Fate/MINASABA 23th 00ver 第4話

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 Fate/MINASABA 23th 00ver  渦巻く突風。  剣を手に、黒い弾丸が疾走する。  様子を見る慎重さもなく、セイバーは臓硯のへ下へ走りだす。  すると予期していたかのようにアーチャーの魔弾はその横を通り抜け、私たちの前に襲い掛かる。  しかし、眩い聖剣を振る小柄な騎士は、その姿からは想像もできない膂力を発揮し、射線上の魔弾を弾き突進する。 アーチャー「ハハァ!!!」  しかし常人には視認も難しいほどのスピードで飛行し、セイバーの進撃を槍で迎撃する。  疾駆するセイバーが突風ならば、迎撃する翼弩は旋風であったろう。  奔る刃、流す一撃。  高速で突き出される槍の一撃を、セイバーはすんでの所で聖剣で受け流す。  射線から魔弾が消え失せ、睨み合う二騎の膠着が一瞬流動した途端、キャスターが動いた。 キャスター「『息壌(シーラン)』!!」  手中の土の塊を大地に叩きつけると、凄まじい勢いで地面が隆起し、そこから土の塊でできた無数の人型が次々と姿を現しはじめた。  これこそ天帝の至宝の一つである、際限なく増殖する土の塊。 半人半竜の治水王の十八番、彼が最も愛用する土の怪物である。 アーチャー「無駄無駄無駄ァ!!!木偶がいくら数を増そうとも!」 キャスター「貴公の大弩は主の下へは飛びたてん!」  そのまま高速で士郎たちの下へと飛びながら、両の足で大弩を引き絞り、片手で4本の巨矢を番え狙いを定めようとした時  キャスターが起き上がり様に『天河鎮定神珍鉄』 を高速に伸ばしながら振り上げる。 アーチャー「ちぃ!!」  眼前まで『天河鎮定神珍鉄』が迫るやいなや、即座にバレルロールで攻撃から逃れるも投射の機を逃したアーチャーは  凛たちとすれ違い、そのままの勢いで上空へと旋回し再度矢を番えようとすると、 セイバー「は――――!」  いつの間にか迫ったセイバーの踏み込みで一気に目前まで迫る。  切っ先が交差する。弾け、火花を散らしあう剣と槍。  上空に位置したアーチャーは一歩も引く事なく、セイバーを迎撃し、  仕切りなおしとばかりに空中を旋回しはじめる。 アーチャー「ほう……? そうか、あの淑女(フェアレディ)……」  戦域を見渡し、ふと得心がいったとばかりに口元に指を這わせその笑みを隠す アーチャー(このまま爺に伝えるのも面白くはないな、―――うむ。そうだな、今しばらくは戦場の華の思惑に乗ってみるとするか) キャスターの牽制とセイバーの迎撃を回避しながら、思索に少しふけたアーチャーは アーチャー「―――いいだろう。       ならば我が翼弩、見事受けきってみるがいい……!」  そう宣誓すると再び高速飛行しながら大弩を番え、セイバーとキャスターは各々の主を守らんと迎撃に走りだす。  激突する三つの影。周囲に反響する金属音と、風の無い地底に充満する煙。  かつてその威を讃えられた王たちは他に頭はいらぬとばかりに牙をむくのであった。 臓硯  「さて。そのような棒切れ一本で何をしようというのかな、小僧」 士郎  「おまえをぶち殺すんだよ糞爺……!!」  その言葉を聞き届け、呵々大笑と高らかに笑い声を上げる臓硯。  腸が捻じ切れるのではないかと思うほどに酷く笑い声を響かせ、桜は一人不気味な祖父であった人物に植え付けられた恐怖を覚えた。  今回の戦闘の勝利条件は、桜の奪還と、この戦域からの離脱である。  間桐臓硯とアーチャー、及びにライダーの撃破が可能であれば最善だが、すでに満身創痍の私たちでは非常に厳しいといわざるをえないだろう。  ならばこの戦闘で私たちに勝機があるとすれば、この不利な状況下を覆す奇跡。即ち令呪の力を行使する。  前キャスター戦での行使を引いて残り2画。その一つを使用し、桜を含む私たちの戦域の離脱をキャスターに行ってもらうのだ。  だが、それには臓硯とアーチャーを一瞬でもいい、二人の動きを封じるスキを作らなければならない。  そのためにキャスターとセイバーを遊撃として牽制に専念させ、私と士郎が『息壌(シーラン)』の土の人型たちと共に  臓硯と闘う形態をとっているのだ。  だが、敵もバカではない。あの老獪な魔術師とアーチャーにも、おそらくこちらの思惑をすぐに悟られてしまうだろう。  戦況次第では最悪、私は2つの令呪を行使することも視野に入れなければならない。  無論、全ての令呪を失うことはマスターとしての資格の喪失、遠坂が聖杯戦争での敗北が確定することになってしまう。  だが算段はある。僅か数日の付き合いであるが、私は士郎の人となりをある程度測ることができた。  魔術師とはいえない半人前以下のマスターではあるが、彼は正義感が強く、バカがつくほどのお人よしの善人なのだ。  彼ならば、たとえ聖杯を手に入れたとしても私利私欲のために使ったりはしない。いや、これまでの過程から  桜の身体を癒すためにその奇跡を強く求めるだろう。  それは私の目的とも合致する。この戦闘の結果はどうあれ、以後は戦争終了までの士郎との共同戦線の継続を申し出ることになるだろう。  父から託された遠坂の悲願を叶えられないのは悲しいが、すでにこの戦争の目的も変わった。  そう、これはセカンドオーナーとして、遠坂の魔術師としての闘いではなく、私自身の闘いとなったのだから。  臓硯に踏み込む為の前進も、セイバーを追いかける為の後退もできない。  ……臓硯が不死身だとしたら、確かに、こんな棒切れ一本でどうにかできる相手じゃない―――― 臓硯  「ワシを仕留めるか、サーヴァントの後を追うか。どちらにせよ、足を動かさねば始まるまいて」  そう語る老魔術師の周囲には、キイキイと蠢くものがある。  いや、蠢いているのは臓硯の周りだけではない。  暗い影、月光を遮断する闇そのものが移動している。 凛   「――――虫」 見えなくとも判る。 闇の正体は細かく、おぞましいほど密集した虫の群だ。 この空間は、ガサガサと壁を這う虫の音と、肉の腐った匂いで支配されていた。 臓硯  「どうした、なにを躊躇う? 儂を殺すと言ったのはおぬしであろう。遠坂の小娘と組んで、ワシを始末する腹 ではなかったのか?」  ここで睨み合っていても、周りの虫が増えていくだけだ。  なら―――― 「――――――――」  ……いや。  それでも下手に動く事はできない。  臓硯に背を向けるほうが危ない  増えていく虫より、その行為こそが致命的だ。 臓硯  「小童共めが。良い、少しばかり──魔道の真髄を披露してやろうではないか!」  臓硯が目を見開いた瞬間──頭上より滝の如く漆黒の雨が降る。  否、それは全てが蟲。黒い甲虫が、我先にと凛と士郎、そして土の人型さえも巻き込まんと降り注ぐ。  瞬間――――意識は加速する。  俺は、このまま。  何も出来ず、遠坂さえ助けられない――――  ――――却下。  手段ならば初めから持っている。  防ぐ手段(もの)などそれこそ無数に用意できる。  この体が魔術師ならば。  戦うのは体(おのれ)ではなく、魔術によって創り出したモノに他ならない――――!  ――――投影(トレース)、開始(オン)」  ならば作れ。  己が信じる夢想(無双)の剣を  創造理念。  基本骨子。  構成材質。  制作技術。  憑依経験。  蓄積年月。 凛   「―――――――Sechs (六番) Ein Flus, ein(冬の)Halt(河)……!」  遠坂が眼前の漆黒の雨を凄まじい氷結魔術で薙ぐと、一瞬、臓硯への道が開き右手に持つ鉄パイプを奴に向けて投げつける  溢れ出す魔力は、もはや抑えが効かない。  全身は発火したように熱く、左手はそれこそ紅蓮。その逃げ場を求めて基盤を壊し――――  血が逆流する。  だが構わない。  もとよりこの身は『ある魔術』を成し得る為だけの回路。 臓硯「カ! 吼えてくれるな。若造めが!!」  投擲された鉄パイプを周囲に展開していた蟲たちで瞬時に眼前に壁を作り防ぐ。 士郎「く―――あ、あああああああ…………!!!!」    疾駆する。身体の機能低下など完全に無視し、漆黒の牢獄と化した蟲の主を殺すべく、  満身創痍の身体で一直線に臓硯目掛けて疾駆する。  ここに、幻想を結び剣と成す――――!  今ここに、両手に光輝く十字剣に携えた正義の味方が、愛する人々を救うべくガードもろとも蟲の主の矮躯を逆袈裟に斬り上げた。 臓硯 「ぬ――――!?」 士郎 「あああああああ…………!!!!」 逆袈裟に斬り上げた勢いそのままに、士郎はそのまま回転し、躊躇うことなく、さらに間桐臓硯の体を横一文字に両断した。 臓硯 「ぬ――――」    ずるり、と臓硯の上半身が地に落ちる。 臓硯 「ぬ、う、なん、と――――!」  ずるずるという音。  腰から下がなくなった老人は、内臓と血液、それ以外の何か異質なモノを零しながら、それでもまだ生きていた。  生きて、両手だけで体を動かし、士郎から逃れようと地面を這う。 士郎「終わりだ間桐臓硯。おまえのような災厄は生きてちゃいけない」  這いずる臓硯に聖剣を振り上げる士郎。  それで終わりだ。  間桐臓硯がどれほどの不死身性を持っていようと、頭を潰されれば息絶えるだろうし―――既に、ヤツは死にかけていた。  サーヴァントのように自然治癒能力があるでもなし、剣に込められた祈りによる異教徒殺しという特性が魔を孕む臓硯の身体を  じくじくと焼くのだ。  それでも万全を期して、士郎は聖剣をもって魔術師の命運を断つ。 「――――え――――?」  否、断とうとして、その動きを停止した。 臓硯 「流石にやるの。だが、爪が甘い」 士郎 「がっ、ぁ、はぁ……っ!」 凛  「士郎!」  どうやって難を逃れたのか、突如として士郎の背後に現れた臓硯は、手にした杖で士郎の腹を刺し貫き、その身を蟲で覆いはじめた。 士郎 「き、サマ、……どうやっ、て……」 臓硯 「この身は貴様を遥か超える魔道の先達だと理解しているか? そして敵を視界から失う浅薄は、戦いにおいて愚策に過ぎよう」 士郎 「ッ……ぁ」 桜  「先輩!」  桜の叫びも虚しく、膝を折った士郎よりずるりと引き抜かれる臓硯の杖。  その痛みに顔を顰め、魔力のほとんどを先の一撃に動員し、セイバーへと供給している分も除けば、  もう魔力量はほとんど残っていなかった。  更には、セイバーを呼びつける事さえ難しい。  アーチャーの足止めを任せてあるのだ。士郎が如何なる状況に置かれようと、限界に近い身体で奮戦する  セイバーの助けを期待していい筈がない。 臓硯 「カカ!さあ小倅よ。理解したか?これが結果だ。おまえの使い魔は膝を屈し、桜は儂の呪縛からは逃れられん。     じっくりとこやつらを嬲り殺しにして、儂の為の糧に変えてやろうぞ」 凛  「士郎!くう、このぉ!!」  桜の悲痛な叫びに臓硯の哄笑が交じり合う。不協和音が燃え盛る蟲中に響いていく。  間桐臓硯という妖怪を前に、二人の魔術師は為す術もなく膝を屈し──  ――――周囲が闇に染まる。湿っていた空気が一瞬にして凍りつく。  それを感じたのは間桐臓硯だけじゃない。  この場にいた全員。  遠坂とキャスター。  セイバーとアーチャー。  それだけでなく、死にゆく俺でさえ、ソレの登場に、愕然と体を震わせた。  自分は戦いの場へと、気づかないうちに引きずりこまれていた。  またしても祖父によってだ。マキリは私を奪いつくす。  間桐桜としての虚像を剥ぎ取って、マキリサクラとしての穢れた身を先輩や姉さんの前にさらけ出させられる。  平穏な日々は帰ってこない。  回避することはできない。どうしようもないほどに、自分に対する死刑宣告だった。  胸を占めるのは絶望一色。  あああああああ。  指先が振るえ、口から頼りない声が漏れるのが抑えきれない。こんな状況はいやだ。逃げ出したい。  だが、私の願いは叶わないというのが世界の法則だ。  いつか姉が救ってくれる、いつか遠坂の家に戻れるんじゃないかという淡い希望は、  間桐家当主であり祖父である間桐臓硯に否定という言葉すら生ぬるいほどに消滅させられた。  私の縁(よすが)をおぞましい蟲たちで貪り、今まさに私の最後の蜘蛛の糸を切ろうとしている。 桜「いや――――いや、いや、いや、いや……! 止めて、こんなのヤだ、もう止めてください、お爺様……っ!」  その無力な抵抗を、祖父は笑った。  笑う。  哂う。  楽しげに祖父は哂う。 「――――――――」  それで、心底理解してしまった。  この人はやる。  何があっても、自分が何をしても、先輩を殺してしまう。  ……もう、どうあっても。  この人は、自分の欲望を満たすためだけに、わたしの全てを台無しにする気なんだ、と。 「―――――――なん、で」  声が漏れた。  なんで、いつもこうなるんだろう。  それだけを避けて、それだけは知られないように、ずっと色々なことに耐えてきた。  嘘をついて、人に嘘をついて、自分にも嘘をついて、こんな自分でも幸せになれるんだって言い聞かせてきた。  先輩といられるだけで、幸福なんだって思ってきた。  それなのに。  どうして、この人はそんなささやかなモノすら踏みにじるんだろう。 「――――――――」  ……いや、この人だけじゃない。  ずっと前から思っていた。  ずっと前から恨んでいたんだ。  なんで。  なんで―――なんでわたしの周りにある世界は、こんなにも、わたしを嫌っているんだろう、と――――  ぽっかりと口を開けた暗闇の中から、もう一人の私がこっちへ来いと誘っている。  自分の影。  もう、何十人という人間を食べてきた自分自身《くろいかげ》。  いつかそうなってしまわないように必死に自分を抑えて、  そうならないようにと傍にいてくれた誰か。  笑ってしまう。  そんなもの、初めから全部無駄だった。  私は蛾虫。私の繭は死して初めてその羽を広げる。  やがて貴方の心を捉え、貪りつくす。  少女の意識はそこで終わった。  いや、正確に言えば裏返った。  ――――そこに。  その“影”は立っていた。

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