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Beyond

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Beyond◆WDKcDkBO8c





 何の含みもない微笑を浮かべたその顔は、まるでまだ生きているかのように清々しく、また美しくさえあった。
 やることをやり、成し遂げた表情。少なくともハクオロにはそのように見えた。

 まだ薄く開いた目を静かに閉じてから、呆然とトウカの遺体を見つめている園崎魅音へと目を向ける。
 短く息を吐き続け、硬く口を閉ざしている。疲労と人死にの衝撃が一体となって押し寄せ、精神的に疲弊しているのだろう。
 自身も何も感じていないわけではない。寧ろ無情にも命を奪った白い怪物――確かミュウツーといったか――への怒りを露にして追撃を開始したい気持ちではあったが、まだそうするわけにはいかないと戦の指揮官としての自分が言っている。
 トウカから譲り受けた剣の、へばりついてまだ固まってもいない彼女の血が、道を違えるべきではないと叫んでいる。

 自分は命を預かっただけに過ぎない。トウカという人の生き様、在り様、それらを伝えていかなければならない義務を背負っただけだ。
 今に始まったことではない。トゥスクル、テオロ、ソポク……様々な人々の犠牲の上に己の存在があることは重々承知している。
 生きることは、既に義務と同義だった。血で血を洗い、憎しみや悲しみが連鎖する戦国という時代で、人を殺してまで生きる理由。
 受け止める。誰かの怒りも哀しみも、力に変えて進む。それが上に立つものの義務だ。
 そうすることで、エルルゥやアルルゥ、他の仲間達を守っていけるのだから……
 熱した感情を徐々に冷まし、己の体内にトウカの意思が塗り込められていくのを知覚して、ハクオロは言葉を発する。

「荷物をまとめるぞ。こんなところで立ち止まっている時間はない」

 冷えた鉄のような言葉。思った以上に低くなっている声に、魅音が体を震わせたのが分かった。
 が、特に動くでもなく、小刻みに視線を揺らすだけだった。
 様子が変わって別人のような冷たさを宿したハクオロを怖がっているようでもある。
 一つ息を吐いたハクオロは、なら一人でやるとトウカの手荷物から支給品を取り出し、魅音と自分の両方のデイパックに選っていく。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 意を決したかのように、それでもまだ距離を残しながら魅音が声を出す。

「トウカさん、お墓を作ってやらなくっていいの? だって、あんなに大切な仲間だって……野ざらしなんて、あんまりだよ」
「時間がない。第一、墓を作るのは手間がかかる。我々には穴を掘る道具だってない」
「そりゃ、そうだけど……でも、こんなのって」

 納得がいかないという風に魅音は語調を弱めながらも、何か反論の糸口を見出そうとしているようだった。
 誰よりも大切な仲間。そのことを語っていた魅音の優しい顔を思い出す。
 彼女からすればこのままにしておくことは出来ないのだろう。自分も、魅音自身をも命を賭してまで助けてくれたひとへのけじめとして。
 だが、トウカの死を無駄にしないためにも自分達は早急に仲間を集め、殺し合いに立ち向かわなければならない。
 トウカに拘って、エルルゥやアルルゥのような力無き者を守れないのではそれこそトウカに叱られてしまう。

 背を向けたままから、ハクオロは魅音へと向き直って表情を見据える。
 顔をぐしゃぐしゃにして今にも崩れそうな魅音と、使命のうちに己の感情を律する自分。
 仲間という存在に対して共通の見解を持ちながらも、一方では違った解釈をする二人の人間の姿があった。

「我々は先に進まなければならないんだ。自分だってトウカをこのままにしておきたくはない。だがここで手をこまねいていてはこの瞬間にもまた誰かが命の危険に晒されているかもしれない。それは自分の仲間……もしくは、君の仲間かもしれない」

 思い出したのだろうか、魅音がはっと息を呑むのが見て取れた。
 しかしすぐに口をへの字に結んで、まだ反抗する瞳をこちらに寄越す。
 ハクオロは目を逸らさず、それをじっと見つめる。

「理屈ではそうだって分かるけど……でも、本当にこれでいいの? トウカさん、こんな勝手なことしてた私に命張ってくれてさ……申し訳が立たないよ、このままじゃ……
ひょっとしたらこういうことで時間をかけるっていうのはトウカさんだって望んでいないかもしれないけど、私の我侭かもしんないけど、でも、意思を継ぐっていうのはこういうことじゃないと思う……
理屈だけで受け止めるんじゃなくて、その先のもっとなにか、上手く言えないけど、ちゃんと誠意を示してあげないと、って思うんだ」

 礼には礼を尽くす。それが私のやり方だ――そう伝えた魅音は、不安を内包しながらもこの言葉は決して間違っていないという意思をハクオロに見せた。
 誠意、という言葉にハクオロの心がぐらりと傾く。
 うっかり者と揶揄されながらも、それでも誠実に己の忠義に生きようとしたトウカの姿。
 真っ直ぐで曲がったことなど知りもしない、ただ実直なだけのトウカが脳裏に思い出される。

 それを自分は、ただ言葉だけで受け取ってこの場に捨て置こうとしているのではないか。
 こうするのが理屈では正しく、そうしないと助けられないと分かった風になって?
 そう思いながらも、だがトウカはもう死んだと、戦の世界に生きる冷徹な自分がいるのも感じていた。
 今は一刻も早くこの殺し合いを打開するための仲間を集めるべきで、死者の弔いはその後。
 感傷に囚われて本当に守るべきものを守れなくてどうする? 自分が行動しなければならないのだ。上に立つものとして……

「……そうか。なら、自分は行くぞ」

 自分の考えを振り切るように、ハクオロは魅音との別れを告げ、自らのデイパックを抱えて立ち上がる。
 このまま時間を浪費するわけにはいかない。気が引けるが、魅音はここに置いていく。
 全てを守るために別れてしまう。矛盾していると思いながらも、この選択しか出来ない。
 結局、自分と魅音の選択が違っただけだ。そう断じて、ハクオロは目を伏せながら魅音の横を通り過ぎる。

「トウカの装備は均等に分けておいた。あの白い奴を吹き飛ばした武器はお前が、残りは自分が持っていく。いいだろう?」
「私は、残るよ。ごめん、行くなら先に行って」

 持ち物には目もくれていない。ただトウカに対してだけの思いが、今の魅音の全てのようだった。
 でもさ、とハクオロに続けた魅音の声色は、完全に拒絶し、決別したものではなかった。

「考え方は違ったけど、私達はまだ仲間だよ。また後で合流して、アイツをぶっ飛ばしてやろうよ、ね?」
「……そうだな」

 その思いはハクオロも同じだった。屈託のない笑みを向ける魅音に、ハクオロも微笑を含んだ声で返す。
 お互いにそれが分かっていながらも、心のうちを言葉に出し切れず、こうした結末になってしまう。
 不器用に過ぎるとハクオロは思いながらも、このわだかまりを吐き出す気にはなれなかった。
 その理由はきっと、今もこうして迷い続けている自分の心が、この決断でいいのかと問いかけている自分がいるからだろう。

 離れてしまえばいい。遠くにある、次の戦を考えていれば、その迷いもいずれは薄れる。
 その時にきっと、自分の出した結論に納得が出来るのだ。……魅音も、同じに違いない。
 仮面に隠れる自分の素顔はどうなっているのだろう、とハクオロは思う。
 もし素顔を見られて、魅音が何か言ってくれていたら、何か変わるものがあっただろうか。

 ――いや、きっと変わりはしないだろう。
 自分の中に数多の者の死がある限り、きっと自分はこのままだ。
 真の豊かさ、平和を勝ち取るために怒りも哀しみも受け入れて進むことを義務とした自分がいる限りは……
 内省の時間をそれで締めくくり、ハクオロは森の中を線路沿いに歩き出した。

     *     *     *

 ハクオロが去り、まだ夜明けにも達していない森には魅音だけが残される。
 森の外では何分かを周期に電車が行ったり来たりをしていたが、流石に自分が見つかることはないだろうと思う。
 闇に慣れなければ森の中はよほど暗く、足元さえ覚束ない。

 こんな寂しいところにトウカを埋めるのかと思いはしたが、かといって墓地がこの会場にあるわけじゃない。
 病院には霊安室はあるだろうが、あくまでも安置しておくためのものだろうし、埋葬にならない。
 そもそも、そんなところまで運んでいてはトウカの遺体が傷むだろうし、死者を晒し続けるというのは無礼に過ぎる。

 ここに埋めようと思い立ってから数分、まずはどうやって穴を掘るかを考える。
 ハクオロの言うとおり、こちらには何も穴を掘る道具がない。手で土を掻き出すという作業をやっていてはいつまで経っても終わらない。
 何でもいい、穴を掘る道具はないかと魅音はデイパックの中を漁る。

 新しく追加されたものにはハクオロが宣言した通り、白い怪物――ミュウツーを吹き飛ばした貝殻のようなものがあった。
 あの威力なら地面にクレーターを作ることも不可能ではないだろうが、それを使ったトウカが戦闘不能になっていたことを思い出す。
 ミイラ取りがミイラになるってか。意味違うけどね。
 使用に慣れていなければ自爆するかもしれない。そうなってはたまらないので他を当たろうとしたが……それまでだった。
 他には自分が使っていた空気ピストルがあるのと、地図、コンパス、食料エトセトラがあるくらいで穴を掘れそうなものは皆無。
 ダメか、と嘆息しかけてすぐに空気ピストルならどうだと考えてみる。
 声を出してしまうのが問題点にはなるが、贅沢は言えない状況だ。
 空気ピストルを手に嵌めて、地面に向けてその筒先を向ける。
 すぅ、と大きく息を吸い込んで気付かれるのではというのを憚ることもなく魅音は叫んだ。

「バン! バン!」

 だが、空気ピストルの放った空気弾は砂や木の葉を散らすばかりで到底地面に穴を空けるに至らない。
 1、2発では無理かと思い、続け様に叫ぶ。

「バン! バン!」

 しかしまるで効果もなく、魅音の叫び声だけが空しく木霊する。

 バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!
 バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!
 バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!
 バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!
 バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!

 肺から空気を搾り出し、喉が枯れそうなほどに声を出し尽くしても人が納まるほどの穴どころか、拳一つほどの穴でさえ空けられない。

「バ……けほっ、けほっ……!」

 なおも声を出そうとした魅音だったが、出し続けた口腔は乾ききって掠れたような音と咳だけを残して息苦しさだけを魅音に伝えた。
 呼吸が荒くなり、どれほど息継ぎもせず叫び続けていたのだろうと魅音は思った。
 だが考えるのも億劫になり、近場の木の幹へと寄りかかってへたりこむ。
 その視線の先では、空気ピストルの影響で舞い上げられた粉塵がトウカにかかって、その顔をも汚しているのが見て取れた。
 なんだよ、誠意どころか顔に泥を塗ってるだけじゃんか、私は……!

 埋葬すらできないという無力感でいっぱいになり、握られた拳は震えて、しかしどこにもぶつけようがなかった。
 自分は何の役にも立てないのか。仲間も、目の前にいる恩人でさえ救えない。何もしてやれない。
 言葉だけで理想を抱えて、現実を見ようとしない臆病者……
 ハクオロの言葉が今更のように突き刺さる。
 そればかりか、疑いかけもした。
 最低だ……

 その思いでいっぱいになり、魅音はうなだれて体育座りの格好で膝に顔を埋めた。どうしようという問いだけが彼女にはあった。
 トウカは諦めて、このままハクオロを追うべきか。こうなったのは仕方ないんだと自分を納得させて次に繋ぐべきなのか。
 所詮自分は青臭い若造に過ぎず、己の分というものをわきまえて行動するべきで……

 半ばそうするしかないんだという思いで顔を上げる。まだ先程までと同じく、横たわったままのトウカの姿がそこにあった。
 結局、自分は間違っていたのか。その重たさだけを頭に残してデイパックを拾おうとしたとき、そういえばと思うことがあった。
 ハクオロは懐中電灯ではなくランタンを持っていた。支給品なのかと思って尋ねると、そうではなさそうだとハクオロが返答していた。
 自分のデイパックにはランタンはない。……国や地域に合わせて、明かりは違うものが支給されているのだろうか?
 見たところハクオロはどこか田舎のような服装だったし、何より自分の懐中電灯に対して、それは何だという質問さえ返ってきた。
 自分の推測は間違っていない。いや違う、そんなことは問題ではない。ランタンには火が灯っていた。
 火……そう、何も死者を埋葬するには土葬だけではない。火葬があるではないか。

「どうしてこんなことに気付かなかったんだろう……は、バッカじゃないの、私」

 土葬に拘っていた自分の馬鹿さ加減に呆れる。死者を弔うといえば土葬だと何も考えずに思っていたからか。
 大体、日本の葬儀形態は火葬が多いというのに。こんな異常な状況に巻き込まれて頭が回らなくなったか。それともあの惨劇を乗り越えて頭が平和ボケしてしまったのだろうか。どちらにせよ、ようやく目が覚めたのには違いない。

 澱んでいた脳が働き始め、靄が晴れていく感覚が魅音の中に戻ってくる。ひとつの視点に拘らずもっと別のものを見るべきだったのだ。
 なるほど、こんなボケた頭で皆が救えるはずもない。諦めさえ覚えていたわけだ。苦笑する魅音の瞳には再び活気が宿っていた。
 情けない。寧ろこの状態で皆に会わなくて良かったとすら思う。特に圭一あたりには馬鹿にされるのが目に見えるようだ。
 こんなことでヘタレてどうする。お前は一体誰だ? 圭一の叱咤が脳裏に響く。答えなど決まっている。

「私は園崎家次期頭首、園崎魅音……」

 園崎という名字の意味を確かめるように、魅音は声に出して呟いた。
 そう、自分はこれでいい。無力でも皆の先に立って進む。そうすることでついてきてくれれば、それでいい。
 そのためにも投げ出してはいけないのだ。ここで諦めて、割り切って出来ないと目を逸らして、誰がそいつについて行くだろうか。
 誰もついてきてくれるはずはない。人への敬意を忘れた人間に、誰もついてくるはずはない。
 例えそれが傍には無駄の多すぎる行動と見られるとしても、これが自分の信条。曲げたくないし、曲げるわけにはいかない。
 ……バカだと思うけど、みんな、それでいいんだよね?

 圭一。レナ。沙都子。梨花。詩音。
 全員が一様に頷き、それでいいと自分の背中を押してくれている。トウカも仕方ないという風に口もとを緩めて、笑みの形にしてくれている。
 無力で萎んでいた全身の筋肉に血が行き通り、体に熱が伝わっていく。

 今の自分にはライターもない。あったとしても、それで十分でないことは分かっている。
 なら、火のあるところまで運ぶだけだ。遺体が多少傷むかもしれないが、このままにしておきたくない。何より、自分のためにも諦めたくない。
 魅音はデイパックを肩にかけると、続いてトウカの体を背負おうとする。
 しかし男に比べて軽いはずのトウカの体でも、魅音も女性であり鍛えていても背負うのに苦労する。
 ようやく背負ったものの、一歩を踏み出すだけでも重く果たして森さえ抜けられるか分かったものではない。
 ちょっとやばいかなぁ……でも、いいんだ。私の行動、間違ってなんかない。今度は絶対、胸を張って言える。

「よーし、おじさんちょっと本気出しちゃおっかなー……」

 確かな実感を持ちながら、魅音は気合を入れて歩き出そうとしたときだった。

「待て」
「……ハクオロさん?」

 何者かに呼び止められ、魅音は思わずそちらを振り向く。危険人物ならどうしようかと危惧したのも一瞬、そこには見知った顔があった。
 先程別れてきたはずのハクオロが目の前に立っていたのだ。確かに、線路沿いに歩いていったはずなのに。
 目をしばたかせていると、ハクオロは魅音の背中に近づき、トウカの体をその背中に抱えた。
 ハクオロの行動がどういう意図なのか分からず、呆然とその顔を見た魅音だったが、ハクオロは苦笑を浮かべるだけだった。
 そのまま何も言わずハクオロは魅音の後ろにつき、さあ行けと促しているように顎を動かした。
 何があったのだろう。疑問が魅音の頭の中を過ぎったが、戻ってきたという事実は確かなようだった。

 ……私と一緒、ってことでいいのかな、とりあえず。
 目の前の不器用な男は仮面に紛れて表情を見せてはくれない。尋ねてもしばらくは答えてくれなさそうな雰囲気はあったし、考え方の違いを認識したときのわだかまりも胸の内に残っている。しかし、それでも仲間なんだという思いが魅音に少しの安心感を持たせた。

「トウカさん、火葬したいんだ。ハクオロさん、火は持ってるよね」
「ああ」
「それだけじゃ足りないと思うから、とりあえず燃えそうなものも探したいんだ」
「なら、ここの枯れ枝や枯れ葉を集めるといい。……だが、ここで燃やすなよ。火事になる恐れがある」
「そうだね。取り合えず森を抜けよう。集めるのはそれからでいいよね」

 頷いたハクオロはそれ以上語ろうとはしなかった。
 だが今は目的が一致している。ならいい。文句は言わない。言うとしてもトウカの火葬を終えた後だ。
 魅音が歩き始めると、それに合わせてハクオロも歩き出したようだった。

 まだお互いの腹の内は分からない。分かり合えるかどうかも分からない。
 でも、チャンスは与えられた。話し合う機会が生まれたことは確かだった。
 やはり間違ってはいなかったという思いが、魅音の中に根付いていた。

     *     *     *

 先を歩き出す魅音の背中はぴんと張っていて、トウカが死んだ直後の所在無さは微塵も見られない。
 自分の進むべき道を見出した者の、決意を秘めた背中だった。

 自分自身はどうだろうか。こうして戻ってきた自分は、まだ迷っているのだろうか。
 これで良かったのだという思いがある一方、甘すぎるという自分が厳しい目で見ているのも事実。
 しかし、本心で行動したのだけは間違いがなかった。
 偽らず、誤魔化さず、心の思う通りに行動したのだけは間違いない。
 それが正しいのかどうか……まだ分からないし、一度は背を向けていた自分が胸を張れるわけもない。

 だが、お陰でこうして魅音と向き合う機会はできた。別れたきりということにならずに済んだ。
 そんなことになってしまっては、寂しすぎる。……そうだな、トウカ?
 背中によりかかるトウカもまた、答えようとはしない。
 ハクオロはただ苦笑して、ずれかけていたトウカの体を背負い直す。
 そう、今のトウカはもう答えてはくれない。だが自分の中の、記憶に残るトウカは、確かに自分に語りかけてくれた。

 一度別れたあと、ハクオロは線路沿いに歩きつつ、ふとトウカが残した剣に、まだ彼女の血がついていることを思い出した。
 血がついたままの剣では切れ味が悪くなってしまうし、ここから先で人と会ったときに悪印象を持たれてしまう。
 だがそれを拭く布を持っているはずもなく、已む無く自らの服の裏で拭うことにした。
 人に見られてしまう可能性はあるが、このままにしておくよりはと考えた結果だった。
 いざ拭こうと思い、しゃがみ込んでから刀身を見たとき、そこには映る自分の顔と……そしてトウカの顔もが映っていた。

 いいのですか、とトウカが尋ねてくる。
 これでいいんだとハクオロは返す。こうしなければ誰も守れはしないのだから、と。
 そうではないのです、と刀身に映るトウカの姿が消え、代わりに先よりはっきりした声を頭に響かせる。
 ――これが、本心なのですか。

「……」

 今度は、すぐに返せなかった。理屈で答えればいい問いではなく、心に問うもの。
 そう、今までの思考で自分の心で考え、答えた部分などない。
 全てが理屈で、合理ばかりの心のない返答。
 ――聖上の御心のままに進めばいいのです。

 今度は頭の中に現れたトウカの顔は柔らかく表情を緩め、笑みの形を浮かべていた。
 ハッとして、ハクオロはまだ剣に付着しているトウカの血を見る。
 道を違えてはならない。
 そう叫んでいたはずの言葉が、別の意味を以ってハクオロのうちに語りかけている。
 理屈だけでも、感情だけで進んでもならない。自らが決めた、己の信義に従って行動するのが道。
 それだけは間違えてはならないと語りかけている。

 ハクオロの中にもう一度、今のままでいいのかという問いが湧き上がる。
 このまま仲間に再会したとして、トウカを捨て置いたと知られれば、きっと自分は罵られてしまう。
 主と認めてきたハクオロというのはこんな人物ではなかったと失望されてしまう。
 生き方は変えなくていい。誰かの死を受け止めながら進む、その上で時には冷たい決断をしなければならないことも、変える必要はない。

 だがそれは、これが自分の本心だと納得したときだけではないのか。今の自分は、本心にさえ背を向けているのではないのか。
 心のままに――剣となっているトウカも、今の自分を諌めようとしてくれている。
 このままではいけない、これでは情けなさ過ぎるという思いが突き上げ、素早く服の裾裏で血を拭ったハクオロは、決然とした意思を以って立ち上がる。
 行こう。まだ魅音はいるかもしれない。

 戻ったとて、一度生じた溝は埋まらない。しばらくは他人の時間が続くかもしれない。
 しかし、それでも……このまま何も分かり合えないままに離れてしまうのは寂しすぎる。
 そんなのは、御免被る――本心に衝き動かされ、ハクオロは踵を返し、元来た道を戻ることにしたのだった。

 それで今に至ることになった。魅音と再会したとき、ハクオロが苦笑したのはそのような経緯があったからだった。
 この空白の時間が無為だったのは事実だ。だがそれ以上に、心を無為にせずに済んだという思いがあった。
 魅音はまだ自分を仲間だと認めてくれているだろうか。
 自信が持てず、結局は無言のままにしてしまったが、それでもトウカを弔ってやりたいという目的は一致している。
 己の本心を見失わず、今は進めばいい。それだけを思って、ハクオロは魅音の後ろを歩き続ける。

 暗かった森の中に、徐々に色が差してきている。
 時刻は、もうすぐ朝を迎えようとしていた――


【A-6 線路沿い/一日目 早朝】 

【ハクオロ@うたわれるもの】 
【装備】:ガイルの剣@ポケットモンスターSPECIAL スモーカー大佐の十手@ONE PIECE 
【所持品】:大型レンチ@BACCANO!、ミュウツー細胞の注射器@ポケットモンスターSPECIAL、基本支給品一式、不明支給品0~2個(確認済み) 
【状態】:健康 体に僅かに痛み トウカの遺体を背負っている 服の裏にトウカの血がこびりついている
【思考・行動】 
 1:ギラーミンを倒す 
 2:仲間(魅音の仲間含む)を探し、殺し合いを止める。全てを護り抜く。 
 3:トウカを弔う。
 4:ミュウツーに対して怒りの念。 



【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】 
【装備】:空気ピストル@ドラえもん 
【所持品】:排撃貝@ONE PIECE、基本支給品一式 
【状態】:健康 体にやや痛み 悲しみ 
【思考・行動】 
 1:仲間(ハクオロの仲間含む)を探し、殺し合いを止める 
 2:詩音と沙都子にはやや不安。 
 3:トウカを弔う。火葬するつもり 
 4:線路を辿って駅に向かう? 
 5:ミュウツーに対して恐怖。 
 6:死者に対しては誠意を以って対応する
※本編終了後の参戦です。雛見沢症候群の事を知っています。 



※注射器の説明書を2人はまだ見ていません。




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