『約束の味!ご愁傷様白石くん』:ID:ASc7a9350氏

やっほー俺は白石。
結論から言うと、俺クラスの女子に苛められてる。
もうね、あきら様なんか比じゃない。あきら様天使みたいにみえる。あきら様ちょっと我がままでうるさい子どもだと思ってしまえば全然
可愛い。
彼女たちには悪意がある。ニヤニヤ笑って俺のことを嘲笑する悪意。
はぁ!? セバスチャン? はぁ? 臭いって?
訳のわからないあだ名で呼ばれるわ、臭い言われるは、もうあきら様に苛められることで培ってきた俺のいじられ精神もこれにはドロップ
アウト寸前。
最近なんか大人しくしててもわざわざ寄ってきてからかってくる。
その筆頭は、柊つかさだ。
というか柊つかさが俺のこと苛めてくる。あの無邪気な笑顔の奥には魔女がぐるぐるかき回す鍋の底みたいな地獄が張り付いている。
いつからだろう。俺が柊つかさに苛められるようになったのは。
最近だ。至極最近。確か、そう。俺の誕生日が終わったころぐらいだったか。そういえば誕生日前日は最悪だった。風邪を引いて、熱をだ
していたのだが、親は学校の休みを許さず、俺は熱をだした体で無理矢理学校に通っていたんだ。結局、次の日は休んでしまったんだけど。
ま、そんなのはどうでもいい。
それじゃ、今日も一日が始まるぜ。
苛められる一日が。


「セバスチャン、今日は大丈夫?」
学校に登校してすぐさま柊つかさが話しかけてきた。こいつには俺の存在を感知する何かセンサーでもあるのかしらん。相変わらず人のこ
となんか傷つけなさそうな笑顔。少し寒気が……。
きょどりながらも返す。
「な、何がかな?」
「臭いだよ~(笑)」
うぜえ。でも俺ちょっと笑った。臭い大丈夫かって(笑)。知るか。
でもそんなこと言えない絶対言えない。へらへらご機嫌とるような笑いで、
「はあ、そっすね、すんません」
俺弱い。今の俺ならチワワと喧嘩しても余裕で負ける自身がある。そのぐらい俺の精神は消耗していた。
すると柊つかさは満足したみたいな顔でにっこり微笑むと、じゃあねばいにー☆と去っていった。一先ず安心。
だが、俺の本当の地獄は昼休みから始まる。これはほんの片鱗。
何のかって? 地獄だよ。

くすくす笑われてる。すごいくすくす笑われてる。にやにやした顔でこっち見たかと思うといきなりすごい勢いで噴出す。ぶほっ、とかい
う感じで。米粒噴出すなよ汚い。
俺は肩を窄めて教室の端でぼそぼそ昼飯を食べる。うめえ、チョココロネうめえ。
俺はコロネを齧りながらも、早く昼休みが去ってくれるのを待っていた。今日は笑われるだけですむかな。
と思ったらああ~なんてこったい。
柊つかさ率いる苛め軍団が近づいてきているじゃありませんか。数人で固まってその戦闘に柊つかさがいるの。お前何なんだよお前何だよ
お前なら戦争でも少佐としてやってけるよ。

「セバスチャン、コロネおいしい?」
柊つかさだ。後ろには数人の女子がくすくす笑ってる。その中で一番泉こなたがむかつく。こいつの笑みはどこか妖怪じみてて殴りたい。
俺は無視しようかどうか迷っていや、無視って死亡フラグだろ、と思い直し例の如く完全な愛想笑いで返した。
「うん、まあね」
俺の業務用スマイルに柊つかさは満足でない様子。てめえマクドナルドでも行ってろ。
すると、手に持っていたコロネをひょいっと掠め取られた。あ、と情けない声が口から漏れる。
「本当においしいのかな? こなちゃん、ちょっと食べてみてよ」
「えぇ、何で私が……むぐっ!」
柊つかさはそういうと、なんと泉の口の中にコロネを突っ込みやがった。あまりの予想がつかない展開に俺少し笑った。同時にちょっと泉
ざまあみろって思った。泉の顔うける。
「げほっ、げほっ!」
って泉ちょっと洒落にならないぐらい咳き込んでてそれすらも柊つかさ楽しそうに見てる。コロネは泉が咳き込むたびに床に落ちる。きた
なっ。俺もいつか柊つかさに殺されるかもしれない。
コロネは泉の口に押し込まれ、しかも吐き出され、無残にもとても食べれたものではなくなってしまった。コロネの気持ち考えたら死ぬほ
ど可哀そうだと思った。
「どう、こなちゃん。おいしい?」

「う、うん、おいしいよ…」
泉、涙目になりながらも必死の愛想笑い。俺と同じ愛想笑いだった。お前もか泉。ごめん笑っちゃって。
「おいしいって本当だったんだぁ!」
柊つかさがわざとらしそうに驚いて俺を見る。俺反射的にびくっ、て怯む。どうでもいいだろコロネが美味いかどうかなんて馬鹿だろこい
つ。何ていえる訳もなく俺無言で弱々しくにっこり。
「食べるものなくなっちゃったね~」
途端、柊つかさ満面の笑み。もう奴の背後にフラッシュが見えたぐらいだもの。
俺もへらへらしながら、
「いやぁ、また買ってくればいいから…」
とか言ってる。俺笑っちゃうぐらい弱い。
何故か、その瞬間柊つかさ無表情になった。満面の笑みは消失した。俺はその変わり身に小便漏らすかと思った。
「あっそう」
冷たい言葉を吐き捨てて、柊つかさは踵を返して去っていった。俺は胸を撫で下ろす。露骨なまでに撫で下ろす。
一体なんだったんだよ。
見ると、泉はまだ床に蹲って咳き込んでいた。俺、何を思ったか同情しちゃって。
「あの…大丈夫?」
と訊いた。泉驚いたように俺の顔を見上げて、
「べ、別にあんたに心配されたくないんだからっ」
何でツンデレなんだよ。


昼休みが終わってもまだ安心できない。放課後だ。
朝、昼、夕、と柊つかさはからんでくる。つまり今日は後一つ、夕を耐えれるだけとなった。ほっ。
「ねえセバスチャン」
ほら来た。予想通り過ぎる。例によって愛想笑いで何? と返事をする。
「明日はお昼買って済ますの?」
何か普通の話題だった。若干違和を覚えつつも返す。
「明日は母さんがお弁当を作ってくれると思うかな」
「さすばセバスチャン親のすね齧るねぇ」
ええ~……。
とまあそんな感じで、今日は終わった。

次の日、朝。まるで台本でも存在しているのか疑いたくなるぐらいいつもどおりに柊つかさが話しかけてきた。
「今日はママが作ってくれたお弁当なんだよね?」
「うん…」
「きめえ(笑)。お金は?」
「もってません」
「みすぼらしいね~」
「うん……」
今日の柊つかさはとみに嬉しそうにからんできた。そんなに俺を苛めるの楽しいのかこの野郎。


そんで早々と昼休み。今日はどっか別のところで昼飯を済まそうと思って、俺は教室を出ようとした。
しかし、それは柊つかさとその他に防がれる。
「どこ行くのよ~」
とか嫌な笑みを浮かべて言ってきたのは柊つかさの姉の柊かがみだ。俺この時点で泣きそう。意地悪な笑み。進路を塞がれて俺小動物の如
くおろおろ。
「セバスチャン、ちょっとお弁当見せてよ」
と、やっぱり屈託ない笑顔で言ってくるのは柊つかさだ。死亡フラグがびんびんに立っているのを感じる。これは拒否せんといかんね。
「ええっと、ちょっとそれは…」
「いいから見せなさい。それっ」
「あ!」
柊つかさに気をとられていると、その姉にお弁当を掠め取られてしまった。俺何か小学生時代思い出した。クラスに一人はこんな奴いた。
電光石火の速さで柊かがみは俺の弁当箱を開けた。俺そのとき少しぴくっ、とくる。だけど口から発するのは。

「あ、やめてよ」
のび太より弱いよ俺。
柊かがみ俺の弁当手にしながら、
「あ、おいしそう」
じゃあもう食って良いよそれだから俺のこと助けて。だけど何故か柊かがみに苛められるの悪くない。あのつりめな感じの顔とか興奮する。結婚してほしい。
俺の心の中の呟きが聞こえたのかは知らないが柊かがみ勝手に弁当ぱくぱく食べ始めた。俺本当にこんなことする奴いるんだなって不覚に
も感心してしまった。俺勿論止められる訳もなく、もうじっと目の前に餌をやられて「待て」をされてる犬みたいだった。でも柊かがみの
犬にならなりたいです。
「これでお弁当なくなっちゃったね~」
やっぱり心底嬉しそうな顔で、柊つかさは言った。俺は力なく笑って、「うん、そうだね…」としか言えなかった。お母さん、俺のために
お弁当作ってくれたのにな。でも存外おいしそうに柊かがみ様食べてくれてるからいいよね。俺もかがみ様に食べられたいです。
「えへへ~そうだよね~お弁当ないよね~」
何やら体をくねくねさせて、柊つかさは接近してきた。両手を後ろに組んで、きっと後ろにはナイフを持っているに違いない。俺の人生短
かったな。

しかし俺の死亡フラグをばっきり折るイベントがここで発生した。
「ちょ、ちょっと。お弁当ないなら、これ食べなさいよ!」
と、泉は可愛いキャラクターがプリントされた袋を、ずいっと俺の顔の目の前にやってきた。反射的に受け取るが、だから何でツンデレなんだよ。
どうやら中身はお弁当らしい。何が入ってるかは知らんが、形的に菓子パンとかではなさそうだ。もしかして手作りか? これなんてフラグだよ。
「お弁当箱、洗って返しなさいよね…」
本当に手作りらしい。弁当箱返すのめんどくさいなぁ。とはいえ俺突如起こったイベントに軽く混乱。顔とか赤くなってるかもしれん。い
つフラグ立てたんだろ俺。ツンデレなのが気になるが、まあとりあえず、
「あ、ありがとう…」
甘酸っぺえ。自分のことだけど甘酸っぺえ。
その瞬間だけは、柊つかさの恐怖を忘れられた気がした。何だろこの気持ち。
しかし背景に花とか浮かぶ雰囲気を吹き飛ばしたのは柊つかさの悪魔みたいな声。
「……おい、ちょっと来い。大丈夫、何もしないから」
「ひぃっ!え?何で懐にカッター忍ばせるの?ねえ何でカッター持ってくの?」
今日の昼休みは、柊つかさが泉をどこかへ引っ張っていって、終了した。このお弁当どうすりゃいいんだろう。食べて良いのかな。そんな
ことを思案して佇んでいると、
「ありがとうおいしかったわ」
かがみ様は綺麗に俺のお弁当を完食していた。げっぷまでしていて、少しいらっときた。このグロマン。


そして放課後。
「何で私がセバスチャンのこと苛めるかわかる?」
そんなことを聞いてくる柊つかさ。質問の意図を図りかねる。
「わからないよ」
「本当にわからないの?」
問い詰めるような、縋るような声色だった。一体、何が聞きたいのだろう。
「わからないって」
「……そう」
よくわからないが、柊つかさはそのとき、傷ついたような顔をしていた。
「じゃあさ、白石くん。明日は、お弁当も、チョココロネを買うお金も持ってこないで」
彼女が俺の名前を呼んだのは、ひどく久しぶりの気がした。どこかぎこちない笑顔で、まるで、懇願みたいに聞こえた。
「……いいよ、明日は、そうする」
俺は、例えば彼女がその言葉を、冷たい声色で命令してきていたとしたら、多分断っていた。だけど今は、何故か断れなかった。
最後に、絶対だよ、約束だよ、と笑って、柊つかさは小走りで去っていった。
俺は、一人残されて、何かを忘れているような気がしていた。その記憶は、名前で呼ばれたときに、脳内の片隅を引っ掻いた。
何だっけ。何か、どうでもいい会話を、ぼんやりとした頭で、誰かとしてたような。


次の日の朝は泉が一人で話しかけてきた。昨日のお弁当箱を返す。
「お、お、美味しかった?」
「さほど(笑)」
「うわああああんん!!」
柊つかさは、近寄ってこなかった。自分の席に座って、友人と一緒に談笑している。こうしてみると、まるで天使のように無垢な印象だ。
でも騙されないであいつ前世サタンだから。
友人と談笑する柊つかさの顔が、影を帯びてるように見えたのは気のせいか?

俺は授業中、昨日柊つかさに名前で呼ばれたときの、あの妙な感じを反芻していた。
多分、俺は何かを忘れている。
でもそれは、大したものではない、至極どうでもいいものにカテゴライズされる、何かだ。
……何だろう、と考えていて、思考は俺の誕生日前日まで遡った。
――そこで、例えば俺は、死亡フラグを、たてた、ような。

もういいだろ。
もういいだろ、って思ったね。
何が? もう、女子に苛められるなんて情けない生活に、耐えていくのがさ。
けど俺は、柊つかさを突っぱねるほど強い男じゃない。それに、柊つかさは多分悪い人間じゃない。だから、言えない。
きっと、彼女はひどく純粋で、ひどく無垢なんだ。それだから、俺みたいに、ちょっと面白い奴を見つけたら、ちょっかいをだしてしまう
のさ。
それはきっと苛めじゃない。儀式的な、ちょっとした遊び。気軽な暇つぶし。記憶の片隅に眠る思い出を、ちょっと思い出してみようかっ
てぐらいの軽い考え。
そう、柊つかさにとっては、ちょっとした約束を守るときみたいな


昼休み、職員室に行った。
「なんや白石。早退したいんかい」
黒井先生は少しだけ心配そうな顔で言った。俺は顔だけでわらって、はい、と答えた。
早退する理由は、適当で良い。今日学校から逃げてしまえば、もう終わるんだ。
俺は、結局、純粋な柊つかさを突っぱねることも、耐えていくこともできないから、逃げることを選択した。
だから、早退する理由は適当で良いんだ。だって今日、学校から去ってしまえば、もう、ね。
「ま、体調悪いんならしゃーないな。何か顔色も悪いしな。ええで、帰って」
頷いて、俺は職員室を出た。手には既に鞄を持っていたから、そのまま下駄箱に向かう。
廊下を歩きながら、考えていた。
ああ、そうだな。俺は柊つかさが好きだった。彼女のことが好きだった。
今、こんな状況になって始めて気づいた。
遅いか? でも、早かったら、どうにかなったのか?
どうにもならない。だって彼女は、俺の全く情けなく笑う顔が好きなんだろう。
ど~にもならないって。

昇降口を出たとき、未練がましく学校を振り返った。
さらば学び舎、と心の中で呟いて、くるりと踵を返す。今脳内で蛍の光が大合唱。卒業ではないがね。
その時だった。
「白石くん、どこ行くの」
背後から刺さるように聞こえてきたのは、柊つかさだった。後ろを振り返って見ると、何か奴は泣いてた。
「また約束破るの……?」
消え入りそうな声だった。か細い声は、吹いてきた風にかき消されてしまった。
またって、何が?
俺は何も言えないでただ屹立していた。柊つかさはまた、風と一緒に言葉を紡いだ。
「白石くん、また約束破るんだ!」
刹那だった。俺の頬を、柔らかい手が張り飛ばした。結構な音が響いて、ひりひりとした痛みが頬に残った。
俺、ちょっとここで怒ったね。だって、大分痛かったんだぜ。
「な、何すんだよ! 約束って、なんの……」
顔を赤らめて顔を伏せる柊つかさが目の前にいた。その彼女の姿を見て、俺は記憶の片隅が、呼び起こされた。
その時は、涙で顔を赤くさせていた訳じゃ、なかったが。
「いい!? 言うよ!?」
ちょっと洒落にならないぐらいの怒号が、閑散とした昇降口に響いた。
「私が白石くんのこと苛めるのは、約束だからだよっ!」

――ああ、そうだった。
確かに、そんなことを、俺は約束していた。あの日、俺の誕生日前日に。
「……俺の、誕生日に」
「白石くんのお誕生日に、私お弁当作ってあげるねって言ったじゃない! 食べてくれなかったら、苛めちゃうからね、約束だからねって……」
そうか、そうだ。俺は誕生日前日、熱がでて上手く回らない思考で、柊つかさの話を聞いていた。俺は机に突っ伏しながら、誰と話してい
るのかも曖昧に、ただ相槌を打っていた。そして次の日、俺の誕生日、俺は学校を休んだんだ。
柊つかさとの約束を、破ったんだ。
だから彼女は、俺との約束を、守ろうとしていたんだ。
『食べてくれなかったら、苛めるよ。約束だよ』
全てに気づいて、俺はふっ、と苦笑してしまった。何だ。そんなことだったのか。そんな、他愛のないことだったのか。
ああ、やっぱり彼女は、ひどく純粋で……。

夕焼けだった。昼飯を食うには、遅すぎる時間だった。だけど、はらぺこだ。何しろ、まだ昼飯を食べていない。
だって今日は、弁当も、チョココロネを買う金も持ってきていないのだから。
俺は食べる前に、ちょっと聞いてみた。
「俺のこと、もう苛めないよね?」
すると彼女は、すんごい楽しそうに笑って、こう言った。
「好きな人にわざと意地悪する子って、女の子にもいるんだよ?」
なんてこったい。
でもまあ、とりあえず。
いただきます。

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最終更新:2007年07月24日 16:37
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