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赤目と黒面(中編)

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赤目と黒面(中編)◆GOn9rNo1ts




◇ ◇ ◇



「悲しい……とてもとても悲しい話をしよう。
俺はあのツンツン頭から命の恩人達を守りきることが出来なかった……ああ、これだけで悲しい、泣きそうだ!
だが、神様はどうやら俺を更なる悲しみへと叩き込むつもりらしい……
俺が何をした、せいぜい気に入らない奴を壊し続けてきただけじゃねえか……いや、罰を受けるには十分かも知れん……
命の恩人Aの友人が死んでしまったという……あのツンツン頭の仕業じゃなかったらしいが。
だが、それでも俺があいつを倒していれば、彼は、ケイイチは死なずにすんだかも知れない!
つまりアレか、俺は間接的に人を殺しちまったってことなのか?しかも命の恩人Aの友人を?
一体俺はどのツラ下げて命の恩人に会えばいいってんだ?おいおいおいおい悲しすぎるだろう!」


流れゆく風景を尻目に、金髪の男が叫ぶ。
気でも狂ったかのように悲しみ続ける男、グラハム・スペクター。
その瞳の奥はどこまでも濁り、ドブの底のような印象を抱かせる。


「しかもだ、それだけでも飽きたらず、まだ俺には悪いニュースが続くらしい。
これは本気で神の裁きだと考えてもなんら不思議ではない……そんな神、ぶっ壊してやりたいが。
やはりというか何というか……ラッドの兄貴は殺し合いに乗っていたらしい……
しかも、命の恩人Aのこれまた別の友人、リカといったか?
彼女を殺そうとしたという……なんということだ……
俺は一体どうすればいい!?ラッドの兄貴に逆らうなんぞ考えたこともない!
だが、命の恩人達を裏切ることも俺には出来ない……もとより彼女たちがいなけりゃ俺は死んでいただろう……
彼らを守るためなら俺は命を喜んで投げだそう!この身を捧げるのに一片の躊躇いさえ存在しない!
しかしこの殺し合いをぶっ壊すために今のラッドの兄貴は明らかな障害!
ラッドの兄貴と命の恩人達が出会ったら俺はどうすればいい?
俺に人生の恩人を壊せと言うのか!?この手で、完膚無きまでに、ぶっ壊せと!?」


(拾ったのはいいものの……どうにかならんものか、この男)


当初の予定通り、ぶっ倒れていた同盟相手を道ばたで拾った、○同盟唯一の「先発隊」
グラハムの話を聞いている巨大な男は、見事なハンドリングでカーブを曲がる。
彼が乗っているのはヤマハV-MAX。並みの騎者ならば手を余す規格外のマシンを手足のように扱っている。
第四次聖杯戦争で「ライダー」の冠を得た征服王イスカンダル。
着地点の見えぬ戯言を聞き流しながら東へと向かう。


(すまんな、レッド)


ラッドがレッドを殺したことは、一応グラハムには伏せている。
「殺しかけた」と「殺した」の間の壁は、とてつもなく高い。
ライダーはそのことを理解しているし、恐らくグラハムもそうだろう。
だからこそ、真実とはいえ、ただでさえ情緒不安定な相手をさらに煽ることは避けたい。
いつかは暴露されてしまうかもしれないが、その時はその時だ。
「駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!
そんなことは出来ない、ありえない!何より俺がしたくない!
だが、俺は酸いも甘いも噛み分けてきた立派な大人だ……子供みてーに駄々をこねられる状況じゃねえってことも分かってる。
ならばどうするか、俺は考え抜いて考え抜いて考え抜いた!
その結果!一つの結論に達した!すなわち、ラッドの兄貴を説得するって結論になあ!」

「その男、本当に貴様の説得でなんとかなるのだろうな?」

伝聞でしかないが、ラッドという男はそうとういかれているらしい。
そんな狂犬のような男を説得することなどできるのだろうか?
グラハムは弟分らしいし、下手に丸め込まれてこちらと敵対することになったならば……

(いや、レナ達に恩義は感じているらしいしその心配は無用か)

「できるか?愚問だな。出来なくてもやる、出来るまでやる。
ああ、楽しくなってきた、楽しい、実に楽しいぞ!
ラッドの兄貴がのってるヤツらを壊す。そしてギラーミンとやらも壊す。
俺はそれの手伝いだ!邪魔するヤツらの間接を壊し、脊椎を壊し、戦う意志も壊す!
ああ、楽しい、楽しい話を始めようじゃないか!」


もはや妄想の世界までぶっ飛んでいった後ろの男を気にもせず、レーダーに目を移す。
こちらに少しずつ近づいてくる二つの光点。
敵か味方か分からないが、どちらにせよ接触の価値はある。
こちらの味方となりうる人物ならば、臣下に誘う。
もしも敵ならば、叩きのめすのみ。


果たして、その二人組+一匹は前者のように見受けられた。
藍色の体色の中心には白い腹部と渦巻き模様。
およそ人間とは思えない生き物。その背に背負われているのは動物の耳をもった幼き少女。
首輪の有無からして獣耳の方が参加者で、藍色の生物の方は支給品か、それとも何かの特殊能力か。
それと付き添い、必死の形相でこちらに駆け寄ってくる金髪の少女。
グラハムはその髪、外見年齢にある人物の情報を頭の中から引っ張り出す。
命の恩人A、竜宮レナの親友のひとり。


「その髪……もしかしてホウジョウサトコか?」


少女はその言葉に耳を貸さず、ただ必死で息も切れ切れに言葉を紡ぐ。
目の前にいるのは巨大なバイクに乗った大男とそれの背にしがみついている金髪。
助けてくれるかどうかは、分からない。
そもそも、この二人がゲームに乗っている可能性を否定できる材料など無い。
それでも、北条沙都子はただ、助けを請う。
仲間を助けるために。自分に出来ることは強い者に縋ることしか出来ないと悟って。



「私のお友達を……助けてください!」



◇ ◇ ◇



「ラララ ラ ラ♪」


おかしい。
力も、速さも、肉体の強靱さも。
全てはこちらが上回っている。
なのに、勝てない。
攻撃は当たらず、全てが空を切る。

(何故だ、何故殺せない?)

「さあ、一緒に歌いましょう!死のマーチを、殺戮の調べを奏でましょう!
ラララ ラ ラ  ラララ ラ ラ ラララ ラ ラ ♪♪♪」


赤目は右手に拳銃を、左手にデイパックから取り出したマスケット銃を持ち、こちらに向かう。
二つの口から吐き出される無数の銃弾。
急所を的確に狙い、制限下のゼロならば致命傷を負うことも想像に難くない。
だが、狙われる箇所は違えど以前と状況は同じだ。
自分はただ人間を超えた動体視力と反射神経を持ってそれらを避け、接近して手刀を叩き込む。

「僕は君よりも強い『人間』を知ってる。
彼は強かった。僕なんか手加減して倒せるくらいにはね。
君は彼よりも早いし、力も強い。でも君じゃ彼には遠く及ばない」

こちらへの揺さぶりだ。
そう思ってはいても耳は勝手に相手の声を拾うし、赤目は勝手に口を開く。
二丁の拳銃が同時に火を噴き、双対の弾丸がこちらの左と右の退路をふさぐ。
ならばと身体を前に倒し、両肩に掠る弾丸を見送りながら前進。
憎たらしいその舌を引っこ抜いてやろうと腕を伸ばす。

「残念」

その腕に、靴が降り立った。
跳躍してこちらの腕に片足で飛び乗ったのだ、と気付く間もなく、仮面をもう片方の足で蹴り飛ばされる。
ダメージは軽微。だが蹴った反動を利用してまたもやこちらの手の届かぬ位置に相手は逃れる。


「君の動きには美学がない。ただがむしゃらに腕を振ってるだけ。
子供の喧嘩と一緒だ。もっと殺しはスマートに、それでいて美しくやらなきゃ」


クリストファーがゼロと張り合えている要因は一つ。
経験。ただそれだけだ。

何十年も人を殺し、また殺されかけてきたヒューイの『道具』にとってゼロの動きは幼稚の一言。
いくら魔王となり超人的な力を得ても、ルルーシュ、そしてC.Cはクリスのそれに相当する経験はない。
ただ人を殺し、それが当たり前の生活。
軍人、テロリストなど、そのような生活を送っている者はいるかも知れない。
上司に命令され、ただ黙々と人を殺す。そういった意味では彼らはクリスと似ている。
しかしクリスの生活は彼らともまた別の所にある。
不老、そして非合法な実験による改造。
身体はいつまでも衰えることなく、ますます磨き上げられていく肉体。
その結果、彼は他者の追随を許さぬ力を手に入れた。
油断していたとは言え、あのクレア・スタンフィールドに身一つで一撃入れることが出来る戦闘能力を得たのだ。


クリストファーは間違いなく、この殺し合いで強者に該当する。


彼を縛り付けていたのは「人を殺せない」という一種の精神的な思いこみ。
原因はあの日、血と雨の降りしきる日にただの人間に敗北したことだろうか。
それとも、その後の傷心旅行で死と生の狭間を彷徨ったからだろうか。

今のクリスは檻から解き放たれた獅子のようなもの。
「魔王」という超極上な獲物を見せられ、空腹を埋めるために食らいつく。
自分が獲物に食われるかも知れないという不安は一切無く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、ただ行く。
理由は単純、ご馳走が目の前にあるのだから。

(先程までと動きが違いすぎる……!
一体どういう手品を使った、この男は!?)

ゼロを困惑させているのはその変貌ぶり。
先程までの、ただ手足をちまちま狙っていた臆病者は存在しない。
今目の前にいるのは、自ら接近してこちらの命を奪おうと死を放つ殺し屋。
自分のたった一言がそれを為したとは思いもよらず、ただゼロは疑問を重ねる。
クリスの動きは軽く、弾の届く時間も先程までよりも僅かに早い。


歳月をかけて身につけた物はなかなか変えることが出来ない。それが一挙一動作だとしてもだ。
何十年も「人を殺す」動きをしてきたクリスは、「人を殺さない」動きには慣れていない。
ある意味では、彼は決して人を殺さないヴァッシュザ・スタンピードとは逆位置に存在している。
反射的に胸を狙い頭を狙い、しかしその照準を右腕に変え、左足に変える。
クリス本人さえも気付かなかった脳内の無意識的挙動によって、彼の行動はほんの少し遅れていた。
ゼロもそれを見て、「そこまで大したことはない」と判断していた。
現在のクリスは違う。積み重ねてきた経験を遺憾なく発揮し、「殺す」動きを取る。
ゼロはその動きの僅かな違いの積み重ねに翻弄され、本来の力を発揮できずにいる。
今まで時速百キロの球を打ってきた野球選手が急に時速百三十キロの球を打てと言われたようなものだ。
例え一瞬の違いだとしても、遅い動きに慣れてしまうと速い動きには中々対応できない。


(だが、それでもまだこちらが有利!)


こちらに迫る暗器銃のレイピアを認め、最後の黒鍵で受け止める。
拮抗は一瞬。仮面が押し、赤目が引く。
力なら圧倒的にゼロの有利。あくまでクリスは人間の範疇の筋肉しか持っていない。
いくら技術に差があれど、相手の体力はじょじょに削られ、弾の残弾数は減っていく。
持久戦になればこちらのものだ。嬲り殺しにしてくれる。
余計な武器は使わない。小振りな黒鍵ならばともかく、他の武器を取り出す時間はない。
大戦槍という巨大な槍は戦意が無いことを示すためにいったんデイパックにしまってしまった。
隙あらばこちらの喉笛にかみつこうとする化物が、あの巨体を取り出させてくれる暇をくれるとは思えない。


(それに動きを見る限り、向こうは相当二丁拳銃で戦い慣れているのは間違いない……
今の私は普段と同じ戦い方を取っているが、それでも6対4でギリギリこちらが有利だと言ったところ……
わざわざ有利な拮抗を崩して慣れない武器を使い、自滅するのはごめんこうむる)


その時、戦局が動いた。


「埒があかないからさあ、これで……決めるよ」


突然歌うのを止め、神妙な顔で呟く赤目。
ヤツもこのまま行くと己が不利なことに気付いたのだろう。
こちらの腕に乗るという曲芸じみた動き。
力では敵わないと分かっていても、わざわざ仕掛けてきたレイピアでの斬撃。
必死で誤魔化そうとしているようだが、恐らくはどちらかの銃が弾切れでもしたか。

(窮鼠猫を噛む、か。油断は禁物だな)

相手のどんな動きも見逃さぬよう神経を集中。
来た。拳銃を前に突き出し、しかし引き金をひく指に力が篭もってはいない。
あえて騙された振りをして拳銃の先から逃れ、右に身を倒す。
そこに飛び込んでくる、隠すようにして下からこちらに投げ放たれたマスケット銃。
銃口の先端から伸びるレイピアが、本来の用途とは違い投げナイフのように使用される。

(奇をてらってこちらを混乱させるつもりか。甘いな)

突っ込んでくるレイピアの側面を黒鍵で叩き、こちらへの軌道を修正。
為す術無くあらぬ方向に飛ばされる暗器銃。
しかし赤目の笑みは消えず、嫌な予感が背筋を凍り付かせる。
何を企んでいる。赤目はこちらを睨んだまま。

(――――!違う。こいつが見ているのは私ではなく、その背後)


「ダブルニードル」


聞き覚えのある言葉。
こちらと唯一真っ向勝負で渡り合った蜂の化け物。
言葉はそいつへの攻撃命令だったのだと瞬時に理解する。

(いつのまにかアレを呼び戻していたのか!?)

つまり、赤目がこのタイミングで仕掛けてきたのは銃の弾切れなどではなく……

(……一人と一匹による、こちらへの挟撃の準備が整ったと言うことか!)

既に迎撃する暇はない。
選ぶべき選択は回避。
右に跳ぶか?左に転がるか?前に駈けるか?

(いや……上だ!)

後ろに目がない以上、蜂がどの方向から仕掛けてくるのかは分からない。
運が悪かったと片付けるにはあの攻撃は強力すぎる。食らうわけにはいかない。
よって、避けるべき最適のルートは上。
相手が地面から攻撃してくる事でもない限り、これで「ダブルニードル」とやらは完璧に回避可能だ。


エデンバイタルの力により超強化された足で自然そのままの大地を蹴る。
身体に衝撃はない。来るであろう二対の針を完全に避けたことを理解し、男の方を見る。
あちらの銃は今や一つ。来るだろう弾丸も手に握る黒鍵で簡単に対処可能。

(来るべき攻撃が……来ないだと?)

赤目の銃撃ではない。
こちらを狙ったはずの巨大蜂の攻撃だ。
先程まで自分がいた場所を通り過ぎるはずの斬撃がいつまで経っても来ない。
というよりも、蜂そのものがいない。


「クリストファー・シャルドレードが贈る一世一代の消失マジック、楽しんでいただけたかな?」


(まさか……謀られた?この私が!)


こちらの瞬時の判断力、そして恐れを利用したフェイク。そう気付いたときにはもう遅い。
赤目は空いた手で懐から丸い何かを取り出し“ピン”を引き抜く。
空中で移動できないこちらにむかって思い切り投げつけられたそれは、真っ直ぐにこちらの下から迫り。


「レイルならもっと上手くやるんだろうけど……今の俺じゃこれが精一杯ってとこかな」


その呟きは誰の耳に届く訳もなく、クリスは溜息をつく。
その瞬間、アルルゥのデイパックから無断で拝借しておいたニースの小型爆弾が己の使命を果たし。
耳障りな爆音が、静寂な森を包み込んだ。



◇ ◇ ◇



「さて、腕の一つや二つくらいは吹っ飛んでると楽なんだけど」


明らかにヤバイことを当たり前のように考えながら、爆発によって霞む煙の先を睨む。
これで死んでくれるならばありがたいのだが、そう上手く行くものかどうか。
煙が徐々に晴れ、その風景の先には

(何もない?まさか粉々に吹っ飛んだとか?)

あるべき仮面の男の姿がない。
身体が消えて無くなるほどの威力はなかったはずだが。
男が何らかの方法で、例えば空を飛ぶなどして逃れたならば、嫌でも目につくはず。
正に、消えたとしか思えない状況。

「まさか……透明人間になったとか!」

ありえないジョークを口ずさみながらも正面から視線は外さない。
逃げたか、それとも本当に死んだのか。
全神経を張り詰め……気付いた。気付いてしまった。


後ろから迫る殺気に。


「ちっ……ぐあああ……!」


振り向きつつ両手をクロスに結び、“後ろ”からの攻撃に備える。
容赦なく打ち込まれる拳。まるで車に轢かれたかの衝撃。
身体中に激痛が走り、頭が固い何かに激突。


「まさか貴様風情に私の力を使うことになるとはな」


頭から流れる熱い血潮。意識が遠のくのを必死に抑える。
背中から感じるゴツゴツした感じから、大きめの岩に激突してしまったようだ。
虚ろになる視界の中で見える仮面の男は、無傷。

(おいおい……反則だろ)

どういう方法を使ったのかは知らないが、こちらの敗北はほぼ決定した。
グロックを離さなかったのは自分にキスをしてやりたい気分だが、肝心の腕がガード時の衝撃で折れている。
頭を岩に強くぶつけたためか意識は朦朧とし、とても戦闘を続けられる状態ではない。

(はあ……結構良いとこまで行ったと思うんだけどなあ)

数々の友達や知り合いの顔が脳裏に浮かぶ。
もしも自分が死んだことを知ったら皆どのような反応をするだろうか。


(チーやシックル、ティム、リーザ辺りは特に何も思ってくれないだろうな。
俺が負けたことは驚いてくれるかも知れないけど、既に一回負けてる分インパクト薄いよねえ)


(レイルやフランク、アデルや詩人の旦那は悲しんでくれる気がする。
まあ、俺の勝手な思いこみかも知れないけど)


(ヒューイの旦那は残念がるかもね。
せっかくの使える『道具』が一つ消えちゃって)


(フィーロは……そういや、もう死んでたな。
俺たちホムンクルスと不死者は同じ地獄にいけるのかな)



(……リカルド、帰れなくてごめん)



「それではさらばだ、赤目よ」


恐らく人生で聞くことになる最期の言葉が届けられる。
こちらに戸惑い無く歩み寄ってくる足音。
ゆっくりと目を閉じ、来るべき終焉をせめて笑顔で迎え入れようと口を歪め。




「悲しい……とても悲しい話をしよう」




しかしその口元は、だらしなく開かれることとなった。
聞き覚えのある声、そしてふざけた言い回し。
思わず目を開けた先には、仮面の男に襲いかかる銀色の円盤。
いや、高速で回転しているので円盤に見えるが、それの本質は小型のレンチ。
その攻撃に気付いた仮面は少し下がり、銃弾よりも遅いそれを見送る。




「ただし、お前にとってのだけどなあああ!」




刹那、水色の作業着が木立の奥から飛び出してきた。
間違いない。自分とも殺し合った仲の、リカルドの家にいた用心棒。
壊しの天才が、現れた。



「おいおいおいおい、やっぱりてめえかよ、リカルド坊ちゃんのボディーガードさんよお。
感謝しろよ?今から俺がラッドの兄貴仕込みの超絶喧嘩殺法でぱぱっとあの変態仮面をぶっ壊してきてやるから。
……待てよ、感謝されるべきは俺ではなく彼女じゃねえのか?
彼女の純粋無垢な思いによって俺は心を動かされたわけだからな……あああああああああああ、俺はなんて駄目な人間なんだ!
他のヤツの手柄を横取りして威張ってるなんて人間の屑だ!俺は遂に最底辺まで行き着いてしまったというのかああああ!?
……いや、元々俺は俺は人間の屑だったような気がしないでもない……
つまり俺は自分の屑加減を再確認しちまったってわけか!なんて悲しい、そして自業自得な話なんだ……
まあとりあえず、やっぱさっきの台詞は無しだ!そこの命の恩人Aの友達に感謝しろ!」



相変わらず、無駄な喋りの天才でもある。
と、そこで違和感が一つ。

「おい、彼女ってまさか……」
「ごろすけさん、メガトンパンチ!」

こちらの質問を遮るようにして、鋭く響く幼い声。
グラハムが現れた木立から少し離れた、大きな茂みの中から、丸みを帯びた影が飛び出した。
岩で出来た団子に怪物の顔が付いているような、見るからに人外と分かる存在。
拳を握りしめ、300㎏の体重を乗せた重い一撃を放つ。
ゼロは一瞬黒鍵で受け止め、あまりの力に思わず後ずさる。
なんとか衝撃を殺し、鈍重そうな頭を踏み越え、こちらに走り始め。


「おいおい、俺を忘れてねえか」


目の前に立ち塞がる金髪が剣を振るうのを目の端に捉え、迎撃。
短剣と打ち合った剣は切っ先ではなく腹を相手に突き出し、相手の力を拡散させる。
そのまま二、三手、打ち合いながら、両者とも少し後ろに下がる。


「ここで命の恩人Aの友達とその友達をむざむざ殺されちゃあ俺の立つ瀬がねえんでな。
って、よく考えれば命の恩人の友達の友達は俺の守る範囲に適応されるのか?
いや待て、友達の友達が死んだら友達が悲しむ……友達が悲しんだら命の恩人Aも悲しむ、よって俺も悲しい。
つまり、やはり俺はそこの赤目野郎も守る必要があると言うことだ……
なんということだ、真理に到達したことは喜ぶべきだが、その真理が俺好みの答えではないとは!
ああ、悲しい、なんで俺があんな野郎を守らなきゃならんのだ……
この止めどない悲しみを喜びに変えるために、とりあえずそこの仮面野郎はぶっ壊れてくれると俺も嬉しいんだが!」
「うるさい」

ごろすけも二人の戦いに参加し、グラハムを援護し始めた。
漫才のような掛け合いを行いながら、三者はこちらから離れていく。
手数で攻めるグラハムと、遅いものの一撃が重いごろすけのコンビネーション。
グラハムとごろすけの連撃により、ゼロは徐々に押され、こちらから離れていく。
それを確認し、とりあえずの危機を逃れたことに安堵。
痛む身体を無理矢理起こし、声が飛んできた方向に顔を向ける。
少し後ろで、気絶したアルルゥが柔らかい土の上に寝かされているのが見える。

そして


「沙都子……」


「やっぱり、クリスさんは私がいないと駄目なようですわね」


居た。不敵な笑みを見せながらこちらに駆け寄ってくる彼女の姿が。
恐らくグラハムをつれて全速力でこちらには戻ってきたのだろう。
顔からは汗が噴き出し、それでも不敵な表情は崩さない。
真夏に精一杯咲き誇る向日葵のような表情。ここまで強い子だったのかと感心する。
一呼吸置き自慢げに告げる、ゲーム開始時からの同行者。



「あなたを助けに来ました!」



初めて、彼女が頼もしく思えた。




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