シークレットパートーナー 序

それは七月の上旬のこと。つい先日まで台風の影響やらで強風が吹きすさび、
あららこれで扇風機いらず、今は本当に夏が来ているのかしら等と言っていたのは
昨日のことであるのに。あの強風が暑さを引きつれてやってきていた極悪たる尖兵だったことに気づいたのは
今日の朝方のことだった。
太平洋側を通過していた台風の影響で吹き荒れていた強風は既に過ぎ去り、僕が目を覚ました時には既に
無風。
ジトジトと汗が肌に張り付く鬱陶しさが僕を目覚めさせるも、その目覚めは一言で言えば最悪で。
悪い意味でいえばこれぞ夏、来たぞ夏、と感じさせるのに十分な再会を僕に与えた。
よくぞきた、夏。だが来るなら事前に連絡がほしかった。
君から前日に電話の一本でも貰えたなら、僕はすぐに自室の部屋のクーラーを付け、
君を一切この部屋に入れなかっただろう。その時は許してくれとはいわない。
必死になって入れて入れてとドアを叩き続ける自然現象様の図が、セミロングの眼鏡っ子に擬人化されて
俺の脳内妄想をかきたてるが、この微妙な湿り気を帯びた体の感覚を味わうくらいなら、
その夏擬人化ロリッ子を暫くは招き入れることなく過ごしたくなる。

のろのろと立ち上がると、僕は窓を閉め、エアコンの起動スイッチを入れた。
少し間をおいて、そこから冷風が吐き出され始める。おお、これぞ人類の英知。
某県の発電所から端を発する節電のことなど知ったことか。今日だけは電気料金のことも考えないことにする。この小さなアパートの一室を制するのは僕であり、僕こそが王なのだ。
こじんまりとした六畳間の一室の中でだけは、僕は王と成り得ることを許されているのだ。
そう、この宝敬介(たから けいすけ)こそが。
ガサリ
そう考えてもう一眠りしようかと布団に横たわった時だ。倒れこんだ拍子に、僕の頭に何かが触れた。
手にとったそれを確認すると、それはカードだった。
「いけね・・・デッキ構成してたの忘れてた。」
僕は起き上がると、枕元に目をやる。そこには一塊のカードの壁が築かれていたのだが、今の衝撃でか崩れ去り、乱雑に散らばってしまっていた。
「あーめんどくせー。やっぱ寝る前にケースに仕舞っとくんだった」
と言っても後の祭りであり、僕はその膨大なカードの砂漠に嫌気が差しつつ、一塊づつ手にとる。
幸いなことといえば、デッキとして構築した分には既にスリーブが被せられ、余りカードときちんと区別されていた。
「さ、てと。どんなデッキに仕上げてたんだっけ」
僕は余りカードを片付けると、早速とデッキの確認を行う。
「ああそうだ。サイキックなんて作ろうとしてたっけ。今のご時世、もう終わった種族って感じがアリアリだってのにな。なんでまた」
ぼそぼそと呟きながら、僕はデッキを一通り眺めると、次にエクストラデッキに目を移す。
「えーと、マジカルアンドロイドに、AOJカタストル、ブリューナク、ゴヨウガーディアンに、レッドデーモンズドラゴン、あと」
と眺めている時である。一枚のカードに目が止まる。
「ハイパーサイコガンナー・・・フルドライブ」

それは、昨日のことである。隣り駅のカードショップにて、新台のデュエルターミナルに挑戦していた時の事だ。DT第○△弾。その日から稼動が開始し、どんな新カードが入っているか調査していた時のことだ。
僕は先ず、置いてあったチラシにて内封カードのチェックを行った。
「おお、今回は意外と新カードが多いな。復刻カードが3分の1で、残り三分の二は新規か。で、気になるスーパーとパラレルレアは・・」
僕は心躍らせながら調べてみる。どうやら目玉のカードは三枚存在しているらしい。
内の二枚は奇妙なことに、名前非公開。当てて確かめてくれ、とある。
残りの一枚、唯一名前が公表されている、最上級レアカードの名は
「なんだこの・・・バイオレットアイズシルバードラゴン。青眼さんの親戚か?」
ネタが尽きたのかコ○ミ、などと皮肉を心の奥底で呟きつつ。しかし心の別フロアでは、その新規カードに
胸ときめかせたいた。僕は財布の中身から千円札を取り出すと、それを両替機に押し込んだ。
大体、これぐらい回せば、良いレアカードが来るかどうか判断できる。
これだけ回す間に、特定のレアカードか特定のトラップカードが出るなら、高確率でその後には激レアカードが来る。これが僕の周りで実しやかに噂されるジンクスである。
次々と飲み込まれる小銭、吐き出されるカード。
割合でいえば、どうやら四枚に一枚の確立でレア以上が入っているらしい。
前の人が回した名残か、二枚目と五枚目にレアがでた。となると次は九枚目で。
「あ、魔封じの芳香!キタコレ!」
僕は狂喜乱舞した。この罠カード、魔封じの芳香こそが、上のジンクスにある激レアカードがくる予兆と言われるカードのうちの一枚なのだ。ということは次、十三枚目で何かがくる。
運が良ければシークレット、最悪でもスーパーレアが手に入る。
どうするか、諦めるか。実際には要らないウルレアがくる事の方が多かった。しかし、しかし期待せずには
いられないではないか。迷うな僕、これが伝説の幕開けとなるかもしれないじゃないか!
あわよくばバイオレットさんがいらっしゃるかも知れないぞ、他の公開されていない、未知のレアカードだったとしたらどうだ。迷いは吹っ切れた。今はただ突き進め!!
僕はいそいそと両替機へ向かう。小銭がでるまでの僅かな隙でも、誰かが回してしまわないか気が気でない。
早く早く、急げ早く。焦ってクシャクシャになった千円札を両替機の口は拒み続けるように入りづらい。
だがそれでも入った。早く来い小銭。ああ、誰か見知らぬ男達が台を見ている!
それちょっとまったあああああああああああああああああああああああああああああああああ
ガッ ザッ チャリン
一陣の風の如く、先ほどの台に舞い戻ると、僕は無言で小銭を投入していた。
「ねーママーなんであのオジちゃんひっしになってゲームしてるの?」
「シッ、見ちゃいけません」
と冷ややかな視線を向けられているのも物ともせず、僕はカードの取り出し口からわずか見えるカードの枠を
睨み付けていた。
十枚目、緑、十一枚目オレンジ、十二枚目緑、そして気になる十三枚目・・・・白!!
シンクロカード、しかも輝いている!あり得ない程の輝きが、取り出し口の僅かな隙間から覗かせていた
そのカードは、無駄に輝きを放っていたのだ。見切った!大当たりを確信し、俺はそのカードを
引 き 抜 い た

結果がこれである。
「はぁ・・・折角、凄いカードを期待したのに。紫眼の銀竜様が光臨なさったと思ったのに・・・」
俺はその当時を思い出しながら、呆然とその無機質な幻想(どう見てもクズカードです。本当にありがとうございました)を眺める。
「ぎーんーのーりゅーうのー背にーのーおーってー・・・・いこーおぜー」
何だか歌いだす。悲しくなってなのか、むなしくなってなのか。
確かに、このhypsガンナーフルドライブ、恐らくはあの伏せられていたシークレットの内一枚であるようだ。今までに聞いた事がなく、存在しなかったカードだ。攻撃力三千ある。そこそこ強い。
しかし、これは余りに使い勝手が悪い。詳細は以下の通りである。
レベル⑫地属性 サイキック族
AT3000 DT2600
このカードは、シンクロ召還できない。自分フィールド上のハイパーサイコガンナー/バスター一体とサイキック族モンスター二体をゲームから除外した場合のみ、特殊召還できる。
自分フィールド上に「脳開発研究所」ある場合、その上にカウンターを二個載せることで、自分の墓地に存在するサイキック族モンスター一体をターン終了まで召還条件を無視して特殊召還することができる。「脳開発研究所」の上に存在するカウンター一個につき、フィールド上の全てのサイキック族モンスターの攻撃力を百ポイントUPすることができる。

である。けして弱くはないだろう。むしろ強いと思う。しかしあまりに召還条件が厳しいようにも思える。
そもそも、サイキックなど使ったことがない俺にとって、サイキック族というだけで使いこなせるか不安であった。だが、手に入れたものは仕方がない。使ってやるか。というやや上から目線な感じがしてくる考えもあって昨夜、僕はコイツを出すためのデッキを作り上げた。
しかしあまりにも雑である。
「まあ適当でいいよな。お、この強化人間サイコ強そう。/バスター入れるって事はバスビーとリターナーも入れた方が良いか?1のメンタルスフィア制限なのか・・・・だったら他種族のレベル1チューナー入れて、と。後は・・・ゲゲッ、クレボンス一枚しか持ってねえ。まあ、なんとかなるか?」
基本的にサイキックは使わなかった僕の手元には、それ関係のカードは少なく、その僅かなカードや貰い物、十円コーナーに並んでいるカードで作った安上がりなデッキがせいぜいだった。
どんなデッキでも作るなら強いものにしたい。そんな当たり前の思いが、このデッキには未だ沸いてこないのだ。使ってればその内に沸いてくるだろう。そうしたら真面目に向き合おう。
そういう考えに至り、昨晩で一応の完成としたのである。

だが何故だろう。そこまで興味がないカードならば、正直売った方がマシじゃないか。
どうして彼、宝敬介はそうせずに、しかもデッキまで組み上げようとしたのか。
これはそう、彼と彼の相棒となる一枚のカードの長い長い戦いの日々の幕開けなのだと、
誰も知る由もなかったのであった

つづく?

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最終更新:2011年08月08日 09:43