暗き森に灯火の姫君を

アウナは悩んでいた。
自分フィールド上にはダーク・アームド・ドラゴンとギガ・プラント(再召喚済み)
そしてサイクロンが二つ。
手札には死者蘇生と思い出のブランコが存在し、墓地には闇属性モンスターが何体か落ちている。
万全の体勢だと言ってもいい。
惜しむべきは、LPが残り900しかない事か。
しかしそれも、ダーク・アームド・ドラゴンとギガ・プラントの火力さえあれば些細な問題だ。

だが、それでもアウナは悩んでいた。
理由の一つとしては、敵の伏せカードは3枚と多い事。
…最もサイクロンで2枚破壊して、最悪ミラーフォースが来ても死者蘇生とブランコで蘇生し、次ターンに決着を付ける事が出来なくもない。
しかしアウナにはそれが出来なかった。
なぜなら、敵のフィールドにいるモンスターが、厄介だからだ!

「どうしました!可愛いお姉さん!!」
何故か眼帯をしている、水色髪の少女。
彼女、里崎文は、何故か嬉しそうにアウナに話しかける。
「貴方のようなお馬鹿さんにはわからない高度な思考をしているのよ」
そんな彼女に対し、表面上は冷静に、しかし明らかに怒りの毒を含んだ声をアウナは返した。
そう、アウナが戦っている少女は、まだ15にもなっていない幼い娘。
戦略も巨大モンスターを召喚しただ殴ってくるだけの猪突という言葉が似合うもの。
だが、そんな敵が選ぶモンスターも、悪く言えば「誰が使っても強い」奴だった。

スターダスト・ドラゴン/バスター。
それが、2体いる。
それだけではない、レッドアイズダークネスメタルドラゴンに、レッドアイズ・ワイバーン、
そして何故かリチュア・エリアルの5体が、敵フィールドに並んでいる。
ただ、全員攻撃表示。 更に相手のLPは1800。
アームドドラゴンでエリアルを攻撃さえできれば、こちらの勝ちは決定的だろう。
しかし、それが出来ない。 魔法、罠、モンスター、どの効果を使っても「2回」まで無効にされる。
先ほど述べた通りサイクロンを2回しても、スターダスト・ドラゴン/バスターの効果で全て封じられる。そうなると伏せ罠が発動してしまう。
1枚なら対処できるかもしれない、しかし、3枚の謎のカードが発動するのだ。そのリスクは計り知れない。
ギガ・プラントの効果を使って相手の/バスターを除去する…事も考えたが、罠がある以上、特殊召喚相手にチェーンはしてこないだろう。
勿論、ダムドの効果を使ったら、消し飛ぶのは自分になる。

「忌々しい」
「ふははは!もっと罵倒してもいいのですよ!」
愚痴に対してやたらテンション高く反応する
森に来たから相手をしてやったのだが、このテンション、そして自分の巨大モンスターによる蹂躙を阻害する効果モンスターは
アウナにとっては不快極まりない。
更に、悪口を言ったら言ったでやたら喜ぶのも性質が悪い。
最もデュエル中の相手への暴言は禁止されているが、相手が喜んでいるのでこの場合問題はないだろう。
(なんでこんな奴が森に入ってきたのかしら、ああ腹正しい!!)
アウナは時計を見た。 タクティクスタイムは、後30秒を切っている。
イライラは更に募り、そして彼女は、…恐らく考えうる限りでは最悪の行為を行った。
「全部吹っ飛びなさい バトルフェイズ突入。
ダーク・アームド・ドラゴンでリチュア・エリアルを攻撃!」
声を抑圧するのが精一杯。既に彼女の沸点は限界に近かった。
刹那、宣言した事を後悔する言葉が、心の中を支配する。
やがてそれは、理不尽な相手モンスターへの罵倒へと変わっていく。
大体スターダスト・ドラゴン/バスターなんてカードを考えたのはどこの誰だ。
スターライトロードでスターダスト・ドラゴンを出しやすい上に罠カード一枚で―

「…えっと、通ります!
貴方の愛ある一撃で、エリアルと私を貫いてください!」
「…え?」
心の中で愚痴っていたアウナは、文が次に言う言葉は「罠カード発動!」だと思っていた。
しかし、文は何も発動させずに、そのままダーク・アームド・ドラゴンの攻撃を受ける。
勿論、「通ります」と言った以上、どれだけ有能な罠やモンスターがいても、1800のダメージが入り、文のLPは0になる。
アウナはただ唖然としていた。 表情は変わらないが、内心、何が起こったか理解する事ができなかった。


「…実は伏せカードは死者蘇生、バスター・テレポート、スケープ・ゴートでした。
エリアルを攻撃表示にしてたら警戒してくれるかと思ってたけど、いやはや、そのまま攻撃してくるとは。」
いはやはと言いたいのはアウナの方だった。
確かに上の3枚は、モンスターが5体並んでいる状況では役に立たないだろう。 攻撃を躊躇させる事以外には。
だがそれ以上に、アウナは、勝利へ導いた選択が、納得いかなかった。
先程自分が散々嫌った「猪突」が正解だと言うことが、納得いかなかった。
「……考え無し」
「そうですね~。 けど、「何も考えない」というのも、案外悪くないですよ?
何より、『疲れない』ですから。」
せめて空気を読む考えくらいはして欲しいと思った。
が、彼女の言うことにも一理ある。 考えすぎは確かに疲れる。
…それでも、彼女は、目の前の少女を好きにはなれない。
なぜなら彼女からは、自分が消し去りたい程に憎んだ奴らに似ているからだ。
強い肉欲を感じるからだ。
とはいえ、肉欲は確かに強いが、それが同性かつ同世代の少女に向けられている以上、ある意味では安全だろうか。

「……んふふ♪ また来てもいいですか?
今度こそ私が勝ちますよ?」
「…これあげるからもう二度と来ないでよ
イライラする……、煩いのは大嫌い」
本来は勝者に授ける、グローアップ・バルブ(本物)を、アウナは文に投げつけた。
思いっきり投げつけ、思いっきり受け取られたのに、バルブは何事も無かったかのようにうぞうぞ動く。
「っ! な、何これ… 凄く可愛いです!」
「そう…可愛がるなら好きにして、いらなくなったら森に捨てて良いから」
「ふふ、先程もう二度と森に来ないでと言ったのはどこの誰ですか?」
「木の中で苔塗れの死体になって人々に気持ちがられる存在になりたくないのなら、ならさっさと出ていく事ね」
痛いところを突かれて、アウナは…自分でも驚くほど幼稚な言葉で彼女を追い払った。
というより文が「空気を読んで」出ていったか。

「ドッと疲れたわ……」
一人になった森の中、アウナはゆっくりと寝床につく。
グローアップ・バルブをあげてしまった。
それは決別の証か再会の証か。
自分は彼女にまた会いたいのか、会いたくないのか……。
「まあ、彼女なら……可愛がってくれる……よね。」
アウナが睡眠に就こうとした時、いきなり森が騒がしくなる。
アウナは心の中で自分の不幸を呪った。 どうしてこうも連続して煩いのが森に来るのだろうか。

「ふふふははははは!!名探偵ありかの推理に解けないものなどない!!
さあ出てこい黒き森の魔女!! この私のブリザード・プリンセスで、貴様の正体を暴かせてもらう!!!」

殆どの人間がそうであるように、アウナは騒音の類を嫌う。
そして新たに現れた騒音の主は、文の分の怒りも組み合わさった怒りで、あっけなく吹き飛ばされるのだった。



おしまい。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年04月06日 06:05