■ メイデンボウル -佐藤優樹- ■
「きれーい」
佐藤優樹は、その少女の寝顔に見惚れていた。
白い、長楕円筒形の、カプセル。
「きんぎょばちみたーい」
形状からして金魚鉢とは違うと思うが、そのカプセルの上に腹ばいにはりつき、その中をまじまじと凝視している。
「かわいー」
振動。
カプセルの中は少し粘性のある透明な液体に満たされている。
その質感を、佐藤優樹は正確に『体感』する。
「とろとろのなかでもへーきなのー?」
返事は無い。
美しい、その幼い少女は、涼やかな表情のまま、眠り続けている。
「おしゃかなしゃんみたーい」
ぺちぺち、ぺちぺち。
「ほしーなー、これ」
手の平と、脛の内側からふくらはぎ、で、カプセルをぺちぺち、とたたいてみる。
「まーちゃんの、おーしゃかーなしゃん」
――――
「問題発生。
ターゲット確保、および目撃者の処理完了。
ただし対象車両横転。
"対能力者"拘束シェル搬出不能。
指示願います。」
『んもー、なにやってんのー、気合いで乗せ替えられないの?、今からどうやって……いいわ、そこで待機、
誰も近づけさせないで。手段は問いません。なにがあってもターゲットを死守なさい。』
「了解しました。」
――――
一体、なにが起こった?
「まーちゃん、悪くないよ!、なにー?って聞いただけなのに、ばーんってするからぁ!」
部下たちが倒れている。
その中心に、一人の、少女。
「能力者!もう追手が嗅ぎつけたのか!撃て!絶対に死守せよ!」
――――
発振、振動、伝達、
反射、伝達、受信。
その少女は投げかけ、受け止める。
人の位置、人の動き。
アクティブソナーのごとく、少女は発信し受信する。
発振、伝達、共振、
調整、共振、合致。
その少女は、引き起こす。
細やかに振幅を変え、最適を導き出す。
そして、加熱させる。
発振、波動、伝達、
反発、伝達、発射。
その少女は作り出す。
床と自分との間に。
たわんだ毬のごとく、少女は発射される。
発振、波動、伝達。
増幅、伝達、衝撃。
そう、その少女は『うねる』。
そして、全身の、その『うねり』を、叩きこむ!
――――
「ねーおしゃかなしゃん、まーちゃん疲れちった」
「おせなか、痛くなくなってきた、なんだか、寒いし」
「ねむくなって、きちゃった、ここで、いっしょに、ねむってても、いい?」
………。
……。
反応。
「??おしゃかな、しゃん?」
覚醒。
「なに?なんていってるの?」
(だせー!ここから!……だしてぇ……)
「ここから、出たいの?」
(だしてっ、だしてよっ)
やった!やった!やった!おしゃかなしゃんがしゃべった!しゃべった!しゃべった!
でたいって!でたいって!まーちゃんにあいたいって!
「ね!ね!まーちゃんのものになって!まーちゃん、おしゃかなしゃんが欲しいの!」
(なんでもいい!ここからだしてくれるならなんでもする!はるはでなきゃいけないんだ!でてあいつに!)
「やったー!じゃあだしたぁげるっ!」
発振、伝達、共振、
調整、共振、合致。
「まーちゃんが!、すぐにっ!」
その少女は、共振を引き起こす。
細やかに振幅を変え、最適を導き出す。
そして、 砕く!
『まーちゃんが!、すぐにっ!だしたぁげるっ!』
投稿日:2013/10/10(木) 18:58:18.33 0
最終更新:2013年10月12日 13:38