あしなが無双おじさん

レアハンターは、時に大暴れをする。
今日もまた、彼らは徒党を組み、mayの街に襲い掛かる。
彼らはレアなカードを欲し、街を徘徊し…デュエリストと見れば、それがどんな相手でも、果敢に挑む。
故にレアハンターが暴れる日は、腕に自信のないものはデュエルディスクを仕舞い


そして、腕に自信のあるものは、戦う。

(けど、これは「ハズレ」を引いてしまいましたね。)
眼帯をコリコリと掻きながら、文は心の中で愚痴る。
彼女は今日がレアハンター大暴れの日だという事を忘れており、デュエルディスクを付けたまま学校に登校。
その途中でレアハンターに捕まり、デュエルする流れとなった。
しかし今彼女のライフは400しかなく、フィールドも伏せカードが3枚あるが、相手の攻撃を防ぐ伏せカードではない。
手札は5枚。だが、相手は手札を気にせずに攻撃を仕掛けてくる。
「悪いわね、けど、これも仕事だから!」
対戦相手は、女性だった。
今のLPは8000。
フィールドには、BF-アームズ・ウィングと、伏せカードは2枚。
手札は2。カルートは既に使いきっている為その心配は無いが、このターンで勝負を決めなければ、負けてしまう。

相手の女性レアハンターは、強い。
単に強力なデッキを使っているだけではなく、駆け引きや咄嗟の判断力など、目を見張るものがある。
しかし、だからこそ負けられない。
「ふふっ、どうせなら夜の仕事をしたいところですね!
さて、今思考しても仕方が無い、ドローしてから考えますか」
某キャラクターの台詞をパクりながら、文はそのドローに
…そして、「相手の戦略」に賭けた。

「私はまず、召喚士セームベルを召喚し、死者蘇生でデルタフライを蘇生させます!」
「デルタフライ召喚時に激流葬を発動するわ!」
セームベル1体ならまだしも、チューナーモンスターを出されては敵わないと、相手は罠を発動する。
しかし、これで自分フィールド上にて破壊されるカードは2枚。
つまり、あのカードを発動させる事が出来る。
「私はその瞬間、スターライト・ロードを発動!」
「っ! しまった!!」
相手はその瞬間、自らの行いを反省した。
…実はこのデュエル中、文の切り札であるスターダスト・ドラゴン/バスターは出現している。
しかし効果を使用後、DDクロウにて除外されてしまったのだ。
故に相手は、文のデッキがスターダスト・ドラゴン/バスターの召喚に特化したデッキだと知っている。
知っている筈なのに、迂闊な破壊罠を使ってしまった。
(手札に死者蘇生があるから、油断した…!)
相手は強い。だが、それでも人間だ。
その1回のミスが、流れを変えた。

ライトロードの効果により、文のフィールドにスターダスト・ドラゴンが召喚される。
だがそれは、一度破壊を無効化したら二度と復活できない、紛い物のドラゴンだ。
…そう思っていた相手は、アームズ・ウィングをリリースし、ゴッドバード・アタックを発動させる。
対象はデルタフライとスターダスト・ドラゴン。
だが、この場合、スターダスト・ドラゴンの効果を発動させるのがメインだ。
(このターンさえ凌げれば、勝てる!)
しかし流れは確実に変わっている。今BF使いの取る手は、裏目に出る流れだ。
「ふっ!ゴッドバード・アタックは常に警戒してましたよ!!
スターライト・ロード二枚目を発動!!」
「なっ…!!」
ここから先、女性の取れる手は無い。
無情にもアームズ・ウィングはフィールドから去り、フィールドはがら空きになる。
そして相手のフィールドには、スターダスト・ドラゴンが2枚。…と、どうでも良い小娘1枚。
だがその小娘は、効果によりミンゲイ・ドラゴンを特殊召喚し、そのドラゴンを除外してレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンが降臨。
そしてそのレダメの効果により、最初期にバスター・モードの為リリースされたスターダスト・ドラゴンが復活した。
今のライフから考えると明らかにオーバーキルだろう。
だが、文は、相手の女性の手札のゴーズを警戒していた。
事実女性の手札にはゴーズがある。
だがここまでされては、ゴーズとカイエンが召喚されようと、意味は無いだろう。
それに、最後の伏せカード…、あれは恐らく。
「…負けよ、そのカード、バスター・モードでしょ?」
勝利が絶望的でも諦めないのがデュエリストの理想といわれるが、
しかし、結果を冷静に判断し、そしてすぐにそれを受け入れるのも、悪い事ではない。
「ふふん、私の勝ちですね!」
「…良い勝負だったわ。」
そして女性は、アンティカードを差し出す。 …BF-精鋭のゼピュロスだ。
だが文はカードの受け取りを拒否する。
「カードも良いですけど、…私は貴方の体のシャッフルをしたいですね」
「お断りするわ」
1秒だった。


結局文は、ゼピュロスを手に入れた。
何とか勝てたものの、この先レアハンターに絡まれる事を警戒し、ディスクを隠す。
周りではモンスターやデュエリストの叫び声が聞こえる。
恐らくレアハンターとデュエリストが戦っているのだろう。
もしくは周りのデュエルの熱に感化され、アンティ無しで戦っているか。

そんな時だった。
文の目の前にいるレアハンターが、「壊れた」のは。
彼は目を見開き、狂ったように笑っている。
手札のカードを地面に落とし、がら空きのフィールドが表示されたデュエルディスクを見つめながら…笑っている。
「ははは…ははははははは!!!」
これは逃避だ。
信じられない事が起こった時、人間はとにかく笑う。
これは冗談だ、面白い冗談だ、笑えて来る、そう思って正気を保とうとする。
…が、レアハンターが正気に戻ったところで…彼の負けは決定的だろう。

「口は達者だが、どうやら、口だけだったみたいだね」
対戦相手の男が、残念そうにいう。
彼のフィールドには、真六武衆-キザンが2体。
六武衆の師範代が1体。
そして、団結の力を装備したヤリザが…2体。
そして伏せカードも3枚ある。
圧倒的にも程がある状況だ。
「では、キザン2体、師範代、ヤリザの順で攻撃させて貰うよ」
「ああはあああああああああああああああああああ!!!!!」
笑いは絶叫に変わり、そして武士達の刀が、笑い声の主を切り裂いた。

レアハンターのデッキからは、キザンのカードが飛び出した。
どうやら六武衆デッキのミラーマッチだったらしい。
なるほど、同じようなデッキを使ってあんなに差をつけられる。 狂いたくなる気持ちもわからなくはない。

勝者の男は、40くらいの、しかしナイスミドルな男性だ。
スーツを着たスリムな男で、立派な髭を生やしている。
文が普通の性癖なら、おそらく見惚れていただろう。

しかし、文は残念ながら男性に興味は無い。
だが、その男性が知り合いとなれば、無視するわけにはいかない。
文は小さな拍手を贈りながら、その男に話しかけた。
「久しぶりですね、なののパパさん」




なのの両親は、幼い頃に事故で亡くなっている。
…というのは、嘘だ。
彼女の両親は、今もピンピンしている。

だが、なのの両親は死んでいる事になっている。
理由は簡単だ。
「相変わらず正体を隠しているんですね」
と、文が言う通りである。
この両親、なのがサイコデュエリストである事を知っていこう、彼女には正体を隠している。
何故ならなのには、「家族」を傷つけて、塞ぎこんで欲しくないからだ。
…エリンや湖など、カードショップmayの常連だけを見れば、サイコデュエルで他人を傷つけ、そして自らも心を閉ざすという事例は考えにくいかもしれないが
しかし、カードショップmayの外に目を向ければ、そういう事例は沢山ある。

だが、事実、なのは家族ではないが、友達を石に変えてしまい、塞ぎこんでしまった。
結局は時間稼ぎでしかなかったのだ。
「今更出ていってもなあ、というのがあるからね」
幼い頃に捨てて、それすらも無駄になってしまった。
だからこそ、父親はなのに、名乗れないのだ。
「俺はお前の父親なんだ」と。

「俺はまあ、永遠にあの子の「あしながおじさん」で良いよ。
幸いにも彼女は自分で力を克服し、そして君のような素晴らしい友人も出来た。
なにより彼女の従姉が立派な母親っぷりで、良く育ってる。
……逃げとか怖いといえば、そうなるけど、今の彼女の生活を潰したくはないんだ」
文は黙って聞いている。

あしながおじさん。 彼はそう名乗り、娘と出会っている。
なのが小学生を石化させ、世間の目からバッシングされる事態を収拾したのも
…あしながおじさんである自分が、頑張ったからだ。
彼は父親という身分を隠しながら、娘を守っている。
あしながおじさんとして、彼は娘をこれからも守っていく…彼女が、自分を必要としなくなるまで。

それが彼に出来る最大の愛情だった。
「……む~ん。」
それは文にもわかる。けど、文は彼の作戦が、既に「失敗している事」を知っている。
だが、それは口に出さなかった。
他人の家族の事を口に出すのも無粋だ。
それに…そろそろ本気で向かわないと、学校の給食に間に合わなくなる。
「まあ、良いですけどね。 …んでは、また会いましょう。
なのちゃんにもよろしくお願いしますよ!」
「ああ、また会おう
出来れば娘にセクハラはやめてくれ」
そして文は、遠くに消えていった。


なのの父は、携帯電話に入ったメールを見る。
なのからのメールだ。

タイトルは、「父の日」本文は「プレゼントは、何が良いですか? …お父さん」


「…わかってるよ文ちゃん
俺が、なのに全てを見抜かれてるってのは」
親子の絆は硬い。 硬いからこそ…彼はいつまでも、父と名乗れない。
それがどれだけ無駄なことかはわかっているが……。
「ま、良いか
なのが立派になるまで、俺は見守るだけさ。
…そして彼女が間違いを犯したら、正すだけさ。」

そんな彼の前に、一人のレアハンターが立つ。
「…挑戦者かい? 今の俺は機嫌が良い
そう簡単に勝てると思うなよ?」

レアハンターは、時に大暴れをする。
だが、そんなレアハンターを狩る者もまた、時に無双の如く活躍を見せる。

なのの父は今日も、無敗でその日を負えたのだった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年06月16日 21:49