ状況のはずなのに?
さすがに不審に思って、頭を上げて顔を覗き込んだ。
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「・・・うえだ、さん?」
上田さんは、目を閉じたまま動かない。
「おい上田、まさか気絶したのか?」
襟元をぐいと引いて、顔を近づける。
頬を叩いてやろうと手を添えて、
・・・と、瞬時に上田さんの右手が動いた。
「な・・・」
頭をがしっと掴まれたかと思ったら、もう片方の手が顎に添えられる。
というか、大きな手が頬ごと掴むように包みこんだ。
頭を掴む手が、わしわしと髪を撫でる。
「・・・そんなわけ、あるか」
「上田さん」
額同士が触れ合って、熱が伝わる。
きっと、私の熱も伝わってるはずだ。
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「きっかけを作りたかったと言ったろう」
「・・・・・・」
無言で頷いた。
「情けないだろう、笑えよ。嫌なら突き飛ばしていい」
「・・・・・・」
今度は、無言で首を振った。
そして、すうっと息を吸うと、きっと上田を見上げた。
「・・・わた・・・私も!」
遠まわしな振る舞いなんかじゃ、
消え入りそうな声なんかじゃ、こいつには伝わらない。
もっと大きな声で、遠まわしな言葉なんかじゃなくて、
ちゃんとストレートに、その瞳を見据えながらはっきりと口に出して。
上田さんが驚いたように目を見開く。
今なら言える気がした。
「私も情けない。なんでたったひとことが言えないんだ。
こんな時じゃないと、こんなふうに一服盛られないと言えないんだって」
「・・・やま、だ」
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私はいつの間にか、涙を流していた。
「いいぞ、笑えよ上田。私、お前が好きだ」
上田さんの口が『YOU』の『ゆ』の形を紡ぐ。
だけど何も言わせたくなくて、掌で口をふさいだ。
「こんな馬鹿なことされても許せるくらい好きなんだ!
・・・てか、ずっと、すき、だったんですよお・・・だからあ」
『お前も、ちゃんと言え!』って続けるつもりだった。
でも、続かなかった。
続けることができなかった。
私の押し当てた掌を払いのけた上田さんが、
涙に濡れて震える私の唇に、彼のそれを押し付けてきたから。
きっと酸いも甘いもかみ分けた他人が今の私たちを見たならば、
キスというには幼稚すぎる接触に微笑すらこぼしたに違いない。
それでもこれは私たちにとって、確かに意味を持ったくちづけだった。
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唇をはなし、視線を交わし、また押し付ける。
その繰り返し。
途中から恥ずかしくなって、目を閉じた。
それでもキスはやまない。
「・・・YOU」
ようやく離れた唇が、私を呼ぶ。
ゆっくりと目を開けると、上田さんが今まで見たことないような顔でわらっていた。
「俺も、君が好きだ。
・・・ああ、やっと言えたな」
言葉と同時に、ぎゅうっときつく抱きしめられた。
私も抱き返す。
顔をうずめたジャケットから、上田さんの匂いがする。
涙が次々に溢れてくる。
しあわせで、眩暈がした。
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