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*吹寄「上条。その……吸って、くれない?」③
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347 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/11(木) 12:58:14.67 ID:4LyK3m2Mo
朝。昨日の夜が嘘のように、上条の日常が回っていく。
特筆すべきような不幸な出来事もなく、時間通りに学校へとたどり着いた。
開けっ放しの教室の扉をくぐると、まだ数の少ないクラスメイトの中に青髪がいた。
意図的に遅刻して小萌先生に叱ってもらうのが好きな男だが、
そういうのを狙わない日はかなり早めに登校するヤツだった。
「よう」
「あ、おはよ。カミやん。昨日あれからどしたん?」
「え?」
何気ない青髪の質問に、上条は思わず硬直しかけた。
「擦りむいただけとか言ってた割には戻ってこーへんし、いつの間にか帰ってたやん?」
「あ、あー」
その一言で合点がいった。同時にほっとする。
青髪に、吹寄の母乳を吸ったあげく手を繋いで婦人科に行き、
あまつさえ恋人同士になったことがばれたわけではなかった。
そういや昨日一件は、青髪たちと遊んでいた直後に起きたんだったか。
「保健室に行く途中で別のに掴まってさ」
「ふーん。……女の子?」
「な、なんでいきなり性別聞くんだよ」
「だってカミやんはカミやんやしね。で、新しい女の子にフラグ立てたん?
それとも知り合いの子の高感度上げイベント?」
「ギャルゲーかっての!」
ったく、と呟いてペラペラの鞄から弁当を取り出し、机に入れて鞄を横にかける。
勉強道具なんてまともに持って帰らないので、上条の朝の準備はそれで終わりだった。
それを横目に、ジッと青髪が見つめる。
「今日はもう一言がないんやね」
「え?」
「いつものカミやんなら、『だいだい上条さんがモテるとかあるわけないだろ』的なことを言うのに」
「……だいだい上条さんがモテるとかあるわけないだろ?」
「怪しい!」
「言ってろ」
昨日、たしか吹寄とは下の名前で呼び合う仲になったはずなので、モテていることにはなるのだろう。
だけど、吹寄の顔を見ないとなんだか実感が湧かない上条なのだった。
トイレに行くかと、席を立ち上がる。
「なあカミやん」
「あん?」
「……今日のカミやん、ホンマに怪しいよ? なんか、まるで何か女の子ときわどいイベントをこなしたような――」
「なんでそんなことが判るんだよ」
「ほらそうやって誤魔化してトイレ行こうとするところとか!」
「違うって! 俺はトイレにも行けねーのかよ」
敗北者になるのかもしれないという不思議な焦りに押され執拗に問い詰める青髪に辟易しながら、
上条は教室の扉をくぐる。
「あ……」
「え?」
そういえば、今日は登校が遅いみたいで、まだ教室にいなかった。
吹寄が、いつもどおりのツンとした顔を驚いた顔に変えて、上条の正面に立っていた。
348 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/11(木) 12:59:10.91 ID:4LyK3m2Mo
「お、おはよう」
「え、ええ。おはよう。上条、ずいぶんと今日は早いのね」
「いや、いつもどおりだって。来れない日があるだけで」
「学生が学校に来られない日を抱えていること自体がおかしいのだけれど。
ねえ上条。あなた、暇よね。ちょっと手伝いなさい」
「え、何を?」
キッと睨みつける吹寄の言葉を反芻し、その意味を考える。
吹寄は一端覧祭の実行委員をしているはずだ。その件だろうか。
「書類運びとかか?」
「え? ……バカ、察しなさいよ。そういうことでいいから、ちょっとここで待っていて!」
「はい?」
はじめは何のことやら分からない上条だったが、焦った吹寄の態度を見て、ようやく気付いたのだった。
そうか、あれから時間も経ったし、また。
納得していると、鞄を置いた吹寄が教室から出てきた。
その背中越しに、青髪と視線が合う。愕然とした表情だった。完璧に怪しまれていた。
「なにをぼうっとしているの?」
「い、いやなんでもない」
「ほ、ほら。さっさと歩く!」
「おう、判ったから押すなって」
吹寄に連れられて、上条はクラスメイト達の視界からさっと消えた。
パタパタと、スニーカーのゴム底で廊下を叩く音を響かせる。
二人になってから顕著だったが、吹寄はどうも結構焦っているらしい。
「吹寄。大丈夫か?」
「……12時間は、結構長いわね」
母乳は3時間もあればそれなりの量が溜まる物だ。
12時間あれば、もしかしたら昨日の保健室みたいなことになっているのかもしれない。
「もしかして、漏れて」
「それ以上言うなぁっ! 馬鹿、そんなの、二人っきりになってから聞いてよ」
「わ、わるい」
吹寄は校舎の隅にある使われていない教室の鍵を開け、そこに上条を招いた。
普通の教室だから勿論ガラスがあって中が見えるのだが、
ダンボールの山や、大覇星祭で使ったらしい大道具などが山積していて視界は悪かった。
これなら、物陰もあるだろう。
後ろ手に、吹寄が部屋の鍵を閉めた。
「ここ、大覇星祭と一端覧祭の道具を押し込んだ倉庫代わりなのよ。
朝は、たぶん誰も来ないはずだから……」
「んっと、人に見えないように、ここでまた吸えば、いいのか?」
確認を取るように吹寄を見ると、返事をそっちのけでこちらをジト目で睨んでいた。
「吹寄?」
「呼び方が、違うでしょう。……と、と、当麻」
「お、おう。そっか、そうだったよな。制理」
秋の柔らかい日差しが差し込む窓際に吹寄を連れて行く。
外を見下ろすと学生が見えるが、カーテン越しのこちらを気にする相手はいないだろう。
廊下側からは完全に死角になる場所だった。
「結構、溜まってる?」
「もう、そういう言い方は私が淫乱みたいに聞こえるじゃない。母乳は、溜まっているけれど」
「じゃあ、飲ませてもらったらいいんだな?」
「うん」
吹寄が、きゅっと上条の袖を握った。
そして顔を見上げて、ポツリとこぼす。
「当麻。その……吸って、くれない?」
382 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/19(金) 23:58:56.60 ID:hHNGkLRJo
上条は、吹寄のその言葉にゴクリと唾を飲みこむ。
やっぱり、女の子の胸をその目にはっきりと収めて、10分間くらい自分の口で吸うのだ。
それで興奮するなというほうが無理だった。
だが逸る気持ちを抑え、とりあえず、上条は吹寄を抱き寄せる。
「あっ……」
「制理」
「……当麻」
ぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られるがこれまた理性で必死に押し留める。
12時間待って、たぶん母乳は今にもこぼれそうな状態だ。
抱きしめてしまえば、またブラを汚すことになる。
「昨日も怒られたけど、胸、吸う前にキスしていいか?」
「いいわよ。ただ、あんまりその、すごいのは駄目」
「注文が多いな」
「だって、仕方ないでしょう。胸がこんなことになっているのは、私だって望んだわけじゃないんだし」
「それはまあ、そうだけど」
上条は吹寄の顔をそっと覗き込み、唇を近づけた。
化粧っ気のほとんどない、素のままの優しい色の唇に自分の唇を重ねる。
ダンボールだらけの茶色いバックグラウンドと部屋の誇りっぽさは原点だが、
燦燦と窓から差し込む秋晴れの朝の光は、なんだか不思議な気持ちになる。
官能的というよりも、朝から恋人と一緒なのだという充足感というか。
「ん――」
「おはよう、制理」
「え? ええ、おはよう。何でまた挨拶をしたの?」
「朝から一緒で、なんか嬉しい」
「っ……!」
怒ったように吹寄が唇を尖らせる。頬が赤いので照れ隠しなのは一目瞭然だ。
その分かりやすさがまた、可愛かった。
「それじゃ、吸うな?」
「は、早くしなさいよ。始業までもう時間もないんだから」
「おう。……で、どうやってする?」
「え?」
ここにはベッドも椅子もない。
つまり、上条の口の高さに吹寄の乳房を持ってくることが、比較的難しかった。
二人で顔を見合わせ、思案する。
「あ、あなたがしゃがみ込めばそれでいいんじゃないの?」
「んー」
上条は賛意をあまり示さないまま、とりあえず吹寄の正面に跪く。
高さの位置関係としては、そこまで悪くなかった。
ただ、いろいろ不満があるらしい。
383 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/20(土) 00:00:16.26 ID:CLtr4NeJo
「この姿勢で10分はしんどいな。制理もそうだろ?」
「え? 私は別に」
「吸われてるうちに、制理も結構没頭して姿勢崩すし」
「ないっ! そんなことないわよ!」
「えー」
吹寄に自覚がないのか、認めたくないだけだった。
上条ははっきりと昨日の吹寄の痴態を覚えている。
「やっぱ、膝枕のほうがいい」
「え?」
「座ってくれよ、制理。足伸ばしてさ」
「……こうすれば、いいの?」
また、むっと怒ったような顔をして吹寄が地面に腰を下ろした。
祭りが近く人の出入りがあるせいか、地面は掃かれてそれなりに綺麗だ。
上条は、スカートを気にしながら足を伸ばして座った吹寄の太ももの上に、
自分の頭が来るように調整しながら、床に寝そべった。
「ちょ、ちょっと?! その、当麻……?」
「やっぱこの方が安定していいだろ」
そして、男の浪漫でもある。彼女の膝枕というのは。
吹寄の太ももは柔らかかった。そしていい匂いがする。
見上げると吹寄と視線が合う。
なんだか困った顔をしていて、自然と上条は笑いがこみ上げてしまうのだった。
「な、何よ」
「可愛いよ」
「馬鹿」
「ほら、吸わせてくれるんだろ?」
「う、うん」
「ブラとキャミソール、脱ぐのか?」
「馬鹿! そんなわけないでしょう。脱いだら、もし誰かに見つかったとき、言い訳できないじゃない」
「えっと、じゃあ」
「その、肌着はたくし上げればいいし、ブラは、フロントホックのをしてきたから」
吹寄はそう言って、キャミソールを引っ張って胸より上まで上げ、両手でブラの正面を隠すようにした。
そしてしばし、ためらいを見せる。上条は目の先数センチで広げられるその光景に、見入っていた。
やがて、ぷつりという音が聞こえ、ブラの留め金が外れたのが分かった。
肩紐を通して支えられていた乳房が、重力にしたがってぷるんと震えた。
自信はないが、心なしか張ったような、そんな印象を受けるたわわさだった。
そっと、上条は手で外れたブラのカップを脇にやった。
昨日初めて見たばかりの、吹寄の胸、その乳首の先端までが露わになった。
そこに、上条はむしゃぶりつくように、吸い付いた。
「んっ!」
必死に我慢をするように、鼻から掠れるような声を、吹寄は漏らした。
たぶん、まだコレくらいなら、教室の外の誰かに悟られるようなことは無いレベルだった。
390 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/20(土) 16:37:36.38 ID:CLtr4NeJo
「んっ……当麻、その、ちょっと優しく、吸って」
そう言われても、上条としては、そんなにがっついているつもりはない。
位置関係として上条の頭が吹寄の乳房より下にあり、吸いやすいだけだのようだった。
そのせいか、じゅわっと母乳が口の中に広がる。
昨日のより、コクがあって飲み応えのある味だった。
「今日も、美味い」
「ば、馬鹿。そういう報告はいらないのよ」
そう言いながら、吹寄は少しかがんで、上条の吸いやすいように乳首の位置を直してくれる。
そして、腕の中にすっぽり抱き込むように、両手で上条の頭を包み込んだ。
さわさわと、吹寄の吐息が髪に掛かる。その雰囲気に上条はある種の感動を感じていた。
このまま眠ってしまいそうなくらい、安心する。
「当麻」
「ん……」
上条は置き場の定まらない腕を吹寄の腕や腰に触れさせる。
なんだかその甘えた雰囲気が可愛くて、吹寄はつい微笑みを口元に浮かべた。
朝から母乳を吸ってもらうお願いをしなきゃいけないので、
学校に来る前まではあれこれと悩んでもいたし、上条に迷惑がられるかもと心配していたが、
こういう安心しきった顔を見ると、嫌だとは思われていなかったのかなとほっとする。
張った感じがしてしんどかった乳房の感じも、すぐにいつもどおりくらいの感じになってきた。
「こっちも、お願いね」
「ああ」
上条の口の中から、今まで含ませていたほうの乳首を放させる。
そしてもう片方の、まだ飲ませていないほうの乳首に吸い付かせた。
つんつんと、口の中にうまく乳首が収まるまでに二三度唇と乳首がぶつかった。
そしてうまく乳首を含むと同時に、上条が唾液で乳首を濡らしながら、ちゅ、と乳首に甘噛みをした。
「んっ……」
じゅわ、と自分の中から母乳が漏れ出していく感覚がする。
昨日、初めて感じたときには戸惑いしか覚えなかったのに、
すでに授乳するとなんとなくほっとする自分がいることに吹寄は気付いた。
上条が上手く吸い始めたのを確認して、吸われ終わったほうの乳首のケアをする。
ポケットからハンカチを取り出し、乳首に当てる。
早く拭かないと上条が吸ったときにつけた唾液がひんやりしてちょっと嫌なのだ。
かなり気を使って、そっと唾液を拭っていく。
乳首を拭くと、乳房の本体に対して折れるように、くにゅりと曲がる。
それでピリッと吹寄の背筋に電気が走った。
乳首が、完全にツンと立っているせいで拭くのも難しいのだった。
391 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/20(土) 16:38:18.91 ID:CLtr4NeJo
「拭こうか?」
「えっ?」
「ほら、ハンカチ貸して」
「ちょ、ちょっと。自分で――んっ! 駄目、吸いながらそういうのは反則よ」
「いいだろ」
非難の目を上条に向けると、いたずらっぽく目が笑っていた。
口元は自分の乳房を吸っているので良く見えない。
上条が、吹寄から取り上げたハンカチを人差し指の先に巻きつけた。
ちょんと、それを吹寄の乳首の傍に押し当てる。
「当麻……手つきがいやらしいわよ」
「制理こそ、乳首立ってる」
「?! そ、そんなの! 吸われたんだから仕方ないでしょうが!」
「気持ちいいか?」
「馬鹿! そんなことない!」
「ふーん」
ちゅくちゅくと、ひときわ大きく上条が音を立てて吹寄の乳首を吸い上げた。
舌を乳首に絡み付けるようにしながら、ぬるりとした感触を吹寄の与える。
「ひゃんっ! あ、あ」
「可愛い声だな」
「馬鹿、馬鹿ぁ……」
そう言いながら、上条がハンカチ越しに、吸い終わったほうの乳首をもてあそぶ。
乳首の周りを円を描くようにハンカチで擦り、時折弾くように、乳首を攻める。
「んっ、ちょ、っと。駄目……」
「いいだろ? 俺、制理の胸、好きだし」
「……胸が、んっ、好きだって言われても、嬉しくない」
「胸だけって意味じゃないぞ」
「本当かしら」
「キスしたら信じてくれるか?」
「今は駄目。そういうのはちゃんと飲み終わってから――」
「キス、して欲しいんだな?」
ニヤッと、上条が笑った。それで自分が何を言ったのかに、吹寄は気付く。
「……そう思っちゃ、駄目なわけ?」
「いや、スゲー嬉しい。まあ、もうちょっと待ってくれ」
「もう……」
上条の手からハンカチを回収し、ため息をつく。
ぎゅっと抱きしめるように、もう一度吹寄は上条の頭を抱きしめた。
421 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/27(土) 11:55:59.12 ID:wtqv7NWuo
ちゅ、ちゅ、と時々上条が口元でそんな音を立てる。
「ん、ぁ……」
まさか外に聞こえるわけもないが、吹寄は自分の口から時々漏れるその声を必死に押し隠そうと、
抱きしめた上条の頭の近くで押し殺すように息を吐く。
それを聞かさせる上条はたまったものではない。
可愛すぎて、どうにかなりそうだった。
手が届くので、吹寄の髪をそっと撫でてやる。なんだか恨めしい顔で睨み返された。
「なんだよ」
「ずるい、わよ」
「え?」
「こっちは恥ずかしいのを必死に隠しているのに、あなたは気楽そうに吸ってるだけじゃない」
「いや、そう言われてもなあ。制理のおっぱい吸うの、楽しいし」
「……そ、そんなこと言われても別に嬉しくないわよ」
「喜ばせたいんじゃなくて、ただの本音だけど」
「……」
そんなことを言われてしまうので、吹寄は上条に勝てないのだった。
吹寄が拗ねてつい顔を逸らしたところに、すかさず上条はいたずらを仕掛ける。
乳首の周りを、なぞるように舌でつうっと舐める。
「はぁん!」
二人っきりの教室に、控えめ程度に吹寄の声が響く。
我に返った吹寄がハッと息を吸って、周囲をうかがう。
誰かに気付かれなかったかと、気が気ではなかった。
「大丈夫だって。今の位だったら教室の外には聞こえないだろ」
「馬鹿! そんなの分からないじゃない! もう、心臓が止まるかと思ったわよ……」
「ごめん。確かに母乳もそろそろ止まりそうだ」
「そっちは関係ない! もう、当麻。見つかったら二人とも怒られる程度じゃ済まないのよ?」
「……だな。ちゃんと学校に行ってる制理に迷惑かけるのは悪いな」
「あなたも、ちゃんと学校に来なさいよ」
「いや、上条さんも最大限の努力はしているんですよ?」
「それでこの体たらくって、どういうことよ」
どうせ上条はまた、赤点スレスレになるだろう。
恋人になったんだしちゃんと助けてあげなくちゃ、と吹寄は内心で心に決めているのだった。
やっぱりずっと先のことを考えれば、彼氏にはちゃんと頑張って欲しいし。
そこまで考えて吹寄は頭の中に湧いた未来像を慌てて打ち消した。
「制理?」
「なんでもない。ね、そろそろ止まった?」
「ん、勢いはもう全然ない。ちょっと噛んでも出なくなったし」
上条が唇を使って痛みを与えないように乳房に噛み付いているのには気付いていた。
それでも出ないということは、朝はこんなところだということだろう。
「そっか。それじゃあ、朝はこれで終わりね」
「ん」
ちょっと名残惜しい顔をした上条が可愛かった。
だから、撫でる代わりに上条のおでこにキスをした。
「せ、制理」
「ふふ。当麻も、照れることあるんだ」
「なんだよ」
「可愛い」
そう言って吹寄が笑いかけると、照れくさそうにしながら上条がハンカチをひったくった。
そして膝枕の体勢から体を起こして、自分が吸ったばかりの乳房を、やさしく拭いてくれた。
422 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/27(土) 11:57:04.56 ID:wtqv7NWuo
「ありがとう」
「こっちこそ、飲ませてくれて、ありがとな」
「……やっぱり、吸いたいの?」
「そういうの聞かれると正直に答えるのが恥ずかしいだろ」
「ね、当麻。教えてよ」
「……笑いたきゃ笑えよ。制理の胸を吸うと、安心する」
「……」
ストレートな物言いはヤバイ。上条は恥ずかしくて死にそうだった。
同時に、吹寄も言葉が口をついて出てこなかった。
なんだか恥ずかしいけど、嬉しくて。
「そろそろ、いいか?」
「え?」
「母乳の味も口からなくなったと思うし、キスしていいか?」
「あ、うん……」
上条が、隣に腰掛けた。
そして吹寄の腰と肩に手を当てて、そっと吹寄の唇を自分の方に引き寄せた。
「ん……」
触れるだけのキス。
おもわず瞑ってしまった眼を開くと、上条が優しい顔をしていた。
「好きだ、制理」
「ん、私も」
すごく、自然にそう言えた気がする。上条に、ごく自然にそう言ってもらえた気がする。
それが嬉しかった。
もう一度、惹かれあうようにキスをした。
今度はさっきよりも深く、舌を絡めて。
「ん、ん……」
セーラーの下に上条が手を滑り込ませて、まだブラを付け直していない胸に触れた。
くにゅ、と手のひらに包まれて乳房が形を変える。
上条の手のひらの温かみのせいで、じんわりとした快感が吹寄の脳裏に広がった。
「はぁ」
ふと、上条がキスを止めてどこかを見た。教卓の上、時計のあるところだ。
つられて吹寄も見ると、もう、チャイムが鳴るまで五分もなかった。
「あ。もう、行かなくちゃ」
「だな。嫌だけど、仕方ないか」
「うん……」
「ほら、ブラつけてやるから」
「う、うん」
もう一度キスをしてから、上条はブラの両カップを手に取り、ぐっと真ん中に引き寄せた。
先ほど外すところをみていたから、付け方は分かる。
「あ、ちょっと待って」
吹寄が、開いた両手で乳房の位置を整える。
すっぽりとカップの中に乳房をしまいこんだのを確認して、上条はパチンと留め金を留めた。
二人で、はぁ、とため息をつく。吹寄が制服を軽く調えると、もう、それで日常が戻ってきてしまった。
「当麻。ねえ、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「お昼も……その、して欲しいの」
「ん。放課後より昼のほうがいいんだな?」
「放課後は、あたしも忙しいから。絶対に時間が取れるとは分からないし、
家に帰って夜になることにはまた困ったことになっちゃうから」
「じゃあ、昼にまた」
「うん。ごめんね」
「謝るなって」
「ありがとう。それじゃ、教室に戻りましょ」
「ああ」
二人がいたのは、もとより人通りの少ない一角にある教室だ。
大した問題にぶつかることもなく、二人は教室に戻った。
朝の授乳を無難にこなせたことに、二人は安堵していた。
440 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/03(土) 12:56:36.44 ID:n8P+J+uno
始業前のあの蜜月もはるか遠く、余韻に浸るうちにあっという間に昼前になっていた。
目の前で熱心に喋る小萌先生も、あと15分位したら上条たちに昼食を取る権利をくれることだろう。
要は、四時間目の終了間際なのだった。
「ふぁ……」
うつむいて、欠伸をかみ殺す。
教師にしてみれば学生の欠伸など日常茶飯事だ。それくらいで咎められたりはしない。
だが、それに反応したのか、青髪がこちらを振り向いた。
朝からなぜか、時折こちらを見てくるのだ。
普段は授業中に上条に興味を持つ男ではないし、色々後ろ暗いところのある上条としては落ち着かない。
その黒髪を眺めながら、自分の彼女になってくれた女の子の綺麗さにドキドキする。
だが遠くに座る吹寄は何処からどう見ても完全にいつも通りで、不審な点など欠片もなかった。
その平静さがちょっと寂しいというか、もうちょっとドキマギしてくれてもいいのになと思わないでもない上条だった。
「ふぅ、説明はここまでで、残り時間はプリントをやってもらおうと思ったですけど……
今日はお疲れの子が多いですね。普段は真面目な子も、ちょっと上の空ですし」
教卓の上で頬に手を当て、小萌先生がそうぼやいた。視線はたぶん、吹寄のほうを向いているように思う。
指摘された自覚があったのか、吹寄が僅かに慌てたのが分かった。
まあ、ずっと吹寄を見つめている上条以外に気付いた学生がいたかは分からないが。
「上条ちゃんが黒板に集中してくれないのは良くあることですけど、
授業中ずっとだとさすがに先生は悲しいです」
「へ?」
突然、名指しで怒られた。
「まあいいです。さてそれじゃ、眠たくて目を擦ってる学生さんたちに、刺激的な話をしましょうか。
先生はこのクラスの、つい昨日出来立ての新婚カップルさんを知ってしまったです」
「「「「?!?!?!?!」」」」
ざわ、ざわ。
しゃっきりと起きていたクラスメイトが騒然となる。
一体誰と誰だよ、という感じを装って、上条は辺りを見渡した。なんとか第三者に成りすますためだった。
異端審問官の如く、周囲の男子がギラギラとした視線を部屋中に飛ばしまくっていた。
なんとなく、青髪と視線が合うと不味い気がしたので、あたりを見渡す振りをしながらも、そちらに目は向けなかった。
……が、視界の端っこで青髪がずっとこちらを見ているらしいのは、なんとなく見えた。
吹寄は、たぶんいつも通りの態度なのだろう。
基本的に興味がない、という感じで筆箱をかき回して、シャーペンの芯の追加を行っていた。
「せんせー! それって誰と誰ぜよ?」
土御門が手を上げて小萌先生に問いかける。クラスメイト達も一様に頷きながら、教卓の前に注目する。
だが小萌先生はうふふと笑って、ほっぺたに手を当てるだけなのだった。
「それはプライバシーですから言えないのですよ。でもとってもいい男の子と女の子のカップルなのです」
小萌先生は心からそう思っているように、嬉しそうにそう言う。上条がなんだかそれがむずがゆかった。
だがクラスメイトとしてはまるで役に立たない情報だった。
なにせ、小萌先生はクラスの男子女子全てを、とってもいい子だと思っているのだ。
カップルの特定情報にはこれっぽっちもなりえない。
上条は小萌先生がそれくらいのネタ晴らしで満足してくれることを、第三者を装った表情の下で願った。
だが、小萌先生の顔は依然として、幸せそうで。
441 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/03(土) 12:57:15.38 ID:n8P+J+uno
「彼女さんのほうはお付き合いをはじめたと聞いてちょっとびっくりしたです。
彼氏さんのほうは、とってもやんちゃでしたけどようやく落ち着くかも知れないですね」
まあこれくらいじゃわからないですよね、という感じで、
ようやく満足したらしく小萌先生が一息ついて、手に持ったプリントをトントンと整えた。
「さ、それじゃプリント配るですよー」
小萌先生が、この警戒感のある空気からいち早く抜けて、日常に戻る。
だが学生達はそれに追随する気配がなかった。
授業に興味のない学生も、皆が顔を上げてクラスのどこかを眺めている。
上条の席までプリントが回ってきたのでそれを手に取る。
プリントが来たんだからそりゃ問題解いたって不自然じゃないよな、と思いながら視線を手元に落とす。
クラス全体にプリントが行き渡ったらしく、静かになってきた。
追及の手がそれでやんだかと、ほっと一息つく。そして何気なく、上条は顔を上げた。
「……?」
クラスの、大半がじっとこちらを見ている。
プリントなんてそっちのけだった。
誰を見ているのか確認するため、一応上条は自分も後ろを振り返った。
「何処見てるん、カミやん?」
「え……?」
すっとぼけたふりをしながら、上条は周囲を見渡し、視線の集中している点を計算する。
どうみても自分だった。
「ちょ、ちょっと皆、先生も悪かったですけどプリントはやってくれなくちゃ困るです」
「先生」
「なんですか?」
青髪に呼びかけられた小萌先生が、首をかしげる。
「先生は今まで、このクラスの男子で誰のことを『やんちゃ』って言ったことがあるか、覚えてるんですか?」
「えっ?! そ、それは……どうでしょう。男の子はやんちゃなくらいがいいですし、
そういう子は何人かいると思いますけど」
思い当たる節が、小萌先生にもあったのだろう。戸惑う表情に焦りが見えた。
それを聞いてクラスメイトの大半が、確信した。
「なあカミやん」
「……授業中だぞ」
「小萌先生が『やんちゃ』って言うとき、大概誰のことを指してるか、カミやん知ってる?」
「お前か? 青髪」
「それやったら嬉しいんやけどねえ」
青髪は小萌先生に怒られるのが好きらしい。嬉しいというのは本音は本音だろう。
だが、今の台詞にはそういう羨ましさ以外に、何か黒いものが混じっていた。
「カミやん。小萌先生の『やんちゃ』と言えば、それはカミやん以外の男子は指さへんよ?」
442 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/03(土) 12:58:07.06 ID:n8P+J+uno
クラスメイトみんなが、コクリと頷いた。
「お、おいおい。いきなり何言い出すんだよ。上条さんがもてたためしなんかありませんのことよ?」
その上条の言葉に真正面から反論する人間はいなかった。確かに、今日まで恋人を作ったと言う噂はないからだ。
だが、ざわざわと囁きあう言葉の一つ一つを拾ってみると、
不良に絡まれてるところを助けてあげただとか、
階段で転んで怪我しそうになった女の子を助けてあげただとか、
○○さんは上条君のこと格好良いかもって言ってただとか、そういう話がひしめいていた。
小萌先生の言うやんちゃというのは、困っている人は放っておかないところだとか、女泣かせなところとか、
そういういろいろある上条の武勇伝をまとめての評価だった。
上条は、そのクラスの雰囲気にいたたまれなくなって、つい、味方を探した。
遠くで吹寄が、ちょっとムスッとした顔で、こちらを見ていた。
「カミやん何処見てるん? 誰と視線を合わせた?」
「っ?!」
上条の視線の方向を、一斉にクラスが追った。上条のいるところから教室の対岸方向だ。
あわあわとしてる小萌先生を尻目に、次は上条の相手探しらしい。授業なんてお構いなしだった。
そちらのほうにいる女子が、自分ではないと言う感じに手を振りながら、正解は誰かと視線を工作させた。
青髪が、その中でも際立って不審な一人の女の子に、視線を向けた。
吟味するように、じっと眺める。
黒髪の綺麗なその女の子は、その視線から逃れるように居住まいを正した。
「なあ姫神さん。まさか、カミやんと姫神さんって」
「……違う。私じゃ。ない」
「で、でも。たしか姫神さんって転校前からカミやんと知り合いって聞いたよ?」
「それとこれとが。全然関係ない」
困ったように姫神が首を振ると、さらさらと髪がウェーブを描く。
クラスメイトが再びざわめきだした。
曰く。
「上条君を追いかけてこの学校に来たって事だよね?」「じゃなきゃこの学校選ばないよね?」
「大覇星祭のとき二人で一緒にいるところ見かけたって!」「え、じゃやっぱりあの頃から?」
「っていうかどう見ても姫神さんは上条君のこと好きじゃん」「えー、それはあんたの目がおかしい」
「姫神さん隣のクラスの男子にコクられた時、他に好きな人がいるって言ったらしい!」
「その噂、告白自体ガセって聞いたぞ」「俺も。ってか姫神って男に興味あるか?」
「俺喋ったことない」「俺も」「俺も」「俺もだ」「上条はこないだ一緒に弁当食ってたぞ」
「上条……クソッ」「なんかあの時、姫神慌ててたよな?」
「あれ上条がブラのホック外したらしいぞ」「ハァ? どこのラブコメだよ。ってかどうやったらそんなことに?」
「上条に常識が通用するわけねーだろ」「ま た 上 条 か」
一つ一つは上条には聞き取れないのだが、どういう悪意があるのかは良く分かるのだった。
特に男子の中で、上条に対する敵意が膨れ上がっていくのが分かる。
どうも、上条の相手が姫神らしい、という方向で推測が行われ、
しかも集団心理によってそれが事実かのように思われ始めているらしかった。
なんとかなだめようとは思うのだが、上条が何を言っても火に油を注ぐことにしかならない気がした。
「ちょっと! いい加減にしなさいよ!」
耐えかねた、という感じで吹寄がバンと机を叩いた。
それで、ピタリとヒソヒソ話が止む。
「まだ授業中でしょうが。集中しなさいよね」
「そ、そうです! プリントは宿題とは別ですから、皆が出来るまで授業は延長するですよ?」
冷淡な感じを装って、小萌先生がそう言った。
空腹で死ぬ、やめてくれといった声が生徒の間で上がる。
しかたなしに、のろのろと皆、プリントを解きに戻った。
上条は顔を上げて、吹寄を見る。
ゴメンと言うつもりで軽く頭を下げたら、ふんとすげなくそっぽを向かれてしまった。
事情を理解している小萌先生がその光景を見て、ニッコリと笑ったのだった。
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*吹寄「上条。その……吸って、くれない?」③
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347 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/11(木) 12:58:14.67 ID:4LyK3m2Mo
朝。昨日の夜が嘘のように、上条の日常が回っていく。
特筆すべきような不幸な出来事もなく、時間通りに学校へとたどり着いた。
開けっ放しの教室の扉をくぐると、まだ数の少ないクラスメイトの中に青髪がいた。
意図的に遅刻して小萌先生に叱ってもらうのが好きな男だが、
そういうのを狙わない日はかなり早めに登校するヤツだった。
「よう」
「あ、おはよ。カミやん。昨日あれからどしたん?」
「え?」
何気ない青髪の質問に、上条は思わず硬直しかけた。
「擦りむいただけとか言ってた割には戻ってこーへんし、いつの間にか帰ってたやん?」
「あ、あー」
その一言で合点がいった。同時にほっとする。
青髪に、吹寄の母乳を吸ったあげく手を繋いで婦人科に行き、
あまつさえ恋人同士になったことがばれたわけではなかった。
そういや昨日一件は、青髪たちと遊んでいた直後に起きたんだったか。
「保健室に行く途中で別のに掴まってさ」
「ふーん。……女の子?」
「な、なんでいきなり性別聞くんだよ」
「だってカミやんはカミやんやしね。で、新しい女の子にフラグ立てたん?
それとも知り合いの子の高感度上げイベント?」
「ギャルゲーかっての!」
ったく、と呟いてペラペラの鞄から弁当を取り出し、机に入れて鞄を横にかける。
勉強道具なんてまともに持って帰らないので、上条の朝の準備はそれで終わりだった。
それを横目に、ジッと青髪が見つめる。
「今日はもう一言がないんやね」
「え?」
「いつものカミやんなら、『だいだい上条さんがモテるとかあるわけないだろ』的なことを言うのに」
「……だいだい上条さんがモテるとかあるわけないだろ?」
「怪しい!」
「言ってろ」
昨日、たしか吹寄とは下の名前で呼び合う仲になったはずなので、モテていることにはなるのだろう。
だけど、吹寄の顔を見ないとなんだか実感が湧かない上条なのだった。
トイレに行くかと、席を立ち上がる。
「なあカミやん」
「あん?」
「……今日のカミやん、ホンマに怪しいよ? なんか、まるで何か女の子ときわどいイベントをこなしたような――」
「なんでそんなことが判るんだよ」
「ほらそうやって誤魔化してトイレ行こうとするところとか!」
「違うって! 俺はトイレにも行けねーのかよ」
敗北者になるのかもしれないという不思議な焦りに押され執拗に問い詰める青髪に辟易しながら、
上条は教室の扉をくぐる。
「あ……」
「え?」
そういえば、今日は登校が遅いみたいで、まだ教室にいなかった。
吹寄が、いつもどおりのツンとした顔を驚いた顔に変えて、上条の正面に立っていた。
348 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/11(木) 12:59:10.91 ID:4LyK3m2Mo
「お、おはよう」
「え、ええ。おはよう。上条、ずいぶんと今日は早いのね」
「いや、いつもどおりだって。来れない日があるだけで」
「学生が学校に来られない日を抱えていること自体がおかしいのだけれど。
ねえ上条。あなた、暇よね。ちょっと手伝いなさい」
「え、何を?」
キッと睨みつける吹寄の言葉を反芻し、その意味を考える。
吹寄は一端覧祭の実行委員をしているはずだ。その件だろうか。
「書類運びとかか?」
「え? ……バカ、察しなさいよ。そういうことでいいから、ちょっとここで待っていて!」
「はい?」
はじめは何のことやら分からない上条だったが、焦った吹寄の態度を見て、ようやく気付いたのだった。
そうか、あれから時間も経ったし、また。
納得していると、鞄を置いた吹寄が教室から出てきた。
その背中越しに、青髪と視線が合う。愕然とした表情だった。完璧に怪しまれていた。
「なにをぼうっとしているの?」
「い、いやなんでもない」
「ほ、ほら。さっさと歩く!」
「おう、判ったから押すなって」
吹寄に連れられて、上条はクラスメイト達の視界からさっと消えた。
パタパタと、スニーカーのゴム底で廊下を叩く音を響かせる。
二人になってから顕著だったが、吹寄はどうも結構焦っているらしい。
「吹寄。大丈夫か?」
「……12時間は、結構長いわね」
母乳は3時間もあればそれなりの量が溜まる物だ。
12時間あれば、もしかしたら昨日の保健室みたいなことになっているのかもしれない。
「もしかして、漏れて」
「それ以上言うなぁっ! 馬鹿、そんなの、二人っきりになってから聞いてよ」
「わ、わるい」
吹寄は校舎の隅にある使われていない教室の鍵を開け、そこに上条を招いた。
普通の教室だから勿論ガラスがあって中が見えるのだが、
ダンボールの山や、大覇星祭で使ったらしい大道具などが山積していて視界は悪かった。
これなら、物陰もあるだろう。
後ろ手に、吹寄が部屋の鍵を閉めた。
「ここ、大覇星祭と一端覧祭の道具を押し込んだ倉庫代わりなのよ。
朝は、たぶん誰も来ないはずだから……」
「んっと、人に見えないように、ここでまた吸えば、いいのか?」
確認を取るように吹寄を見ると、返事をそっちのけでこちらをジト目で睨んでいた。
「吹寄?」
「呼び方が、違うでしょう。……と、と、当麻」
「お、おう。そっか、そうだったよな。制理」
秋の柔らかい日差しが差し込む窓際に吹寄を連れて行く。
外を見下ろすと学生が見えるが、カーテン越しのこちらを気にする相手はいないだろう。
廊下側からは完全に死角になる場所だった。
「結構、溜まってる?」
「もう、そういう言い方は私が淫乱みたいに聞こえるじゃない。母乳は、溜まっているけれど」
「じゃあ、飲ませてもらったらいいんだな?」
「うん」
吹寄が、きゅっと上条の袖を握った。
そして顔を見上げて、ポツリとこぼす。
「当麻。その……吸って、くれない?」
382 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/19(金) 23:58:56.60 ID:hHNGkLRJo
上条は、吹寄のその言葉にゴクリと唾を飲みこむ。
やっぱり、女の子の胸をその目にはっきりと収めて、10分間くらい自分の口で吸うのだ。
それで興奮するなというほうが無理だった。
だが逸る気持ちを抑え、とりあえず、上条は吹寄を抱き寄せる。
「あっ……」
「制理」
「……当麻」
ぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られるがこれまた理性で必死に押し留める。
12時間待って、たぶん母乳は今にもこぼれそうな状態だ。
抱きしめてしまえば、またブラを汚すことになる。
「昨日も怒られたけど、胸、吸う前にキスしていいか?」
「いいわよ。ただ、あんまりその、すごいのは駄目」
「注文が多いな」
「だって、仕方ないでしょう。胸がこんなことになっているのは、私だって望んだわけじゃないんだし」
「それはまあ、そうだけど」
上条は吹寄の顔をそっと覗き込み、唇を近づけた。
化粧っ気のほとんどない、素のままの優しい色の唇に自分の唇を重ねる。
ダンボールだらけの茶色いバックグラウンドと部屋の誇りっぽさは原点だが、
燦燦と窓から差し込む秋晴れの朝の光は、なんだか不思議な気持ちになる。
官能的というよりも、朝から恋人と一緒なのだという充足感というか。
「ん――」
「おはよう、制理」
「え? ええ、おはよう。何でまた挨拶をしたの?」
「朝から一緒で、なんか嬉しい」
「っ……!」
怒ったように吹寄が唇を尖らせる。頬が赤いので照れ隠しなのは一目瞭然だ。
その分かりやすさがまた、可愛かった。
「それじゃ、吸うな?」
「は、早くしなさいよ。始業までもう時間もないんだから」
「おう。……で、どうやってする?」
「え?」
ここにはベッドも椅子もない。
つまり、上条の口の高さに吹寄の乳房を持ってくることが、比較的難しかった。
二人で顔を見合わせ、思案する。
「あ、あなたがしゃがみ込めばそれでいいんじゃないの?」
「んー」
上条は賛意をあまり示さないまま、とりあえず吹寄の正面に跪く。
高さの位置関係としては、そこまで悪くなかった。
ただ、いろいろ不満があるらしい。
383 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/20(土) 00:00:16.26 ID:CLtr4NeJo
「この姿勢で10分はしんどいな。制理もそうだろ?」
「え? 私は別に」
「吸われてるうちに、制理も結構没頭して姿勢崩すし」
「ないっ! そんなことないわよ!」
「えー」
吹寄に自覚がないのか、認めたくないだけだった。
上条ははっきりと昨日の吹寄の痴態を覚えている。
「やっぱ、膝枕のほうがいい」
「え?」
「座ってくれよ、制理。足伸ばしてさ」
「……こうすれば、いいの?」
また、むっと怒ったような顔をして吹寄が地面に腰を下ろした。
祭りが近く人の出入りがあるせいか、地面は掃かれてそれなりに綺麗だ。
上条は、スカートを気にしながら足を伸ばして座った吹寄の太ももの上に、
自分の頭が来るように調整しながら、床に寝そべった。
「ちょ、ちょっと?! その、当麻……?」
「やっぱこの方が安定していいだろ」
そして、男の浪漫でもある。彼女の膝枕というのは。
吹寄の太ももは柔らかかった。そしていい匂いがする。
見上げると吹寄と視線が合う。
なんだか困った顔をしていて、自然と上条は笑いがこみ上げてしまうのだった。
「な、何よ」
「可愛いよ」
「馬鹿」
「ほら、吸わせてくれるんだろ?」
「う、うん」
「ブラとキャミソール、脱ぐのか?」
「馬鹿! そんなわけないでしょう。脱いだら、もし誰かに見つかったとき、言い訳できないじゃない」
「えっと、じゃあ」
「その、肌着はたくし上げればいいし、ブラは、フロントホックのをしてきたから」
吹寄はそう言って、キャミソールを引っ張って胸より上まで上げ、両手でブラの正面を隠すようにした。
そしてしばし、ためらいを見せる。上条は目の先数センチで広げられるその光景に、見入っていた。
やがて、ぷつりという音が聞こえ、ブラの留め金が外れたのが分かった。
肩紐を通して支えられていた乳房が、重力にしたがってぷるんと震えた。
自信はないが、心なしか張ったような、そんな印象を受けるたわわさだった。
そっと、上条は手で外れたブラのカップを脇にやった。
昨日初めて見たばかりの、吹寄の胸、その乳首の先端までが露わになった。
そこに、上条はむしゃぶりつくように、吸い付いた。
「んっ!」
必死に我慢をするように、鼻から掠れるような声を、吹寄は漏らした。
たぶん、まだコレくらいなら、教室の外の誰かに悟られるようなことは無いレベルだった。
390 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/20(土) 16:37:36.38 ID:CLtr4NeJo
「んっ……当麻、その、ちょっと優しく、吸って」
そう言われても、上条としては、そんなにがっついているつもりはない。
位置関係として上条の頭が吹寄の乳房より下にあり、吸いやすいだけだのようだった。
そのせいか、じゅわっと母乳が口の中に広がる。
昨日のより、コクがあって飲み応えのある味だった。
「今日も、美味い」
「ば、馬鹿。そういう報告はいらないのよ」
そう言いながら、吹寄は少しかがんで、上条の吸いやすいように乳首の位置を直してくれる。
そして、腕の中にすっぽり抱き込むように、両手で上条の頭を包み込んだ。
さわさわと、吹寄の吐息が髪に掛かる。その雰囲気に上条はある種の感動を感じていた。
このまま眠ってしまいそうなくらい、安心する。
「当麻」
「ん……」
上条は置き場の定まらない腕を吹寄の腕や腰に触れさせる。
なんだかその甘えた雰囲気が可愛くて、吹寄はつい微笑みを口元に浮かべた。
朝から母乳を吸ってもらうお願いをしなきゃいけないので、
学校に来る前まではあれこれと悩んでもいたし、上条に迷惑がられるかもと心配していたが、
こういう安心しきった顔を見ると、嫌だとは思われていなかったのかなとほっとする。
張った感じがしてしんどかった乳房の感じも、すぐにいつもどおりくらいの感じになってきた。
「こっちも、お願いね」
「ああ」
上条の口の中から、今まで含ませていたほうの乳首を放させる。
そしてもう片方の、まだ飲ませていないほうの乳首に吸い付かせた。
つんつんと、口の中にうまく乳首が収まるまでに二三度唇と乳首がぶつかった。
そしてうまく乳首を含むと同時に、上条が唾液で乳首を濡らしながら、ちゅ、と乳首に甘噛みをした。
「んっ……」
じゅわ、と自分の中から母乳が漏れ出していく感覚がする。
昨日、初めて感じたときには戸惑いしか覚えなかったのに、
すでに授乳するとなんとなくほっとする自分がいることに吹寄は気付いた。
上条が上手く吸い始めたのを確認して、吸われ終わったほうの乳首のケアをする。
ポケットからハンカチを取り出し、乳首に当てる。
早く拭かないと上条が吸ったときにつけた唾液がひんやりしてちょっと嫌なのだ。
かなり気を使って、そっと唾液を拭っていく。
乳首を拭くと、乳房の本体に対して折れるように、くにゅりと曲がる。
それでピリッと吹寄の背筋に電気が走った。
乳首が、完全にツンと立っているせいで拭くのも難しいのだった。
391 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/20(土) 16:38:18.91 ID:CLtr4NeJo
「拭こうか?」
「えっ?」
「ほら、ハンカチ貸して」
「ちょ、ちょっと。自分で――んっ! 駄目、吸いながらそういうのは反則よ」
「いいだろ」
非難の目を上条に向けると、いたずらっぽく目が笑っていた。
口元は自分の乳房を吸っているので良く見えない。
上条が、吹寄から取り上げたハンカチを人差し指の先に巻きつけた。
ちょんと、それを吹寄の乳首の傍に押し当てる。
「当麻……手つきがいやらしいわよ」
「制理こそ、乳首立ってる」
「?! そ、そんなの! 吸われたんだから仕方ないでしょうが!」
「気持ちいいか?」
「馬鹿! そんなことない!」
「ふーん」
ちゅくちゅくと、ひときわ大きく上条が音を立てて吹寄の乳首を吸い上げた。
舌を乳首に絡み付けるようにしながら、ぬるりとした感触を吹寄の与える。
「ひゃんっ! あ、あ」
「可愛い声だな」
「馬鹿、馬鹿ぁ……」
そう言いながら、上条がハンカチ越しに、吸い終わったほうの乳首をもてあそぶ。
乳首の周りを円を描くようにハンカチで擦り、時折弾くように、乳首を攻める。
「んっ、ちょ、っと。駄目……」
「いいだろ? 俺、制理の胸、好きだし」
「……胸が、んっ、好きだって言われても、嬉しくない」
「胸だけって意味じゃないぞ」
「本当かしら」
「キスしたら信じてくれるか?」
「今は駄目。そういうのはちゃんと飲み終わってから――」
「キス、して欲しいんだな?」
ニヤッと、上条が笑った。それで自分が何を言ったのかに、吹寄は気付く。
「……そう思っちゃ、駄目なわけ?」
「いや、スゲー嬉しい。まあ、もうちょっと待ってくれ」
「もう……」
上条の手からハンカチを回収し、ため息をつく。
ぎゅっと抱きしめるように、もう一度吹寄は上条の頭を抱きしめた。
421 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/27(土) 11:55:59.12 ID:wtqv7NWuo
ちゅ、ちゅ、と時々上条が口元でそんな音を立てる。
「ん、ぁ……」
まさか外に聞こえるわけもないが、吹寄は自分の口から時々漏れるその声を必死に押し隠そうと、
抱きしめた上条の頭の近くで押し殺すように息を吐く。
それを聞かさせる上条はたまったものではない。
可愛すぎて、どうにかなりそうだった。
手が届くので、吹寄の髪をそっと撫でてやる。なんだか恨めしい顔で睨み返された。
「なんだよ」
「ずるい、わよ」
「え?」
「こっちは恥ずかしいのを必死に隠しているのに、あなたは気楽そうに吸ってるだけじゃない」
「いや、そう言われてもなあ。制理のおっぱい吸うの、楽しいし」
「……そ、そんなこと言われても別に嬉しくないわよ」
「喜ばせたいんじゃなくて、ただの本音だけど」
「……」
そんなことを言われてしまうので、吹寄は上条に勝てないのだった。
吹寄が拗ねてつい顔を逸らしたところに、すかさず上条はいたずらを仕掛ける。
乳首の周りを、なぞるように舌でつうっと舐める。
「はぁん!」
二人っきりの教室に、控えめ程度に吹寄の声が響く。
我に返った吹寄がハッと息を吸って、周囲をうかがう。
誰かに気付かれなかったかと、気が気ではなかった。
「大丈夫だって。今の位だったら教室の外には聞こえないだろ」
「馬鹿! そんなの分からないじゃない! もう、心臓が止まるかと思ったわよ……」
「ごめん。確かに母乳もそろそろ止まりそうだ」
「そっちは関係ない! もう、当麻。見つかったら二人とも怒られる程度じゃ済まないのよ?」
「……だな。ちゃんと学校に行ってる制理に迷惑かけるのは悪いな」
「あなたも、ちゃんと学校に来なさいよ」
「いや、上条さんも最大限の努力はしているんですよ?」
「それでこの体たらくって、どういうことよ」
どうせ上条はまた、赤点スレスレになるだろう。
恋人になったんだしちゃんと助けてあげなくちゃ、と吹寄は内心で心に決めているのだった。
やっぱりずっと先のことを考えれば、彼氏にはちゃんと頑張って欲しいし。
そこまで考えて吹寄は頭の中に湧いた未来像を慌てて打ち消した。
「制理?」
「なんでもない。ね、そろそろ止まった?」
「ん、勢いはもう全然ない。ちょっと噛んでも出なくなったし」
上条が唇を使って痛みを与えないように乳房に噛み付いているのには気付いていた。
それでも出ないということは、朝はこんなところだということだろう。
「そっか。それじゃあ、朝はこれで終わりね」
「ん」
ちょっと名残惜しい顔をした上条が可愛かった。
だから、撫でる代わりに上条のおでこにキスをした。
「せ、制理」
「ふふ。当麻も、照れることあるんだ」
「なんだよ」
「可愛い」
そう言って吹寄が笑いかけると、照れくさそうにしながら上条がハンカチをひったくった。
そして膝枕の体勢から体を起こして、自分が吸ったばかりの乳房を、やさしく拭いてくれた。
422 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/27(土) 11:57:04.56 ID:wtqv7NWuo
「ありがとう」
「こっちこそ、飲ませてくれて、ありがとな」
「……やっぱり、吸いたいの?」
「そういうの聞かれると正直に答えるのが恥ずかしいだろ」
「ね、当麻。教えてよ」
「……笑いたきゃ笑えよ。制理の胸を吸うと、安心する」
「……」
ストレートな物言いはヤバイ。上条は恥ずかしくて死にそうだった。
同時に、吹寄も言葉が口をついて出てこなかった。
なんだか恥ずかしいけど、嬉しくて。
「そろそろ、いいか?」
「え?」
「母乳の味も口からなくなったと思うし、キスしていいか?」
「あ、うん……」
上条が、隣に腰掛けた。
そして吹寄の腰と肩に手を当てて、そっと吹寄の唇を自分の方に引き寄せた。
「ん……」
触れるだけのキス。
おもわず瞑ってしまった眼を開くと、上条が優しい顔をしていた。
「好きだ、制理」
「ん、私も」
すごく、自然にそう言えた気がする。上条に、ごく自然にそう言ってもらえた気がする。
それが嬉しかった。
もう一度、惹かれあうようにキスをした。
今度はさっきよりも深く、舌を絡めて。
「ん、ん……」
セーラーの下に上条が手を滑り込ませて、まだブラを付け直していない胸に触れた。
くにゅ、と手のひらに包まれて乳房が形を変える。
上条の手のひらの温かみのせいで、じんわりとした快感が吹寄の脳裏に広がった。
「はぁ」
ふと、上条がキスを止めてどこかを見た。教卓の上、時計のあるところだ。
つられて吹寄も見ると、もう、チャイムが鳴るまで五分もなかった。
「あ。もう、行かなくちゃ」
「だな。嫌だけど、仕方ないか」
「うん……」
「ほら、ブラつけてやるから」
「う、うん」
もう一度キスをしてから、上条はブラの両カップを手に取り、ぐっと真ん中に引き寄せた。
先ほど外すところをみていたから、付け方は分かる。
「あ、ちょっと待って」
吹寄が、開いた両手で乳房の位置を整える。
すっぽりとカップの中に乳房をしまいこんだのを確認して、上条はパチンと留め金を留めた。
二人で、はぁ、とため息をつく。吹寄が制服を軽く調えると、もう、それで日常が戻ってきてしまった。
「当麻。ねえ、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「お昼も……その、して欲しいの」
「ん。放課後より昼のほうがいいんだな?」
「放課後は、あたしも忙しいから。絶対に時間が取れるとは分からないし、
家に帰って夜になることにはまた困ったことになっちゃうから」
「じゃあ、昼にまた」
「うん。ごめんね」
「謝るなって」
「ありがとう。それじゃ、教室に戻りましょ」
「ああ」
二人がいたのは、もとより人通りの少ない一角にある教室だ。
大した問題にぶつかることもなく、二人は教室に戻った。
朝の授乳を無難にこなせたことに、二人は安堵していた。
440 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/03(土) 12:56:36.44 ID:n8P+J+uno
始業前のあの蜜月もはるか遠く、余韻に浸るうちにあっという間に昼前になっていた。
目の前で熱心に喋る小萌先生も、あと15分位したら上条たちに昼食を取る権利をくれることだろう。
要は、四時間目の終了間際なのだった。
「ふぁ……」
うつむいて、欠伸をかみ殺す。
教師にしてみれば学生の欠伸など日常茶飯事だ。それくらいで咎められたりはしない。
だが、それに反応したのか、青髪がこちらを振り向いた。
朝からなぜか、時折こちらを見てくるのだ。
普段は授業中に上条に興味を持つ男ではないし、色々後ろ暗いところのある上条としては落ち着かない。
その黒髪を眺めながら、自分の彼女になってくれた女の子の綺麗さにドキドキする。
だが遠くに座る吹寄は何処からどう見ても完全にいつも通りで、不審な点など欠片もなかった。
その平静さがちょっと寂しいというか、もうちょっとドキマギしてくれてもいいのになと思わないでもない上条だった。
「ふぅ、説明はここまでで、残り時間はプリントをやってもらおうと思ったですけど……
今日はお疲れの子が多いですね。普段は真面目な子も、ちょっと上の空ですし」
教卓の上で頬に手を当て、小萌先生がそうぼやいた。視線はたぶん、吹寄のほうを向いているように思う。
指摘された自覚があったのか、吹寄が僅かに慌てたのが分かった。
まあ、ずっと吹寄を見つめている上条以外に気付いた学生がいたかは分からないが。
「上条ちゃんが黒板に集中してくれないのは良くあることですけど、
授業中ずっとだとさすがに先生は悲しいです」
「へ?」
突然、名指しで怒られた。
「まあいいです。さてそれじゃ、眠たくて目を擦ってる学生さんたちに、刺激的な話をしましょうか。
先生はこのクラスの、つい昨日出来立ての新婚カップルさんを知ってしまったです」
「「「「?!?!?!?!」」」」
ざわ、ざわ。
しゃっきりと起きていたクラスメイトが騒然となる。
一体誰と誰だよ、という感じを装って、上条は辺りを見渡した。なんとか第三者に成りすますためだった。
異端審問官の如く、周囲の男子がギラギラとした視線を部屋中に飛ばしまくっていた。
なんとなく、青髪と視線が合うと不味い気がしたので、あたりを見渡す振りをしながらも、そちらに目は向けなかった。
……が、視界の端っこで青髪がずっとこちらを見ているらしいのは、なんとなく見えた。
吹寄は、たぶんいつも通りの態度なのだろう。
基本的に興味がない、という感じで筆箱をかき回して、シャーペンの芯の追加を行っていた。
「せんせー! それって誰と誰ぜよ?」
土御門が手を上げて小萌先生に問いかける。クラスメイト達も一様に頷きながら、教卓の前に注目する。
だが小萌先生はうふふと笑って、ほっぺたに手を当てるだけなのだった。
「それはプライバシーですから言えないのですよ。でもとってもいい男の子と女の子のカップルなのです」
小萌先生は心からそう思っているように、嬉しそうにそう言う。上条がなんだかそれがむずがゆかった。
だがクラスメイトとしてはまるで役に立たない情報だった。
なにせ、小萌先生はクラスの男子女子全てを、とってもいい子だと思っているのだ。
カップルの特定情報にはこれっぽっちもなりえない。
上条は小萌先生がそれくらいのネタ晴らしで満足してくれることを、第三者を装った表情の下で願った。
だが、小萌先生の顔は依然として、幸せそうで。
441 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/03(土) 12:57:15.38 ID:n8P+J+uno
「彼女さんのほうはお付き合いをはじめたと聞いてちょっとびっくりしたです。
彼氏さんのほうは、とってもやんちゃでしたけどようやく落ち着くかも知れないですね」
まあこれくらいじゃわからないですよね、という感じで、
ようやく満足したらしく小萌先生が一息ついて、手に持ったプリントをトントンと整えた。
「さ、それじゃプリント配るですよー」
小萌先生が、この警戒感のある空気からいち早く抜けて、日常に戻る。
だが学生達はそれに追随する気配がなかった。
授業に興味のない学生も、皆が顔を上げてクラスのどこかを眺めている。
上条の席までプリントが回ってきたのでそれを手に取る。
プリントが来たんだからそりゃ問題解いたって不自然じゃないよな、と思いながら視線を手元に落とす。
クラス全体にプリントが行き渡ったらしく、静かになってきた。
追及の手がそれでやんだかと、ほっと一息つく。そして何気なく、上条は顔を上げた。
「……?」
クラスの、大半がじっとこちらを見ている。
プリントなんてそっちのけだった。
誰を見ているのか確認するため、一応上条は自分も後ろを振り返った。
「何処見てるん、カミやん?」
「え……?」
すっとぼけたふりをしながら、上条は周囲を見渡し、視線の集中している点を計算する。
どうみても自分だった。
「ちょ、ちょっと皆、先生も悪かったですけどプリントはやってくれなくちゃ困るです」
「先生」
「なんですか?」
青髪に呼びかけられた小萌先生が、首をかしげる。
「先生は今まで、このクラスの男子で誰のことを『やんちゃ』って言ったことがあるか、覚えてるんですか?」
「えっ?! そ、それは……どうでしょう。男の子はやんちゃなくらいがいいですし、
そういう子は何人かいると思いますけど」
思い当たる節が、小萌先生にもあったのだろう。戸惑う表情に焦りが見えた。
それを聞いてクラスメイトの大半が、確信した。
「なあカミやん」
「……授業中だぞ」
「小萌先生が『やんちゃ』って言うとき、大概誰のことを指してるか、カミやん知ってる?」
「お前か? 青髪」
「それやったら嬉しいんやけどねえ」
青髪は小萌先生に怒られるのが好きらしい。嬉しいというのは本音は本音だろう。
だが、今の台詞にはそういう羨ましさ以外に、何か黒いものが混じっていた。
「カミやん。小萌先生の『やんちゃ』と言えば、それはカミやん以外の男子は指さへんよ?」
442 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/03(土) 12:58:07.06 ID:n8P+J+uno
クラスメイトみんなが、コクリと頷いた。
「お、おいおい。いきなり何言い出すんだよ。上条さんがもてたためしなんかありませんのことよ?」
その上条の言葉に真正面から反論する人間はいなかった。確かに、今日まで恋人を作ったと言う噂はないからだ。
だが、ざわざわと囁きあう言葉の一つ一つを拾ってみると、
不良に絡まれてるところを助けてあげただとか、
階段で転んで怪我しそうになった女の子を助けてあげただとか、
○○さんは上条君のこと格好良いかもって言ってただとか、そういう話がひしめいていた。
小萌先生の言うやんちゃというのは、困っている人は放っておかないところだとか、女泣かせなところとか、
そういういろいろある上条の武勇伝をまとめての評価だった。
上条は、そのクラスの雰囲気にいたたまれなくなって、つい、味方を探した。
遠くで吹寄が、ちょっとムスッとした顔で、こちらを見ていた。
「カミやん何処見てるん? 誰と視線を合わせた?」
「っ?!」
上条の視線の方向を、一斉にクラスが追った。上条のいるところから教室の対岸方向だ。
あわあわとしてる小萌先生を尻目に、次は上条の相手探しらしい。授業なんてお構いなしだった。
そちらのほうにいる女子が、自分ではないと言う感じに手を振りながら、正解は誰かと視線を工作させた。
青髪が、その中でも際立って不審な一人の女の子に、視線を向けた。
吟味するように、じっと眺める。
黒髪の綺麗なその女の子は、その視線から逃れるように居住まいを正した。
「なあ姫神さん。まさか、カミやんと姫神さんって」
「……違う。私じゃ。ない」
「で、でも。たしか姫神さんって転校前からカミやんと知り合いって聞いたよ?」
「それとこれとが。全然関係ない」
困ったように姫神が首を振ると、さらさらと髪がウェーブを描く。
クラスメイトが再びざわめきだした。
曰く。
「上条君を追いかけてこの学校に来たって事だよね?」「じゃなきゃこの学校選ばないよね?」
「大覇星祭のとき二人で一緒にいるところ見かけたって!」「え、じゃやっぱりあの頃から?」
「っていうかどう見ても姫神さんは上条君のこと好きじゃん」「えー、それはあんたの目がおかしい」
「姫神さん隣のクラスの男子にコクられた時、他に好きな人がいるって言ったらしい!」
「その噂、告白自体ガセって聞いたぞ」「俺も。ってか姫神って男に興味あるか?」
「俺喋ったことない」「俺も」「俺も」「俺もだ」「上条はこないだ一緒に弁当食ってたぞ」
「上条……クソッ」「なんかあの時、姫神慌ててたよな?」
「あれ上条がブラのホック外したらしいぞ」「ハァ? どこのラブコメだよ。ってかどうやったらそんなことに?」
「上条に常識が通用するわけねーだろ」「ま た 上 条 か」
一つ一つは上条には聞き取れないのだが、どういう悪意があるのかは良く分かるのだった。
特に男子の中で、上条に対する敵意が膨れ上がっていくのが分かる。
どうも、上条の相手が姫神らしい、という方向で推測が行われ、
しかも集団心理によってそれが事実かのように思われ始めているらしかった。
なんとかなだめようとは思うのだが、上条が何を言っても火に油を注ぐことにしかならない気がした。
「ちょっと! いい加減にしなさいよ!」
耐えかねた、という感じで吹寄がバンと机を叩いた。
それで、ピタリとヒソヒソ話が止む。
「まだ授業中でしょうが。集中しなさいよね」
「そ、そうです! プリントは宿題とは別ですから、皆が出来るまで授業は延長するですよ?」
冷淡な感じを装って、小萌先生がそう言った。
空腹で死ぬ、やめてくれといった声が生徒の間で上がる。
しかたなしに、のろのろと皆、プリントを解きに戻った。
上条は顔を上げて、吹寄を見る。
ゴメンと言うつもりで軽く頭を下げたら、ふんとすげなくそっぽを向かれてしまった。
事情を理解している小萌先生がその光景を見て、ニッコリと笑ったのだった。
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