虫と眼のデュエル

「おとなしくしてる…あの子は?」

「はい。ですが…二日間こちらの食事には一切手を付けようとしません。」

邪神結社のある部屋の前。リリカ・ベーゼルンとカマリエ・セルフィッシュはニヤニヤと笑いながら話す。
突き当りの部屋の前に着くと、ドアをゆっくりと開ける。

「…」

部屋の中にいたのは両手と両足を鎖で縛られたアウナス・ミフイムだ。
息が荒く、ぐったりとしているが意識はハッキリと保っている。
アウナスはリリカとカマリエをチラリとみるとまた顔を下に向けた。

「ねえ…いい加減に私たちに協力しなさい?」

リリカがアウナスの頬を撫でようとすると、アウナスはナイフの様に鋭い眼でリリカを睨み付ける。
両手足の動きを封じられているとはいえ、リリカを怯えさせるには十分な気迫で、リリカは『ひぃ』と情けない声を上げてカマリエの後ろまで避難した。

「ふん…精神力が強いのか体のどこにキスしても刻印が出ないし…」

「分かったらさっさと私を帰して」

「帰せないわ。月蓮が貴方の力に興味があるみたいでね…命従士にして使いやすくしろって言われてるんだもの」

リリカがアウナスを捕まえた理由は邪神結社の破戒僧、月蓮からの命令だったからだ。
自身の計画に役に立つが、自分は別の仕事が忙しいからと洗脳や服従に長けるリリカに命令を出していた
リリカもアウナスを命従士として従えるメリットが大きかったので二つ返事で引き受け、アウナスの食事に毒を盛って捕まえることに成功した。
だがここからが問題だった。アウナスの精神の力が想像以上に強く全く洗脳出来なかった
洗脳せずに月蓮に渡してもいいがその場合、月蓮が彼女を利用した時に止めることができなくなる。

「そうだ…精神力で刻印を跳ね返すなら、その心をポッキリとおってあげる。」

カマリエの後ろでリリカがニヤリと笑い、懐から携帯電話を取り出す。

「カマリエ。確か彼女を探し回ってる男がいたわよね?湯納正斗とかいう…連絡を入れなさい。」

カマリエは電話を受け取ると『承知いたしました』といって部屋を出ていく。
アウナスもこれからリリカが何をするのか想像がつき、怒りに満ちた眼をリリカに向けた。

「お前…っ!」

「貴女の大切なものの命を貴女の目の前で…奪ってあげる。」

深夜0時。
閉店したショッピングモールの屋上駐車場に湯納正斗はスクーターを止める。
広い駐車場に1台だけ止まっている黒い車に近づくと、助手席からリリカ・ベーゼルンが颯爽と車から降りる。

「…アウナさんはどこですか?」

養豚場の豚の糞を見るような目で湯納がリリカに尋ねると、車の後ろのドアが開いて、鎖に縛られたアウナスを命従士が降ろした。

「ユノー!」

「アウナさん!アウナさんをすぐに放してください!」

湯納がリリカに詰め寄るが、リリカはクスクスと笑い、全く応じる気配がない。

「貴方がいる限りアウナスの心は折れそうにないの…あなたは私と彼女の仲を引き裂く障害物…だから」

リリカはが指をパチンと鳴らすとリリカと湯納の周囲を黒い炎が円を描くように包み込んだ。

「あなたをこの闇のデュエルで処刑することに決めたわ!彼女の目の前で!ズタズタに引き裂いてあげる!」

「害虫め…駆除します!」

「デュエル!」

先攻のターンランプはリリカを示す。

「私のターン、ドロー!モンスターとカードを伏せてターンエンド」

リリカ LP4000 手札4
裏守備1
伏せ1

「私のターン、フォトン・スラッシャーを特殊召喚、裏守備モンスターを攻撃です。」

「戦闘破壊されたのは巨大ネズミよ!効果発動。デッキから棘の妖精を特殊召喚!」

攻撃力は低く、昆虫族ではないが場にいる限り昆虫族を攻撃対象にさせないモンスターだ。

「メインフェイズ2、マンジュ・ゴッドを召喚。サクリファイスをサーチします。フォトン・スラッシャーとマンジュ・ゴッドでオーバーレイ!」

「エクシーズ召喚!ラヴァルバル・チェイン!効果でオーバーレイ・ユニット1つを取り除いてデッキから儀式魔人リリーサーを墓地に送ります。カード2伏せエンド」

これで湯納の手札には儀式モンスターが1枚、墓地には除外することで儀式のリリーに使える儀式魔人のカードが揃う。
着実に儀式召喚の準備を進め、相手をつぶす作戦だ。

湯納 LP4000 手札3
ラヴァルバル・チェイン 
伏せ2

リリカ LP4000 手札4
棘の妖精
伏せ1

「ドロー、共鳴虫を召喚。そして強制転移発動!共鳴虫はプレゼントするけど…貴方のチェインを奪ってあげる!」

まるで磁力に動かされるようにラヴァルバル・チェインは湯納の場からリリカの場に移動し、入れ替わるように共鳴虫が湯納の場に飛んできた。

「いい効果よねこれ…ラヴァルバル・チェインの効果でデッキからブレイン・クラッシャーを墓地に送り、死者蘇生を発動!ブレイン・クラッシャーを特殊召喚!」

「奈落の落とし穴発動。」

地面から大型の不気味な虫、ブレイン・クラッシャーが這い上がるも、再び地面に引きずりこまれる。
リリカとしてはリクルーターを破壊してモンスターを大量展開する算段だったが大きく計画が狂ったと言えよう。

「ラヴァルバル・チェインで共鳴虫を攻撃。」

湯納 LP4000→3400

チェインが吐いた炎は共鳴虫を焼き払い、湯納のライフも削る。
同時に湯納の体に火傷を負うんじゃないかという位の熱さと激しい痛みが襲いかかった。
大きく悲鳴を上げて湯納はその場に膝をつく。

「これ、は…?」

「聞いてなかったの?痛みとダメージを与える闇のゲームなのよ?共鳴虫の効果でデッキからハチビーを特殊召喚して茨の妖精と直接攻撃!ハニースピアー、ダンシングソーン!」

湯納 LP3400→2900→2600

「メインフェイズ2にDNA改造手術発動。当然だけど昆虫族を選択。ハチビーの効果でハチビーと昆虫族になったチェインをリリースして2枚ドロー。カードを1枚伏せて終了」

リリカ LP4000 手札4
茨の妖精
DNA改造手術 伏せ1

湯納 LP2600 手札3

伏せ1

「ドロー、イリュージョンの儀式を発動。墓地のリリーサー除外して…サクリファイスを儀式召喚!」

体に走る激痛に耐えつつ、カードをドローして、発動した儀式魔法によって
湯納のエースモンスター、サクリファイスが降臨する。
吸い込めるモンスターは攻撃力300の棘の妖精だけだが、攻撃のためにはこいつを除去しなければいけない。

「残念でした!儀式召喚成功時に強制脱出装置発動!サクリファイスを手札に戻しなさい!」

「チェーンして手札から禁じられた聖槍を発動。サクリファイスの攻撃力を800下げて魔法、罠の効果をこのターン受けないようにします!」

「サクリファイスの効果!棘の妖精を装備カードにします。さらに手札から霊滅術師カイクウを召喚」

攻撃を止める棘の妖精はいなくなり、湯納は好きに攻撃できるようになっている。
とは言えサクリファイスの攻撃力は800下がっているのでカイクウしか攻撃出来ないが。

「除霊正拳突き!」

腰を落としたカイクウがリリカの臍を正拳で思い切り殴りぬける。
しかしリリカは顔色一つ変えず平然としていた。

リLP 4000→2200

「ダメージがない…!?確かにカイクウの攻撃は通ったのに」

「残念でしたぁ…ダメージは私のモンスターしか与えられないの。言い忘れちゃった。」

「卑怯者め…カイクウの効果で墓地から巨大ネズミと共鳴虫を除外。ターンエンド」

湯納 LP2600 手札0
サクリファイス、カイクウ
伏せ1、茨の妖精(装備カード)

リリカ LP2200 手札4
茨の妖精
DNA改造手術

「ドロー…モンスターとカードを伏せてターンエンド」

リリカ LP 2200 手札3
裏守備1 
DNA改造手術 伏せ1

湯納 LP2600 手札0
サクリファイス、カイクウ
伏せ1、茨の妖精(装備カード)

「ドロー、カイクウで裏守備を攻撃。」

「共鳴虫よ。効果は発動できない…」

「サクリファイスで直接攻撃です!」

リ2200→1900

「きゃあっ!」

サクリファイスがリリカに殴りかかると、リリカの体が横に倒れた。

「な、なんで…私のモンスターしか…ダメージが入らないはずなのに…」

横から殴られ、悶絶するリリカを見ていたアウナスがダメージの入った理由に気付いた。

「…そうか…サクリファイスはリリカのモンスターから力を受けてるから…」

湯納 LP2600 手札1
サクリ、カイクウ
伏せ1 茨の妖精(装備カード)

リリカ LP 1900 手札3

DNA改造手術 伏せ1

「冗談じゃないわよ…こっちが安全だからこんな闇のデュエルにしたのに…ドロー。代打バッター召喚。召喚時に激流葬を発動!」

代打バッター、サクリファイス、カイクウを水流が飲み込む。
水が引くとリリカの場には新しいモンスターが出現していた。

「代打バッターの効果で手札のブレイン・クラッシャーを特殊召喚したわ!直接攻撃。レイダー・バイト!」

湯納 2600→200

「ユノー!」

ブレイン・クラッシャーの直接攻撃を受けた湯納は大きく吹っ飛び、背中から地面にたたきつけられた。
なんとか立ち上がろうとしているが満身創痍なのか上手く立てずにまた倒れる。

「リリカ!闇のデュエルを中止しろ!このままじゃユノーが本当に死んでしまう!」

「そうね…あなたが私の傘下に入って命従士になるなら考えてあげる。」

「…そうすればユノーを助けるのか?」

アウナスがリリカの条件をのみかけたが、それを制止する声が入った。

「待って、くださいよ…アウナ、さん…」

なんとか立ち上がった湯納だ。ただし息は荒く、体を打ち付けた時に怪我をしたのか血もでている。

「私は大丈夫です…すぐに助けますから。」

深呼吸して少し息を整え、いつも見せてるような優しい笑顔を湯納は見せる。

「ダメだユノー。引くんだ!これ以上ダメージを受けたら…」

「私にあなたを見捨てるなんて選択肢は無い!トラップ発動…ダメージ・ゲート!受けたダメージより攻撃力の低いモンスターを蘇生する…復活しろ!サクリファイス!」

「2400の直接攻撃を受けてここまで回復するなんてね…カードを1枚伏せてターンエンド。」

この時点でリリカは勝利を確信していた。リリカの伏せたカードは安全地帯。これでブレインクラッシャーに使えばサクリファイスの効果対象になることはない。
さらに残った最後の手札は対空砲花。昆虫族をリリースして相手に800のダメージを与えるモンスターだ。

リ LP 1900 手札1
ブレイン・クラッシャー
DNA改造手術、伏せ1

湯 LP 200 手札1

サクリファイス

「私のターン!ドロー!」

「永続罠、安全地帯をブレイン・クラッシャーに発動!これで効果対象にできない!これで詰みよ!」

「手札から死者蘇生を発動!お前の墓地からハチビーを蘇生!そして金華猫を通常召喚!」

普段のですます口調がどこかに消えてしまったことにも気づかず、湯納は3体のレベル1モンスターを場に並べる。

「私は金華猫、サクリファイス、ハチビーでオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!ブン殴れ!No.54 反骨の闘志 ライオン・ハート!」

「ライオ…しまっ!」

「ライオン・ハートは素材を一つ使って戦闘で発生する私のダメージを0にして0にした数値のダメージ相手に与える!ンブレイン・クラッシャーに攻撃!」

ライオンハートがブレイン・クラッシャーの懐に潜り込み、拳を握りしめる。

「さっきはよくも直接攻撃してくれたな…滅茶苦茶痛かったんだぞ!どれだけ痛いか…自分で味わえ!バーニング・クロス・カウンター!」

「ま、待って…」

リリカの言葉を聞く間もなく、ライオン・ハートがブレイン・クラッシャーの体を思いっきりブン殴った。
この戦闘で湯納に発生するダメージは2300が、代わりにリリカに襲い掛かかる。

リリカLP1900→0

ライフが0になったリリカが炎の輪の外に投げ出された。
息はまだあるようで、もの凄いうめき声をあげながら苦しんでいる。
湯納は倒れているリリカを無視して、アウナスのところに歩み寄る。

「大丈夫ですか?アウナさん。帰りましょう。」

アウナスを縛る鎖を少し悪戦苦闘しながら外して
湯納がもとの口調で優しく言う。
命従士は倒れたリリカを回収して車で何処かへ行ってしまった。

「大丈夫かはこっちのセリフだぞユノー。あれだけダメージを受けて大丈夫なのか?」

「……今、どっと疲れが押し寄せました……つ、疲れた…」

倒れそうになるユノーをアウナスがそっと体で支えた。

「ありがとう、ユノー。フジヤマならまだこの時間でも連絡がとれるから迎えに来てもらおう。正直…私も空腹でこれ以上動けそうにない…」

『アウナス?こんな時間にどうしたの?』

「もしもし…フジヤマ。夜遅くに済まない。今すぐ来てほしい…」

アウナス―――この後藤山先生に迎えに来てもらったのち、研究室の冷蔵庫の食材を食べつくした
湯納―――――倒れるように眠って12時間後に完全回復。
リリカ――――このあと月蓮からお説教を受ける羽目になる。
藤山―――――この後アウナスと湯納を迎えに行き研究室で治療。ベットも貸したがそのあとアウナスによって冷蔵庫の中を空にされた

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最終更新:2013年09月11日 23:24