紅き眼の挑戦

朝起きて、朝食を食べる。
そこから昼までデュエルして、昼食を頂く。
更にそこから夕方までデュエルをし、豪華メニューと温泉を堪能し、
西洋風のベッドで寝て、翌日は麓まで送迎する。

リバーブックカンパニーが山奥の廃屋敷を使って展開するはずだった「デュエルホテル」計画は、万全だった。
もしイレギュラーが起こり想定の利益を得られなかったとしても、最悪屋敷を売り払えば良い。
元は取れないが損害は抑えられる。
…そういう流れだった。だが…。

「…まさか、屋敷内で業者が人殺しをするなどと……」

屋敷に死人が出たことでデュエルホテル計画は頓挫。
更に警察が屋敷のあちこちを荒らし周った上、その片付けをする業者も見つからない。
計画は完璧だった。

「…これを処理しなければいけないか…」

男…「咲鳳凰 竜牙」はそう思い、手のひらを見つめる。
この手には、かつて相棒と呼んでいたデッキが握られていた。
しかしそこには何もない。 何故ならそれは娘に託した託したからだ。

「…ふ、相棒はもう娘に渡したんだったな」

これからは困難は1人で立ち向かわなければいけない。
あの時と同じように…と、竜牙は少し物思いに耽る。



それは数年前だった。
とある国がデュエルで世界を支配しようとした時だ。
デュエルで世界征服なんて考える以上、用意されたデュエリストは腕利きばかりであった。
…だからこそ、迎え撃つ側は、奴らが何かする為に仕留める作戦に出た。
竜牙も迎撃側のデュエリストとして、相棒のデッキを持ち出した。
…レッドアイズデッキ。黒炎弾のバーンダメージで勝利を狙うデッキだ。
当時は黒炎弾で生み出せるダメージは2400。それより上のダメージは難易度が高かった。
しかし十分であった。黒炎弾三枚で与えられるダメージは7200。
そこまで削れれば後は楽だ。神の宣告等で向こうがライフを削ることが多いのも追い風であった。
結果、竜牙はほぼバトルフェイズを行うこと無く、亡国のデュエリスト達を次々迎撃していった。


「へぇ~ パパがねぇ~」
「へぇ~ じゃないわよ!!」

may自然公園で佇んでいた河本家。
その河本家に使えるメイド「咲鳳凰みりあ」は、突然騎士風の女「ルナイツ」にまくし立てられた。
なんで急にそんな事を言い出したかと問い詰めると、理由は上の通りだった。

「あの時の恨み…必ず晴らす!!」
「そんな江戸の敵を長崎で討つみたいな…」

シャロンは呆れたかのように片付けを始める。
こんなやつはほっといて帰りましょうの合図だ。
しかし、みりあは退かなかった。

「良いわ!その恨み!ぶつけてみなさい!」
「ちょっ…みりあさん?」
「大丈夫!パパのデッキは私の、湖様への愛の力を注入して更に凶悪になったから!!」
「私への愛で凶悪になるって酷い言い草だな!もっとこう美しくとか可憐にとか…」
「お嬢様も何言ってんですか!」
「ええい!ちちくりあってんじゃない!!」

漫才を初めそうなのほほんお嬢様軍団に、ルナイツは活を入れる。
このままでは脱線する。
日本のデュエリスト…特に女性の集まりは、話を脱線させる事が大好きな事は、彼女がこの国に来て学んだことの一つだ。
だからこそ脱線しそうな時は、無理矢理でも元に戻さなければいけない。

「とにかくこのルナイツ・ハルバーティア! ハルバーティア王国の王女として…貴方に勝負を仕掛けます!」
「うん!私のレッドアイズの力!」見せてあげる!!」

こうして、いまいち締まらない空気の中、デュエルが始まった。

先行はみりあだ。

「私のターン!
私は真紅眼融合を発動!レッドアイズ・ブラックドラゴンとラブラドライドラゴンで流星竜メテオ・ブラック・ドラゴンを召喚!
効果を発動して、デッキからレッドアイズ・ブラックドラゴン攻撃力2400を墓地に送る!その半分のダメージ1200を貴方に与える!」

ルナイツLP:8000→6800
「くっ!早速バーンダメージか!!」
「本当はレダメを墓地に送りたいんだけどね~。そして、手札から黒炎弾を発動!
真紅眼融合でレッドアイズ・ブラックドラゴン扱いになっている流星竜メテオ・ブラック・ドラゴンを指定し!貴方に3500のダメージ!」
「あ…これは」

ルナイツLP:6800→3300

「更に!左腕の代償を発動!!手札を全部捨てデッキから魔法カード…」
「くっ!殺せ!!!」

みりあが黒炎弾を引く前に、ルナイツは諦めた。サレンダーだ。

「はやっ!! …その、手札誘発カードはどうしたの!!」
「うららがあるけど!無理!!魔法カードは…無理!!」
「…待て、冥府の使者ゴーズがあるじゃないか。バーンダメージでこいつを召喚すれば」
「結局2枚目が来るじゃないの!おのれ咲鳳凰め!また我らを苦しめるか!!!」
「……あ~、パパが言ってたなぁ」



「ハルバーティア王国の奴らはすぐに諦める」

一時は宝の城に見えた…今は、忌むべきゴミ山に見える屋敷の中央で、竜牙は言う。

「…だが、彼らの手札をよく見ると、逆転の手は幾多もあった。
少なくとも相打ちに持ち込めるカードもあった。
だが、彼らはすぐに敗北を決意した」

デュエルの腕自体はあるのに、即座に逃げる。
そうやって生き残ろうとする国に、他国の侵略は無理であろう。
…逃げることもまた生き方だ。逃げれば、少なくとも今より状況が悪くなることはない。
竜牙自身もそう考えていた。
特に、家族ができてからは、逃げてでも、生き残ろうとしていた。

「……けど、今ここで逃げたら……」

竜牙の頭を、2人の女性の顔がよぎる。
1人は愛するべく娘みりあ。そしてもうひとりは…妻。
既に亡くなって久しい妻は、かつて竜牙に告白した。

「何にでも挑戦する竜牙君。好きだよ」

だが、挑戦しなくなり、家族を守ることに終始した竜牙を見ても、妻は愛想をつかすことはなかった。
…不幸な交通事故さえ起こらなければ、3人で仲良く過ごしていただろう。
しかし…。

「……よし、決めた。俺はまだまだ『挑戦』する。
そして、新たな場所でデュエルホテル計画を発足させ…この屋敷の損学を全て取り戻す!!」



「ええい!もう一度!もう一度だ!」
「そっちがサレンダーしたのに!?」

公園で、みりあの腰に抱きつきながらルナイツが懇願する。
その光景に王女としてのプライドは皆無だ。
しかし、その惨めな姿は逆に、もう一戦を引き出せた。
今の状況は傍から見れば、みりあがルナイツをいじめているようにしか見えないからだ。

「まぁ…さっきのはデッキが上手く回ったからだし」
「よーし!今度は私が先行!先行だよ!」
「小学生かお前は!」

ルナイツは相変わらず、ピンチになるとすぐ「殺せ」と叫ぶ。
だが、そこから更に逃亡する回数は、少しずつ減っていた。

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最終更新:2019年04月22日 06:48