超古代の呼び声(後編)

上部見山の地下に建造された旧サイコデュエリスト研究機関の秘密研究所。
その中枢に位置する制御室では今、西院とクロキ、二人の男が対峙していた!

「そういえば西院君、いつものお仲間はどうしたのですカァ?あの太鼓持ちのキタヤマ共は?」
「フン、貴様ごとき俺一人で十分だ。それに貴様が生きていると知れれば色々と面倒臭そうなのでな」
「それはそれは…」
「それにしても、化石を盗み出して何を企んでると思えば…相変わらず悪趣味な研究を続けているようだな」

西院が制御室窓の眼下に広がる光景を見やる。
そこに広がっているのは無数のカプセルが立ち並ぶ培養プラント。
カプセルの中ではイングラムと戦ったあの怪物達が目覚めの時を待っている。

「あのゲテモノ共はさながら化石から取り出した恐竜のDNAデータを解析して作り上げたバイオ生命体といったところか…
 だが恐竜のDNAなど使って何の意味があるんだ?玉乗りを仕込みたい訳でもあるまい」

西院の問いにクロキはククク…と肩を震わせて答える。

「流石察しがいいですネェ…ですガ、あれはただの恐竜の化石ではありませんヨ。
 あれこそが恐竜が進化した存在…『恐竜人類』(ディノサウロイド)がこの地球上に存在したことを示すエヴィデンスなのデス!」
「はぁ…?ディノ…何だと?」

突如突拍子もないことを言い出したクロキに西院は怪訝な顔を隠せない。

「まぁ、信じられないというのも無理はありまセン…ですが、その存在は古代デュエル史を記録した古文書『デュエルノミコン』(決闘の書)にも記されていマス!」

クロキが取り出したタブレット端末の画面には、不気味な装丁が施された一冊の書籍の画像が映っていた。

「この『デュエルノミコン』はかつてのカクリバンの主、オスカー・ファイゲンバウムが異世界を渡り歩き編纂したものデス。
 その中には遥か宇宙開闢の時代より繰り返される破滅の光と創造の闇との戦いについても記載されていまシタ!
 それによれば、今より約6600万年前の白亜紀末期にも光の勢力は地球に降り立ち…デュエルを行ったとされていマス!」

クロキの語る衝撃の古代史!
血走った彼の目はもはや正気のものとは思えないが…

「当時地球上を支配していた存在こそが恐竜人類!彼らは現人類をも上回る卓越した知性と神通力を持ち、高度な文明を築いていたようデス…
 だが彼らは光の勢力とのデュエルに敗れ、宇宙の彼方への逃亡を余儀なくされた。やがて彼らは宇宙空間に適応した宇宙恐竜(スペース・ザウルス)へと…!」
「もういい、貴様の話をこれ以上聞いていたらこちらの頭までどうにかなりそうだ」

冷淡に西院は言い捨てた。

「貴様の戯言に付き合うのもここまでだ、大人しくお縄についてもらうぞ!」

西院の掲げた『デモンズ・チェーン』が実体化し、飛び出した鎖がクロキを拘束せんと迫る。
それに対してクロキは、右腕を前へと掲げた。そして次の瞬間!
彼の右腕より衝撃波が放たれ、『デモンズ・チェーン』を消滅させたではないか!

「何っ!?」
「ククク…この大いなる力を見てもなお、私の話を戯言と切り捨てますカァ…?」

クロキの白衣の右袖がビリビリと破れていく。
そこにあったのは爬虫類の鱗に覆われ、禍々しく変異した右腕だった!

「化石より抽出した細胞を私の右腕にも移植しまシタ…!どうですこの圧倒的なパワー!西院君!キミなら分かるでショウ!」
「チッ、前からヤバイ奴とは思っていたが、まさかここまでイカレていたとはな…!」

クロキの発言がどこまで真実なのかは分からないが、少なくとも無能力者だった彼が急激なパワーアップを遂げていることだけは確かだ。
西院は距離をとり、デュエルディスクを構える。

「ならば…!デュエルをケリを着けるまで!」
「デュエルですカ…!いいでショウ!恐竜人類の完全なる復活のため…丁度もう一戦データが欲しかったところデス!」

西院とクロキ、二人の放つ闘気がぶつかり合い、決戦のバトルフィールドと化した制御室を揺らす。

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「「デュエル!!」」(西院: LP8000)(クロキ: LP8000)

「ワタクシのターン!ククク…西院君、キミのデータも既に分析済みですヨ!」

先行を取ったクロキは手札を確認し、ニィと口元を吊り上げる。

「まずは速攻魔法『盆回し』を発動!ワタクシのデッキよりフィールドカード二枚をお互いの場にセットしマス!」

クロキの場に『ロストワールド』、西院の場に『混沌の場』がそれぞれセットされる。
『混沌の場』は特定のカードをサーチすることで発動が可能なフィールド魔法であるが、
当然それらのカードをデッキに入れていない西院は役に立たないカードを押し付けられたことになる。
更に『盆回し』の制約により、セットされたカードを処理しない限り西院は新たなフィールド魔法を発動することもできない。

「キミのキーカードの一つ『PSYフレーム・サーキット』、早速封じさせて頂きまシタ。
 続いて私はセットした『ロストワールド』を発動!そして『魂喰いオヴィラプター』を召喚し、効果発動デス!」

ここでクロキはチェーン1・『魂喰いオヴィラプター』、チェーン2・『ロストワールド』の順にチェーンを組んだ。
これは『ロストワールド』の処理を間に挟むことによって、『オヴィラプター』への『PSYフレームギア・γ』の発動を封じるというプレイングだ。

「そして『ロストワールド』によって出現するトークンによって、キミは『PSYフレームギア』の発動すらも封じられる…どうです、この完璧な作戦ハ?」
「フン…だが俺のフィールドに上がり込む以上、場所代は支払って貰うぞ。手札より『増殖するG』を発動!」

例えトークンが召喚されるのが相手の場であっても、特殊召喚自体を行ったのはクロキ側ということになる、『ジュラエッグトークン』の出現と共に西院は1ドロー。
そして『オヴィラプター』の効果処理でクロキは『幻創のミセラサウルス』を墓地へ送った。

「ワタクシは更に『オヴィラプター』の効果を発動して『ジュラエッグトークン』を破壊…ですが、更にここで『ロストワールド』の効果を適用しマス。
 トークンの代わりにデッキの『プチラノドン』を破壊し、『プチラノドン』の効果で『ジャイアント・レックス』特殊召喚デス!」

クロキの場に新たに恐竜族モンスターが出現する。
どうやら彼は『増殖するG』に構わず盤面を整える腹積もりのようだ。

「『オヴィラプター』と『ジャイアント・レックス』で『エヴォルカイザー・ラギア』をエクシーズ召喚!カード一枚をセットし、ターン終了デス!」

『増殖するG』によって現在の西院には差し引き2枚のカードアドバンテージがある。
これはクロキも承知のこと、徹底的に西院のデッキを封じた現状であればこの程度の出資は問題ないということだろう。
だがしかし、西院もここで手をこまねいているような決闘者ではない。

「俺のターン。俺は『ジュラエッグトークン』をリリース、手札から『PSYフレーム・ドライバー』をアドバンス召喚!」
「ほう『PSYフレーム・ドライバー』…早速引き込んでいましたカ」

『PSYフレームギア』のオマケという色合いのある『ドライバー』だが、腐っても攻撃力2500の上級モンスター、時と場合によっては十分に使い道がある。
クロキの『ロストワールド』の効果によって、恐竜族以外のモンスターのステータスは500ポイントづつダウンする。
相手の『ラギア』もまたその影響下にあるため、『ドライバー』の召喚に成功すれば攻撃力は2000対1900、戦闘破壊が可能であるが…

「ワタクシは『ラギア』のモンスター効果を発動!ORUを二つ取り除き、その召喚を無効にしマス!」

当然それを良しとしないクロキは『ラギア』の効果が発動を発動させる。

「ここで手札の『PSYフレームギア・γ』を発動!『ラギア』の効果発動を無効にし、破壊する!」

それに対して西院も手札から『γ』を発動。
まだ召喚に成功していない『ドライバー』はフィールドに存在しないものとして扱われるからできるプレイングだ。

「それも想定内デス…!カウンター罠『神の通告』を発動!」(クロキ: LP8000→6500)

だがここでクロキは更なるカウンターを重ねてきた。
チェーン3の『神の通告』が適用されることで手札の『γ』が破壊され、『ラギア』の効果適用により『ドライバー』もまた召喚を無効化され爆散する。

「フフ、危うくシンクロ召喚へと繋げられるところでしたガ、残念でしたネェ…」
「だがこれで『ラギア』のORUは排除した。手札からカード一枚をセットする」

ここで西院はリバースカードを『ラギア』の存在するEXモンスターゾーンと同列の魔法・罠ゾーンに配置した。

「そして、俺は手札より『紫宵の機界騎士』を特殊召喚する!」
「ほう!?『機界騎士』ですと…!?」

さしものクロキも目を丸くする。
『機界騎士』はフィールド上のカード二枚が存在する列のモンスターゾーンに特殊召喚が可能な上級モンスターのカテゴリである。
相手への速攻性に欠けるという『PSYフレーム』の弱点を補うため、西院はあえて『機界騎士』をデッキに投入していたのだ。
先ほどセットしたカードと『ラギア』の二枚に挟まれたモンスターゾーンに『紫宵の機界騎士』が召喚される。

「バトルだ、行け『紫宵の機界騎士』!」

『紫宵の機界騎士』の攻撃力は『PSYフレーム・ドライバー』と同じく2500、長槍による一閃が『ラギア』を両断する。(クロキ: LP6500→6400)

「メイン2、『紫宵の機界騎士』の効果で自身を除外し、『蒼穹の機界騎士』をサーチ。カード一枚をセットしてターン終了だ」

西院の二枚目のリバースカードはもう一方のEXモンスターゾーンの同列に置かれた。
これで手札の『機界騎士』と合わせてクロキのEXモンスターゾーンの利用を牽制する構えだ。

「ククク…成程、自身を除外できる『紫宵の機界騎士』であれば『PSYフレーム』との共存も可能という訳ですカ…
 いやはや幾多のサイキックモンスターを使いこなしてきた西院君ならではの構築デス……ですガァ…!」

予想外の一撃に先制を許したクロキだが、彼は余裕の表情で語り出す。

「キミの守りの要である『PSYフレーム』が機能しない今、ワタクシのアドバンテージが崩れることはありまセェン!私のターン!」

禍々しく変異した右手でクロキはカードをドローした。

「まずは手札より『プチラノドン』召喚!『ロストワールド』の効果発動デス!」
「それにチェーンして手札の『PSYフレームギア・α』発動!自身とデッキの『ドライバー』を特殊召喚し、『PSYフレームギア・β』をサーチする!」

再びトークンによってフィールドを塞がれる前に西院は『PSYフレーム』を使用。
これにより『ジュラエッグトークン』と合わせて3体の守備表示モンスターが西院の場に出現する。

「効果を無効にできないと見て物量で守備を固めてきましたカ。
 ですが無駄デス!魔法カード『究極進化薬』発動!墓地の『ラギア』と『ジャイアント・レックス』を除外し…現れよ!『究極伝導恐獣』ォ!!」

山のごとき巨体が立ち上がり、ズシリという地響きと共にけたたましい咆哮がフィールドに響き渡る。
これぞ三種のティラノの力を併せ持った究極の暴君、恐竜族最強モンスターの『究極伝導恐獣』だ!

「更に除外された『ジャイアント・レックス』をワタクシの場に特殊召喚!そして『究極伝導恐獣』の効果を発動しマス!」
「この瞬間、永続罠『PSYフレーム・オーバーロード』発動!俺の場の『PSYフレーム・ドライバー』をコストに効果を発動する!」

『PSYフレーム・オーバーロード』は1ターンに一度、『PSYフレーム』モンスターをコストとして除外することで場のカード一枚を裏側除外する効果を持つ。
任意のタイミングでカード除去を行うことが可能な強力なカードであるが…

「しかぁし!それも対策済みデス!『ロストワールド』によってキミはトークン以外のフィールドのモンスターを効果対象に出来まセェン!」
「ならば…!まずはそいつを除去するまで!」

西院は『オーバーロード』の効果対象として『ロストワールド』を選択する。
フィールドを覆っていた太古の風景が崩れ去り、戦いの場は元の陰気な制御室へと戻った。

「『究極伝導恐獣』の効果処理デス!『プチラノドン』を破壊し、キミの場のモンスターを裏守備に!
 そして破壊された『プチラノドン』の効果により、デッキから『幻創のミセラサウルス』を特殊召喚しマス」

効果のデメリットを逆利用した更なるモンスターの展開。
これでクロキの場には『究極伝導恐獣』に加えて二体の☆4モンスターが並び立った。

「行きますヨォ!『ジャイアント・レックス』と『ミセラサウルス』の二体でオーバーレイ・ネットワークを構築!『エヴォルカイザー・ドルカ』をエクシーズ召喚!」

クロキがEXモンスターゾーンに呼んだのは純白の体を持った『エヴォルカイザー』だ。
先ほどの『ラギア』に対してこちらはモンスター効果無効のエクシーズ効果を持っている。

「これで手札の『β』は封じまシタ!仕上げデス、墓地の『ミセラサウルス』を含む恐竜族四体を除外…!デッキより『ディノインフィニティ』特殊召喚デス!
 このモンスターは除外されている恐竜族一体につき1000ポイント攻撃力がアップしマス…よって今!攻撃力は4000ポイント!」

これでクロキの場には攻撃表示モンスターが三体、恐竜達の獰猛な眼光が西院を睨みつける…。
西院を打ち負かすためのクロキの最終盤面がここに完成したのだ!

「バトルデス!『究極伝導恐獣』は相手フィールドの全モンスターを攻撃できる!二体の守備モンスターを破壊!」

巨大な尻尾の一振りが西院のモンスターを消し去り、更に合計2000の効果ダメージを与える。

「くっ!」(西院: LP8000→6000)

「続けて『ドルカ』でダイレクトアタック!さぁ行きなサァイ!」

両翼を広げた『ドルカ』が西院へと迫る。
そのエクシーズ効果を前にして、『β』による防御を彼は行うことができない。
襲い掛かる衝撃波!その威力はもはや、機関有数のサイコデュエリストであった西院すらも圧倒していた!

「ぐあぁぁぁぁっ!」(西院: LP6000→3700)

そのまま西院は壁面へと叩きつけられ、なおも伝播する衝撃が彼の周囲を円形にめり込ませる。
これこそがクロキのサイコパワー、彼が手に入れた超古代人類の力だというのか…!?
なんとか体勢を立て直し、西院はデュエルディスクを構える。
しかしそこには既にクロキ三体目のモンスター『ディノインフィニティ』が立ちはだかっていた…

「見ましたカァ?彼らの存在は、キミ達不完全な進化を遂げた人類などとうに超越しているのデス…!この地球の正当なる支配者を復活させ、永久に統治する…!
 それこそがワタクシの崇高なる計画!!さぁ西院君、滅びゆく人類の先駆けとして、消え去りなサァイ!!」

クロキの攻撃宣言に『ディノインフィニティ』が迫る!危うし西院!!
その時…!



「……フッ、それはどうかな?」
「なっ…!?」

次の瞬間クロキが見たのは西院の周囲に発生した衝撃波によって押し戻される『ディノインフィニティ』の姿であった。

「まんまと引っかかってくれたなドクタークロキ。俺が『β』を持っていることを明らかにすれば、貴様は必ずそちらを対策してくると読んでいたぞ。
 本命はこちらだ!『王魂調和』!」

輝きと共に西院の発動した罠カードが明かされる。

「クッ…このタイミングで攻撃反応罠だトォ…!?」
「俺への直接攻撃を無効にする!そして更なる効果として墓地のモンスターを素材にシンクロ召喚を行う!
 『PSYフレームギア・α』と『PSYフレーム・ドライバー』を除外し、『PSYフレームロード・Ζ』を攻撃表示でシンクロ召喚!」

増幅器を身に纏ったサイキック戦士、『PSYフレームロード・Ζ』が颯爽と西院の場に降り立った。

「ですガ!効果を使えば『ドルカ』の餌食デス!やれ『究極伝導恐獣』!新たに召喚されたモンスターに攻撃!」

『究極伝導恐獣』が『PSYフレームロード・Ζ』を踏みつぶさんと脚を振り下ろす。
その攻撃は着実に『Ζ』を捉えるが…

「手札の『PSYフレーム・マルチスレッダー』の効果を適用!このカードを手札から墓地に捨てることで『Ζ』の破壊を無効にする!」
「ヌウゥ…!『マルチスレッダー』の効果は”発動”する訳ではナイ…!『ドルカ』は使えないという事ですカ…!」

苦々しい顔で唇を噛みしめるクロキ。
戦闘により西院のライフが削られるも『Ζ』は健在だ。(西院: LP3700→2700)

「ええい!こんなはずガ…!」

クロキの中には徐々に焦りの感情が湧き出していた。
『PSYフレームロード・Ζ』の召喚を機として、完璧だったはずの彼の作戦に綻びが生じ始めている。
『ミセラサウルス』の効果で特殊召喚した『ディノインフィニティ』はエンドフェイズに破壊されてしまう。
そして『オーバーロード』が場にある以上『ドルカ』を維持しても次のターン『究極伝導恐獣』を除去されるのは確実だ。
西院のデッキを対策し、全てが思い通りに進行していたと思われたこのデュエル…
しかし、『オーバーロード』の発動と『ロストワールド』の除去、そして『β』をチラつかせることで彼を短期決着へと誘導し、
デュエルの流れをコントロールしていたのは実は西院の方だったのではないのか…?

「こんなはずガ!こんなはずガないのデス!このワタクシが、人間ごときの策に踊らされる事ナド!」

とにかくここは『ドルカ』を捨ててでも『オーバーロード』を除去し、後続へ繋ぐことこそが最善手!クロキはそう判断する。

「『ドルカ』と『ディノインフィニティ』を素材に、『トロイメア・フェニックス』をリンク召喚!召喚時に手札一枚をコストとして、『オーバーロード』を破壊しマス!」

フェニックスの灼熱の羽ばたきが『オーバーロード』を光の粒子へと変える。
そのままターンエンドを宣言するクロキ、その様を西院は冷静に見つめていた。

「無駄だクロキ、このデュエル…既に勝利のビジョンは見えている。俺のターン!」

スタンバイフェイズに入り、西院の場に『紫宵の機界騎士』が戻る。
そして彼は即座に『Ζ』の効果発動を宣言する。
『究極伝導恐獣』のモンスター裏守備にする効果は互いのメインフェイズにしか効果発動ができない。
そのタイミングの隙を突き、二体のモンスターは異空間へと送られる。
そしてメインフェイズに西院が動く。

「リバースカードを『フェニックス』と同列にセットし、その列に『蒼穹の機界騎士』を特殊召喚。効果により『紫宵』をサーチ。
 次にフィールドの『紫宵』の効果を発動、『紫宵』自身を除外し、新たに『蒼穹』をサーチする。続けて先ほど場にセットした『サイコ・フィール・ゾーン』を発動。
 除外された『α』と『紫宵』を墓地に戻すことで☆9の『メンタルオーバー・デーモン』をもう一方のEXモンスターゾーンに特殊召喚。そして『メンタルオーバー』の
 効果を発動し、墓地より『PSYフレームギア・γ』を除外。更に墓地の『オーバーロード』を除外して永続罠『PSYフレーム・アクセラレーター』をサーチ。
 これを『メンタルオーバー』と同列にセットする。そしてこの列に手札の『紫宵』を特殊召喚。『メンタルオーバー』をリリースし手札の『蒼穹』をアドバンス召喚。
 墓地に送られた『メンタルオーバー』の効果で『γ』を特殊召喚、さらにそれをトリガーとして墓地の『マルチスレッダー』を特殊召喚。
 仕上げに『γ』と『マルチスレッダー』で『PSYフレームロード・Ω』をシンクロ召喚!」

決闘者動体視力をお持ちの皆様にはもうお分かりだろう!
手札、墓地、除外カード、そして場のカード配置をもフル活用した展開によって、西院のフィールドには今、四体の上級サイキックモンスターが並び立った!
これこそが研究機関にその名を轟かせた男、サイキック使いオルトの本領発揮である!

「こ…こんな事、こんな…!」
「行くぞクロキ!まずは『Ω』で『トロイメア・フェニックス』を攻撃!サイオニック・チャージ!」

超加速を駆使した電撃攻撃がクロキの場に残る『フェニックス』を打ち砕いた。(クロキ: LP6400→5500)

「とどめだ…!残る三体の『機界騎士』でドクター・クロキにダイレクトアタック!」

三体の『機界騎士』が宙を舞い、放たれる斬撃がクロキの残りライフをそぎ落としていく…!

「ヌアアアァァァァァ!!」(クロキ: LP5500→0)

衝撃により吹き飛ばされたクロキが地面へと叩きつけられる。
ヨロヨロと立ち上がろうとする彼の下へ西院がゆっくりと近づく。

「まだ動けるとは大した力だ、だがもう逃げることはできまい。観念することだな」

とその時、何かが真横より西院を目掛けて飛んで来る。
間一髪、西院が危機を察知して体を反らすと、それは彼の顔面をかすめ床へと突き刺さった。
そこにあったのは『悪魔のくちづけ』のカードであった。

「ウフフ…今の攻撃を躱すとは、中々できるようね」
「…誰だ!?」

振り向くと、そこには青い肌をした妖艶な女性が立っていた。
つい先ほどまで何者かがこの部屋に入ってくる気配などまるで感じなかったはずだが…

「出すぎた真似をするなナナシー、貴様は控えていろ」
「はっ、申し訳ありません!」

美女の背後の景色が歪み、異空間へと繋がる裂け目が出現する。
そこから歩み出できたのは…

「貴様は…オーカス!」
「馬鹿な!?オーカスだトォ!?な、何故この場所ガ…!?」

それはまさに二人の因縁浅からぬ男。
カクリバン空間を支配する邪神結社が幹部の一人、オーカス・ファイゲンバウムであった!
思いがけぬ人物の登場に激しく狼狽するクロキ。

「フン、俺が貴様ごときの企てに気づかないとでも思っていたか。元よりわざと貴様を泳がせていただけのことよ」
「な、何!?き…き、貴様!最初からワタクシを利用していたと言うのカァ…!!」

衝撃の事実を伝えられたクロキは、その場に唖然と崩れ落ちる。

「ご苦労だったなドクター・クロキ。貴様の造り上げた恐竜人間を配下に加えることによって、我ら結社の悲願は必ずや達成されることだろう」
「フフ…妬けるわねぇ、貴方ごときがオーカス様の最大の功労者になってしまうなんて。光栄に思うことねぇ」
「うっ…クッ…!」

立ちはだかる二人の言葉をただ茫然と聞き入れるクロキ。

「フン、他人の研究成果を横取りとは随分とアコギな手を使うものだな、オーカス」

その場へ割り込んできたのは西院である。
オーカスとナナシーの二人が彼を睨むが、西院は構わず挑発の言葉を投げかける。

「オマケに俺が奴を倒した時を見計らって漁夫の利狙いとは、そのみみっちさは親父譲りのようだな」
「貴様…この後に及んで父上を愚弄するか。いいだろう、父上の無念、今こそ晴らしてくれようぞ!」

父オスカーへの侮辱の言葉に遂に怒りを露わにするオーカス。
西院を向き、デュエルディスクを構える。

「望むところだ、今日こそ貴様らとの因縁、全て清算してやるぞ!」

それに対して西院もディスクを構え、対峙する。
一触即発の二人…因縁の対決が始まろうとしていた…!
しかしその時!

「く…くく……ハハハ…ハァーッハハハハハハハハハハハハーーーーーッ!!!」

突如としてドクター・クロキの狂気の笑いが制御室に響いた!

「このワタクシを利用したダト!?ふざけるな…ふざけるなヨ、オーカス・ファイゲンバウムゥゥッ!!この研究はワタクシだけの物…貴様なんぞに渡しはせんゾォッ!!!」
「…!?貴様、何を…!?」

傍らのナナシーが止める暇もなく、クロキがポケットから取り出したのは…施設の爆破スイッチだ!
彼がスイッチを押した次の瞬間、爆発音が制御室に響いた。

「ハハハハハッ!!そうだぁ!燃えろ!全て燃えてしまいなサァイ!これでこの研究は永遠にワタクシの物デス!!」

次々と爆発が起こる制御室の中で、クロキの笑い声がこだまする。
やがて彼の姿は爆炎の渦の中に消えていった…!

「ちぃ、愚か者めが…!ナナシー、この場は退くぞ!」
「はっ!オーカス様!」

制御室が崩落していく中、状況不利と見たオーカスは撤退を指示する。
オーカスの力によって再びカクリバンへと続く次元の歪みが形成され、二人の姿がその中へと消えていく。

「待てっ…!くそっ!」

後を追おうとする西院だが、燃え盛る爆炎は既に彼を飲み込もうと迫っていた。
絶体絶命の刹那、彼は一枚のカードを手にする。
次の瞬間、彼の周囲の風景は木々に囲まれた山中へと変わっていた。
ここは上部見山の山中、崖下を見やればもくもくと黒煙を上げて燃える小屋…秘密研究所の入口があった。

「ふぅ…何とか脱出できたようだな」

そう言って西院は手元の『緊急テレポート』のカードを見やる。
サイコパワーによる空間転移は研究機関の技術をもってしても未解明の分野であった。
下手をすれば*いしのなかにいる*といった事態を招きかねない危険な賭けであったが何とか成功したようだ。
辺りでは施設の爆発によるものと思われる地鳴りが続いている。
ドクター・クロキの恐るべき計画は炎の中へと消えた…彼もまた滅んだのであろうか?
不思議と西院には彼らがまた自分たちの前に立ちはだかるのではないか、そんな予感が拭えなかった。

「フン、まぁその時はその時だ。何度でも叩き潰してやるさ」

そう言い残し、彼は燃え上がる研究所に背を向け去っていく。
研究所にまだ二人の少女が取り残されているという事実など、彼には知る由もなかった。


「きゃあああっ!」

激しい揺れに二人は悲鳴を上げる。
ありかとなのが閉じ込められている部屋は施設中枢から離れていたため、二人がいきなり爆発に巻き込まれるということはなかった。
しかし、今もなお続く爆発によって施設全体が崩壊するのは時間の問題である。
既にあらゆる手で部屋からの脱出を試みたが、厳重に閉鎖された空間から抜け出す方法はとうとう見つからなかった。
すぐ真上で爆音が響き、天井からポロポロと破片が落下する。
もはやこれまでなのか…涙目の二人が手を握りしめたその時…

(ナノ…キコエマスカ…?)

再びあの声がなのの頭に響いた。
彼女が手元の化石を見てみると、それはうっすらと光を放っている。

「この声は…!またあなたなの…!?」
(モウジカンガアリマセン…マモナクココハホウカイシマス…)
「で…でも、もう私にできる事なんて…!」
(ナノ…モウイチド、アナタノ”チカラ”ヲカシテクダサイ…ワタシヲ”ジッタイカ”スルノデス)
「え…!?」

化石より語り掛けてくる存在、その真意は全く分からない。
ただなのは藁にもすがる思いで声の言うままに化石を握りしめ、カードを実体化する時と同じように念を送る。

「あっ!なのちゃん上っ!」

ありかが絶叫する。
遂に本格的な崩落が始まり、崩れ落ちた天井が二人を押しつぶさんと落下してきたのだ!
その次の瞬間!化石から眩い光が放たれ、辺り一面が光に包まれた!

「こ…これは一体?」

二人は唖然とする。
周囲は先ほどまでとはうって変わって静まり返り、二人に迫っていた破片がこちらに落ちてくる様子も全くない。
まるで時間が止まってしまったようであった。
その時、光の中よりあの声が語り掛けてくる、今度はありかにもはっきりとその声を聞き取ることができた。

(ダイジョウブ…ワタシノチカラデ、キケンハサリマシタ…ナノ、アナタノオカゲデス)
「あなたは…一体何者なの…?」
(ワタシハ…デュエルモンスターズノ”セイレイ”…ワタシハハルカムカシ、サイキョウノ”デュエリスト”ニツカエテイマシタ)
「カードの…精霊…?」
(ワタシノマスターハ、”オウ”トシテコノチジョウヲオサメテイタ…シカシ、アルヒテンヨリ”シンリャクシャ”ガヤッテキタ…
 マスターユウカンニタタカイ…ソシテ、イノチヲオトシタ。ワタシハマスターナキアトモ、ソノ”ナキガラ”ヲマモルタメ、トモニネムリニツイタノデス…)

カードの精霊を自称する声の話す内容を二人は完全に理解できた訳ではなかった。
ただその時々の喜び、悲しみの感情が光を通して彼女達の心の中に映し出されるような感覚があった。

(ナガイトキヲヘテ、ワタシノ”カード”ハクチハテタモノノ、”タマシイ”ハコウシテ、マスターノソバニアリツヅケタ…
 イマ、マスターノチカラヲ、ワガモノニシヨウトスル、アシキモノハサッタ…ワタシモマタ、フタタビネムリニツコウ…
 アリガトウ、ナノ…スバラシキ、”デュエリスト”ヨ…!)

化石の発する光が強くなり、何も見えなくなっていく。
やがて光が消えた時、二人はごうごうと燃える小屋を目の前にした山中にいた。

「あ、あれ?私達…助かったの?」
「そうみたい…ねぇ、なのちゃん、今のって一体…?」

なのの手にする化石を見つめる二人だが、もう声は聞こえてこなかったし、化石からは何の力も感じられなかった。
思考が定まらないまま、二人の脳裏に焼き付いているのは光が強まる寸前に見えた気がした美しいモンスターの姿であった。
あれこそが声の正体だったのだろうか…?

「おーい!君たち!」

その時、二人を呼ぶ声がした。
振り向くと、片手を上げこちらへ走ってくる人影…イングラムの姿があった。

「君たち、大丈夫か?」
「は、はい…どうしてイングラムさんがここに?」
「ああ、この辺りで怪物のような存在を目撃したと通報があったもので…いや、それより君たちの方こそ何でこんな所に?」
「ねぇ!聞いて聞いて!今私たちねぇ!」

ありかが目を輝かせてイングラムに語り掛けたその時、けたたましい爆発音が鳴り響いた。

「ともかくここは危険だ!先ほどから何やら爆発が起きているようだ。一旦避難するから私に着いてきなさい!」
「あー待って!話を聞いてよぉ~~~!」

イングラムに連れられ、二人は山を後にする。
やがて施設の完全破壊を思わせるキノコ雲が立ち上った。


それから数日後…
警察と消防が崩壊した地下研究所を調査したが、徹底的に破壊された施設からは死体どころか生物の痕跡すら一片たりとも発見できなかったという。
結果、この事件はただの爆発事故として処理されることとなった。
なの達が発見した化石は無事博物館に返されたが、これも小学生二人が偶然山小屋に隠されていた化石を発見したという扱いだ。
この結末について、なのは事件を隠蔽しようとする何者かの意思を感じないこともなかった。
だが過去の事件でマスコミに取り上げられることにうんざりしていた彼女としては、内心ホッとするものがあったのも事実であった。
もっとも、相方の方はそうではないみたいで…

「あーっもう!何よこの『お手柄小学生!山小屋で化石発見!?』って記事は!写真どころかインタビューすら載ってないじゃないの!!
 あの事件のこと皆に話しても、『夢でも見たんじゃない?』みたいな態度だしー!!うう~~~っ!!」

カードショップmayの決闘卓では、足をバタバタと振り上げて悔しがるありかの姿があった。
怒りのあまり彼女は手にしていた新聞をビリビリと引き裂き始める。
その時、一つの記事に目が留まった。

「ん…?『芋毛公園でUMA発見!幻のサケ人間か!?』ですって…?これよ!」

何かを閃いたありかが立ち上がる。

「そのサケ人間とやらを私達で生け捕りにしてやるわ!そうすれば今度こそ有名人間違いナシよ!よーし、そうと決まれば早速調査開始よーっ!!」
「ありかちゃん…全然懲りてないんだから…」

なのは、ハァと大きなため息をこぼすのだった。



END

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最終更新:2018年04月04日 21:08