バージェスの乙女

『雁洲 奏(カリス カナデ)』はmay恐竜博物館が好きだ。
may恐竜博物館はmayの郊外にある大きな恐竜の卵を模した外観の博物館である。
入場するとエスカレーターで地下へと降りていき、
展示物を見回りつつ入り口まで上ってくるという構造になっている。
博物館としては珍しく館内は写真撮影を自由に行うことが出来、
地下から上ってくるという構造上、
恐竜をはじめとした古生物の化石を見上げたり見下ろして鑑賞することが可能で
親子連れを中心に人気を集めている。
【エヴォルド~エヴォルカイザー】モンスター郡と実際の古生物の進化の流れを対応させた展示も魅力的だ。
また、館内にはデュエルスペースも設けられ、
【エヴォルド】や【ジュラック】といった恐竜族テーマデッキのレンタルも行われており、
子供を対象に恐竜族デッキの回し方講座も定期的に開かれている。

カナデ「やっぱりここはいいわね、魅力的だわ」

目玉のようにみえる髪飾りがトレードマークの
長いツインテールを揺らしながらカナデは館内を歩いていく。
恐竜博物館というだけに、メインの展示は恐竜化石であるが
彼女のお気に入りは違った。
『生命の歴史』コーナーの一角、
バージェスモンスターを扱った展示こそが彼女のお気に入りだ。
アノマロカリスの可愛さを堪能していたカナデは、
自分と同じように展示を見ているカップルと思しき男女に気がついた。

アキラ「やっぱりこの時代の生き物って妙だよな」
カナデ(うn)
美琴「海老みてぇな触手に、クラゲみてぇな口、ナマコみてぇな体ねぇ・・・」
カナデ(うnうn)
美琴「意味わからなくてよ・・・」
カナデ(そうよね。そこが・・・)
美琴「気持ち悪ぃな」
カナデ(可愛いのよね! ・・・うn?)
アキラ「オレはカッコいいと思うけd」
カナデ「待ちなさいよ! なに言ってんのあんた!?」

言いかけたアキラに被せ気味でカナデがついつっかかってしまった。
いきなりの事態に驚くアキラと美琴。
恐竜が嫌いな男の子なんていません!ということでmay恐竜博物館にデートに来ていた二人であったが、
いきなり近くにいたツインテールの少女に難癖をつけられたのだ。
そりゃあ驚くというものである。
(なお、シャムスちゃんは空気を読んだのか勝手に展示物を見回っている模様)

美琴「あぁ? なんだぁテメェ?」

生来の目つきの悪さでいきなりつっかかってきたカナデにガンをつける美琴。
その目つきの悪さにカナデは一瞬びびりつつも、言葉を続けた。

カナデ「き、気持ち悪いってなによ! アノマロカリスは可愛いでしょうが!」
美琴「は、はぁ? なに言ってんだお前?」
アキラ「ええと、どうしたもんかな、これ」

どうやらこのツインテールの少女は美琴とアキラのデート会話を盗み聞きしていた挙句、
その内容に文句をつけてきたようだ。
わけがわからない。

カナデ「だ・か・ら! こんなに可愛いアノマロカリスを見て気持ち悪いはありえないでしょ!」
美琴「虫だか海老だかわかんなくて気持ち悪いだろうが。お前のセンスどうかしてんぞ」
カナデ「な、ななな・・・またそれ!? どいつもこいつも人のセンスを馬鹿にして!?」
アキラ(あー・・・他にも同じようにつっかかって、同じように否定されてきたんだな、この子)
カナデ「あったま来た! あんた、デュエルスペースまで来なさいよ! デッキ、持ってるんでしょ?
    アノマロカリスの可愛さを思い知らせてあげるわ!」
美琴「おもしれぇ。相手になってやらぁ!」
アキラ「お、おい、美琴。やめとけって」
美琴「うるせぇ! これが黙ってられるかっての! デーt・・・ゴニョゴニョの邪魔しやがってよ!!」
アキラ「お、おう」

かくして、カナデと美琴のデュエルがはじまった―――。

カナデ・美琴「「デュエル!!」」


カナデ
手札:5
LP:4000
場:
墓地:

美琴
手札:5
LP:4000
場:
墓地:


カナデ「先攻はもらうわ! わたしはカードを4枚セットしてターンエンドよ!」
美琴「ガン伏せかよ、面倒くせぇ!?」
アキラ「大胆なデュエルタクティクスだな・・・気をつけろよ、美琴!」
美琴「おう!」


カナデ
手札:1
LP:4000
場:伏せ魔法・罠×4
墓地:

美琴
手札:5
LP:4000
場:
墓地:


美琴「あたしのターン、ドロー!」

相手のガン伏せ体制に対し、美琴は強気に行く。

美琴「《荒野の女戦士》を召喚! バトルだ!」

帽子にマント姿の女戦士が現れ、カナデへと斬りかかった。

カナデ「トラップ発動! 《バージェストマ・ハルキゲニア》! 女戦士の攻撃力・守備力をターン終了まで半分にするわ!」
美琴「ちっ・・・」

女戦士が棘に覆われたハルキゲニアを踏んづけ、攻撃の手が鈍る。
カナデに与えたダメージはATK1100の半分、550でしかない。

美琴「あたしは、カードを2枚伏せターンエンd・・・」
カナデ「待った! トラップを発動するわ。《バージェストマ・ピカイア》! 手札のバージェストマを捨てて2枚ドローよ」
アキラ「墓地肥やしと手札増強か・・・まずいな」
カナデ「それだけじゃないっての! 墓地のハルキゲニアの効果発動! 
    トラップが発動したことで墓地のハルキゲニアを水属性・水族の☆2通常モンスターとして特殊召喚!」

カナデは手札の《バージェストマ・カナディア》を捨て、デッキから2枚のカードをドローする。
替わりに、棘を背負い細長い体と脚を持つ奇妙な生物がカナデの場に現れた。
ウネウネと動くその姿は精神的な不安を感じさせる。

美琴「うげ、なんだそりゃ。気色悪ぃ」
カナデ「はぁ!? うねうねして愛らしいでしょうが!」
アキラ「ホント、独特の感性してるな、この子・・・」


カナデ
手札:2
LP:3450
場:《バージェストマ・ハルキゲニア》(守備表示)、伏せ魔法・罠×2
墓地:《バージェストマ・カナディア》、《バージェストマ・ピカイア》

美琴
手札:3
LP:4000
場:《荒野の女戦士》、伏せ魔法・罠×2
墓地:


カナデ「わたしのターン、ドロー! そしてトラップ発動!」
美琴「ガンガン来やがるな・・・おもしれぇ!」
カナデ「《バージェストマ・ディノミスクス》! 手札を1枚捨てて女戦士を除外よ」
美琴「げっ」
アキラ「リクルーターを潰してきたか」
カナデ「そして墓地のピカイアを通常モンスターとして特殊召喚!」

手札から《ボルト・ヘッジホッグ》が捨てられ、女戦士が異次元へと続く穴に飲み込まれていく。
入れ替わるように、墓地からナメクジウオのような生き物が泳ぎでた。

カナデ「まだまだ! 残り1枚のトラップも発動! 《バージェストマ・マレラ》!
    デッキから2枚目のカナディアを墓地に送るわ」
美琴「ってことは・・・・・・」
カナデ「そう、またバージェストマを通常モンスターとして特殊召喚できるのよ! 現れなさい、ディノミスクス!」

ウミユリによく似た触手の花びらを持つ生物がカナデの場に生える。

アキラ「同じ☆のモンスターが3体・・・来るぞ、美琴!」
カナデ「わたしは、ハルキゲニアとピカイアとディノミスクスをオーバーレイ!
    3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!
    古代の海に君臨する、最古の捕食者よ! 岩の頁からその姿を現せ!
    エクシーズ召喚! 《バージェストマ・アノマロカリス》!!」

カナデの場に出現した穴の中を悠々と泳ぐように異形の捕食者がその姿を現す!
海老のような触腕! クラゲのような奇怪な口! ナマコのような身体!
古代の世界において食物連鎖の頂点に初めて君臨した生物、アノマロカリス!!

カナデ「くぅ~何度見ても可愛いじゃない、わたしのアノマロカリス!」
美琴「化け物じゃねーか!?」
カナデ「はぁ~? こんなに可愛い子が化け物とかありえないんですけど!?
  そんなわからず屋はこうしてやるわ! アノマロカリスの効果発動!
  オーバーレイユニットを1つ使い、カードを1枚破壊よ!
  『世界最古の略奪者(パイレーツ・オブ・カンブリアン)』!!」

アノマロカリスが棘のついた触腕を伸ばし、丸いシュレッダーのような口で美琴の伏せカードを捕食する。
破壊されたのは、《リビングデッドの呼び声》であった。

カナデ「さぁ、ダイレクトアタックよ!
    やっちゃいなさい、アノマロカリス! 『カンブリア・エクスプロージョン』!!」

美琴にアノマロカリスが襲いかかる!

美琴「くっ・・・!?」
アキラ「相手ターンでも発動できる除去に、モンスター効果を受け付けない、か。厄介だな・・・」
カナデ「わたしはこれでターンエンドよ!」


カナデ
手札:1
LP:3450
場:《バージェストマ・アノマロカリス》(ORU:2)
墓地:《バージェストマ・マレラ》、《バージェストマ・カナディア》×2、《ボルト・ヘッジホッグ》
   《バージェストマ・ハルキゲニア》

美琴
手札:3
LP:1600
場:伏せ魔法・罠×1
墓地:《リビングデッドの呼び声》
除外:《荒野の女戦士》


美琴「あたしのターン、ドロー! あたしはフィールド魔法《アマゾネスの里》を発動!」

美琴の場が女戦士達の住む密林の集落へと変貌していく。

美琴「《アマゾネスの剣士》を召喚! バトルだ!」

美琴のフェイバリットカードだ。
剣士の効果は戦闘ダメージの反射であり、
里が場にあれば相手にダメージを与えつつ後続のアマゾネスモンスターを特殊召喚できる。
だが・・・・・・。

カナデ「そうはさせないっての! アノマロカリスの効果で里を破壊するわ!」
アキラ「ダメージ覚悟で里を潰してきやがった!?」
美琴「・・・・・・」

密林の集落が食い荒らされていく。
このままではカナデにダメージは与えられるものの、剣士は戦闘破壊されるだけだ。
カナデが得意そうにふふんと鼻をならす。

美琴「永続罠! 《安全地帯》! 剣士は破壊させねぇ!」
カナデ「ちょ!?」

最初のターンに美琴が伏せ残されたカードであった。
美琴はリビデと安地、里の三段構えで剣士を守るつもりだったのだ。
剣士がアノマロカリスの触腕を掻い潜り視線の届かない腹の下―安全地帯―へと滑り込み手にした剣を一閃!
アノマロカリスの腹が斬り裂かれカナデを衝撃が襲う!

アキラ「アノマロカリスの効果は1ターンに1度、このターンはもう剣士は除去できないが・・・」
美琴「あたしは、カードを2枚伏せターンエンドだ」


カナデ
手札:1
LP:2550
場:《バージェストマ・アノマロカリス》(ORU:1)
墓地:《バージェストマ・マレラ》、《バージェストマ・カナディア》、《ボルト・ヘッジホッグ》
   《バージェストマ・ハルキゲニア》、《バージェストマ・ピカイア》

美琴
手札:0
LP:1600
場:《アマゾネスの剣士》+《安全地帯》、伏せ魔法・罠×2
墓地:《リビングデッドの呼び声》、《アマゾネスの里》
除外:《荒野の女戦士》


カナデ「やってくれるじゃない・・・ちょっと焦ったわ。けど!」

カードをドローしカナデがターンを開始した。

カナデ「わたしは《ゾンビ・キャリア》を召喚! 墓地のヘッジホッグの効果!
    チューナーモンスターがいる時、特殊召喚できるわ!」

以前、《ジャンク・シンクロン》を使っていた美琴もよく知る動きだ。
チューナーとそれ以外のモンスターが揃う。
昔ならシンクロ召喚の流れだが・・・・・・。

カナデ「わたしは、ゾンキャリとヘッジホッグをオーバーレイ!
    2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!
    大量絶滅はここから始まる! エクシーズ召喚!
    現れなさい、No.45! 滅亡の予言者クランブル・ロゴス!」

カナデの場に現れた穴から半人半馬の予言者が駆け出してきた。
滅びの言葉の概念をもつモンスター。

カナデ「ロゴスの効果を発動! オーバーレイユニットを1つ使い、安地の効果を無効にするわ! 
    『破滅の言葉(エンドワード)』!」
アキラ「まずい!? これで剣士にアノマロカリスの効果が通っちまう!?」

アノマロカリスの腹の下から剣士がはじき飛ばされた。

カナデ「当然、そうさせてもらうわよ! 『世界最古の略奪者』! これで終わりよ!」
美琴「・・・・・・それはどうかな?」
カナデ「はぁ!?」
美琴「リバースカード、オープン! 《ディメンション・ガーディアン》! これで剣士は破壊されねぇ!」

異次元から女神の彫像が現れ、剣士を守るように幻影の盾となる。
安地と似たような効果の永続罠だ。

カナデ「しつこいのよ、もう!」
美琴「こいつはあたしの魂のカードだからな! そう簡単にやらせやしねぇよ」
カナデ「・・・・・・カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」


カナデ
手札:0
LP:2550
場:《バージェストマ・アノマロカリス》(ORU:0)、《No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス》(ORU:1)
  伏せ魔法・罠×1
墓地:《バージェストマ・マレラ》、《バージェストマ・カナディア》×2、《バージェストマ・ハルキゲニア》
   《バージェストマ・ピカイア》、《ボルト・ヘッジホッグ》、《バージェストマ・ディノミスクス》

美琴
手札:0
LP:1600
場:《アマゾネスの剣士》+《安全地帯》(無効)+《ディメンション・ガーディアン》、伏せ魔法・罠×1
墓地:《リビングデッドの呼び声》、《アマゾネスの里》
除外:《荒野の女戦士》


美琴「あたしの・・・ターン!」

お互いに手札は0。
ガーディアンのおかげで剣士は破壊されないが、カナデにターンが回ればロゴスにガーディアンを無効にされてしまうだろ。
美琴が勝つには、ここで決着をつけなければならない。

アキラ「美琴・・・・・・」

美琴がドローしたカードは―――

美琴「あたしは、《アマゾネスの鎖使い》を召喚!

☆4のモンスターであった。

アキラ「同じ☆のモンスターが2体・・・っよし!」
美琴「あたしは、剣士と鎖使いでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!
   エクシーズ召喚! 現れろ、《No.39 希望皇ホープ》!!」

美琴の右フトモモに39の数字が浮かび上がり光を放つ!
巨大な剣にも盾にも見えるオブジェが穴よりせり上がり変形していく。

ホープ「ホープ!」
カナデ「なんで光ってんのよ!?」
美琴「うるせぇ! あたしだってわけがわかんねぇよ!」
カナデ「なにそれ!?」
美琴「いくぜ! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!
   一粒の希望よ! 今、電光石火の雷となって闇から飛び立て!!
   現れろ、SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング!!」
カナデ「うえっ・・・・・・」

美琴のエースモンスター・希望皇ホープが新たな姿をとる。
二振りの剣を肩に持つ新たな希望の姿! ホープ・ザ・ライトニング!

美琴「ライトニングの効果発動! オーバーレイユニットを2つ使い、攻撃力を5000にする!
   アノマロカリスに攻撃だ! ホープ剣ライトニング・スラッシュ!!」

抜き放たれた双剣が閃き、最古の捕食者を斬り刻んだ。
カナデのLPが0になり、美琴の勝利が宣言される。

カナデ「う、うぅ・・・なんでよ、あんなに可愛いのに・・・・・・」
美琴「これで文句ねぇだろ! じゃあな!」
アキラ「なんだったんだろうな、いったい・・・・・・」

打ちひしがれるカナデをよそに、
デートを邪魔されて不機嫌な美琴と彼女をなだめるアキラが去っていった・・・・・・。
後日、カードショップmay―――

カナデ「まったく、なんでみんなアノマロカリスの良さがわからないのかしら? ねぇ、馬耶」
馬耶「うむ。古生物にはロマンがある。我が記憶の中のモンスターに似通った姿・・・」
カナデ「筋肉ムッキムキのアマゾネスとか使ってたし、あの不良、どうせ脳筋なのよ!
    馬耶も気をつけなさい、変なこと言ってると、絡まれるわよ」
馬耶(はて? 話を聞く限りカナデの方から絡んでいったようだが・・・。
   それにアマゾネスを使う不良・・・なぜか心当たりがあるような・・・)

ふと馬耶の目にストレージを漁っている人物が目に入った。

馬耶「おお、アマゾネスの巫女よ!」
美琴「だから、あたしは巫女じゃねぇ・・・って、あぁ?」
カナデ「あ、あんた!」
美琴「てめぇ、あん時の!?」
カナデ「ここであったが百年目よ! 今度こそアノマロカリスの良さを叩き込んであげるわ!」
美琴「それはもういいっつーの!!」



おしまい

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最終更新:2016年08月20日 19:18