ナオミ(うっ・・・・・・)
闇の中、ナオミは目を覚ました。
ナオミ(ここは? 私はいったい・・・ぐっ!?)
全身に激痛が走る。
すぐさま自身の現状を把握すべくメンテナンス機能を起動した。
メインモーメントエンジン:停止。
サイコパワー再現機構:使用不可。
次元移動装置:使用不可。
オート・クリアマインド機能:使用不可。
等々、あらゆる機能がレッドアラームを告げている。
補助モーメント動力が起動し、意識が覚醒したようだ。
ナオミ(novはどうなったのだ・・・?)
見上げると見知らぬ夜空が広がっていた。
周囲には木々が立ち並んでいる。
おそらくmayのどこかの森林に落ちたのだろう。
地面に半ば埋まる形で体は大の字に投げ出されている。
右脚は膝から下がなく、左腕は肩口からもげ、右腕もあらぬ方向に曲がっている。
各機能の復旧も見込めまい。
補助モーメント動力も長くは持たない。
このまま死を待つだけの状態だ。
ガサッ。
不意に、近くの茂みから気配がした。
野生動物だろうか?
指の先1つ動かせない今のナオミは、彼らにとっては格好の餌であろう。
サイボーグボディは、食いでは少ないだろうが。
桐子「おやおやぁ? なんぞ落ちたっていうから見に来てみりゃ妙なものが転がってるじゃないか」
現れたのは人間だった。
森の中には不釣合いな、チャイナドレスにコートを羽織った女。
そして、その後ろに付き従う数人の男たち。
安田「姐さん、こいつぁ・・・」
レイジ「novよりの使者、か」
自分の正体を知っているmayの人間のようだ。
ナオミの心に一瞬緊張が走った。
しかし、自身の身体状況に思い至る。
何かあっても今のナオミには抵抗する力はない。
ナオミ「くっ・・・殺せ」
激痛の中、辛うじて口を動かし自分を見下ろす女に吐き捨てる。
桐子「薄い本みたいなことをお言いでないよ。あんた、ナオミだね?」
名前まで知っている。
ということは、自分が襲撃したmayの人間の関係者かあるいは、
その情報を手に入れられる立場の人間なのだろう。
その姿と立ち住まいから、とてもカタギには見えないが。
桐子「そうさね。いらないっていうなら、その命、私が貰おうじゃないか」
安田「あ、姐さん!? なにいってるんです!?」
レイジ「また悪い癖がはじまったか・・・」
ナオミ「なん・・・だと・・・?」
桐子の言葉に、ナオミの目が見開かれる。
周囲の男たちに動揺と諦めがみてとれた。
桐子「アンタに選ばせてやろうじゃないか」
ナオミ「な・・・にを・・・言ってい・・・る?」
桐子「このままここでくたばるかい? それとも、その命、私に預けるかい?」
ナオミ「ふざ・・・けr、なっ!」
桐子の物言いにナオミが怒りをぶつけた。
mayの住人の助けなどいらぬ!
自分達は不倶戴天の敵だったはずなのだ。
ナオミ「私は・・・novの戦士・・・dぞ。mayの・・・奴らの・・・助・・・kなど・・・いらぬ!」
桐子「そんなナリでナマ言うんじゃないよ、負け犬風情が」
ナオミ「き、さま・・・!」
桐子「冷静に考えるんだね。憎きmayのどこともしれない森の中で惨めったらしくくたばるか、
恥辱に塗れてでも生き延びて、いずれnovへと帰るか。選ぶのは、アンタだよ」
レイジ「相変わらず追い込み方が手厳しいな、この人は」
桐子「人聞きの悪いことお言いでないよ。人助けしようってんだよ、私は」
選択を迫る桐子の言葉に、ナオミの心が揺れた。
自分はここでくたばってもいいのか?
novはどうなった? 仲間達は?
あの過酷な異次元の最果てから抜け出し、
生きるためにmayに決闘をしかけたのではなかったのか?
ナオミ「・・・ふんっ、勝手・・・に・・・するが・・・いい」
桐子「決まりだね。ヤス、レイジ、コイツを運びな」
やれやれという感じで肩をすくめた男二人がナオミを掘り起こしにかかる。
安田「うお、なんだこの重さは」
レイジ「サイボーグらしいですからね」
桐子「アンタたち、レディに失礼ってもんだよ。ああ、そうだ。自己紹介がまだだったね。
私は久尾・・・・・・久尾桐子。これから先アンタに地獄を見せる女さ」
may・デュエルアカデミア―――
英理「帰って頂戴!」
桐子「なんだい、つれないじゃないか。同じ釜の飯を食った仲だってのに」
回収されたナオミは桐子らの手によって英理の研究室に運び込まれていた。
英理「アカデミアの教師が極道と知り合いなんて世間に知れたらどうなると思ってるの!」
桐子「ドロンジョ様みたいなことやってたくせに何言ってんだい。
それにばれないようにこうしてちゃんと変装してやってるじゃないさ」
英理「ただコスプレしたかっただけでしょうに・・・・・・何その格好、歳を考えなさい」
桐子「そんな格好で教壇に立ってるアンタに言われたくないねぇ」
今の桐子の格好は、いつものチャイナスーツにコートではなく
《キウイ・マジシャン・ガール》のコスプレ姿であった。
極道の親分とはとても思えない姿であるが、アカデミアでは浮きまくっている。
英理は頭を抱えつつ、厄介な客をとっとと追い返してしまうことにした。
英理「話はわかったわ。この子を直せばいいんでしょう?」
桐子「そうさね。アンタは異次元テクノロジーを研究できる、コイツは体が直る、私は手駒を手に入れる。
Win-Win-Winってやつさ」
研究室の台の上にはナオミが寝かされている。
補助モーメント動力の消耗を抑えるため、今は死んだように眠っていた。
ハカセ「本気ですか、先生!? この人のせいであんなことになったのに!」
美琴を襲いnov事変の原因を作ったナオミを助けるということに、ハカセは納得がいかなかった。
確かに異次元のテクノロジーに触れられるのは科学者として魅力的だ。
しかし、彼女は敵だったのだ。それも、mayを滅ぼそうとした敵だ。
英理「・・・・・・なら、見捨てる?」
ハカセ「そ、それは・・・・・・」
英理「いい、ハカセ。私達科学者は科学者であるが故に倫理観を持ち合わせないといけないのよ」
桐子「アンタがそれを言うかねぇ」
英理「茶化さないで頂戴!」
ハカセ「ううっ・・・・・・う~~~~・・・・わかりました! 手伝います!
けど決して許したわけじゃないですからね!」
ニヤニヤと会話を見る桐子に英理がうんざりした表情を見せる。
ぶつぶつと文句を言いながらも準備を進めるハカセ。
かくして、novよりの使者『鳥砂 ナオミ』の治療がはじまった。
しばらくして―――
英理「修理は一通り完了したわ。まだ解明できていない機能もあるにはあるけれど、
日常生活やデュエルをする分には問題ないはずよ」
ハカセ「つまり、まだまだあなたと顔を合わせないといけないってわけなのよね・・・。
はぁ・・・美琴になんて言おう」
ナオミ「礼は言わんぞ。お前達が勝手にやったことだ」
修理の完了したナオミを桐子が英理の研究室まで迎えにきていた。
いつもの黒のリムジンにレイジと安田の姿もある。
桐子自身の格好は《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の姿だ。
ナオミの傍らには英理とハカセが新しく開発したナオミ用のD・ホイールの姿もある。
以前の愛機『ブラック・リベリオン』とはまた違った漆黒のD・ホイールだ。
桐子「礼はいらないけどね。きっちり働いてもらうよ。うちはいつも人手不足だからねぇ」
言いながら桐子がナオミに何かを放り投げた。
ナオミ「なんだこれは?」
桐子「novの使者としてアンタは顔が割れてるからね。そいつをつけてな」
ナオミの手にはレイド・ラプターズの紋章を模した仮面が握られている。
ナオミ「なん・・・だと・・・!?」
英理「・・・・・・ご愁傷様でいいのかしら」
ハカセ「絶対趣味ですよね、あれ」
断固として抗議するナオミに哀れみの目を向ける英理とハカセ。
桐子「そうさね。アンタは今日からコードネーム『レディ・ラプター』さ」
ナオミ「なんだその恥ずかしい名前は!?」
桐子「さて、と。レイジ、同じ闇属性・鳥獣族使いなんだしアンタが面倒みてやんな」
レイジ「お、おい、ちょっと待て、なんでそうなる?」
ナオミ「は、話をきけ!」
安田「よかったじゃないか、レイジ。舎弟ができて」
ナオミ・レイジ「ふ・ざ・け・る・なー!?」
おしまい
最終更新:2016年06月02日 07:50