ギャンブル・ハート 前編

あらすじ
カードショップmayはフードを被った集団のカード強盗に襲撃を受けた。
客たちのおかげでなんとか撃退するも、荒れに荒れた店は休業に追い込まれる。
翌日、福本は同僚と麻雀をした帰りに、路地でフードの男に何かを渡す青年を見かける。
白い服に眼鏡の下から覗く細目。その青年はカードショップmayの常連客の一人、頂帝人だった・・・。




封筒を受け取ったフードの男は、指を舐めて紙幣を数えだした。

「へへ、悪いな。これが奪ってきたレアカードだ」
「ご苦労様です」

口元に微笑を浮かべ、帝人は男からトランクを受け取る。
トランクを地面に置き開くと、レアカードのホログラムが街灯に照らされた。

「確かに。尚、この事は他言無用ですよ」
「分かってるって。俺も組織にばれちゃまずい事になるしな。あばよ」

ローブの男は帝人に背を向け、様子を窺う福本とは反対方向に走り去る。

「さて・・・では私も帰るとしますかね」

トランクを閉じ、歩き出した帝人の前に、福本は立ちはだかった。

「そこまでだ・・・帝人」

「おや、福本さん。どうしました、こんな夜中に」

男と取引していた時と同じ微笑をたたえて、帝人は首を傾げる。
福本は彼をキッと見据えて言い放った。

「とぼけるな。話は聞かせて貰った。mayから奪ったレアカードを返してもらおう」

帝人はおもむろに眼鏡を外して放り投げ、髪を掻き乱した。
細かったその眼がカッと見開き、睨んだ。
鷹のように鋭い帝人の眼光に、福本は怯む。

「ふぅ・・・知られてしまいましたか。貴方とも長い付き合いでしたが」

帝人は腕を上げ、パチンと指を鳴らした。

「死んで貰うぜ」

福本の背後で響いたのは、どちらの物でもない野太い声。
次の瞬間、謎の声の主は後ろから彼の腕を捻り上げた。

「サイクロプス、こういう時には役に立ちますね。やはり見張りを付けておいて正解でした」
「畜生・・・一人じゃなかったのか」

腕の激痛と自分の油断に福本は呻く。

「ショップmayでは世話になりましたね。実に楽しい『仲良しごっこ』でしたよ」
「さて眼鏡のオッサン。このまま生きて帰れるとは思わねえよな?」

サイクロプスと呼ばれた覆面の大男は、福本の腕をさらに強く捻った。
骨が軋む鈍い音が響き、あまりの激痛に顔を歪める。

「ヘヘ、どこから折ってやろうか。アバラか?」

サイクロプスが嗜虐的な笑みを口元に浮かべ、腕を折りにかかる。
だが、帝人はそれを制止する。

「離しなさい、サイクロプス」
「ンだよ、せっかくいい音してたのによ」

サイクロプスは不服そうな表情を浮かべながらも、その言葉に従い福本の体を投げ出す。
衝撃で福本はまた呻いた。

「かりそめとはいえ、私と彼は仲間だったのです。せめてもの情けに、彼にもチャンスを差し上げようではありませんか」

帝人は彼を見下ろし、憐れむような口調で言う。
そしてデュエルディスクにデッキをセットし始めた。

「福本さん・・・私とのデュエルで勝てたら、レアカードを返して警察に出頭します。
 もちろん、サイクロプスともどもこの街には二度と関わりません」

「本当なのか」

「ええ。もっとも、私が負ける確率など無に等しい数値ですがね」

「そして貴方が負けた場合。その時は・・・」
言いかけて、帝人はサイクロプスに目をやった。

「お前のその首、へし折るぜ。ポッキリとな」
サイクロプスが拳を鳴らす。

「さぁ、デュエル・ディスクを装着するのです」

観念した様子で、福本はよろよろと立ちあがった。
ディスクをカバンから取り出し、左腕に装着する。
「俺の生き死にを賭けた戦いか・・・・」
ディスクをつけ終えた福本はボソリと呟くと、下を向き、小刻みに震え始めた。

「なんだ、震えてやがるぜ」

サイクロプスが福本を指さし、ニヤニヤ顔を浮かべた。
彼の肩の震えは上下にだんだん大きくなり、やがて俯いた彼の口元から怪しげな声が漏れる。

「フ、フフ・・・!」
「こいつ、いかれちまったのか?」
「ヒャッハハハハハハハハ!!」

路地に大きな高笑いが響いた。
顔を上げた福本が、大口を開けて笑っている。
常軌を逸した彼の様子に、サイクロプスは思わず後ずさりした。

「な、何だこいつ。マジでイッちまってるんじゃねえか」
「違いますね。これこそが彼の本領」

うろたえるサイクロプスとは対照的に、帝人は笑みを浮かべていた。

「『ハンドルを握ると性格が変わる』という人が居るでしょう。彼はディスクを装着すると本性を現すのです」


「命を賭けた勝負!悪くねえ、燃えるぜ!」

打って変わった様子で福本は叫ぶと帝人を指差し、眼鏡越しに睨みつけた。

「仲間や店の子供たちを裏切り騙し、危害を加えた事は許さねえ。だが、デュエルはデュエルだ」
怒りを露わにしながらも、彼は口元でニッと笑った。

「楽しもうぜ、ギャンブルをなァ!」










「デュエル!」
二人の開始宣言が人気の無い路地に響いた。

「先攻は俺が貰うぜ!ドロー!」

福本がオーバーなアクションでカードを引いた。
まずまずの手札だ。内心で彼はほくそ笑む。

「俺ァ裏側守備でモンスターをセット、ターンエンドだ」

手札:5 裏側守備 8000
手札:6      8000 


「私は機皇兵ワイゼル・アインを攻撃表示で召喚します」
「・・・お前も機械族かよ、気に入らねえな」

福本が不快そうに舌打ちした。
それを気にも留めずに帝人はバトルフェイズに移行する。

「ワイゼル・アインで守備モンスターを攻撃します」

モンスターの腕からレーザーが発射され、裏側表示モンスターがリバースする。

「残念、弾くぜ」

眼鏡の奥でギラリと瞳を輝かせた。
リバースしたのはA・ジェネクス・クラッシャー。
闇属性の召喚に対応してカードを破壊する機械モンスター、守備力は2000だ。
その反射ダメージで帝人のライフポイントが200削られる。

「ターンエンドです」

高々200ダメージ、帝人は意にも解さない様子でエンドを宣言する。

手札:5 クラッシャー 8000
手札:5 ワイゼルアイン 7800


「俺はフィールドのクラッシャーをリリース!現れろ、ブローバック・ドラゴン!」

銃器の姿をした禍々しい竜が姿を地に立ち、咆哮を上げる。

「なんだこいつ!?」

サイクロプスが驚きの声を上げる。

「こいつはターンに一度、コイントスを行う事で相手のカードを破壊できるカードよ!」
「・・ほう」
「指定はアンタのワイゼル・アインだ」

福本は無造作にポケットに手を突っ込むと、三枚のコインを取り出した。
三枚の十円玉を、サイクロプスに手渡す。

「投げるのはアンタだ、覆面のオッサン」
「お、俺?」
「ギャンブルにゃ公平な第三者が必要だ。イカサマ防止のためにな。
 帝人の奴ぁ信用ならねえが、その点」

福本はサイクロプスの巨大な体躯と太い指先に目をやる。

「アンタは見るからに不器用そうなナリだ」
「その通り。彼はイカサマができるほど賢くありません」
「てめえら!」

敵味方二人に馬鹿にされ、サイクロプスは鼻息荒く地団太を踏んだ。

「コインの裏表は地面に落ちた時の面で判定するぜ。手の甲を使ったんじゃイカサマし易過ぎるからな」
「いいでしょう。サイクロプス、理解できましたか?」
「馬鹿にすんな!畜生!」

サイクロプスは乱暴に次々とコインを投げた。
コインは地面に落ち、帝人と福本の間に散らばる。
結果は――表・裏・表。

「すまねえ、帝人!」
「効果成功!吹き飛びな!」

放たれた銃弾が目標を撃ち抜き、ワイゼルアインは爆散した。
その土煙の中から、要塞のような巨大機械モンスターが現れる。

「ワイゼル・アインは倒したはずだろ?何だこいつは」
「ワイゼル・アインが破壊された事により、私は手札から機皇帝グランエル∞を特殊召喚させていただきました。
 グランエルの攻撃力は私のライフポイントの半分の数値」

そう言われて福本はディスクのライフカウンターを見る。
まだデュエルも序盤、帝人へのダメージは最初の反射ダメージのみ。

「つまり、3900です」
「・・・マジかよ」

思わぬ巨大モンスターの登場に福本は息を呑む。

「カードを一枚セット。ターンエンドだ」

手札4 ブローバック 伏せカード1 8000
手札4 グランエル 7800


「では私のターン」
「行けー帝人!そんな奴ぶっとばしちまえ!」

高攻撃力モンスターに興奮したサイクロプスが鼻息荒く応援する。
帝人は心底鬱陶しそうな目線を彼に送ると、ため息をついて攻撃宣言した。

「グランエルでブローバック・ドラゴンに攻撃します」
「へへ、かかったな」

福本が舌を出しリバースカードを発動する。

「《リミッター解除》を発動!返り討ちよッ!」

魔法の効力を受け、ブローバック・ドラゴンの体が発熱で赤くなり、煙が噴き出す。
打ち出された弾丸はグランエルを貫き、帝人にダメージを与えた。 

「ヘッ・・・同じ機械族使いなら予測できたはずだぜ。
 どんな高攻撃力だろうと、伏せが一枚ありゃ警戒すべきなのがリミッター解除だ」
「・・・・・・」

帝人は何も言わず押し黙る。

「ま、俺を舐めてるんなら構わないさ。アンタとの勝負に勝ち、あの店から手を引いてもらうまでよ」
「・・・私はメインフェイズ2で機皇兵スキエル・アインを召喚。カードを一枚伏せ、ターンエンドです」

抑揚のない声で帝人はエンドを宣言する。
ブローバック・ドラゴンは魔法カードのデメリットにより動きを止め、自壊した。

手札4 8000
手札4 スキエルアイン 伏せカード1 7100


「ケッ、雑魚モンスターかよ。俺のターン、ツインバレル・ドラゴンを召喚!
 こいつは二枚のコインが両方表ならカードを破壊できるモンスター。対象はスキエル・アインだ。おいオッサン!」
「命令すんな!お前もオッサンだろうがよ!」

サイクロプスは青筋を立てながらコインを放り投げる。

「すまねえ、マジですまねえ帝人!」

結果を見たサイクロプスが声を上げる。
コインは両方とも表だったのだ。

「爆散ッ!」

スキエルアインは銃弾に撃ち抜かれて爆発する。

「・・・スキエル・アインの破壊により、私は機皇帝ワイゼル∞を特殊召喚」

砂煙にまみれた中、またしても赤い眼光が輝く。
やがて爆風が消え、白い機械の巨人が姿を現した。

「なんつー往生際の悪いデッキだ」

福本は驚きながらも魔法カードを発動する。

「俺は手札から魔法カード《融合》を発動!」

その言葉を受けて、ワイゼルの腕から放たれたレーザーが融合を撃ち抜いた。
魔法効果を一度だけ無効にする事が出来る、ワイゼルの持つ能力。
だが福本は涼しい顔で、手札に手をかける。

「結構、もとよりこいつぁ囮よ!」
「何ですって?まさかもう一枚融合が・・・」
「んなモン無ェよ!
 魔法カード《カップ・オブ・エース》を発動ッ!こいつで引き当てるまでだ!」
「カップオブエース・・・だと?」

帝人が驚くのも無理は無かった。
『コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローし、
 裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする』
福本がドローできる確率は2分の1。
失敗すれば3枚ものアドバンテージを与えてしまう上、デッキから融合を引き当てる確率は決して高くない。

「ええい!裏出ろ!」

サイクロプスがコインを投げる。
コインは地面で回転し、平等院鳳凰堂を上に向けて動きを止めた。

「どうやらこのディーラーは俺と相性が良いらしいな。ドローさせて貰うぜ」
「・・・まあいいでしょう。高々2枚のドローでそう都合良く手札に加わるとは思えませんね」

福本はカードを2枚ドローする。
2枚目のカードを見た瞬間、彼の顔には再び「ニヤリ」が浮かんだ。

「ヘッ・・・引いたぜ、もう一枚な!《融合》発動!」
「馬鹿な!」

「手札からブローバックとリボルバーを捨て、ガトリング・ドラゴンを融合召喚ッ!」

金属の軋む音を立てながら、三つ首の竜を象った禍々しい銃火器がフィールドに出現した。
その攻撃力は2600、ワイゼルの攻撃力をわずかに上回る数値だ。

「このまま攻撃してもワイゼルは倒せるが、誰かさんのお陰でツイてるからな。
 ダイレクトを狙わせて貰うぜ!さあ、ギャンブルだ!コインを投げな!」

「畜生ー!!破壊させてたまるかぁぁぁ!!」
サイクロプスは大声を出しながら三枚のコインを次々に投げる。
その願いも空しく、コインが示した面は表・表・裏。

「蜂の巣だァ!」
無差別に放たれた銃弾が、ワイゼルとツインバレル・ドラゴンを撃ち抜いた。

「悪いが勝負は貰ったぜ。今の俺にゃツキが来てるからな!」

「馬鹿な・・・不合理にも程がある!」
端正な顔を怒りに歪め、帝人は声を荒げた

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最終更新:2011年05月05日 05:14