(本田にも負ける)

河本 焔。
一見男装の美少女に見える彼はれっきとした男性だ。
だが彼は自らの美貌を恥と感じていない。
むしろ、女性の美しさに、男性の勇猛を持ち合わせたハイブリット河本として誇りに思っていた。

「ぐあああ!!」

そんな彼に喧嘩を売った奴がいた。
デュエルマフィアと呼ばれる連中だ。
彼らは少女にデュエルを申し込み、負ければ捕らえてどこかに売り払うという計画を実行していた。
だが、一番最初の標的が焔だった。

「へっ!この程度かよ!!」

サラマングレイトデッキを使いこなす炎のようなデュエリスト焔のバトルスタイルは、攻めて攻めて攻めまくる、獣のような猪突猛進。
だが考えなしの攻撃の中には、敵の息の根を確実に止める狡猾さも見え隠れしていた。
簡単に言えば、デッキも強いし、デュエルタクティクスも優れているのである。

「…なかなかやりますねぇ」

デュエルに負けたショックで転がっている部下たちをけとばして、ピエロの仮面をつけた男が現れた。

「てめぇがボスか!部下は大切にするんだな!」
「ふん、こいつらは捨て駒よ、貴様を捕えるための人手でしかない。
欲を言えばこいつらがお前を倒せば、私が働く必要がなかったのだが」

ピエロの男は冷静沈着だ。
そんな氷のような男を見て、炎の化身を自負する焔は更に燃え上がる。

「貴様みたいな外道!俺が必ず倒してやる!」
「ふ…外道で結構。しかし最後に勝つのは…私ですよっ!」

そしてデュエルが始まった。
だが、ピエロの男のデュエルは、焔の想像を超えているものだった。

「なんだ…そのカードは!!」

サベージコロシアムを利用され、サラマングレイト達は「そのカード」に突撃する。
だが、「そのカード」の効果により、次々と墓地に送られる。破壊ではない、「墓地に送る」だ。
しかし焔のモンスターはこれで全滅。
更にピエロの男は切り札を出す。

「では…連続攻撃を受けてもらいましょうか」
「う…うおおおお!!!!」

こうして、焔の悲鳴がこだまする。
彼の悲鳴は誰にも聞かれること無く掻き消され、そして1人のデュエリストが膝を付くこととなった…。



「焔が負けるなんて…」
「ああ…相手がわるか…いてて!もっと優しく包帯を巻いてくれよ!」
「お嬢様じゃない人に優しくする必要なんてないですよ。はい!これで終わり!」
「終わり!じゃない!痛いしきついし動けないし!」

翌日。
囚われそうになった焔だったが、一瞬の隙をついて逃走した。
そして双子のきょうだいである「河本 湖」の家に転がり込んでいたのだった。

シャロンの荒々しいながらも的確な治療を受け、とりあえず焔は危険な状態からは回復していた。
しかしそれは身体上の事、心の方はそうは行かない。
負けのショックが大きいのか、いつもよりテンションが3割くらい低い。
…周りからはわからないが、きょうだいである湖にはわかるのだ。
そんな彼女を心配させないようにするためか、焔は口を開いた。

「だが…あいつらを倒さなければいけない。しかし…対処法が思いつかない」
「対処法?」
「ああ…あのカードはまず、モンスターカードでも、魔法でも罠でもないんだ」
「何?そんなカードがあるの?」
「ああ…その名も『海馬瀬人』だ」

何の準備も無く、急にとある会社の社長の名前を言うもんだから、湖もシャロンも困惑してしまう。

「すまない… 所謂アレだ。『バンダ○版』のカードだ。
それを無理矢理デュエルディスクに読み込ませているのだ。」
「な…なるほど、しかしえらい古いカードが来たな」

海馬瀬人の効果は以下の通り

「彼はモンスターが相手ならば必ず勝つが、キャラクターのカードが相手だと必ず負けてしまう(本田にも負ける)」
「それが、今のデュエルだと『戦闘したモンスターを墓地に送る』効果になっているわけね」
「こちらもそういうカード、姉貴に言えば用意できるだろうけど…、上位互換の『闇遊戯』も入っているだろうしな。
そして何より『モンスターカードじゃない』から除去できないんだ。キャラカードで除去しなければいけないが…」

それも、闇遊戯を出されれば負けるわけである。
しかし、それなりの腕のデュエリストである河本きょうだいは、話しているうちに一つの結論にたどり着く。
…ならば、戦闘をしなければいい。

「戦闘をしてモンスターが全滅する疑似サンダーボルトが相手ならば、戦闘度外視で勝てるデッキ。
…要するにLPを削らずに勝つデッキがいいかな」
「……俺も同じ結論だ。だが今のデュエルは高火力ハイスピード。
相手は海馬、闇遊戯以外を速攻を仕掛ける空牙団で組んでるんだ。正直完成度は高い。
『あのデッキ』ではスピードが足らないんだ…」
「相変わらず焔は、正々堂々だね」

湖は褒めているつもりだが、焔は皮肉を言われたように感じる。
だが、このひねくれ者のきょうだいの言いたいことはすぐにわかった。

「…敵が正々堂々じゃないところで、こちらが普通に戦っちゃいけない」
「そうそう、相手の土俵に立つには、それなりの準備が必要って事。
お姉ちゃんに頼めば用意できるよ」



翌日、焔は再び、昨日と同じ場所に来た。
そこにはピエロの男が佇んでいた。
まるで焔がそこに来ることがわかっていたかのように。

「戻ってくると思ってたよ。
君は負けず嫌いみたいだからね。…けど、次負けてしまえば、君は商品となるわけだ」
「へ!何度も負けてたまるかっての!! 今日は俺が勝つ!」
「ふん、私の空牙団闇遊戯海馬デッキに勝てると思うか? 手の内がバレても問題じゃない」

ピエロの男はそう言うと立ち上がり、ディスクを構える。
本来なら焔もディスクを構え、デュエルを開始するところだが…。

「おっと、デュエルの前に俺は…このカードを使わせてもらうぜ」
「それは…?」
「ザ・ヴァリュアブル・ブック3 付属カードの『ペガサス』だ!」

キャラクターカード
ライフを1000ポイント払う。
あなたはデッキから好きなカードを1枚選んで手札に加えることができる。
この能力は、あなたのターンのメインフェイズにしか使うことはできない。
あなたはライフ6000ポイントからデュエルを開始する。

「…まさか、貴様はバンダイ版を使っておいて、俺にはズルをさせないだなんて、言う気はないだろうな」
「異論はない。たとえどのようなカードを引かれても、私の負けはないからな」

焔は思った。
こいつ…偉ぶっている割には無知だと。

「では!デュエル!俺の先行だ!
………俺は、ペガサスの効果でLPを1000払い。封印されし者の右足を手札に加える」
「…ふん、やはりエクゾディアで来るか」
「そして、もう一度LPを払い、封印されし者の右手を加える。」
「…え?」
「お前…もしかしてこの効果、ターン1制限があると思ってたか?
テキストをよく見てみろ。1ターンに1度しか使えないとは書いてないだろう?あ、更にLPを1000払い、封印されし者の左腕を手札に移すぜ」
「や……やめろ!!」
「お前の海馬とやらで防いでみな! …LPを1000払い、封印されし者の左足をサーチ! …実は初手で封印されしエクゾディアがあったから」

5枚のカードが揃い…全てを終わらせる魔神が現れる。

「私は…最強!どんなやつにも…負け……負け……」
「最強?そんなもんな… 負けに負けまくって、ボロボロになりながらも…最後まで諦めずに勝利して手に入れるものだ!!
トドメだ!!エクゾード・フレイム!!!」

こうして、ピエロの男率いる少女拉致軍団は、誰一人としてさらう事もできず、ブタ箱に打ち込まれた。



「しかし、『海馬 瀬人』かぁ。妙なことを思いつくもんだ」

犯罪者に使われてはデッキが泣く。ということで、焔はピエロが使っていた空牙団デッキをこっそり拝借していた。
手癖が悪いのは自覚しているが…。

「あのピエロ野郎。性格は最悪でやることも卑怯なんだが… 普通のデュエル自体は強かったからな。
もし娑婆に出てきて多少でも反省してたら、このデッキを返すつもりだ」
「逆に復讐の化身になってたりして」

湖が茶化す。
しかし、焔にとって、それは望むところだ。

「…どちらにせよ強敵と戦えることには変わりないぜ!」

今回は、相手がズルをしたから、こちらもズルをするという荒業で勝利した。
しかし、そういったチートを使われても、こちらは普通に跳ね返せる…。
そのような強さが欲しいと、焔は願わずにはいられなかった。

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最終更新:2019年04月21日 10:17