「な、なんじゃこりゃぁぁぁ~~~~~!!!?」
その日、カードショップmayのシャッターを開けたとしあき店長は絶叫した。
彼の叫びを聞き、この店でバイトしているレイジ・ハイブリッジと天陰アキオの二人も何事かと駆け寄ってくる。
そして、店内を見た時彼らはその理由をすぐに理解した。
「こりゃあ酷いな…」
辺り一面に広がるのは砕け散ったガラス片と散乱したカードたち。
何者かの手によって店内が破壊し尽くされていたのだ!
「お…俺の店がぁ…」
目を覆いたくなるような惨状を前に、フラリと気の遠くなるとしあき店長。
「わっ!店長しっかり!と…とにかく、警察に連絡しましょう」
そんな店長をアキオは慌てて支える。
「くそっ!一体だれがこんな事を…」
レイジは店内を見回して被害状況を確認する。
カードを展示していたショーケースを始め、デュエルスペースに至るまで滅茶苦茶である。
理不尽な事態にしばし頭に血が上っていたレイジであったが、冷静さを取り戻すにつれ彼には現場の不自然さが目につくようになった。
よく見てみると破壊されているのは接客スペースの目立つ箇所ばかりで、普通真っ先に狙われるであろうレジの方は無事である。
さらにレジ裏のカード倉庫も覗いてみると、そこも特に荒らされた様子は見当たらない。
(どういう事だ?犯人は金やカード目当ての強盗じゃない…この店を破壊して見せること自体が目的だってのか…?)
その時、カウンターの中央に一枚のカードが置かれていることにレイジは気が付いた。
ふとレイジはそのカード…《スレイブ・エイプ》を拾い上げる。
「こいつは…」
彼はそのカードをまじまじと見つめる。
特におかしな点は見当たらない、陳列してあったカードがここに紛れこんだ可能性は十分に考えられる。
しかし、わざと目立つ場所に置いたともとれるそのカードを見るにつれ、何故だかレイジは心の奥底がざわつくのを感じていた。
「あのー…レイジさん?」
その時、気まずそうなアキオの声にレイジは我に返った。
「大丈夫ですか?何かボーっとしてましたけど」
「あ、ああ…何でもない、心配すんな」
そそくさとレイジはカードを元の位置に戻した。
「もうすぐ警察が来ますから、それが終わったら片付け…ですね」
「ああ…って警察ぅ!?」
ショックのあまりすっかり忘れていた。
一応彼は暴力団関係者ということになる、警察の取り調べで何かボロを出さないうちに抜け出した方がよいのだろうか。
さてどんな言い訳をしてバックれようかレイジが思案していたその時、彼の携帯電話が鳴った。
着信元はレイジの同僚である安田からだ。
(おっナイスタイミング安田さん!)
この電話を口実に抜け出そう、そう思いながらレイジは電話を取った。
『もしもし、レイジか?緊急事態だ!すぐに来てくれ!』
「安田さん?一体どうしたんすか?」
聞こえてきたのは柄にもなく切羽詰まった様子の安田の声であった。
『今さっき何者かが事務所にカチコミをかけて来たらしくて…そいつにレディが撃たれた!!』
「…!?何だって!?」
全身の血液が凍り付くような感覚がレイジを襲う。
かくして、彼の望みは最悪の形で適うこととなってしまった…
双葉皐月組事務所――
「もう大丈夫、処置は済ませたわ。念のためしばらく安静にしてもらうけど」
「…という訳だ。すまない、心配をかけたな」
そこにはレディの治療(修理といった方が適切か)に駆け付けた藤山と、ベッドに横たわるレディ・ラプターの姿があった。
「そうか…いやぁ、撃たれたってんで驚いたぜ」
意外にもピンピンしている様子のレディ・ラプターを見て、レイジはほっと胸を撫でおろした。
「まぁ、仮に彼女が生身の人間だったらどうなってたことやら…留守番してたのがレディだったのは不幸中の幸いね」
たまたま今日は桐子達は外出する予定で、事務所にレディだけが残っていたのだ。
もっとも、犯人はそれを知ってあえて襲撃して来たのかもしれないが。
「だが分からねぇな…一体どこのどいつがウチを狙うなんて馬鹿な真似を…」
レイジの隣にいた安田が呟く。
皐月組は各所にパイプを持つ巨大組織だ、この辺りで彼らに手出しをしようなど考える組は存在しない筈だが…
「レディ、犯人の姿は見なかったのか?」
「すまん。いきなり私を撃ってきたと思ったらそのまま逃走したようなのでよく姿は見えなかった。ただ…」
レディ・ラプターは1枚のカードを取り出した。
「現場にこんなものを残していった。何か分からないだろうか?」
「…こいつは…!」
レイジの表情が強張る。
そこにあったのは…またしても《スレイブ・エイプ》のカードであった!
(またしても《スレイブ・エイプ》だと!?いや待てよ、こんな事が…もっと前にもどこかで…)
自分の犯行を誇示するが如く《スレイブ・エイプ》を残していく手口…レイジには以前にも同様の光景を見たことを思い出していた。
確かあれは自分がまだデュエルギャングをやっていた頃だ…
彼の脳裏にあの頃の光景が蘇っていく。
やがて…レイジの中で全ての点が繋がった!
「お、おいレイジ!?どうしたんだ!?」
次の瞬間、レイジは部屋を一目散に飛び出していた。
唖然とする安田たちの驚きの声も、今の彼には届かない。
彼は事務所を抜け、Dホイールのエンジンをかけようとする。
「待ちな!これから会合だってのに…あんた、どこへ行く気だい?」
その時、彼を呼び止めたのはキセルを持ったチャイナドレスの女…皐月組組長の久尾桐子であった。
「桐子さん…すまない、行かせてくれないか」
「その様子じゃあアンタ、下手人に心当たりがあるようだねぇ」
桐子の突き刺すような眼光がレイジに向けられる。
よもや彼女の前では隠し事をしても無駄だろう…観念したレイジは正直に告白する。
「ああ…倒した相手の下に《スレイブ・エイプ》を残していく…俺がデュエルギャングだった頃にも、そんな奴がいた事を思い出したんだ」
桐子はゆったりと煙草を吹かし、彼の話を聞く。
「そいつのグループとは何度か衝突していた…そして、とうとう奴と決着を付けようとデュエルしたあの日、爆発事故が起きて俺は生死不明の重症を負ったんだ…」
それからの経緯はあんたも知っての通りだ、レイジはそう付け加えた。
「恐らく奴の本当の狙いは俺だ…俺と決着を付けることを望んでいるんだ。だから、これは俺自身がケリを着けるべき問題だ!」
レイジはじっと桐子の目を見返す。
「ふん…既に腹は決まっているって訳かい。だがウチの組のもんが世話になった以上、これは皐月組全体の問題だ。違うかい?」
「それは確かにそうだが…」
戸惑うレイジに対して桐子は話を続ける。
「だから、あんたはたった一人で戦いに行くんじゃない。皐月組の看板を、レディの仇を背負って戦いに行くんだ。それを忘れるんじゃないよ」
「桐子さん…?」
ここでふっと桐子は和かな表情を見せた。
「他の連中にはうまく話は通しといてやる。勝って…必ず戻って来るんだ!いいね!」
どうやらこれは桐子なりのエールの送り方なのだろう、それをようやくレイジは理解できた。
「ふっ、敵わないなあんたには…恩に着る。行くぜ!」
いつもの微笑を洩らし、レイジはDホイールのエンジンを全開にする。
一迅の風となったDホイールを駆り、因縁の地へと彼は向かう。
「…ターゲット、移動を開始しました」
「よし、俺達も行くぞ」
だがその背後で、一台の車がレイジを追跡していた事に彼は気づいていない…
夕刻、レイジがたどり着いたのはとあるゴーストタウンだった。
かつてデュエルギャング達が所有権を巡って戦いを繰り広げた町…今や人っ子ひとり見当たらない廃墟と化している。
レイジはDホイールを降り、町の中を進んでいく。
やがて彼は大きく崩落した建物にたどり着いた。
間違いない…こここそが彼が最後にデュエルし、爆発に巻き込まれた場所である。
その時、瓦礫の山の上に体格の良い一人の男が立っている様をレイジは目にした。
「やはり、貴様の仕業だったか…ロメオ!」
レイジは怒りを露わに男の名を呼ぶ。
「来たか…俺からのメッセージに気づいてくれたようで嬉しいぜぇ…レイジ」
白いスーツ姿の男…ロメオはテンガロンハットのつばを上げ、ニヒルに笑った。
「ロメオ…俺に用があるなら直接来ればいいだろう…!何故こんな真似をする!」
瓦礫を踏みしめ、レイジはロメオの下へ向かっていく。
「いやぁ俺にも事情があるのよ。あの事故の後、俺はイタリアのデュエルマフィアに入ってねぇ…」
やれやれといった調子でロメオは肩をすくめ、事の成り行きを語り始める。
「やがてボスはお前らの町に目を付けるようになった。ところが皐月組とかいう現地の連中が邪魔だってんで、いっちょ締めてこいと俺に命令した訳さ」
そして彼の話は本題へと差し掛かる。
「そして皐月組を調査する中で、貴様がまだ生きていたことを知った。嬉しかったぜぇ…なんせあの日決着の付かなかったデュエルを、俺は今でも夢に見るんでねぇ」
はははとロメオは乾いた笑いを漏らす。
「だが俺もまだ下っ端な以上、あまり好きにゃ動けねぇ。さしては皐月組のシマを荒らす仕事をやりつつ、わざわざ貴様にご足労願った次第さ!」
これまでの経緯を語り終えたロメオに、レイジは改めて怒りを燃やす。
「勝手なことを…!どうやらずいぶんと堕ちたみたいだなロメオ、皐月組もmayも…お前の好きにはさせねぇよ!」
「ははっ!その意気だぜレイジ!この日をどれだけ待ち望んだか…今日こそ貴様との決着を付けようじゃねぇか!」
対峙した二人が、デュエルディスクを構える!
「「デュエル!!」」
ディスクの判定はロメオの先行だ。
「早速行くぜ、俺は《剣闘獣ラクエル》を召喚だ!」
ロメオの場に、虎の姿をした闘士が出現する。
「やはり剣闘獣か…あの頃から相変わらずのようだな」
「フフ…俺をあの頃と同じと思わないことだ…俺は更に《スレイブタイガー》を特殊召喚!2体のモンスターをリンクマーカーにセットする!」
《ラクエル》と《スレイブタイガー》の2体がサーキットに組み込まれ、リンクモンスターが出現する。
「リンク召喚!リンク2《スレイブパンサー》!こいつがリンク召喚した時、剣闘獣カード1枚を手札に加える!魔法カード《再起する剣闘獣》をサーチし…これをそのまま発動!」
《再起する剣闘獣》の効果により、《剣闘獣アンダル》がデッキより特殊召喚される。
「《スレイブパンサー》のもう一つの効果だ。《アンダル》をデッキに戻し、別の剣闘獣を剣闘獣モンスターの効果扱いとして特殊召喚する!来い!《剣闘獣アウグストル》!!」
入れ替わりに新たな剣闘獣が出現する。
さらに剣闘獣モンスターの効果によって特殊召喚されたことで、剣闘獣はその固有の効果を発揮することができる。
「《アウグストル》の効果によって手札の《剣闘獣ダリウス》を特殊召喚する。そして《ダリウス》の効果で墓地の《ラクエル》を特殊召喚だ」
瞬く間にロメオの場には3体の剣闘獣が並んだ。
「行くぜぇ…俺は《ラクエル》、《ダリウス》、《アウグストル》の3体をデッキに戻し、《剣闘獣ヘラクレイノス》を特殊召喚する!」
融合カードを必要としない剣闘獣特有の召喚方法により、攻撃力3000を誇る巨大な獣戦士がその姿を現す。
「さらにカードを1枚セット。これでターン終了だ」
レイジ LP8000 手札5
場
ABCDE
1/////
2/////
3 ■ /
4■////
5//■//
ロメオ LP8000 手札1
場 B3《スレイブパンサー》 A4《剣闘獣ヘラクレイノス》 C5 伏せカード
「俺のターン!リンクモンスターか…確かにお前の戦術も進化してるようだな」
レイジは改めて場を確認する。
《ヘラクレイノス》は手札1枚をコストに魔法・罠の発動を打ち消す厄介な効果を持つ、かつても苦しめられたモンスターだ。
だがレイジのデッキもまたあの頃から進化を遂げている…手札を確認したレイジが動く。
「俺は手札の《BF-上弦のピナーカ》を除外して《BF-毒風のシムーン》の効果を発動!デッキから《黒い旋風》を置き、その後このカードを召喚する!」
《シムーン》のモンスター効果であれば《ヘラクレイノス》にカウンターされることなく《黒い旋風》を発動することが可能だ。
そのまま後続をサーチすれば一気にBFを展開できるが…
「そいつを通す訳にはいかねぇなぁ!カウンター罠《剣闘獣の戦車》発動だ!」
「ちっ…!やはりそいつを伏せていたか…!」
《剣闘獣の戦車》は剣闘獣モンスターが存在する時にあらゆるモンスター効果の発動を無効化・破壊できる。
無残にも《シムーン》はチャリオットに引き倒される。
だがこれでロメオのセットカードは消えた…レイジの展開はここからが本番だ!
「まだ俺は通常召喚が可能だ!《BF-南風のアウステル》を召喚!こいつの効果で除外した《ピナーカ》を特殊召喚する!」
「ほう、早速《シムーン》のコスト損失を埋め合わせてくるか…やるじゃねぇかレイジ」
「さらに俺の場にBFモンスターが存在することで、手札から《BF-黒槍のブラスト》を特殊召喚する!」
これでレイジの場には3体のモンスターが揃った。
「レベル4の《ブラスト》にレベル3の《ピナーカ》をチューニング!シンクロ召喚!出でよ《A BF-驟雨のライキリ》!!」
閃光を引き裂き現れたのは日本刀を構えた鳥人。
レイジのデッキの主力の一体だ。
「《ライキリ》の効果発動だ。俺の場に《アウステル》がいることで、お前の《ヘラクレイノス》を破壊する!」
《ライキリ》の一閃が《ヘラクライノス》の巨体を切り裂く。
「このままバトル!《ライキリ》で《スレイブパンサー》を攻撃だ!」
次いで放たれた《ライキリ》の攻撃が残るロメオのモンスターを粉砕する。(ロメオ:LP8000→6200)
「続けて《アウステル》でダイレクトアタック!」
「おっとそれは通さねぇよ。手札の《剣闘獣ノクシウス》、効果発動だ」
突如出現したチーターの闘士が《アウステル》の突撃を受け止めた。
「こいつは直接攻撃時に特殊召喚し、攻撃対象を自分に移し替える効果を持つ…そしてこの戦闘では破壊されねぇ!」
さらに《ノクシウス》の特殊召喚時の効果により、ロメオはデッキから《剣闘獣ベストロウリィ》を墓地に送った。
「くっ、バトルフェイズ…終了だ」
「この瞬間、剣闘獣の共通効果により俺は《ノクシウス》を戻し、《ダリウス》を特殊召喚する。そして《ダリウス》で《ベストロウリィ》を蘇生だ!」
一度はがら空きとなったロメオの場に2体の剣闘獣が並ぶ。
しかも《ベストロウリィ》は破壊効果を持った融合モンスター《剣闘獣ガイザレス》の融合素材となるモンスターだ。
その危険性はレイジも十分に理解している…彼は即座に次の手を打つ。
「俺はカード1枚をセット。そしてエンドフェイズ、《ピナーカ》の効果で《BF-逆巻のトルネード》をサーチしてターンエンドだ」
レイジ LP8000 手札2
場 D3《A BF-驟雨のライキリ》 C2《BF-南風のアウステル》 C1 伏せカード
ABCDE
1//□//
2//□//
3 / □
4//■■/
5/////
ロメオ LP6200 手札0
場 C3《剣闘獣ダリウス》 C4《剣闘獣ベストロウリィ》
「俺のターン、ドローだ」
カードを引いたロメオは続いてスタンバイフェイズの確認に移る。
このタイミングでレイジはセットカードを発動した。
「《アウステル》をリリースして罠カード《ゴッドバードアタック》を発動する!《ダリウス》と《ベストロウリィ》の2枚を破壊だ!」
眩い閃光がロメオの場のモンスターを壊滅させる。
これでロメオに残されたのは手札1枚のみ。
このまま勝てる…レイジはそう直感した。
だがしかし、この後に及んでロメオは余裕の表情を浮かべている。
「なるほど、《ゴッドバードアタック》ねぇ…仕方ねぇ、俺はこのままバトルフェイズに入るぜ」
「モンスターがいないのにバトルフェイズを行うだと…?何のつもりだ!?」
「クク…こいつはバトルフェイズ中にのみ使えるんでねぇ…見せてやるぜ!速攻魔法《団結する剣闘獣》!こいつは俺の手札・場・墓地の剣闘獣を素材として剣闘獣融合モンスターを特殊召喚する!!」
「なっ…!?墓地の剣闘獣を素材にするだと!?」
これまでの剣闘獣の常識を塗り替える新戦術を前に、レイジは驚愕する。
「俺の墓地から《ベストロウリィ》と《ヘラクレイノス》をデッキに戻し、《剣闘獣ガイザレス》を特殊召喚だ!!」
遂に召喚される《ガイザレス》。
その召喚時効果により、レイジの《ライキリ》が消し飛ばされた。
「まだまだここからが本番だ!《ガイザレス》でプレイヤーへダイレクトアタック!」
「ぐあああっ!!」(レイジ:LP8000→5600)
上級モンスターの攻撃によってレイジのLPが大きく削られる。
しかしロメオの言う通り、剣闘獣の真の恐ろしさはその戦闘後にある!
「戦闘を行った《ガイザレス》をEXデッキに戻し、2体の剣闘獣を特殊召喚する…俺は《剣闘獣エクイテ》と《ダリウス》を特殊召喚する!」
そして特殊召喚された剣闘獣の効果がそれぞれ処理される。
ロメオは《エクイテ》で墓地の《剣闘獣の戦車》を回収し、《ダリウス》の効果で墓地にあるもう1枚の《ダリウス》を特殊召喚した。
「蘇生した《ダリウス》と《エクイテ》をリンクマーカーにセット…再び《スレイブパンサー》を呼ばせてもらうぜぇ」
再度リンク召喚された《スレイブパンサー》の効果により、ロメオはデッキから《剣闘獣ラクエル》を手札に加えた。
「そして《スレイブパンサー》のもう一つの効果だ。《ダリウス》をデッキに戻し、《剣闘獣サジタリィ》を特殊召喚。その効果で手札の《ラクエル》を捨て、カード2枚をドローする!」
どうやらロメオはモンスターの展開よりも手札の補充を優先したようだ。
2枚のドローカードを確認したロメオだったが…彼が軽く舌打ちする様をレイジは見逃さなかった。
「おっと。その様子じゃあ、いいカードは引けなかったようだな」
「フッ、まぁいいさ。カード1枚をセットし、俺はターンエンドだ」
レイジ LP5600 手札2
場
ABCDE
1/////
2/////
3 ■ /
4//■//
5//■//
ロメオ LP6200 手札2
場 B3《スレイブパンサー》 C4 《剣闘獣サジタリィ》(守備) C5 伏せカード
「俺のターン!ドロー!」
現在ロメオの場にはリバースカードが1枚…あれは間違いなく先ほど回収した《剣闘獣の戦車》だろう。
「だが二度も同じ手を喰らいはしない!手札より速攻魔法《コズミック・サイクロン》発動だ!」(レイジ:LP5600→4600)
やはりセットされていた《剣闘獣の戦車》が異次元に消える。
ライフコストは痛いものの、これで再び《エクイテ》で回収されるという懸念は取り除かれた。
「《逆巻のトルネード》を召喚し、効果発動!相手の場に特殊召喚されたモンスターが存在することで、墓地から《ピナーカ》を特殊召喚する!」
モンスター効果によりレイジの場にはチューナーと非チューナー、2体のモンスターが並ぶ。
「レベル4《トルネード》にレベル3《ピナーカ》をチューニング!《BF T-漆黒のホーク・ジョー》をシンクロ召喚だ!」
レイジが呼び出したのは漆黒の翼を持った鷹匠。
ブラックフェザー・テイマーの称号を持つ異色のBFモンスターだ。
「《ホーク・ジョー》の効果により、墓地から《驟雨のライキリ》を特殊召喚する!そして《ライキリ》の効果で《サジタリィ》を破壊させてもらう!」
2体のBFのコンビネーションがロメオの場を切り込んでいく。
「バトルだ!まずは《ホーク・ジョー》で《スレイブパンサー》を攻撃する!」
レイジは無防備な攻撃表示を晒すリンクモンスターを上級モンスターの一撃で叩き潰す。(ロメオ:LP6200→4400)
「そして《ライキリ》でダイレクトアタックだ。行けっ!」
《ライキリ》が一太刀を振るう。
この攻撃は今度こそロメオに届き、彼は衝撃に吹き飛ばされた。
「ぐううっ!!」(ロメオ:LP4400→1800)
(これで奴のライフはあと僅か…!)
もう1ターン…次のターンさえ凌げればロメオにとどめを刺すことができる…!
レイジはそう確信を持ってバトルを終了する。
「俺はエンドフェイズに墓地の《ピナーカ》の効果で《BF-極北のブリザード》を手札に加え、ターンエンドだ」
レイジ LP4600 手札2
場 D3《BF T-漆黒のホーク・ジョー》 C2《A BF-驟雨のライキリ》
ABCDE
1/////
2//□//
3 / □
4/////
5/////
ロメオ LP1800 手札2
場
「ク…クク…やってくれるなぁレイジ…!」
ゆらりとロメオが立ち上がる。
何年もレイジとの決着に執着してきた彼の狂気…この窮地を前に、いよいよそれは解き放たれようとしていた…!
「俺のターン!永続魔法《剣闘排斥波》を発動する!」
このカードはバトルフェイズ以外に相手は場の剣闘獣を効果対象にできなくするというものであり、さらにもう一つ効果を持っている。
「クク…貴様が俺のモンスターを破壊してくれたお陰で、このカードが発動できるぜ…!手札より、《予想GUY》発動だ!」
魔法カードによって通常モンスターの《剣闘獣アンダル》がデッキから特殊召喚される。
「この瞬間《剣闘排斥波》のもう一つの効果が発動する!このカードはデッキから剣闘獣が特殊召喚された時、種族の異なる剣闘獣を追加でもう1体特殊召喚できる!」
ロメオは鳥獣族の《ベストロウリィ》を選択し、特殊召喚する。
「さぁ《アンダル》と《ベストロウリィ》の2体で、モンスターをリンク召喚だ!現れよ《スレイブパンサー》!」
またもや召喚される3体目の《スレイブパンサー》。
その効果でロメオは《ダリウス》を手札に加え、そのままそれを通常召喚する。
「《スレイブパンサー》で《ダリウス》をデッキに戻し、《エクイテ》を特殊召喚!その効果で《団結する剣闘獣》を手札に回収する!」
「くっ…!またしても墓地融合を行う気か!」
「ああ何度でも喰らわせてやるぜ!バトルフェイズに《団結する剣闘獣》を発動!墓地の《ベストロウリィ》と《サジタリィ》をデッキに戻し…出でよガイザレスゥ!!」
再び舞い起きる殺戮の旋風によって、《ホーク・ジョー》と《ライキリ》の2体が消滅する。
そのまま場が丸裸となったレイジの下へ、《ガイザレス》と《エクイテ》…2体の剣闘獣の攻撃が叩き込まれる!
「ぐはぁっ…!!」(レイジ:LP4600→600)
身を裂くような激痛にレイジは遂に膝をつく。
「《団結する剣闘獣》を発動したターンは剣闘獣以外は攻撃できない…命拾いしたなぁレイジ。だが…」
バトルフェイズ終了により剣闘獣の入れ替えが起こる。
《エクイテ》を戻して《剣闘獣ウェスパシアス》、《ガイザレス》を戻して《アウグストル》と《エクイテ》がそれぞれ特殊召喚された。
そして再び発動した《エクイテ》の効果でロメオは《団結する剣闘獣》を回収した。
「メイン2、《ウェスパシアス》と《アウグストル》を素材として俺は融合モンスター《剣闘獣総監エーディトル》を特殊召喚する!」
ロメオが呼び出したのは奇しくもこちらもテイマーの名を冠したモンスター。
統制者として剣闘獣をサポートする効果を持つことを意味している。
「《エーディトル》は1ターンに1度、EXデッキの剣闘獣融合モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する事が可能だ!この効果で俺は《剣闘獣ドミティアノス》を特殊召喚する!」
全身に剣闘獣たちの装備を身に着けた海竜が長い首をもたげる。
剣闘獣最高の攻撃力を持つモンスター、《ドミティアノス》がその姿を現した!
「《ドミティアノス》が存在する限り、1ターンに1度相手のモンスター効果の発動を無効にできる…さらに相手モンスターの攻撃対象は、俺が選ぶことができる!」
「何…だと…!?」
「ついでに《スレイブパンサー》も処理しておくぜ。《エクイテ》と共に素材にし、《天威の龍拳聖》をリンク召喚だ」
攻撃力2600を誇るリンクモンスターを呼び出し、ロメオは盤面を着実なものとする。
さらに彼はリバースカード1枚をセットし、ターン終了を宣言した。
レイジ LP600 手札2
場
ABCDE
1/////
2/////
3 / ■
4■■///
5//■■/
ロメオ LP1800 手札1
場 D3《天威の龍拳聖》 A4《剣闘獣総監エーディトル》(守備) B4《剣闘獣ドミティアノス》 C5《剣闘排斥波》 D5 伏せカード
「俺の…ターン…!」
肉体も気力も限界の中、レイジはカードをドローしようとする。
今、彼の手札にあるのは《極北のブリザード》と《百万喰らいのグラットン》の2枚。
《グラットン》は戦闘を行う相手を問答無用で除外する効果を持つモンスターであり、レイジが剣闘獣に対する切り札として温存していたカードであった。
しかし場に《ドミティアノス》が存在する今、《グラットン》を出したところで不要なモンスターに攻撃誘導されればそれで終わりである。
言わずもがな《ブリザード》もモンスター効果を封じられたこの状況では無力に等しい。
このドローで逆転のカードを引き当てるしかないが…
「おいレイジ、ここは潔くサレンダーしちまいな。貴様ほどの男、殺すのは惜しい」
その様子を見てとってかロメオはレイジにサレンダーを勧告する。
「サレンダーだと…?」
「そうよ、俺のファミリーに来い。そうすりゃお前はもっとビッグになれるぜ!」
「くっ…断る…!」
歯を食いしばりレイジは最後の闘志をロメオに向ける。
「おいおい、まだ奴らとの絆なんぞにこだわってんのかぁ?そんなもんに縛られてるようじゃ強くなれねぇ、だからお前はデュエルギャングになったんだろうが!」
そう語るロメオに対し…レイジはふっ、と乾いた微笑を洩らした。
「確かにな…かつての俺は強さを求め、家族を捨てデュエルギャングとなった…だがその結果、俺の家族はバラバラになり…大勢の人間が不幸になった…!」
ゆっくりと、レイジの指がデッキへ伸びていく。
「今なら分かる…!俺は家族を守る覚悟も背負えず、逃げていただけの大馬鹿野郎だ!だが俺は…もう家族を!仲間たちを失いたくはない!ドロー!!」
俺のデッキならば、今こそ俺の思いに答えて見せろ!
そう云わんばかりにレイジはカードをドローした!
「よし!魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動!デッキトップから10枚のカードを裏側除外し、カード2枚をドローする!」
「何ィ!?この状況で2枚のカードドローだと!?」
キーカードが除外されるリスクなど、今は気にしている場合ではない。
除外されていくカードたちを見送り、レイジは更なる2枚のカードを引く…!
「こ…このカードは…!」
そのカードを見た時、レイジは目を見開き、唖然と立ち尽くした。
「ク…ククク…!どうやら奇跡は起きなかったようだなぁ…!分かっただろう…?所詮、貴様らの絆なんぞそんなものよ!」
その様子を見て、ロメオはレイジに嘲笑を浴びせる。
だが…
「…そいつはどうかな」
「あぁん?」
ロメオに向かい、顔を上げるレイジ。
その表情には、絶望の色など微塵も無かった…!
「行くぞロメオ!俺は手札の《BF-大旆のヴァーユ》をコストに速攻魔法発動…!《ツインツイスター》!!」
「何…!?《ツインツイスター》だと!?」
2つの竜巻がロメオの場の《剣闘排斥波》と伏せカードの《団結する剣闘獣》を飲み込み、破壊する。
『…俺のデッキ、BF以外入ると割ときついんですが』
『俺もスキドレバルバSinなんでヘタな下級モンスターは逆に苦労します』
『なーに、誰もモンスターだなんて言ってないよ。よーするに魔法か罠でもいいんじゃないか』
(ありがとうよ桐子さん…お陰で助かったぜ…!)
《ツインツイスター》…それはかつて桐子が戯れに皐月組の皆に投入することを義務付けたカードであった。
その時点では何の変哲もない、凡百な汎用カードに過ぎなかったのかもしれない。
しかし今この瞬間、確かに《ツインツイスター》は…桐子たちとの絆は、レイジの窮地を救う一手となったのだ!
「そして《ヴァーユ》の効果発動だ!墓地のこのカードと《ライキリ》を除外し、レベル8のシンクロモンスターを特殊召喚する!」
「くそっ…通すぜ」
効果発動にターン制限の無い《ヴァーユ》に対しては《ドミティアノス》のカウンター効果を発動した所で無意味だ。
ロメオの脳裏にはかつての忌まわしき【弾圧BF】の記憶がフラッシュバックしていた。
「来い!《BF-孤高のシルバー・ウィンド》!」
長刀を持った鳥人がレイジのEXモンスターゾーンに出現する。
「《シルバー・ウィンド》たぁ、懐かしい顔が出てきたな。だが効果も使えないそいつで何をする気だぁ?」
「無論こうするのさ…!手札から《極北のブリザード》を通常召喚し、レベル8の《シルバー・ウィンド》にチューニング!見せてやるぜ…進化した翼を!」
シンクロモンスターを素材とした更なるシンクロ召喚…輝きの中より、新たなモンスターが招来する!
「吹き荒れろ旋風よ!シンクロ召喚!《BF-フルアーマード・ウィング》!!」
大剣と機関銃を構え、より攻撃的な姿へと変貌した黒鉄の鳥人、《フルアーマード・ウィング》がフィールドに降り立った。
このモンスターは他のあらゆるカード効果を受けず、また楔カウンターの乗ったモンスター全てをエンドフェイズに破壊する能力を持っている。
「墓地の《アウステル》を除外して効果発動!相手の場の全てのモンスターに楔カウンターを置く!」
「そいつで俺のモンスターを全滅させようって魂胆か…!なら《ドミティアノス》の効果を発動!《アウステル》の効果発動を無効化する!」
「だがこの瞬間!《フルアーマード・ウィング》は効果発動を行った《ドミティアノス》に楔を打ち込む!」
《フルアーマード・ウィング》が《ドミティアノス》目掛け、左手に持った機関銃を発射する。
鋭く尖った楔形の銃弾が《ドミティアノス》の体に突き刺さった。
「ちっ…まぁいい、《ドミティアノス》1体の損害で済むなら安いもんよ。《エーディトル》がいる限りアタッカーなんざいくらでも替えが効くんだからなぁ!」
はははと高笑いするロメオ。
だがレイジは…
「残念だが…これで終わりだ。俺はEXデッキのカード5枚を除外し、手札の《百万喰らいのグラットン》を特殊召喚。そして…《フルアーマード・ウィング》の更なる効果、発動だ!」
「何ぃ…!?更に効果を持っているだと…!?」
「楔カウンターの乗ったモンスター1体を対象として、そのコントロールを得る…よって、お前の《ドミティアノス》を頂くぜ!」
「な…!?ば…馬鹿な…!!?」
レイジが指を鳴らすと、それを合図に《ドミティアノス》はズシズシとレイジの場へと移動し、ロメオに向き直る。
「モンスターを対象に…!おのれ…《剣闘排斥波》が破壊されてさえいなければ…!」
「皆との絆が、お前の場に突破口を作り出してくれた…!さぁ、覚悟はいいかロメオ!!」
「うっ…ぐうぅぅっ…!」
レイジの気迫を前に、ロメオの表情が初めて恐怖に歪む。
「バトル!まずは《ドミティアノス》で《エーディトル》を攻撃だ!」
剣闘獣最強モンスターの力が今、剣闘獣総監へと向けられる。
守備力3000の鉄壁の防御すらも歯が立たず、《ドミティアノス》に《エーディトル》がねじ伏せられる。
「続けて《グラットン》で《天威の龍拳聖》を攻撃!」
《天威の龍拳聖》は効果モンスターとの戦闘耐性を持つものの、《グラットン》の効果の前には役に立たない。
姉弟と天威龍、まとめて大口の中へ吸い込まれていく。
かくしてロメオの場のモンスターが全滅する。
「とどめだ!《フルアーマード・ウィング》でダイレクトアタック!切り裂け、ブラック・テンペスト!!」
大剣を構えた《フルアーマード・ウィング》が空中へと舞い上がり、次の瞬間ロメオを袈裟切りに一刀両断した。
「レ…レイジィィィ!!!」(ロメオ:LP1800→0)
3000ポイント分の衝撃により、ロメオは地に倒れ伏した。
ここに、レイジとロメオの因縁の対決は決着したのである。
「ハァハァ…終わったか…」
デュエルの終了を確認したレイジは、この結果を桐子たちへ報告しようと携帯電話を探す。
その時。
「ククク…」
地面に転がるロメオは不気味な笑いを発した。
「馬鹿な奴だ…大人しく、俺に負けていればよかったものを…!」
「何…!それはどういう事だ…!?」
そこへ、レイジの周囲で無数の足音が響くのが感じ取れた。
気づけば彼らは数十人ほどの黒スーツの男たちに包囲されていたのだ!
「ロメオ!何だこれは!?」
「ファミリーは自分たちの面子に泥を塗った奴に容赦しない…貴様は最初からここで死ぬ運命だった訳さ…!」
「何だと…!?」
そこへレイジを取り囲んだ黒服の中から、リーダー格と思しき男が歩み出て言った。
「フン…!折角ボスが目を付けて下さったってのにこのザマとはな…使えないデュエリストなど我がファミリーには不要だ…分かっているな?」
そう言って彼は拳銃をロメオへ向けた。
彼らはただレイジを始末するだけでない、用済みとなったロメオをもここで処分するつもりなのだ!
「ロメオ!」
「ク…クク…先に地獄で待ってるぜぇレイジ…!」
「くそ…!」
もはや絶対絶命か…男が引き金を引こうとしたその時…!
「グオォーーーン!!!」
人間のものとは思えぬ不吉な唸り声が辺りに鳴り響いた。
「何だ!?」
男たちは咄嗟に声のした方へと銃を向ける。
そこにいたのは銀色の体色をした異形の化け物であった。
そしてその傍らには、三日月を割ったような…独特な形状の仮面を纏った男が立っている。
仮面の男は怪物に向かいボソリと呟いた。
「やれ…《コアキメイル・マキシマム》…!」
その指示を受けるや否や怪物は翼を広げ、黒服へと向かって飛び掛かった!
「う…撃てっ!!」
男たちは慌てて怪物に向かい拳銃を撃つ…が、その銃弾は怪物の金属質な体表にいともたやすく跳ね返される。
そして怪物は長く伸びた尻尾をムチのように振るう。
この攻撃に数人の黒服が吹き飛ばされ、そのまま気絶した。
「ひるむなぁっ!撃てっ!撃てぇっ!」
リーダーは懸命に部下に指示を飛ばすが、怪物の前に男たちはまるで無力であった。
全てを終わらせる動きとも形容すべき猛威が彼らを蹂躙していく。
「い…一体何が起こっているんだ…?」
目の前の事態が呑み込めず、レイジはただ茫然と立ち尽くしていた。
「危ない!こっちよ!」
その時、女の声と共にレイジは何者かに腕を引かれた。
「わっ!な…何だあんた!?」
「説明は後!ボケッと突っ立ってたら巻き込まれるわ!」
「あ…ああ!」
とにかくレイジは彼女に促されるままこの場を走り去った。
数十メートルほど離れた場所にある瓦礫の影に彼らは身を潜めた。
「何だか分からんが助かったぜ、あんたは?」
レイジは息を切らせながらショートカットの女性に名を尋ねた。
「初めまして、私はティナ・イロノスキー。ある人から貴方を助けるのに協力してくてと頼まれてね」
「協力…?誰にだ?」
その時、彼らの前に先程の仮面の男が現れた。
「どうやら無事だったようだな…」
「あっ!お前はさっきの!?」
驚くレイジに対し、ティナが素早くフォローに入った。
「大丈夫、彼は味方よ。私の仲間の…人呼んで『月欠けの戦士』」
「月欠けの…戦士ぃ?」
面妖なネーミングにレイジは思わず首を捻る。
(お…おい!やめろよその呼び方!恥ずかしいだろ!?)
(だったらどう呼べばいいのよ!こんな格好人に知られたくないって言ったのはあんたでしょ!?)
(むむむ…)
月欠けの戦士とティナは小言で何かもめているようだったがレイジには聞こえなかった。
「ゴホン…!と…とにかく救出が手荒になってすまなかった。ここは俺が何とかするからお前は…」
「フン…!こちらハもう終わっタゾ」
そう言ってズシンと怪物、《コアキメイル・マキシマム》がレイジたちの潜む瓦礫の上に降り立った。
「うおぁ!?こいつ…喋るのか!?」
驚くレイジをよそに《マキシマム》は不機嫌そうに月欠けの戦士を睨む。
「全ク、歯ごたえのナイ連中ヨ…!久しぶりニ俺を呼び出したト思エバ…!コンナ雑魚ノ相手ヲ押し付けるトハ!!」
「おいおいそんなに怒るなよ…お陰で助かったぜ」
「今度マタ下らン理由で呼び出しテ見ロ…!ソノ時ハ容赦せんゾ…アキオッ!」
「あ…おいバカっ!」
ぎょっとする月欠けの戦士だが、《マキシマム》は我知らずと彼の手元のカードへと戻っていった。
「えっ?アキオって…!ええーっ!?お前…もしかしてバイトのあのアキオかぁっ!?」
「あーあ…」
「あーもう!くそっ…!《マキシマム》の奴め!」
やれやれと呆れた様子のティナ。
悔しそうにしていた月欠けの戦士だったが…やがて彼は観念したように仮面を取った。
そこにいたのは確かにレイジのバイトの同僚、天陰アキオの素顔であった。
「やれやれ…皆には黙っていて下さいねレイジさん。今日のことは俺も黙っておきますから」
アキオはばつが悪そうに笑った。
「わ…分かったぜ。いやぁしかし驚いたなー…お前もサイコデュエリストだったのか?」
「ちょい違いますが…まぁ、そんな所です。俺たちにも色々とあったんですよ。色々と…ね」
そう言ってアキオはちらとティナ…邪神結社時代のパートナーと顔を見合わせた。
「それで、何でお前たちがこんな所にいるんだ?」
「実はレイジさんが抜けたあとmayの皆でショップを掃除してたんですが…そしたらある女の子が忠告して来たんですよ、”レイジが危ないかもしれない”って」
「はぁ?女の子…?」
「青髪の妙な雰囲気の子でしたが…レイジさん、知り合いじゃないんですか?」
「そうか、さては菊葉だな!?あいつめ…」
デュエルギャングの経験がある彼女も恐らくあの現場を見てロメオの仕業だと察し…この展開になることを予想したのだろう。
厄介な奴に借りを作ってしまったな…レイジは渋い表情をした。
「そんな訳で俺たちレイジさんの後を追いかけてたんです。悪いなティナ、お前にまで付き合ってもらって」
「いえ、折角のデュエリスト追跡機能付きデュエルキャラバンですもの。こんな時ぐらい有効活用しないと!」
「とんでもねーもん持ってんなお前ら…マジで何やってたんだ…?」
「さて、警察が来る前に俺達はズラかるとしましょう!」
一行は駐車した機体に向けて歩き始める。
「そういやバイトを勝手に抜けて来ちまったな…店長、怒ってたか?」
「ええまぁ…明日一緒に謝りに行きましょう」
「そうだな…心強いぜ!」
レイジはふっと笑いかける。
大切なものを背負って戦うことは確かに難しいことだ…
しかし、今のレイジは一人ではない、彼が仲間のために戦うのと同様に、彼のために戦ってくれる仲間たちがいるのだ。
そんな思いを噛みしめレイジはmayへの帰路を目指すのだった。
end
最終更新:2019年07月15日 11:25