結社の檻 1

無許可にてキャラを使わせて貰っています。
問題あれば報告お願いします。







月明かりの夜道に一人歩く青年。
フラフラとした足つきで時折おぼろげに星を仰いだ。

「持って1年か…」

妹の死期を知らされた日だった。

アキオには血の繋がっていない妹が居る。母の連れ子だ。
年は8つばかり。だが小さい頃から体が弱く、ろくに学校へも行けないほどであった。
夫婦間の仲は良いのだがどちらも子供への関心は薄い。故にアキオは不憫な妹を大切に思った。

「大丈夫、絶対元気になれるから。そしたら兄ちゃんと夏は海で泳いだり砂の城を作ってさ。冬は…そうだな…」

病室で喋りながら溢れそうになる涙をずっと堪えた。辛い毎日を送るのを覚悟して。


そうして歩いていたが、目の前の光景に足が止まる。
見ればまだ小学生ほどの少女が黒服の男に連れられている。

「こんな時間に子供が…?」

アキオは速度を合わせ、距離を取ったまま跡をつけた。
すると路地裏に1台の車が走ってくる。迎えが来たのだろう。

「なんだ、いいとこの娘さんか」

その場を去ろうとしたが妙な事に気付いた。
どうしてこんな時間に?こんな薄暗い所で迎えが?
もう一度目をやると、少女は車に連れ込まれる様だった。
アキオは衝動に駆られ走り出した。

「やめろっ!」

連れていた黒服の男の顔に拳が入る。
車を運転していたであろうもう一人の男にも、躊躇わずに放った右手がみぞおちに当たった。

「今だ!走ろう!」

驚いた顔をした少女の手を掴み、息が切れるまで走った。
限界を感じた所で物陰に身を潜める。

「ハア、ハア、もう大丈夫か…?」

呼吸を整え少女の方を向く。

「お嬢ちゃん、大丈夫だった?」
「ハア、ハア、大丈夫って、何?」
「怪しい黒服の男に連れられてたからさ、こんな時間に歩いてたら誘拐されるぞ」
「連れられては居たけれど、誘拐じゃないわよ」
「それは悪い大人を知らないからだって。あんなの誰が見たって怪しい…」

カチャ

「そこまでだ、坊主」

背中から銃を突きつけられる。しまった、まだ仲間がいたのか。
興奮状態が収まり血の気が引いていく。
何故こんな事をしたのだろう…見ず知らずの人間の為に…
間違いないのは少女に妹を重ねた事。単純な発想に無謀な行動をとった。
軽率だがそれほどにまで今、命に飢えていたのだ。
両手を上げ、生き残る術を必死に考える。

「撃つのは待ちなさい。どうも手先では無いみたいだわ」
「…はっ、かしこまりましたリリカ様」

少女が命令口調で男と話し出した。その様子と銃の感覚によりアキオは動揺している。

「貴方、とんでもない事をしたわね。普通なら殺す所よ?でもその行動力に免じて今は許してあげる」
「ど、どういうことなんだ?」
「ここで話すのもそうね…いいわ、着いて来なさい。貴方を招待するわ」

状況が掴めない。ただこの少女は黒服の主人である。アキオにもそれは分かった。
(って事は余計な事をしたんだな…)
元居た場所に戻り誘われるまま車内へ入る。
窓は真っ暗で外からも中からも何も見えず落ち着かない、異質な空間だった。
(どこかの令嬢なんだろうけど、厳重だな…)
怪しい感覚を覚えながらも下手な事を口出すのは控えた。
無礼を働いた負い目と銃を突き付けられた恐怖からである。
車は静かに動き始めた。

「そういえば名前を言ってなかったわね。私はリリカ、リリカ・ベーゼルンよ」
「あ、ああ。俺は天陰アキオ」
「ふうん、変わった苗字ね」
「よく言われるよ、だから気軽に名前で呼んでいい。ところでリリカ、これからどこ…」
「馴れ馴れしいわね。リリカ様と呼びなさい」

…ん?
アキオが一瞬困惑する。
いきなり名前で呼んだのを馴れ馴れしいと言えばそうかもしれない。
だがその後に様付けを要求するのは別だろう。

「ええっと、リリカ様?」
「なにかしら?」

そう呼ばれてリリカはフフンと顎を上げ、見下ろすようにアキオを見た。
鼻高々な気分であろう。リリカは満足気にしている。

「(まあ、いいか…)それで、これからどちらへ?」
「その前に貴方に聞いておきたい事があるわ。質問はその後よ」
「はあ」
「アキオ、貴方は神を信じる?」

腕を組み全身をこちらへ向けリリカは話す。真面目な目をしていた。
アキオは正解の返事を考えたが、一先ずは正直に答えようと思った。
そこでお嬢様が気に食わないのなら上手く訂正して角を立てなければいい。

「いやしませんよ、神なんて。居たとしても幸せをばら撒かないケチな神ぐらいじゃないですか?」
「あら、まるで自分が不幸みたいに言うのね」
「…誰だって少しは不満くらいあるんじゃないですかね」

言った後子供に何を言っているのかと思ったが、リリカはうんうんと頷いていた。

「じゃあ悪い神や悪魔は居るかしら?」
「さあ…?居てもおかしくないでしょうけど。ってか宗教の勧誘ですか?」
「失礼ね。私をオカルト集団と一緒にするなんて」
「へえ…で、リリカ様は信じてるんですか?」

適当に話を合わせて言ったが、リリカは座席に前のめりになり、アキオの顎に手をかけ顔を自分の方へ向けた。
顔と顔の距離が数センチ程度になり、じっとアキオを見つめ囁いた。

「いるわよ。混沌の神が」

車が止まり、ひょいとリリカは車から飛び降りた。
ふわりと背中のリボンが舞う。アキオは呆然としていたが誘われるまま続いて降りる。
薄暗い。足音が響く。ここはどこかの施設の中だろうか?
奥には鉄製の扉があった。リリカは扉の中央に描かれた六芒星に手を重ねる。
ズズズと重そうな音が響いた。
振り返り、リボンが舞うと最高の笑顔で言い放つ。

「ようこそ。楽園<エデン>へ」

扉は開かれた。

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最終更新:2011年11月15日 01:49