ライトロード教団・may町本部。
『裁きの龍』を模した像が鎮座する祭壇を前に、信者たちによるミサが行われていた。
「神は仰せになった。『汝デッキを墓地に送り給え。汝を侮辱する者あらば、裁きを持って断罪を・・・』」
講堂に響く経典の朗読は、扉を開く大きな音に打ち切られる。
突然の乱入者に、参列する白装束は一斉に振り返った。
「邪魔するよ。あんたらのボスはどこだ?」
乱入者―帽子を目深に被った少年の声が講堂の中に反響する。
信者たちは少年の質問に応えず、予想外の事態にざわついていた。
顔を見合わせヒソヒソと囁き合う白装束。
「ええい!見苦しいぞ貴様ら!!」
白いケープを纏ったリーダー格らしき男が立ち上がり、信者たちに向かって一括する。
「異教徒を前になんだそのザマは!我等の信仰が試されているのだぞ!
その身を持って総帥をお守りするべく立ち上がるのが、我等信徒の務めでは無いのか!」
信者たちは静まり返った。
だが彼の言葉に立ち上がる者は一人として居ない。顔を見合わせ、ヒソヒソ囁きだす。
(お前行けよ)(嫌だよ、怖いもん)(エリートさんうぜー)
悲しいかな、彼にはあまり人望が無いらしい。
「フン、腰抜けどもが」
リーダー格の男は一言呟くと、デュエルディスクを構えて少年の前に立ちふさがる。
「来い。神聖な礼拝を邪魔する異教徒よ。この私、エリートが征伐してくれる」
「やる気?・・・なら丁度いいや」
少年はデュエルディスクを展開すると、キャップの鍔を指で押し上げた。
露わになったその瞳には妖しい光が宿る。
「オレの新しい『力』、アンタで試させてもらうよ」
「「デュエル!!」」
「先攻はくれてやろう、小僧」
「後悔すんなよ。
オレのターン・・・未来融合―フューチャー・フュージョンを発動」
少年が指定したモンスターは超合魔獣ラプテノス。
彼はデッキからアナザー・ネオスとサンライズ・ガードナーを墓地に送る。
「オレはモンスターをセット。さらにカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
双海
手札:2 LP:4000
場:裏守備*1 伏せ魔法罠*2
エリート
手札:5 LP:4000
場:
「私のターンだ。我らが信仰の力、思い知るが良い」
私は手札より、ジャスティス・ワールドを発動」
エリートの発動したフィールド魔法の効力により、講堂は光り輝く神殿へと姿を変える。
「さらに、魔法カード・光の援軍を発動。
これにより、デッキからライトロード・パラディン-ジェインを手札に加え、デッキからカードを三枚墓地に送る」
効果によって墓地に置かれたのは全てモンスターカードだ。
エリートはさらにもう一枚魔法カードを発動する。
「ソーラー・エクスチェンジを発動。デッキの上からカードを二枚ドローし、二枚を墓地に送る」
さらに二枚のモンスターカードが墓地に送られる。
エリートは墓地を確認すると、覆面の奥でニヤリと口の端を上げた。
「たった一ターンであれだけのカードを墓地に!」
「しかも全く手札が減っていないぞ!」
「流石エリートさん!デュエルだけは強い!」
野次を飛ばす信者たち。
見事な墓地肥やしに少年は口笛を吹いた。
「やるじゃん。・・・それなんだよな、オレが欲しいのは」
少年の呟きも耳に入らぬ様子で、エリートは手札より一枚のカードを選び出す。
「墓地に四種の光属性モンスターが揃った時、このカードを特殊召喚する事が出来る。
出でよ我が僕、眩き海竜…ライトレイ・ダイダロス!!」
光を纏った青白い竜。
甲高い咆哮がジャスティス・ワールドに響き渡る。
「ライトレイ・ダイダロスは、フィールド魔法と場のカード2枚を破壊する能力を持つ。
その忌々しい伏せカードを破壊してくれるわ!」
ライトレイ・ダイダロスの一声と共に、少年の場に津波が押し寄せる。
「罠チェーン発動、強欲な瓶!」
少年はその効果によりカードを一枚ドローする。
残る一枚・・・次元幽閉は破壊されてしまった。
「フィールド魔法を破壊する代わりに、先の魔法カードによって溜まったシャインカウンターを取り除かせてもらおう。ジャスティス・ワールドは不滅の地よ」
エリートは手札に加えたジェインを召喚すると、バトルフェイズに移行する。
「これで貴様は丸裸よ。ジェイン、伏せモンスターを攻撃するのだ!」
号令を受け、ジェインの剣が裏守備モンスターを切り裂く。
少年が伏せていたのは聖騎士ジャンヌ。戦闘破壊をトリガーとする効果モンスターだ。
「効果を発動。手札のエナジー・ブレイブを捨て、墓地からアナザー・ネオスを手札に加える」
「何を手札に加えようと同じ事ッ!ライトレイ・ダイダロスでダイレクトアタックだ!」
咆哮と共に吐き出された海龍のブレスが少年を襲う。
「ぐっ・・・」
「カードを1枚セット・・・ターンエンドだ」
双海
手札:3 LP:1400
場:
エリート
手札:2 LP:4000
場:ジャスティス・ワールド(カウンター1) ライトレイ・ダイダロス ジェイン 伏せ魔法罠
「オレはフォトン・スラッシャーを特殊召喚する」
一振りの剣を携えた騎士のようなモンスターが現れる。
フィールドにモンスターが存在しない時を条件とする、特殊召喚モンスターだ。
少年はさらにモンスターを展開する。
「アナザー・ネオスを召喚し、レベル4・光属性のモンスター二体でオーバーレイ・ネットワークを構築!
エクシーズ召喚、輝光子パラディオス!」
フィールドに降り立った白騎士は、携えた剣をライトレイ・ダイダロスへと向ける。
「オーバーレイ・ユニットを二つ使い、効果を発動。あんたのライトレイ・ダイダロスの攻撃力が0になるよ」
「ぐ・・・だが攻撃力はたった2000。召喚権を使いきった貴様には、私を倒す事はできまい!」
(もっとも、私の場に伏せてあるのは「聖なるバリア―ミラーフォース―」。
いくらモンスターを召喚しようと、このカード一枚で全滅よ。
このターンを凌げば、デッキに眠る残り2枚の「ライトレイ・ダイダロス」と総帥より賜りし「裁きの龍」で引導を渡してくれる)
脳内で策を巡らせるエリートの様子に、少年はにやりと笑った。
おもむろに墓地のカードを選び出すと、彼の眼前に差し出す。
「サンライズ・ガードナー、エナジー・ブレイブ、聖騎士ジャンヌ、アナザー・ネオス、そしてフォトン・スラッシャー。
墓地に五種類の光属性が揃った事で特殊召喚できるモンスター・・・あんたはよく知ってるだろ?」
「・・・!! まさか貴様も・・・!!」
「そのまさかさ。出でよ!ライトレイ・ギアフリードッ!」
少年のフィールドに現れる巨大な白騎士。
白い兜の向こうから、鋭い眼光がエリートを見下ろした。
「さらに思い出のブランコを発動、アナザー・ネオスを蘇生。
・・・これでコマが出揃ったよ。パラディオス、そのチンケな海蛇に攻撃だ!!」
「ぐ・・・しかしどんなにモンスターを展開しようと、これには敵うまい」
エリートが場に伏せられた罠を発動する。
現れた光の障壁がパラディオスの剣を遮った。
「聖なるバリア―ミラー・フォ・・・」
その声を遮るように、「ピシッ」とガラスの割れるような音が響いた。
ライトレイ・ギアフリードの突き立てた剣によって、障壁には蜘蛛の巣状のひび割れが走っている。
「ライトレイ・ギアフリードは墓地の戦士族モンスターを除外する事で、魔法罠の発動を無効化する」
剣の切っ先に貫かれ、ミラーフォースは粉々に砕け散った。
ライトレイ・ギアフリードの背後から現れたパラディオスの剣が、ライトレイ・ダイダロスを素早く両断する。
「ば、馬鹿な!!私のライトレイ・ダイダロスが・・・」
「アハハ、ご愁傷様。それじゃアナザー・ネオスでジェインを殺して、ライトレイ・ギアフリードでトドメといくよ」
身を守るモンスターは全て破壊され、エリートのライフポイントはたった1900。頼みの伏せカードも破壊された。
崩れ落ちる彼を見下ろし、ライトレイ・ギアフリードは無慈悲に剣を振りかぶる。
「天魔閃滅・鳳凰斬ッ!!」
双海
手札: LP:1400
場:ライトレイ・ギアフリード アナザー・ネオス 輝光子パラディオス
エリート
手札:2 LP:0
場:ジャスティス・ワールド(カウンター1)
デュエルが終了し、ソリッドビジョンが消えてゆく。
ウォーミングアップは終わったとばかりに、少年は肩を鳴らして一息ついた。
「ま、こんなもんかな。・・・ボスは勝手に探させてもらうよ」
傍らを通り過ぎようとした少年の足首を、倒れたエリートの腕が掴む。
「行かせはせんぞ・・・総帥の元には・・・」
少年は路傍の石を見るような目で見下ろすと、うんざりした様子でもう一つ溜息をついた。
エリートの手から脚を引きぬき、邪魔な石ころを蹴飛ばすかのごとく彼の横っ腹に蹴りを入れる。
「もういいよ、アンタは」
悶えながらも少年を睨みつけるエリート。
「・・・そこまでだ」
突然の制止に少年は振り返った。
声の主は白いスーツに身を包んだ長身の男。
「あまり部下を苛めんでもらおうか」
「そ・・・総帥・・・お守り致します・・・」
倒れていたエリートは、再び少年を引きとめようと必死に手を伸ばす。
少年は総帥の顔を不敵に見上げながら、その手を無情に踏みにじった。
「あんたがボスか、丁度いいや。あんたから頂きたいもんがあるんだよ」
「君の目的はわかっている」
総帥はカードの束と、折り畳まれた白いマントを手渡す。
「ライトロードのカード全種類各三枚、全て最高レアリティだ。好きに使うが良い」
「へえ、話が分かるじゃん」
「でもさ、なんだよこの服。オレはあんたらの教えを乞う気は無いぜ。
もともとあんたを倒して力づくで奪うつもりだったからな」
「構わんさ。このカードは私からの心付け、好きに使うが良い。
教義を押し付ける気も無い。ただ・・・一つ頼みを聞いてもらいたい」
「・・・何だよ」
「なに、君になら簡単な事。デッキの試運転がてら、できるだけ多くのデュエリストを君に倒してもらいたい。
これは言わば我が教団の広報活動。君の力を、ひいてはライトロードの力をこの街の者たちに示してほしいのだよ」
「力を・・・示すか」
随分と顔の広いあいつの事だ。
町の決闘者を片っ端から倒して行けば、きっと現れるに違いない。
そしてのこのこと現れたあいつの眼前に、オレの力を見せつけてやるんだ。
圧倒的な「力」を。
少年は返事の代わりとばかりに、白いマントを勢いよく羽織る。
「・・・契約成立だな。さて、そろそろ君の名前を聞いておこうか」
「双海・・・双海航平」
「良い名だ。双海君、君にはジャッジメント級の地位を与えよう。人出が必要ならここに居る信者たちを好きに使ってくれて構わん。無論・・・」
総帥は足元に倒れるエリートをちらりと見下ろす。
「そこに転がっている男も例外ではない」
「そ、総帥・・・」
「・・・いらねー。こいつ弱いもん」
双海はエリートを一瞥すると、マントを翻しつかつかと歩いてゆく。
ざわついていた信者たちは、新たな大幹部を前に次々とひざまずいた。
「存分に暴れるが良い・・・光の申し子よ」
総帥は一人呟く。
純白のマントを翻らせ、少年は一人夜の街へと消えて行った。
「お、双海じゃないか」
「・・・福本さん」
「最近店に来ないからってみんな心配してたぞ・・・どうしたんだよその格好」
「なるほど。・・・あんたが一人目ってわけね」
「・・・おい、双海?」
「さあ、デュエルだ!!」
最終更新:2012年12月16日 01:19