喧嘩=仲良し?

カードショップmayの近くにある大型駅。
その駅に繋がる巨大な歩道橋の上で、戦いの火蓋が切って落とされた。

「全く貴方は、下校中に買い食いだなんて、恥を知りなさい!!」
委員長・氷川玲華は自分で言う通り、買い食いをしている生徒にしかりつけた。
「あァん? 別にいいじゃねえか買い食いくらい
腹が減っては戦はできぬっていうしな!」
しかられた方の少女、尼曽根美琴もまた、反撃に転じる。
因みに彼女が今食べているのはメガテリヤキバーガー。
その為口の周りに照り焼きソースが付いており、いかにも「物を食べてます」と言っているようだった。
そんな様子が、玲華の怒りを更に爆発させる。 と言っても玲華は外面に怒りを出すタイプではないが。
しかし身嗜みは大切だ。外見を損なえば、人間はどんなに清らかな心を持っていても無駄な事となる。

「最も貴方は、外見を着飾ったところで、中身が酷いですけどね」
「……ほほ~、そこまでいうか!
てりやきバーガー食い終わったら貴様とデュエルだ!
今日こそ謝らせる!!」
「…いいでしょう。ですが私が勝ったら、貴方はこれから私が一週間監視します!」
げっ、そりゃねえだろという表情をする美琴。
彼女にとって犬猿の仲である委員長と共にいる事は、正直精神に異常が出そうなくらい辛い事になりそうだ。
しかしその発言は、聞く人に取ったら好意の裏返しに見えてしまうようで……
「ほほう!一週間監視…つまり一週間同棲か!
よかろう!通りかかったこのエリン・ロリンズ! お前達二人のデュエルのジャッジをしよう!」
「そんなんじゃねえ!! なんだてめえは!!」
「そんなのではありません!私は彼女を監視して不正を働かない為に―」
二人の「そんな」のタイミングは全く一緒だった。
否定するタイミングが一緒と言う事は仲良しの証拠。 少なくとも突如現れたエリンにとっては、そう言う事になっている。
二人が必死に否定するのを無言で、しかし微笑を浮かべながら聞いている。
幼い少女相手なら単なる変態のエリンでも、それ以外が相手なら「冷静なお姉さん」だ。

「全く信じてないようですね!!」
否定が一通り終わってもニヤニヤしているエリンに、玲華と美琴は仲良く苛立ちを覚える。
「じゃあしかたねえ、アタシとコイツがどれだけ仲が悪いか見せ付けてやる!
タッグデュエルだ!!」
「え!? …貴方と私がですか? お互い足を引っ張り合うだけだと思いますがね」
美琴の突如の提案。しかし、玲華は冷静に、デュエルディスクを構える。
少なくとも二人は誤解だと思っているそれを解消するには、仲の悪さを見せ付けなければならない。
「なるほど、寝てもさめてもデュエルでケリか、面白い!
…っとその前に私のパートナーを、そこのお前、付きあってもらおうか?」
エリンが声をかけた先には、デパ地下で大量にスイーツを買いこんだアウナの姿があった。
「…なるほど……ふふふ、貴方は私の敵というわけじゃないのね
敵じゃなければなんだっていいわ。勿論、貴方の言うことを聞く事も。」
意外とあっさり、アウナは突然の勧誘に答えた。どうやら彼女も暇だったらしい。
余談だが「貴方の言うことを聞く事も、なんだっていい」
エリンはその言葉を聞いて、アウナが後6歳下だったらなと思ったらしい。


4人が一斉にデュエルと叫び、歩道橋の上が戦場となる。
エリンの使う剣闘獣は基本的にタッグには不向きだ。何故ならデッキにもEXにも剣闘獣がいない場合、彼らは殆どバニラに近い存在となる。
だが、墓地にモンスターをため辛く、そもそも地力は結構ある為、アウナの足を引っ張る事は無い。
闇属性モンスターが少ないのもアウナにとって都合が良い。ダーク・アームド・ドラゴンを召喚しやすくなるからだ。
ダーク・アームド・ドラゴンを投入するなら闇属性は多い方が良い…というのはシングルだけの話。
タッグでは互いの墓地は同じ場所の為、計算の狂いが生じやすい。
また、アウナのダーク・アームド・ドラゴンの効果でエリンの使う剣闘獣が除外されてしまう事も無い。
即席のコンビながら、「お互いに鑑賞しない」「ビートダウン」デッキのためか、デュエルは当初は二人のペースで進んだ。

怪しげな美女二人の攻防に、いつの間にか美琴は、デュエルの目的を忘れていた。
「……くそっ!やりやがる!
だがこっちも負けねぇぞ!!」
「…勝ったら駄目なんじゃないですか?」
「うるせぇ!やっぱ負けるのは嫌だ!ドロー!」
いくら自分が玲華を嫌いだからって、それでも、デュエルに負ける事が
…そして、玲華が弱い、という事になってしまうことが、美琴には我慢できなかった。
その願いは届いた。
「アタシはジャンク・シンクロンを召喚!!更に墓地からドッペル・ウォリアーを召喚!
それによりドッペル・トークン二体がフィールドに現れる。
フィールドに残っていた最後の羊トークン1体と、ドッペル・ウォリアー、ドッペル・トークン二体にジャンクシンクロンをチューニング!!
来い!ジャンク・デストロイヤー!!」
巨大な破壊者がフィールドに現れ、エリン達のフィールドをがら空きにする。
これにはどうしようもない。 しかし、相手のライフはまだLPが残る。
そんな事くらいわかっている!と言わんばかりに、美琴は伏せカードを発動させる。
それは…
「…アタシは、玲華の伏せた死者蘇生を発動!
…本当は嫌だが、メビウスを召喚! 効果は発動しないが十分な火力だ!!」
その瞬間、アウナとエリンはお互い顔を見合わせ、そして微笑を浮かべた。
刹那、エリンが巨大な拳に吹っ飛ばされた。 LPは0、美琴、玲華コンビの勝負だ。
「危なかった… 委員長のトークンと死者蘇生、そしてメビウスが無ければ負けてたぜ」
「いえ、貴方のアマゾネスの剣士も存分役立ってくれました。」
そして二人はお互い握手を……しなかった。
「……なんで私達はお互いを褒めているのでしょうか」
「ああそうだ!!アタシはお前と一秒たりとも同じ場所にいたくねえ!! じゃあなあ!!」
「ああこら待ちなさい!!話はまだ終わってませんよ!!!」

そして二人は、駅の方へ走っていった。
残された19歳二人は、満足そうな顔で賑やかな二人を見つめる。
「仲良いじゃないか。」
「ふふ、ああいう風に、敵も脅威じゃなければいいのだけどね…ふふふふふ
もっとも負けたのは気に食わないけどね」
「……ごめん。エアトス召喚したいがためにダムドの効果乱発して」
「別に良いわ、私もそうしたと思うし。
…まああの二人、犬猿の中っていうけど
かの前田利家と豊臣秀吉、その犬と猿は仲良しだったっていうし、
「敵同士」とまではいかないかもしれないわね」


美琴と玲華は今日も明日も喧嘩をする。
だが、なんだかんだで同じ場所にいる事が多い二人は、もしかしたら、本質的には同じ、なのかもしれない。



おしまい。

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最終更新:2011年04月30日 21:05