アマゾネスと百合女

「しゃあ! 『ジャンク・ウォリアー』で攻撃! スクラップ・フィストォ!!」
尼曽根美琴はバトルフェイズでそう宣言した。
相手のフィールドにはATK2800の『アームド・ドラゴン LV7』が1体と永続罠『アストラルバリア』が1枚。
対して美琴のフィールドには『一族の結束』が1枚と『アマゾネスの里』が張られており、
ATK1200の『ドッペル・トークン』が2体とATKが5500まで上昇した『ジャンク・ウォリアー』がいた。
これまでの展開で美琴のLPは6100。
相手のLPもまだ6300とほぼ互角であるが、このターンの攻撃が総て通れば一気に勝ちが見える場面であった。
『ジャンク・ウォリアー』が背中のブースターを点火、フィールドの『アームド・ドラゴン LV7』目掛けて突っ込んでいく!
「……ライフで受ける!」
「なっ!? ダイレクトアタックにするってのか!」
美琴の対戦相手―荒神戦沙―はこの攻撃に対し『アストラルバリア』の効果を発動させた。
「くっ……!」
荒神の前に出現したバリア状の壁に『ジャンク・ウォリアー』の拳が撃ち込まれ、衝撃が走る。
LPが大きく削られるが、彼はあえてダイレクトアタックにすることで『アームド・ドラゴン LV7』を守ったのだ。
美琴のフィールドの残りのトークン2体では『アームド・ドラゴン LV7』は倒せない。
「あたしはターンエンドだ」
しぶしぶ美琴はターンエンドを宣言した。
大きく相手のLPを削った……というよりは削らされたというのが正しいだろう。
その嫌な感触が美琴に警告を与えている。相手は何かしてくるぞ、と。
「ドローステップ!」
身構える美琴をよそに荒神が若干間違った用語でドローを宣言。
「メインステップ……『アームド・ドラゴン LV7』のレベルを10に!」
フィールドの『アームド・ドラゴン LV7』がリリースされ『アームド・ドラゴン LV10』が姿を現す。
攻撃力ではまだ美琴の『ジャンク・ウォリアー』には及ばない。
しかし『アームド・ドラゴン LV10』には恐るべき能力があった。
「アームド・ドラゴンの効果! 手札を1枚捨て相手フィールド上の表側表示モンスター全てを破壊する!」
「うえっ!?」
圧倒的なモンスター除去効果。美琴にこれを止める手段はない。
ATK5500を誇った『ジャンク・ウォリアー』も『ドッペル・トークン』共々破壊され、美琴のフィールドはガラ空きになってしまった。
そこへ追い討ちをかけるように、
「マジック『巨大化』を発動……アームズ・ドラゴンのBPを倍にする! 続いて『突進』を発動!」
「……BPじゃねぇ。ATKだろ」
荒神のマジックコンボ宣言に負けを確信した美琴にできることは、ただツッコむことだけであった。
「あーくそ、負けた。あんた強いな」
これはとある休日の話。
カードショップmayのショップ大会に参加していた美琴は、かくのごとく1回戦敗退を喫していた。
「……いいデュエルだった」
美琴の賛辞にそう応え、マナーとして右手を差し出す荒神の顔はいまいち冴えない
――というよりは物足りなさを感じているようだったが、
「お、おう」
美琴はそんな彼の顔を見ておらずバツが悪そうに握手を返しそそくさとその場を後にした。

大会で盛り上がるカードショップmayの店内。
あちこちでデュエルが行われ決着がついていく中、壁際で美琴は一息ついていた。
「あ゛ー……緊張した。やっぱ男とデュエルすんのは疲れるぜ……」
もちろん相手にもよるのだが、同年代の異性と喧嘩以外ではあまり接点のない美琴にとって
デュエルをするのはまだまだ慣れないようだ。
「クスクス…………喧嘩だと大丈夫なのに、ね」
同じく1回戦を終えた辻がそんな美琴に声をかける。
ちなみに辻はきちんと1回戦を勝ち抜いており2回戦進出を決めていた。
「うっせぇ……苦手……なんだよ。男って」
「クスクス……不良少女ちゃんも中身は乙女……くすくすくす」
キャラに似合わず頬を染めそう呟いてしまった美琴を辻がからかい、
「文句あんのかコラ!」
いつものやり取りが展開されていくのだが……そんな二人の会話に聞き耳を立てていた少女がいた。
左目に眼帯を付けたその少女―里崎文―は、美琴の呟きを耳にし、脳内でとんでもない思考の飛躍を起こしていた。
(男が苦手→女の方が好き→ぺろぺろOK!)
デュエルしている女性陣(の衝撃による色々なチラッ)を見ていたいからという理由で今回の大会には不参加だった文であったが、
こうしちゃいられないと辻相手にギャーギャー騒いでいる美琴に声をかけた。
「アマゾネスのおねえさん! 私とデュエルいたしませんか!?」
「あ? なんだお前?」
「クス……アマゾネスのおねえさん……くすくす」
いきなりのデュエルの申し入れを不審がりつつ美琴は文を見た。
尼曽根美琴は不良である。不良であるが、実は可愛いものが好きだったりする。
そして文は中身はともかく外見だけなら可愛い眼帯美少女なのだ。
普段なら不良的なプライドが邪魔をし自分からは文のような美少女にデュエルを申し込めない美琴であったが、
相手から申し込まれたのなら話は別である。
「お、おう。ちょうど1回戦負けしてモヤモヤしてたしな。いいぜ、やってやんよ」
「くす……がんばってね……色々と」
「あ? なんだ、あいつ?」
意味ありげな応援の言葉を残しつつ辻は2回戦へと出場するため店の喧騒の中へと戻っていった。
「あー…そうだな。店ん中は大会中だし、他所でやるか」
「いいですよ」
かくして文vs美琴のデュエルが成立。
これが後々恐るべき惨劇の幕開けになることを、この時の美琴はまだ知る由もなかった……。

「「デュエル!!」」
場所をカードショップmay近くの公園に移し二人のデュエルがはじまった。
大会中ということもあり公園の中にも人はあまりおらず、のびのびとデュエルができる環境だ。
先攻・後攻を決めるコイントスの結果、文が先攻でスタート。
「私のターン、ドロー!」
彼女はデッキからカードをドローするなり、
「アマゾネスのおねえさん! このデュエル、私が勝ったらそのスリットから覗くふとももをぺろぺろさせてください!」
とんでもないことを言い出した。
「ちょ、おま、いきなり何言ってやがる!?」
尼曽根美琴は不良である。その出で立ちも一昔前のスケバンそのものだ。
上着は『タイガードラゴン』の刺繍の入ったスカジャン。
セーラー服のスカートは通常よりもかなり長い。
しかも喧嘩の際に蹴り技が放ちやすいようにと大胆にも深めのスリットが入っており、健康的な脚が見え隠れする。
デュエルディスクを構えた今も、スリットからブーツを履いた長い脚が覗いている。
そんな美琴に対し変態街道爆進中の文はデュエルがはじまってから、先のようなアンティルール(違)を持ち出した。
デュエル前なら美琴のキャラからして「ふ・ざ・け・ん・な!」と断られていたであろう。
それを見越してデュエルが始まってから言い出すという狡猾かつ理不尽な変態美少女の罠!
「代わりに、私が負けたらおねえさん、私のこと好きにしていいですよ!」
………どちらにせよ文が得するというか文しか得しない理不尽なアンティであった。
「ば、バカじゃねぇの!? お前……その歳でなんだそれ!」
かっとビングした文の発言に呆れ戸惑う美琴であったが、デュエルはすでに始まっている。
文の出した条件を飲む・飲まないはともかくデュエリストとしてここで引くわけにはいかない。
人としてはドン引きなのだが……。
「ちっ、調子狂うぜまったく……」
「さぁ~って、 いきますよ!」

デュエルは終始文のペースで進んでいった。
美琴のフェイバリットカードであり対大型モンスターも兼ねた『アマゾネスの剣士』はすでに2枚奈落に落とされ、
打点を上げるための『一族の結束』は『サイクロン』で割られている。
あげくの果てには『アマゾネスの里』も『ウォーター・ワールド』で上書きされるという始末だ。
美琴のフィールドには『アマゾネスの意地』で蘇生した『アマゾネスの聖戦士』が1体と、
『アマゾネスの闘志』があるのみ。
対して文のフィールドには『一族の結束』が1枚張られており『ブリザード・プリンセス』が2体居座っている。
文のデッキの戦略が上手く嵌ってしまっていた。
美琴のデッキが相手の行動への対応力に乏しいことも、こうなった一因であろう。
「ここまでキレイにはまると、ゾクゾクしますね! 性的な意味で!」
「どうしてこうなった……」
「ふふふ、これで私の勝ちです! ブリザード・プリンセス2体で攻撃!」
結局状況を打開できないまま、文の萌え系魔法使い達によって美琴のLPは0にされてしまったのであった。

「というわけで、その脚ぺろぺろさせてもらいます!」
デュエルが終わり文が手をわきわきにぎにぎしながら美琴へとにじり寄っていく。
「ふ、ふざけんな、こ、このガキ!」
文の変態じみた行動と言動に顔を赤くし美琴が後ずさる。
「約束は約束です! さぁ、さぁ!!」
「した覚えねぇよ、んなもん!」
文が美琴へと飛び掛り目当ての脚線美へと掴み掛かる。
美琴よりも小さい体のどこにそんなパワーがあるのか。恐るべき力で掴んだ脚を離さない。
「捕まえました! これでもう逃げられませんよ…どぅふふ」
13歳にあるまじきいやらしい笑みを浮かべ美琴の脚を掴む文。
「は、はなせ、てめぇ! こ、この変態ガキ!」
「いいじゃないですか、減るもんじゃないですし」
「いいわけあるか、この色ボケ!」
年下かつ女の子ということもあって無闇に暴力を奮うわけにもいかず、
脚にすりついてくる文の顔を必死で押さえ引き剥がそうともがく美琴。
まぁ、暴力を奮ったところで文にとってはごほうびでしかないのだが……。
「ちょ、バカ、スカートひっぱんな!」
もがく美琴に食い下がる文の手がスカートを引っ張り、素敵な布地がちらっと見える。
「キャラに反して予想外の縞パン、グッジョブです!」
「う、うっせぇ!」
下着の趣味を指摘され、美琴の顔が真っ赤になった。
「は、は・な・れ・ろ、てめぇ!」
「いーやーでーす!」
「尼曽根美琴さん! あなたという人は……!!」
いい笑顔(ある意味とてもダメな笑顔)で興奮する文と真っ赤になって必死で文を引き剥がそうとする美琴に対し怒声が響いた。
「げ、氷川」
「公共の場で、このような年下の子になんという破廉恥千万! 今日という今日は許しませんよ!!」
美琴とは犬猿の仲であり、mayの風紀を預かる風紀委員・氷川玲華がそこにいた。
どうやらたまたま公園のそばを通りかかり、美琴と文の姿を見咎めたようだ。
「ふ・ざ・け・ん・な! どう見ても襲われてんのはあたしだろうが! てめぇ節穴すぎんだろ!」
「問答無用! そこに直りなさい! その性根叩きなおしてあげます!」
突然の乱入者に美琴は脚にすがりつく文のことを忘れ、デュエルディスクを構える。
同じく玲華もそうするのが当然であるかのようにデュエルディスクを装着し構えをとった。
「上等だぜ! 今日こそはギャフンと言わせてやらぁ!!」
「ふん、今時ギャフンなどという人がいますか」
お互い相手に食って掛かりつつ高らかに宣言する。
「「デュエルッッ!!」」
「ええと。私はどうしたら……せっかくだしこのままおねえさんの脚を堪能してますね」
急展開にぽかんとなりつつも、決して美琴の脚は離さない強固な意志と行動力を持った変態少女・文。
結局二人の決着がつくまで彼女は美琴の脚を堪能していたのだが、
我に返った美琴にゲンコツをもらった挙句、玲華に正座で説教されることとなったのであった。



おしまい

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最終更新:2011年04月27日 02:32