Fate/MINASABA 23th 00ver 第3話

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 Fate/MINASABA 23th 00ver  呵々と笑う臓硯を前に、わたしは必死で表情を隠した。やはり想像通り間桐の陣営にはサーヴァントが控えている。  となると桜のことも確実にきな臭くなってくる 臓硯  「ふむ、おぬしの使い魔が心配かな?安心してもらいたい、手打ちとなればおぬしの使い魔には手を出さん」  わたしの沈黙をどうとったか、臓硯は尚も言葉を続ける。  だが、もうそんな事を聞いちゃ居なかった。そんな言葉を信用なんか出来ない。 凛   「ちょっと待って。その前に桜はどこなの?あの子はまだまともに動けるような身体じゃない。      こんな高濃度の大源(マナ)じゃこの高重力をとても抵抗(レジスト)なんかしきれない」 臓硯  「をを、をを、桜は可愛い孫よ、端からどうこうするつもりなど無いわ      既に瓦礫から抜け出て施術しておる今も移動をしておるよ、この蟲に付いてゆくがいい。これを辿れば桜に辿りつく」  くくくと喉の奥でいやらしい声を立て、臓硯が笑った。 臓硯  「今一度この老体に鞭打たねばならん。衛宮の子倅は儂がなんとかしよう、攻撃の開始は桜が心得ておるでな」  再び自らの意思を本体の身体に戻した臓硯は、好々爺の様相を残したまま、優しげに凛に告げ去っていった。  本来なら感情的にならず、じっくりとこの化物から情報を引き出しつつ逆転の手を練るはずなのだが、  今は桜の身が一番大事だ。士郎やキャスターたちもかなり危ない、一刻も早く保護しなきゃ――  異変に気づいたのはサーヴァント三名同時だった。  遥か高高度の大空の上から、焚け狂うとてつもない魔力の奔流と殺気を感じ取ったのだ。  ――え?  つられて士郎は顔を上げた時、必殺の魔弾は船ごと衛宮邸跡を吹き飛ばした。 (シロウ、凛、桜――――!)  脳裏に浮かんだ三人の名を、セイバーは胸中で叫んだ。三人に対する信頼は揺るぎないが、  それでも一抹の不安を抱かぬわけではない。ライダーとの戦闘が長引くにつれ、その棘は否応もなく大きくなって彼の心を苛んでいく。  セイバーとキャスターは空から降り注ぐ魔弾から自分の身を守るのに精一杯であった。  圧倒的だった。  疾風のように降り注いで、稲妻のごとく轟音をかき鳴らし、暴風みたいな衝撃に襲われた。  間隔おきに降り注ぐ魔弾は、嵐のようだ。  その威力たるや、まともに当たればライダーたちの肉体を文字通り吹き飛ばすだろう。  強い縦殴りの雨が届く前に、ライダーは飛び退き、船体の陰に隠れた。  次いで『綿月盈乾如意珠(ワタツキミツフルニョイノタマ)』の力で周囲の重力を反転させる。  発動と同時に、大気が爆発した。両者の激突で発生した魔力の余波が、うねりぶつかり荒れ狂う。  異界内を渦巻く魔力の台風の中心で、二つの力が咆哮をあげていた。  そして既に放たれた魔弾の数は百二十合に届こうとしていたとき、総力射は突如と止み、 「やあ、諸君、こんばんは」  突如として聞こえてくる声はそこかしろから響いてきた。  その声は重々しく自信に満ち、かつ少年のようにも老人のようにも受け取れる不思議な響きがある。  声の主は間違いなく遥かなる上空から爆撃した新たなサーヴァントに違いない。 「夜分に突然の訪問失礼するよ、もっとも……辺りは全部吹っ飛んでしまったようだけど」  まるで久しぶりに会う友人に話しかけるように気さく語り部はこの惨状を生み出した当人とは思えない  場違いな空気をかもし出している。 「君たちに恨みはないんだが・・・まあこれも戦争だ、あきらめて降参してくれないか?  そうすれば君たちのマスターの命は保障するよ?」 「戦の最中に背面からの奇襲とは、ずいぶんと非礼ですね、弓兵」    視線を上げ、まだ見ぬサーヴァントの姿を仰ぎ見るのはライダーだ。  黒絹のような長髪、流麗かつ雅な着物、廃墟内に木霊する声に威風堂々と船の下から表す  その姿は今だ健在のようだ。 アーチャー「おや、これはこれは・・・あなたの事は知っているよ。ほら、あれだ昨日読んだニャンビーズの海賊女帝だろ君?       いやー会えて光栄だよ、どうだね、今晩いっしょに空のドライブでも」 ライダー 「…………私は神代の頃より続く古き日ノ本の血をひく者です、       それとこの私が御身が如く匹夫の弓つかいなぞに、まこと身を任せるとでも御思いか?」 アーチャー「ああ、それは残念。君と現代の日本とスウェーデンにおける雇用問題でも語りあいたかったんだが」  沸々と胸の奥に湧き上がる闘志を押さえつけながら、ライダーはじっとその声を聞いていた。  両者の状態は一気にアーチャーに傾倒したのである。  アーチャーに『天星船(アマノツツフネ)』 を中破されたうえに制空権をとられている。  おまけに『綿月盈乾如意珠(ワタツキミツフルニョイノタマ)』 の力で各サーヴァントたちへの牽制をしているが、  今までの大規模行使により、もう残存魔力は幾ばくもない。元々、マスターの令呪のバックアップで  ここまでの猛威を振るうことができたのだ。これ以上の戦闘継続は難しいだろう。  いや、早々に活路を見出さねばならない理由は彼女だけではない。  この拮抗、このまま続けば先に崩れるのは間違いなくセイバーの方だ。  なぜなら 凛   「ちょっと士郎!しっかりしなさい!!」  先ほどの爆撃で直撃こそしなかったものの、その余波による衝撃で士郎は大きなダメージを負ってしまったのだ。  凛(くそっ……なにが儂がなんとかするよ!!こっちが伝える前に攻撃を開始するし、やっぱりあいつは信用ならない……!!!)  アーチャーの魔弾が発射される直前、凛と桜は防護結界でなんとかその身を守ることができた。  ライダーの異界内ではレイラインからの遠距離の念話は使えず、桜と合流して、さあ士郎たちにこの事を知らせなきゃと  思ったらこの様だ。  轟音が止み、戦場の様子を魔力により強化した瞳で視てみると、案の定、瓦礫の上に横たわる士郎を見つけたのだ。 桜   「先輩!!あぁ……目を開けてください先輩!!!」  異界の重力下は動くだけで難儀したが、なんとか士郎の下に駆け寄ると、その酷い容態に二人の血の気が引いた。 キャスター「まずいな・・・全身の骨は粉々だし頭も強打したようだ。所々に瓦礫の細かい破片も刺さっていて出血も多い」    パニック寸前の桜を落ち着かせセイバーにライダーと正体不明のサーヴァントを任せ、  キャスターを呼び士郎の治療を手伝ってもらうことにしたのだ。 「―――ごふっ」  うつぶせに倒れこんで、士郎は吐血した。  地面に寝そべって、ぼんやりとする。  白くなっていく視界で、地面に流れる自分の血だけが鮮明だった。  赤い血―――赤い景色。  ―――――気が付けば、焼け野原にいた。  大きな火事が起きたのだろう。  見慣れた町は一面の廃墟に変わっていて、映画で見る戦場跡のようだった。  ―――多くの人間の死体を見た。  ――――道に懺悔はなく。  目はそこで憎悪をなくし、  手はそこで憤怒をなくし、  足はそこで希望をなくし、  我はそこで自身をなくした。  死を受け入れていた。  もう死ぬものだと判っていた。  そんな状態で、体を救われたところで心まで生き返る筈がない。  俺は、あの時。  空っぽのまま、何か尊いものに、憧れただけではなかったか。  そう、俺はそのときに―――― アーチャー「いや本当に残念だよ。でもあの爺にせがんだマンダムとスターボーズのDVDも見なければならないし       早くこんな闘い終わらせたいのだけど……おっとその爺からだ」  ここに至るまで朗々と口調を崩さない様子のアーチャーにライダーとセイバーはふつふつと違和感を覚えはじめてきた。  そう……まるで戦意や殺意が彼から感じられないのだ。 アーチャー「ああ、そうか了解したよ……さて、いやまったくもって不本意なんだが」  アーチャーはいったん言葉を切って、それから信じられないことを切り出した。 アーチャー「ライダー、私と取引をしないか?」 キャスター「っはあ……なんとか峠は乗り越えられそうだが……」 桜    「先輩……せんぱぁい……」  士郎の治療は困難を極めた。しかしそれも無理からぬことだろう。  この異界の大源(マナ)と高重力の下での治療活動は困難を極め、さらに彼自身の消耗も激しい。  前回のキャスターとの闘いは熾烈をきわめセイバーとキャスターの二人をもってして  ようやく撃退に成功したのだ。その身に大きな深手を残して……。  だがそれを押してここまでの治療を行えるのは半人半竜の治水王の面目躍如といったところだろう。 桜    「遠坂先輩……先輩は……?」  わたしは姉だった人に向かって、縋るような声で呟いていた。 凛    「なんとか……なりそうね、まったく一時はどうなることかと思ったわ」  この状況下でのキャスターへの魔力供給で、疲労もピークに近い凛は青ざめた顔でそう呟いた。  桜は愛する想い人の安否にホッとする反面、彼女は小さな嫉妬の心が灯る。  同じ魔術師で、どうしてここまで違うのだろう。ぐつぐつと、黒い何かが心に湧き上ってくる。  私は生きたまま臓硯に貪り食われる家畜。必死に糸を紡ぎ繭を作っても、決して孵る事のない幼虫。  なのに彼女はいつも息を呑むほど見事だった。見蕩れてしまうほど綺麗だった。そしてとても妬ましかった。  この数日間、笑い合いながら、楽しげに話す二人の姿を、わたしは少し離れた場所で俯いて見ていることしか出来なかった。  楽しげに叱る姉さんに、先輩の呆れたような声。それでいてやっぱり優しい。けれど、わたしはその輪に混ざれなかった。  あそこはあんなに明るいのに、どうしてわたしの立っている所はこんなに暗いのだろう。 キャスター「よし、これでなんとかなるだろう。あとはこの……危ない!!」  力強い声が、響いた。その場にいた誰よりも早くキャスターが前面に出ると小型の土の怪物を出し  前方からの衝撃波を防いだ。 桜    「きゃあああああああああ!!!」  凛と桜はその衝撃で後方に吹き飛び、小型の土の怪物は弾け飛んでしまった。  前方からヒトの形をした暴力が、無言でゆっくりとこちらに近づいてきた。ただそれだけで、死を覚悟させられる。  口の中がカラカラだ。少しでも気を緩めれば、あっというまに膝が折れてしまいそうになる。  そんな無様な私など気にも留めず、彼女は後方から一向に向かって突進するセイバーを  先ほどと同じ衝撃波で吹き飛ばし、悠々と歩を進める。 キャスター「ライダー……!!」 キャスターはその場で歩を刻み片手で魔風の刃を喚び出し、ライダーに向かって打ちつけた。  キャスター(キレが鈍いっ……!!)  魔風の刃が乱れ飛び、その身に切り掛かるも、ライダーの周囲に浮かぶ月の宝珠から  強力な斥力が彼女の表面を覆い、反重力の層が風の刃を弾き、跡形もなく消滅させた。 キャスター「おのれ……!!」  極度の消耗でぐらつくキャスターの隙をついて、四角から衝撃波を叩きつけられ、大きく弾き飛ばされ  地面すれすれで四方から瓦礫が降り注ぎ、全身を締め付けられながら体の自由を奪われる。 ライダー 「この月と海の聖域を不遜な術で穢す者たちよ、静まりなさい。あなた方を       不必要に傷つけたくありません。」  見たこともない、色ならぬ煌びやかな色彩に満ちた月と海とで構成されたこの異界に君臨する彼女は  ただただ気高く、神々しく、優美で美しかった。  すでに彼女たちはもう満身創痍でまともに動ける状態ではなかった。  前キャスターとの闘いから、傷が癒えぬままでの突然の奇襲にこの高重力とこの地球とは異なる大源(マナ)  で極限まで消耗させられてしまったのだ。  凛(ここで私たちの聖杯戦争は終わっちゃうの……?)  普段は気丈の彼女にも絶望と諦めの念がよぎってしまう。すると彼女の前方、  ライダーの後方から『天星船(アマノツツフネ)』 がゆっくりとその船体を揺らしながら  こちらに近づいてきた。  凛(……?人が乗っている?) ライダー 「……連れ戻す?」 アーチャー「勘違いしないでくれライダー。私は爺の孫娘を連れ戻しに来たのではない       私は”聖杯を回収しに来たんだよ”、最も本来の聖杯はアインツベルンというこの戦争の創始者の一族が保有する       モノで、あっちにいるのは爺が試作した模造品らしいんだがね。       だがその性能はオリジナルに比する出来栄えらしくてね、こうしてぶっ壊される前に取りに来たという訳だ」 ライダー 「目的は理解しました。……それで取引というのはなんでしょう?彼女の身柄の引き取り、だけではないのでしょう?」 アーチャー「ははは、では単刀直入に言おう。君の願い、志には私と爺はいたく感服したんだよ!、       でだ、ここで相談なんだが一時私たちと手を組まないかね?同じ目的の者同士なら手を組むのも悪くないと思うんだが」  アーチャーの言うことはどこまで本気なのか、高揚しながら子供のように嬉々と語りかける。  ここで彼の言うことの成否は別にしても、今の不利な状況はライダーとしても好ましくない。  他にセイバーとキャスターまで控えているのだ。ここは藁に縋ってでもなんとか立て直したいところなのだが…… ライダー 「お断りします」 アーチャー「ふむ、理由を聞かせてもらっても?」    彼女は両目を細める。  斜にかまえた琥珀色の瞳だけで、断じて否、と。 ライダー 「気に入らない」 アーチャー「くっ……はーはっははははははははははは!!そうか!気に入らないか!いやー本当におもしろいなー貴女       ははっ、確かにな、はー・・・・あ、では致し方ないな」  すると上空から、なにか小さな物が落ちてきた。  なにか石のような……銀の光沢が光る貴金属のようだ。  いや……あれはどこかで見たことある、そう、つい最近にも見た…… アーチャー「では君の主のそっ首落として楽園(ヴァルハラ)へ送ろう」  告げられた告白に、ぞっと背筋が泡立った。考えるまでもなく理解する。  あれは主が大事に身につけていたペンダントに間違いなかった。 桜    「お爺……様?」 その船に鎮座していたのは間桐現当主の間桐臓硯と蟲たちに囚われたライダーのマスターであった。 ライダー「約を守れば主は無事に返してもらえるのですね?」 臓硯 「ふむ?それはお主次第じゃ、しかし儂は約束は違えんよ、そのために信頼の証として桜をそちらに預けるのじゃからの」  アーチャーから再度求められた取引、  それは、人質の返還に別の場所でアーチャーの下へ桜と臓硯を連れていくことである。  また、以後の共同戦線の信頼の証として、このまま桜をライダー側に置くことを条件にするとのことである。  互いに主とマキリの聖杯を人質にすることで裏切りを防ごうというのだ。  最も、ライダーにとっては桜は獅子身中の虫のであるので、結局弱みを握られる羽目になってしまうのだが……。 ライダー(今は言うとおりにするしかない……影蟲め……!!) 臓硯  「をを、をを、大丈夫か桜よ?」 桜   「はい、……あの、お爺さま、先輩のことは……」 臓硯  「わかっておる、おぬしの気持ちはよくわかっておるぞ、桜よ。      約束通り、おぬしがワシの言うことを聞いている限り、決して衛宮の小僧と遠坂の娘には手を出さん。      元より用があるのはサーヴァントのみじゃからの。」 臓硯  「それに衛宮の小僧もかなりの深手じゃ、すぐに手当てをせねばのう・・・」 凛   「ちょっと待って、衛宮くんと桜を連れてくってどういうこと?」 臓硯  「言葉の通りじゃよ、”セイバーを脱落させる”ことで此度のライダーとの諍いはここで手打ちにすることにしての」 凛   「なっ!?ふざけないで!!大体こちらとも共同戦線を張ったのに、突然攻撃を開始したり、勝手にライダーと話を      決めたり一方的すぎるわよ!!」 臓硯  「カカッこの異界の中じゃ、予想以上に自由が利かなくてのう、連絡が取れぬまま      独断でこちらの使い魔が攻撃してしまったのじゃ。まことにすまぬ。      しかし、お主との協定は守るつもりじゃ。元より桜の身の安全のためにとった苦肉の策じゃしな。」  そんなこと信用なるか!そもそも桜の身体を診たときに臓硯による身体への異常な改造が伺えたのだ。桜の保護は  こんなことをする奴なんかにこれ以上預けないためでもあったのに・・・!! 臓硯  「元より、衛宮の子倅は殺しはせん、令呪と記憶の剥奪後に無事に帰してやるつもりじゃ。      お主も本来は敵同士、いずれは殺しあう運命だったのじゃないか?」  慈悲を与えるようにそう言って、返事を待つことなく翁は船へと向かう。  魔道を歩んできた先達として、その判断は間違いではない。  凛と士郎は、桜を生贄にしようとした前回のキャスター戦での共闘を初めとし、彼女の容態の異常悪化のための保護と  ここ数日続く謎の行方不明事件の解決のための一時休戦だったのである。  いずれは闘う運命、しかし今なら、士郎は聖杯戦争はおろか、魔術とは関わりのない平和な日常に戻れるのだ。  凛が答えに窮している間に、桜と臓硯は船に乗り込みライダーも彼女に背を向け立ち去ろうとしたその時―― 士郎「駄目だ桜……!!そいつについていっちゃ駄目だ!!」  絶叫と共に、赤く染まった体で起こし真っ直ぐに手を伸ばしたまま士郎が立ち上がった。  背筋に薄ら寒いものを感じながら、震える膝を叱咤して立ち上がる。  意識は盲濁しながらも、おおまかな話の大筋は理解できていた。  あいつこそが桜の身体をあんな風にした張本人だ。  間桐臓硯。名前以外、どんな奴なのか姿形すら分かっていなかったが間違いない。  目を閉じる。瞼の裏に映るのは、高熱に魘され苦しむ桜の横たわる姿。 凛  「これが……間桐の魔術だって言うの……」    あの時、桜の身体を診た遠坂は搾り出すように、吐き捨てるように言い放った。  全身の神経に同化し、休眠状態でも桜の魔力を貪り続ける蟲。  さらに心臓に巣くう一際大きな蟲、彼女の昏睡の原因。  そして凛から聞かされる彼女が魔術師であること、彼女とは幼い頃別れた姉妹であること  彼女が今までどんな責め苦を受けていたのだろうかという推論を  彼女が今までどんな思いで俺と付き合ってきただろうかという推察を  いつも、桜がどんな思いで生きてきたかと思うと……。  左腕の傷が開いて、地面に赤い血がこぼれていく。  その、鮮やかな色彩に意識が移って、自分の馬鹿さかげんに、本当に愛想が尽きた。  桜が間桐の人間である限り、無関係なんて事はない。  桜が魔術師と知らされた時も、桜が今まで犯されていたと知った時も、心のどっかで否定していた。  なにかの間違いじゃないか。きっと桜は五体満足なんだ、  これは夢かなにかで起きたらいつもどおり桜が元気に朝餉を作りながら笑って挨拶をしてくれるんだと……。  それを考えまいとしていたのは、受け入れては心がおかしくなりそうだからだ。  でも戦わなくてはいけない。  人々にとって悪であるのなら。正義の味方は、その者と戦わなくてはならなくなる。  俺はその為に魔術を習って、理不尽な災厄から人々を救うからと、こうして生きていられたんだから。 「――――――――」  脳に火花が走る。  その事を――――それを知って今までの時間を思い返すと、気が狂いそうになる。  桜は笑っていた。  いつも穏やかに微笑んでいた。  それがどんな痛みの上にあるものか知らず、俺は当然のように甘受していた。  ……あの笑顔が本物だったのか偽物だったのかなんてどうでもいい。  ただ、あんなふうに笑っていながら痛みを隠し続けていた桜を思うと、自分を殺したくなる。  あいつが許せない。  あいつだけは……あいつだけはあいつだけは、あの野郎だけは絶対に許せない!!! 士郎 「間桐、臓硯――――!」  とうとう彼は出会った。自らを、世界を、愛する人を脅かす邪悪、正義の味方の怨敵を。 桜  「……せん……ぱ…い……」 ……桜は気付いていない。その頬に流れる涙を、そして辛そうに視線を下げる。  桜は震えている。  俯いたまま、俺の言葉に身を震わせている。  その震えが何処から来るものなのか、俺には判らない。  でもこれだけははっきりわかる。あそこにいるあいつは存在してはいけない  絶対に許してはいけない、 士郎 「桜。俺は桜を助ける。その為に戦う。俺の手で倒す     みんなが幸せになれればいいなって思ってた事もある。けどそれ以上に俺はあいつは許せない。     あいつは悪魔だ。今だって際限なく人を脅かす悪魔じゃないか……!     あいつと一緒に行っちゃダメだ桜、あいつは桜を不幸にする!!」  もう取るべき道は決まっている。……状況は、絶望的だ。  でも桜がこのまま臓硯の操り人形になって、戦争の災禍に巻き込まれてしまうなら、やるべき事は決まっている。 セイバー「よくぞ吼えた少年」    唐突に、後ろから声をかけたのは、半人前の俺と共にこの戦争で闘うパートナー、セイバーだ。  黒い剣士は満身創痍の身体にも関わらず、この異界の中を苦もなく地面を駆け、俺の横についた。   セイバー「――――貴婦人の声なき慟哭に参じぬのは騎士の名折れ、ましてや彼奴のような外道を見過ごすなぞ断じてできぬ」  思考が戦闘態勢に切り替わる。 キャスター「いいようにやられるのもここまでにしたいものだな。まったく」    また、体中ぼろぼろの姿でぬっと出てきたのはキャスターだ。その横顔はまだ戦意に満ちみちている。 “強化”した鉄パイプを臓硯に向けたまま立ち尽くす。 凛   「まったく私らしくないわね。うだうだ考えるのも私の性に合わないし、      もともとあいつに情けをかけるつもりはないってのに。      さあ!正しく魔道を行わず、あまつさえ桜を我が身の道具にしようとしたその代償、きっちり払ってもらうとしましょうか!!」  ―――遠坂は真っ向からから戦る気満々だ。  そして世界の変容はふいに止まり、辺りは元の静寂な夜に戻ると ライダー「――――申し訳ありませんが、魔力が底を尽き、これ以上の異界の維持はできません      彼らとの諍いはそちらに任せます」  そう彼女は臓硯に告げ、俺たちに一瞥をくれた後、桜の隣に目を伏せ、静かに佇んだ 臓硯 「――――もうよい。戯れはここまでじゃ。」 桜  「まっ、待ってくださいお爺様!!」 臓硯 「駄目じゃ。小倅めが粋がりおって。儂が何故主らの行動を見過ごしたか考えぬか?      痴れ者め、穏便に事を進めようというのに、あくまで歯向かうというなら話は別じゃ」  魔術師―――間桐臓硯は、夜の闇から滲み出るように歩を進める。 アーチャー「やれやれ、どうやらもう一仕事こなさなければならないようだ。」  そして臓硯の背後に空中からゆっくりと降りてくるのは間桐側のサーヴァント、アーチャー。  あはははは、と青年は体をくの宇にして笑った。  そうやってひとしきり笑うと満足したのか、 アーチャー「だがこれも私の求むうる闘争だ。君たちとの舞踏曲(ワルツ)を心行くまで楽しむとしようか!」    いかにも愉快といった笑みを滲ませ、北欧の王は独特な構えで弩を向け狙いを定める。  互いに一触即発、横一線、決着は迅速に。自分の炎が尽きる前に、相手の炎を根絶やしにする。  今ここに、平野を駆ける六つの魔群は、ここに、最後の激突を開始した。

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