「先攻はくれてやるぜ。カードを引きな」
「お言葉に甘えさせていただきますわ。後悔なさらない事ですね」
カマリエはドローの後、モンスターをセットする。
さらに二枚の伏せカードを出し、ターン終了を宣言した。
「ギャンブラーさん、貴方の番ですわ」
カマリエ・セルフィッシュ
手札:3 LP:4000
場:裏守備*1 伏せ魔法罠*2
福本 哲也
手札:5 LP:4000
「俺のターンだ」
初見の相手が伏せた三枚…相手のデッキ傾向も分からぬまま、迂闊に攻め込むのは良い判断とは言えない。
それに対して奴はどういう訳か俺を狙ってやってきた刺客…俺のデッキ内容もおおよそ調べがついている事だろう。
カマリエの場に並ぶ伏せカードを前に、福本は思考を巡らせた。
暫くの思考の後考えがまとまった彼は、一体のモンスターを召喚する。
「召喚、ツインバレル・ドラゴン!」
青い機械竜が裏守備モンスターに照準を定める。
福本は無造作にポケットに手を突っ込むと、一枚のコインをカマリエに投げてよこした。
「イカサマ対策だ。アンタが投げな」
「10円玉…細工は無いようですわね」
「当たり前だ。…昔、両表のコインを用意してまでイカサマしやがった奴が一人居たがな」
かつてイカサマで自分を破った男を思い出し、福本は苦々しげに吐き捨てる。
「成程…その手がありましたね」
「おい」
「ご安心を。私はそのような真似はいたしませんわ」
カマリエはコインを投げる。
コインは宙を舞い、彼女は手の甲を受け止める。
開かれた手の中、コインが示したのは…裏。
「ふふ…残念でしたわね」
「分かって無ぇな。勝負ってのは負けがあるから楽しいのさ。
…ツインバレル・ドラゴン、裏守備モンスターに攻撃!」
福本の指示を受け、タックルを仕掛けるツインバレル・ドラゴン。
攻撃により表になったガス状のモンスターは福本に襲いかかった。
「ぐっ…これは…!?」
「ジャイアントウィルスの効果を発動。
貴方に500のダメージを与え、さらにデッキから同名モンスターを二体特殊召喚させて頂きますわ」
デッキよりサーチされたジャイアントウィルスが二体、セットされる。
「上級モンスターへの布石か…」
福本は繰り出されるであろうモンスターに備えて二枚のカードをセット、ターンを終了する。
カマリエ・セルフィッシュ
手札:3 LP:4000
場:ジャイアントウィルス*2 伏せ魔法罠*2
福本 哲也
手札:3 LP:3500
場:ツインバレル・ドラゴン 伏せ魔法罠*2
「私はモンスターを生贄に捧げますわ」
二体のジャイアントウィルスが合体する。
ガス状の体は操り人形のように動き出し、悪魔のシルエットを形作ってゆく。
「召喚、絶対服従魔人!!」
巨大な赤い悪魔は咆哮を上げ、福本の前に立ちはだかる。
そのカードに見覚えのある風の彼は、首を傾げて呟いた。
「絶対服従魔人だと…確か…」
「…このモンスターは攻撃力と引き換えにプレイヤーへ服従を強いる。
フィールドと手札に他のカードがある限り、このモンスターは攻撃宣言を行えませんわ」
「詰まる所はデクの坊かよ。…物好きな奴だぜ、そんなカードを使うなんてな」
「…私とて本意ではありませんわ。このような醜く傲慢な魔神など…」
ソリッドビジョンの絶対服従魔人がカマリエの言葉にギロリと目をむく。
カマリエは意にも介さず澄まし顔で続けた。
「しかしこれが我が主の命。…あの方はデッキや私達自身を拘束・支配することでちっぽけなプライドを保っているのですわ」
「同情するぜ」
「ですが…ご安心ください。貴方ごときの相手は、この醜い魔神で十分ですわ。
フィールド魔法、発動!」
カマリエの発動した魔法の効力により、安っぽいラブホテルの一室が古代ローマの闘技場へと変わる。
禍々しいオーラを放つ無人の観客席から放たれるプレッシャー。福本の額に汗が一筋伝った。
「…ここは戦いの地、サベージ・コロシアム。
戦う意思無き臆病者は、その重圧に耐えきれず自壊しますわ」
「…その理屈じゃ、その魔人も破壊されるんじゃないのか?」
「ご安心を。私は破壊効果にチェーン、ポール・ポジションを発動。
攻撃力の最も高いモンスターは、この効果により魔法耐性を受けますわ。私はカードを二枚伏せ、ターンエンド」
カマリエ・セルフィッシュ
手札:1 LP:4000
場:絶対服従魔神 ポールポジション サベージ・コロシアム 伏せ魔法罠*2
福本 哲也
手札:3 LP:3500
場:ツインバレル・ドラゴン 伏せ魔法罠*2
「…厄介だな」
福本の場の伏せカードの一枚はモンスターBOX。
召喚される上級モンスターに備えてセットした罠だったが、彼女のフィールド魔法を見るにこのカードの発動機会は訪れそうにないだろう。
デメリットだらけのノーマルカードとたかを括っていたが、攻撃される事が無くとも攻撃力3500のモンスターが強力な事に変わりは無い。
…そしてもう一方の伏せカードはレベル変換実験室。
モンスターカードのレベルをダイスの目に変える、上級モンスター補助用のカードだ。
今、彼は手札にリボルバー・ドラゴンを持っている。
うまく良い目を出せれば、除去効果を持つモンスターを召喚しポールポジションをすり抜けて絶対服従魔人を破壊できる可能性が出てくる。
「罠カード発動、レベル変換実験室!」
福本はポケットからダイスを取り出すと、カマリエに投げて渡す。
「細工は無いぜ」
「…プラスチック製の透明ダイス…成程、そのようですわね」
カマリエはダイスを転がす。
地面に転がったダイスは福本の足元に転がり、暫く回転すると6の目を示して止まった。
「6か…まあいい。俺はツインバレル・ドラゴンをリリースし、リボルバー・ドラゴンを召喚!」
火薬の匂いと共に、黒い機械竜が召喚される。
リボルバー・ドラゴンは咆哮を上げると目覚めの一発とばかりに空に一発空砲を見舞った。
「そして効果発動!目標は絶対服従魔神だ!」
福本は絶対服従魔人を指差し言い放つ。
ポケットからコインを取り出す彼を手を上げて制止すると、カマリエは不敵に微笑んで伏せカードを発動した。
「罠カード発動、安全地帯。
このカードにより、絶対服従魔人は相手のカードの効果を受けつけなくなる…コイントスの必要はありませんわ」
「チッ…対策されてやがったか」
「傲慢にデュエリストを縛りつけ、自らは安全地帯に隠れる…ふふ、まるで我が主の様。
…さて、サベージ・コロシアムの効果、お忘れなきよう」
鉄の体をぎこちなく軋ませ、リボルバー・ドラゴンは絶対服従魔人に向かってゆく。
「リボルバー・ドラゴン、絶対服従魔人に攻撃なさい!!」
カマリエの誘うままに、三門の銃を乱射するリボルバー・ドラゴン。
その光景に彼女はまたしても笑みを浮かべた。
「普通なら自壊させる所…ですが折角の攻撃力、利用させて頂きますわ。
…罠発動、魔法の筒!」
リボルバードラゴンの銃口と絶対服従魔人の間に魔法の筒が出現する。
筒に吸い込まれた銃弾は一方の筒に吸い込まれ、もう一方の筒から福本に向けて弾きだされる。
「謹んでお返しいたしますわ」
銃弾に貫かれ苦悶の表情を浮かべる福本に向かい、カマリエは恭しくお辞儀をした。
カマリエ・セルフィッシュ
手札:1 LP:4000
場:絶対服従魔神 ポールポジション サベージ・コロシアム 安全地帯
福本 哲也
手札:2 LP:1200
場:リボルバー・ドラゴン 伏せ魔法罠*1(モンスターBOX)
最終更新:2012年03月14日 01:02