ガラスの上の友情

海の日が過ぎ、夏休みとなった頃。
久しぶりの休みとなったルナイツは、友達たちと一緒に海に遊びに来ていた。
最初はいつもの鎧に身を包んでいた彼女だったが、海の暑さに4秒で敗北し、現在は友達の用意してくれたビギニとパレオを着用している。
だが、美少女な上ナイスバディな上、件の友達はジュースを買いに離れており1人。
そんな彼女を見逃すのは男ではない。

ナツオはそう思い、即座にルナイツに近寄った。
金髪で色黒で、少し筋肉はついているがマッチョではない。いわゆる「チャラ男」だ。
本来ならこのようなナンパ野郎は、彼女を守るSPに秘密裏に処理されていたのだが、現在そのSPは事情により存在しない。
だからナツオはルナイツの眼の前に現れる。

「…なんですの?」
「いや、君の美しさと、勇ましさが羨ましくてね」

ナツオはそんじゃそこらのナンパ男とは違う。
彼はまず、対象の女性を褒めるのだ。
そして目の前の少女は、背格好はナイスバディな水着娘だが、その目つきは狩人のそれに近い。
戦いを愛する、デュエリストの瞳だ。
そういう少女は容姿はもとより、実力を褒められることを好む。
…ナツオ本人もデュエリストだからわかることだ。この勝負、貰った。

「…おいおい、俺のカノジョになにか用事かよ?」

と思いきや、ルナイツの後ろから別の男が現れる。
一見軽い優男に見えるが、目を見ただけでわかる。こいつは自分の敵には容赦しない危ない奴だ。
更に言うと、ナンパしようとした少女も彼の方に行く。
実際のところ、二人がカップルかというと怪しい。余りにも不釣り合いだ。
だが、カレシのフリをして女性を守る男がいることは、女性にとってナンパはノーサンキュー。
ナツオからしてみれば、ワンチャン!?すら無い完全敗北であった。

「…いえいえ、美しいから声をかけただけだが、
なるほど、美しい女性にはやはり、美しい男性がいるようだな
…俺が、入る隙はなさそーだ」
「ナンパは頂けないが…その潔さに免じて許してやる」

失せろ。とレイジが言う前に、ナツオはさっさと離脱した。

「……すまんな、最近デュエルマフィアが多いから、ああいった輩も多い。
こういう時は、知り合いの男をカレシにでもすりゃいいんだよ」

レイジはルナイツに謝罪する。助けるためとはいえ、「カノジョ」呼ばわりされるのは不本意だと思ったからだ。
だが、ルナイツはフリーズして動かない。
しかし、動かないままだんだんと顔が赤くなり、そして…。

「な…なななな!貴方が、私の…夫!?」
「だーかーらー!それは相手を追い返すための嘘で!!」

こうしてレイジは、人生でトップクラスに苦戦をすることとなった。
…同時にルナイツは知らなかった。自分を守っているSPがいたことなど…。



「というわけで、俺は見事撃沈」
「あはは!ざまぁないな!!」

ナツオが両手を広げて、降参のポーズを取る。
それを見て、…河本焔が笑う。
女顔の焔だが、水着となると肩幅の関係もあり、辛うじて男に見える。
そして、焔はナツオと同級生で、友達なのだ。

「…うるせー!お前の方はどうなんだよ、河本」
「ああ!俺は成功したぜ!相手がレズビアンじゃなければな!!」

自信満々に「駄目だった」という友達を見て、ナツオは笑う。

「なんだ!女顔を利用しただけじゃないか!」
「うるせー!俺は女の美貌と、男の勇気を持ってだな!」

悪口を言っても「うるせー!」で済ますことの出来るナツオと焔。
2人には確かな絆があった。
そしてもう1人、友と呼べる男が口を出す。

「俺は…小学生に声をかけたんだな!」

肥満体の男が、甲高い大声で言う。
美形のナツオや焔とは不釣り合いな程、不細工な男、ユウゾウ。
女性の趣味は年下だ。そして意外にも二次元の女性には興味のない…危ない奴だ。
彼の言葉は一見、怒っているようにも聞こえるが、別に怒ってはいない。彼はそういう喋り方をする人種なのだ。

「お…おいおい!小学生はまずいだろ」
「ああ 警察が近くにいて、だめだったんだな!!」
「通報、されてねぇだろうな」
「大丈夫何だな!すぐ逃げた! …それにしてもあのJS、可愛かったな…」

ナツオと焔は先程までとは違い、深刻なトーンとなる。
だが、ユウゾウにとってその2人が何故シリアスになるかがわからない。彼にとっては2人と同じように、ナンパ失敗を告白しているだけだ。

「……それにしても」

話がやばい方向に向かったので、ナツオは即座に脱線させる。
こういう時焔なら逆にグイグイ突っ込んでいき収集がつかなくなる。
…ナツオは焔、そしてユウゾウとは仲がよいが、実は焔とユウゾウは仲が悪い。ナツオがいなければ大喧嘩してしまうだろう。
だが、彼らには慕っている人間がいた。こういう時はその人間の名前を出すに限る。

「ズーガは、ナンパ、得意だったな」

焔もユウゾウも、その名前を聞くとトーンダウンしてしまう。
ズーガ。 彼はイケメンで容量も良かった。
そして彼の兄「ゼーガ」もまた、同じような存在だった。
そしてゼーガは彼女を作り、近い内に結婚予定だったのだが、会社の同僚のトラブルで死亡してしまう。
最愛の兄を無くしたズーガは悲しみにくれ、引きこもってしまったのであった。

「何でも出来る天才だが、家族の死はショックだったろうな」
「…よ、よし! 皆ナンパ失敗したことだし!ゼーガの家に 見舞いに行こう!」

ユウゾウが言う。
倫理的にはアウトのこの男だが、友情には厚い。
焔もその点は認めている。だからこそ女性の趣味や「身の程」をもう少し知ってほしいと思っているのだが…。
ともかく、ナツオの計算通り、ユウゾウのロリコン趣味の話題は完全に消え去った。

……筈だった。


結局、ズーガの方は空振りに終わった。
インターホンを鳴らしても誰も出てこなかったからだ。
3回鳴らしても無反応。4回目を鳴らそうとしたが、焔が止めた。

「すぐに諦める勇気も、デュエリストには必要だぜ」

それに対しナツキは「はいはい」と呆れながらも、従った。
…ユウゾウには、そんな2人の言う「デュエリスト」というものがわからなかった。
彼はデュエリストではないからだ。そして、ズーガもまた、そうであった。
デュエリスト同士の絆があるように、「デュエリストじゃない同士」の絆もある。
ユウゾウとズーガはこのグループでは一番仲が良かった。
そして2人して、事あるごとに「デュエリスト」の単語を出す焔とは折り合いが悪かった。
前述の仲が悪い理由はそれだ。
ナツキもまたデュエリストだが、同時にユウゾウとは家が隣同士、兄弟のように育っていたためそのような事がない。
彼らのグループは、ナツキとユウゾウのコンビに、それぞれ焔とズーガがぶら下がっているような集まりであった。
しかし…。

「…今日は、解散するか」
「そうだな」

ズーガの引きこもりにより、このグループは崩壊の危機を迎えていた。
それでも辛うじて持っていたが……。



「ごおおおおおおお!!!!!」

ユウゾウは自宅に帰った瞬間、吠えた。
獣のような金切り声だ。だが次には人間の言葉を喋る。

「焔のやろう!!!かんっぜんに俺を、見下していたなっ!!!」

焔は別に、ユウゾウの事を見下してはいない。興味がないだけだ。
一応、女子小学生に声をかけるとやばいと注意するくらいの関係はあったが、それ以上はない。
それもまた、ユウゾウには気に食わなかった。
…なぜなら彼は、自分が優秀だと認めてほしかったからだ。自分を優秀にする努力もしていないくせに。

「…それに、あの小学生もだっ!この心はイケメンの俺を…話しかけただけでブザーなんてっ!!」

先程、「警察が来たから逃げた」といったユウゾウだったが、それは見栄を張るためだ。
「警察が来なかったら成功した」と箔をつけるために。
だが実際は、話しかけただけで轟沈だった。

「……許さん!許さん許さん許さんッ!!!」

本来の彼はここで怒りを発散させ、そのまま疲れ果てて寝てしまうのが常であった。
だが、レイジが言った通り、この町にはデュエルマフィアが増えている。
…mayの町を転覆させるために、暗躍する奴らも多い。
そしてそういった奴らは自らの正体を悟られまいと、mayに住む人間を利用する。
今回、ユウゾウに接触した人間もそういった輩であった…。




翌日、ユウゾウにナンパされた小学生…「ありか」が、友達のなのに愚痴っていた。

「いやー!昨日ゴリラと豚が合体したようなのに声を掛けられてねー、秒でブザーしちゃったわ」
「ありかちゃん可愛いからね、変なのに目をつけられ事もあるよね」

ひどい言い草である。しかし事実だから仕方がない。
最もありかはおそらくナツキが声を掛けても、ブザーはともかく断ったであろう。なのもである。
なぜならmayにはやばいロリコンがいる。そいつの爆走のせいで、この町の小学生たちの防犯意識はかなり高い。
最もなの自体もその防犯意識の向上に少なからず貢献しているが…。

「アレだよ!大人になって子供に声かけるの、屈服させたいだけだよ!」
「そ、それは言い過ぎかもしれないけー」

ふと、なのの姿が消える。
最初から其処にいなかったかのように消えた親友を見て、ありかは一瞬フリーズする。
だが、足元に落ちたカード。…名前もテキストも書かれておらず、驚いた顔のなのが描かれているカードを見て、事の重大さを把握する。

「ナノちゃん!?」

カードを持ち上げて話しかけても、イラストのなのは反応しない。
だが、ありかにはこれがなのだという事がわかった。
そして…。

「きゃー!!」

別の少女の悲鳴が聞こえる。
ありかがその少女の方向を見た時、少女は消えてカードにされた。
そのカードを拾い上げたのは…昨日ありかをナンパしようとした、デブの男だ。

「げへへ…女子小学生ゲットだぜ…」

男は右手にカメラ、左手にカードを持っている。
そのカードは全て、女子小学生と思わしき少女たちが書かれている。
皆、驚いていたり、恐怖に震えている顔だ。
明らかに人間を封じ込めたそのカードを見て、ありかは恐怖する。
…自分も撮影されてカードになるのか!?

「…お、お前にデュエルを申し込む!!」

ありかは突如、デュエルを申し込んだ。
なのが変化したカードはデュエルモンスターズだから、相手はデュエリストだろうと踏んだからだ。
しかし…。

「お断りだね、俺、デッキ持ってないし。
それよりもお前もカードにして、俺は女子小学生デッキを作るぜ。
…勿論、家でデュエルをするけどな!!」

言葉の意味はわからないが、ありかの中の、芽生え始めた女としての本能が告げる。
こいつは自分の身体を狙っている…と。
万事休すかと思いきや…。

「バカ野郎がっ!!」

突如、太った男が跳ね飛ばされた。
少女たちのカードもばらまかれるが、それは、メイドの少女が現れて回収した。

「みりあは離れろ!あのカメラに撮影されると、カードに…!?」

ユウゾウを殴った焔がそう告げると…そのまま消えた。
焔もカードになってしまったのだ。
だが、みりあと呼ばれた少女はJSカードを拾い上げ、逃げ出した。

「がぁ!!焔ぁ!!!邪魔をするのかぁ!!」
「…焔だけじゃないさ、お前を邪魔するのはな」

ユウゾウの前に現れたのは、ナツキだ。
さすがのユウゾウもカメラをナツキには使わなかった。

「…ナ、ナツキ」
「焔の言う通りお前は馬鹿野郎だ。そこまで小学生がほしいか」
「…お、俺は、大人の女が怖い。子供がいい」
「その趣味は否定しないが…子供を怖がらせてどうするんだ?」

ありかは2人の姿を見つめる。
イケメンと不細工。2人にどんな関係があるか興味があったからだ。
そして同時に、このイケメンがいる以上、自分に危険はない…そう思った。
だが…。


「……なぁ、少女よ、怖がらせて申し訳ないが」

イケメンは何故か、デュエルディスクを構える。

「さっき、お前はデュエルを申し込んだな。だが残念ながらこいつはデュエリストじゃない。
けど…俺はこいつの友達だから、代わりに受ける事にする」
「え…?」
「俺が勝てば、…カードになれとは言わないが、見逃してくれ。
だが、君が勝てば、警察にでも何なりにでも突き出してくれ」
「おいナツキ!何を勝手に…!」
「…子供を怖がらせるのは、男として最低だと思わないか?」
「……ぐぅ」

いくら自信家のユウゾウでも、子供を怖がらせている事を誤魔化すことはしなかった。
…相手はナツキだからだ。
いつでも時代の最先端を走り、かっこよく、そして何でも言うことを聞いてくれた隣の家のなっちゃん。
怒ってばかりの両親や、自分を見下す兄貴なんかとは違って、なっちゃんはいつも自分の味方でいてくれた。
だからユウゾウはナツキには忠実だった。

そしてナツキは、ユウゾウをそんな風にしてしまったことに、責任を感じていた。
ユウゾウの親は確かに怒りっぽかったが、しかし褒めるところはしっかりと褒めていたし、物も与えていた。
そしてユウゾウの兄も同じような扱いを受けていたが、彼は親の「愛」を正面から受け取り、真人間となった。
しかし、逃げ場所を得たユウゾウは、何でもナツキに頼るようになってしまった。
そしてナツキも、ユウゾウを甘やかした。
かつて彼には弟がいたが、自分が目を離した隙に車に轢かれて死んでしまったから。
その弱さが、ユウゾウという、小学生を怖がらせても自分のものにしようとするモンスターを産み出してしまった。
…その責任は、取らなければいけない

「頼む!デュエルを受けてくれ!」
「…わ、わかった!!」

ナツキの懇願をありかは受ける。
…既にカードにされた少女たちは救われた。
ここで自分が勝てば、諦めてくれる。そして自分が負けても…なの達は救われる。
ありかは推理はからっきしだが、それなりの知恵と知識がある。
…そしてそれは不思議な事に、恐怖に溺れている時に力を発揮した…。

「…では、デュエル!私の先行!
…《歯車街》を発動し、《トリオンの蠱惑魔》を召喚!デッキから《奈落の落とし穴》をサーチ。
カードを1枚伏せて…ターンエンド」
「…俺のターン、ドロー! カードを1枚伏せ…LP2000を払い、《終焉のカウントダウン》を発動する……ターンエンドだ!」
(終焉のカウントダウンデッキ…!?)

珍しいデッキを使う相手に、ありかは警戒をする。
おそらく次のターンにはロックを仕掛けてくるだろう。

ありか 手札3 LP8000
モンスター:トリオンの蠱惑魔
魔法罠:伏1枚
フィールド:歯車街

ナツキ:手札4 LP6000
魔法罠:伏1枚

「…私のターン ドロー!」
「おっと、ここで罠カード発動!《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》を発動する!」
「…読んでたさ!《魔導戦士ブレイカー》を召喚!魔力カウンターを支払い、《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》を破壊する!
更にバトル!《魔導戦士ブレイカー》でダイレクトアタック!」
「ぐぉ!(LP6000→4600) …だが、この瞬間手札から《冥府の使者ゴーズ》を召喚!
《カイエントークン》の攻撃力は1600だ!」

ナツキは堂々とゴーズを召喚する。
戦闘ダメージの際のゴーズとカイエンの特殊召喚には奈落の落とし穴は発動できないからだ。

「私はバトルフェイズを終了し、エンドフェイズにブレイカーとトリオンの蠱惑魔をエクシーズ召喚!
来い!《フレシアの蟲惑魔》!!
ターンエンド!」
「俺のターン!終焉のカウントダウンが18まで減少!
《平和の使者》を発動する! ターンエンド!」

ありか 手札3 LP8000
モンスター:フレシアの蟲惑魔
魔法罠:伏1枚
フィールド:歯車街

ナツキ:手札4 LP4600
モンスター:冥府の使者ゴーズ カイエントークン
魔法罠:伏1枚


「…う、やっぱりモンスターいない感じ? 攻撃もしてこないし…
ともかく!私のターン!ドロー」

ありかが低レベルのフレシアの蠱惑魔を使っている理由。
それは、《串刺しの落とし穴》を使うためである。
これによって防御をフレシアが担い、後は《死皇帝の陵墓》で召喚した重量級モンスターで相手を殲滅する。
新ありかの戦法であるが、早速出鼻をくじかれた感じであろう。
……だが、この程度で終わるありかじゃない。
なのたちの安全を確保出来た時、ありかは自分はカードにされても良いと思った。
しかし自分がカードにされてなのを悲しませては…友達なんかじゃない!
そして伏せたカードは、奈落の落とし穴ではない…!

「…まず、手札から《ツインツインスター》を発動する!
手札の《デュアル・アセンブルム》を捨てて、…《平和の使者》と、《歯車街》を破壊する!
《歯車街》の破壊により、デッキから「アンティーク・ギア」モンスターを召喚出来る!
…来て!《古代の機械熱核竜》」

ナツキのデッキには、《幽鬼うさぎ》などの手札誘発モンスターもいるが、今は握られていない。
相手の動きを見るしか出来なかった。

「更に手札から、《死皇帝の陵墓》を発動!
更に伏せていた《リビングデッドの呼び声》を発動し、捨てた《デュアル・アセンブルム》を特殊召喚!
…バトル!《古代の機械熱核竜》でゴーズを攻撃!」
「ちっ! (LP4600→4300)」
「そして、《デュアル・アセンブルム》でカイエンを攻撃!」
「ぐあっ!…やるな! (LP4300→3000)」
「ターンエンド!」

ナツキは思った。こいつは強いと。
奈落の落とし穴と思い込んでいた伏せカードは蘇生用カードだった。…このくらいのブラフはデュエリストでは当たり前だ。
それに手札の使い方は荒い。
だが、ありかのデュエルは攻め一辺倒。やられる前にやる。…だが、防御も決して考えられていないわけではない。
死皇帝の陵墓がなければ力を発揮しないが、それが出てしまった以上多少の事故はカバーできるだろう。つまり引きも強い。
向こうにくらべこちらの方は火力はそれほどない。ただ、相手の攻撃を受け流すしか出来ない「逃げ」のデッキだ。
確かに、《終焉のカウントダウン》はデッキとして認められている。
それを否定するわけではないが、…ナツキとしてはもっとビートダウンをしたかった。
それでもこのデッキを使い続けるのは、これが一番勝てるからだ。

「何やってんだよ!ナツキ!」

ユウゾウはデュエルのルールはわからない。しかし、ナツキが追い詰められているのだけはわかる。
…そしてその言葉を出すことが、ナツキの目的だった。

「何をやっている?…何もできないんだよ、俺は」
「え?何を言って…」
「ナンパは出来ない。デュエルは負ける。……お前も守れない。
そう!俺は何も出来ないんだ!」
「そんな!だって『なっちゃん』は…ずっと俺を守ってきた!」
「……違う!お前の進むべき道を、閉ざしていたんだ!」

ユウゾウは思った。何を言っているのだと。
だが、彼は臆病な性格である。だからわかってしまった。
ナツキが、自分を見捨てるつもりなのだと。

「そんなに…そんなにぃ!?」
「ユウゾウ!これからは…お前が自分の足でっ!!」

そこまで言った後、ナツキの姿が消える。
…ナツキもカードにされてしまったのだ。

「………」

ユウゾウはナツキのカードを拾い上げ、そのままカメラを捨てて、どこかに走り去った。
走るスピードは遅かったが、…誰も彼を追いかけなかった。
残ったのは、デュエルを途中で中断させられ、途方にくれるありかと…。

「……こっちのはいらなかったのかな」

妙に勇ましい表情でカードにされた焔だけであった…。



これ以降先、ユウゾウはmayに姿を表さなかった。
しかし、身元不明の遺体と、ナツキの破られたカードだけが後に見つかった。
カードにされたなの達だったが、彼女たちをカードにしたカメラが現地にあった事と、
過去に似たような事例があった為その時の経験を活かし、無傷で元通りになった。
…心の方は、1人無事であったありかを「英雄」にすることでなんとかケアした。
英雄願望のあるありかはその役目を受けるも、心中は複雑だったらしい。
そして…。


「…1人になっちまったか」

親友達が皆いなくなった焔は独りごちる。
ズーガの引き込みり以来危ういバランスになっていた友情だったが、それでもなんとかなっていた。
ありかとなののような、互いのために自らを差し出せるかと言われたら…ギリギリYESだったかもしれない。
しかし、ユウゾウにカメラが渡された時点で、そのバランスは脆くも崩れ去った…。

「…俺、デュエリスト以外の人間との付き合い方、よくわからないんだよな…」

だから焔は、ユウゾウをできるだけ相手にしなかった。
ただ、同じ空間におり、話しかければ答えるし、必要とあれば話すが…それ以上は関わらない。
とはいえ、ユウゾウの欲望に忠実な一面は、焔は好ましく見ていたところもある。…放置していたのが、悪い結果に繋がってしまったが。

「ただ、心地は良かったな」

馬鹿な事をしても、やりすぎる前に誰かが止めてくれる。
騒ぎまくって、アホな事をして…結果がどうであれ笑い会える。
…それは儚く砕ける空間だったかもしれないが、しかし…。

「……やっぱ、けじめは自分たちでツケたかったよ」

焔は地面に拳を叩く。
今の彼には、ユウゾウにカメラを渡した奴らを倒すことしか考えられない。

「……誰だ、ユウゾウに『トドメ』を刺したやつは…」

熱き炎は今、燻っていた。

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最終更新:2019年07月15日 11:03