人外と人間

脱力系女子×優しい触手「夏の暑い日の話」前編

最終更新:

monsters

- view
管理者のみ編集可

夏の暑い日の話 前編 6-130様

「……ッ…………ハッ……」

 蒸し暑い暗闇に、ディスプレイの明かりがぼんやりと浮かび上がる。
 空の食器や、ビールの缶が所せましと並ぶ机の端に、今にも落下しそうなバランスで置かれているのは、ヘッドホンの繋がれたノートPCだ。
 その画面に映っているのは、男と女のあられもない痴態。アダルトビデオから抜き取ったような一場面。
 いわゆるおかずの役割を果たしているのは言うまでもない。
 ただ、特筆すべきことがあるとすれば、食い入るように画面を見つめてオナニーしている人物が、妙齢の女性であるということだった。

 黒のセミロングヘアの下には、気の強そうな瞳。
 身に付けたタンクトップは室内の暗さのせいで彩度が欠けているが、本来は燃えるような赤だ。
 布一枚にくるまれた乳房のカップはD。仰向けになっても形の良いおわん形を、実のところ本人も自慢に思っているようだ。
 ちなみに、現在下半身には何も身につけていない。
 意外にすらりとした腕と指が、秘所の割れ目をなぞり、クリトリスをやや乱暴にこねまわす。
 画面の中の痴態が盛り上がるのと合わせて、そろそろ性感が高まってきたようだった。息も荒い。

 「ん、んぅっ……!!」

 彼女は、きつく目を閉じ、腰と背筋をぶるぶるとふるわせながら、絶頂を迎えたようだ。
 「……っ、ふぅ……」
 荒れる息を抑えながら、ごろりとベッドで大の字になる。つやつやの髪がふわりと広がる。
 この場面を見ていたものがいるとするなら、パンツ履けと言いたくなるような光景だった。

 「あはは~、ベットベトじゃん」
 股間に這わせていた指を顔の前に持ってくると、開いた指の間に、愛液が糸のようにつながっている。
 ご丁寧にディスプレイの光を反射しているので、その液体が何であるかを知らないものが見たら、ある意味美しい光景なのかもしれない。
 もし、昨今の流行語にしたがってこの女性を無理やりカテゴライズするとしたなら、「干物系女子」とか、「脱力系女子」などと呼ばれてしまうだろう。
 「汚ギャル」でもいい。
 これで普段の仕事はきっちり清楚な姿で行っているのだから、人間って本当に信用できない。
 もしこの光景を見ている人間以外の生き物がいたとしたら、ため息をついて肩をすくめたくなるようなだらしなさだった。

 「……何言ってんだか、あたし」
 彼女は急に醒めた口調で呟くと、おもむろに背筋を使って起き上がり、雑然としたワンルームを横断しながら、窓に向かった。
 何のことはない、暑いから開けっぱなしだったのを閉めに行っただけである。
 お願いだから、オナニーするなら最初から閉めとけよ、若い女の子なんだから。
 そんなんだから彼氏ができても逃げられちゃうんだぞ。そう言いたくなるような光景だ。
 「あーあ、明日も仕事かぁ。やんなっちゃうよなー」
 窓を閉め、ぶつくさ呟きながら戻ってきた彼女の視線が固まった。
 正確には、彼女のいない隙に天井から降りて来て、ベッドを占領していた「僕」と目があった瞬間に固まった。

  あ、どうも申し遅れました、僕、触手です。
  夏になってから頻繁に窓が開いておりましたようですので、5日前からお邪魔させていただいております。
  地球へは、繁殖のため宿主となってくださる伴侶を探しに参りました。
  ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

 一応挨拶したんだけれど、残念なことに認識してくれたわけではなさそうだ。よく考えたら僕、発声用の器官なんか持ってないからね。
 その証拠に、彼女は、大きな口をあけて全身を緊張させた。
 まずい、悲鳴を上げるつもりだ。仲間を呼ばれてしまう。

 「むぎゅっ!」

 慌てて、彼女の口に触手を突っ込む。よかった、悲鳴をあげさせずに済んだ。
 僕の見た目は、この星の分け方で言うと、軟体動物って奴にそっくりらしい。ここに来る前データでみたイソギンチャクっていきものが、僕らの形に一番近かった。
 かわいいよね、イソギンチャクって。カラフルだし。もし僕が水中でも生きられる体を持っていたなら、彼らの中から伴侶を選んでもよかったくらい。
 でも、僕と彼らは住処が違いすぎたんだ。運命って、残酷だよね。
 それより、イソギンチャクに比べて、僕らの方が、きっとずっと強い。触手のバリエーションが多いし、地上でも自立して移動できるだけの筋肉を持ってる。身体だって何倍も大きいんだぞ。
 こんな僕らって、地球人から見てどうなんだろう。
 かわいいって思ってくれるかな?
 ……なんて期待しながら地球に来たのに、彼女の表情を見る限り、なんか絶望的っぽいかも……。

 「ン……んぐっ」

 依然として、僕の触手を口に突っ込まれたままの彼女。慌てて触手をつかんでくるけど、あいにくその程度の力ではがされるような僕じゃない。
 彼女の顔は恐怖にゆがみ、こちらを見つめる目には涙がたまり始めている。普通にしてれば、ちょっとりりしくて素敵な顔なのにな。
 確か地球人は、とても悲しいことがあった時、目から涙を流すと聞いていた。……ん? 悲しい時?

  ちょ、ちょっ、待ってよ。僕は君を悲しませに来たわけじゃないのに。

 僕は慌てて、彼女の口に突っ込んでいた触手の先ををぬろぬろと動かしながら、体液を分泌させた。
 人間同士がキスをするときと同じ。舌べらの表面をなぞってから、喉の方をくちゅくちゅ、口蓋の上をくすぐるように撫でて、最後に歯の裏だ。
 全部くすぐったいところだからだろう。彼女は、僕の触手が動くたびに、身体をぴくん、ぴくんと動かしている。
 僕らの体液には、獲物の気持ちを高揚させて、生殖の準備を整えさせる成分が入っている。いわゆる媚薬って奴だけど、地球人の味覚なら、甘く感じてくれるはずだ。
 彼女は、口中を触手と体液で満たされてしまって息苦しそうにしている。
 かわいそうに、何度かむせてしまった。
 だけど悲鳴を上げられるリスクのあるうちは、まだ自由に呼吸をさせてあげるわけにはいかないんだ。ごめんよ。

 「けほけほっ、ふ、ふ、……ん……コクン」

 何度かむせているうちに、ようやく彼女の喉が上下に動いた。よかった、うまく体液を飲み込んでくれたらしい。
 僕は、そっと彼女の近くに寄せていた別の触手達で、彼女の足と胴を支えると、ゆっくりとこちらに引き寄せてあげた。
 背の高い彼女の身体は、こちらの単位でおよそ48キロ。
 僕が持っている中で一番太くて一番パワーのある二本の触手に任せれば、彼女を傷つけないように運ぶなんて、造作もない事さ。
 コレでも、僕らの星では一番の高等生物なんだ。女の子には優しくするって礼儀くらい、わきまえているよ。
 ましてや、繁殖の宿主となってくれる伴侶に対してなんて、優しくできないわけがない。
 僕は、他にもある無数の触手で彼女の手足を保持しながら、ゆっくりと僕の上に座らせた。まるで一人掛けのソファにくつろいでいるかのような体勢だ。
 そして、ようやく口にあてがっていた触手を離してあげる。

 「ぷはぁ!」
 久しぶりに空気が吸えたからだろう、彼女が立てた呼吸の音は、別の星から来た僕にとっても、小気味のいいものだった。
 「え、てか、何これ、なんなのっ……!?」
 彼女は、かすれた声で呟いた。明らかに困惑した様子で、左右を見回している。あっちにも触手、こっちにも触手。
 両手両足の先は僕につかまれっぱなしで動かせないし、お尻の下には僕の柔らかい身体があるわけだし。
 まあ、困惑しない方がおかしいよね。かわいそうにパニック一歩手前だ。

 そんな反応を見せられてしまうと、僕も慌ててしまう。そもそも僕だって異星人との生殖は初体験なんだ。
 どうしようか考えあぐねていると、ふと先輩格の触手が言っていた言葉を思い出した。『そういうのは、気持ちよくなって忘れてしまうに限る』と。
 彼女の膝の関節を、それぞれ別の触手で持ち上げ、左右に広げる。いわゆるM字開脚の出来上がりだ。彼女はきょとんとした顔で、持ち上げられていく自分の足を見回していた。

 僕は、細かい繊毛がブラシ状に生えた触手を取りだした。僕にとって伝家の宝刀だ。彼女の顔の前まで持ち上げて、ゆっくりと繊毛を動かしてあげる。 今からこれでどこをこするのか、たっぷりと想像してもらうために。
 「な、何その触手……いや、いやっ!」
 彼女は、目を見開いた。ようやく悟ってくれたらしい。腕を振りほどこうとしたり、僕の真上のお尻をくねくねさせて逃げようとしているけれど、何を今さら。そうは問屋が卸さないんだ。
 最初に与える刺激にしては強すぎるだろうけど、許してね。そう心の中で謝ってから、僕は彼女の股間に、ブラシ状の触手を押しあてた。うねうね、うねうね。
 さっきのオナニーで既にヌルヌルになっていたそこを覆い隠して、繊毛の一本一本がうごめく。
 ある繊毛は、大陰唇をぷにぷに。またある繊毛は、小陰唇の裏側を撫でる。とろとろの孔や、皮に隠れたクリトリスの裏まで、丹念に愛撫する。
 彼女の顔が、見る見るうちに赤くなってくる。

 「あっ!あ、あっあっあっあっ……」
 あられもない声だ。さっき悪態をついていた時のような、低い声からは想像もできない、裏返りそうなくらい高い声。
 女の人が感じているときの声だ。気をよくした僕は、さらにブラシを強く押し当てた。

 「あっあっあっ……! いやぁぁぁ、ぁ、来ちゃう、なんか来ちゃうっ!」

 それでも容赦なく触手を押し当てていると、彼女の声色が、さらに高く艶っぽく変化した。
 セミロングの髪を左右に振り回し、口元をわななかせて、「やめて」というのだけれど、僕の繊毛は、彼女のそこがどんどん湿り気を帯びて、熱を持ち、ぬるついてきているのがわかる。
 文字通り、手に取るように。
 そこで僕は、少し工夫をしてあげることにする。彼女の女陰を覆う僕のブラシ型の触手。それを、ゆっくりと上下に動かしてあげるのだ。
 「あ……っ!!」
 とたんに、彼女の背がのけぞり、何度か突っ張るような動作を見せた。拘束した腕も、開かせたままの足も、すごい力で痙攣し、逃れようとしているけれど、ここで逃がしてしまっては、彼女に不完全燃焼を経験させることになる。
 念のため、新しい職種で骨盤のあたりを包み込むように固定し、僕の触手の動きを邪魔させないようにする。それから、上下に擦る動きを、どんどん加速させてあげるのだ。
 むき出しにしたクリトリスに、幾重もの繊毛をからみつかせ、摩擦係数が最大になるように勘を働かせながら、入念にしごく。頬だけでなく、彼女の身体じゅうが紅潮してくる。
 彼女はもはや、快感の波にのまれ、呼吸困難でも起こしそうな勢いで、ただ首を左右に振ることしかできないようだった。

 「ふ、ぁ……来る……ぅ!」

 息も浅く、彼女が呟くように言った。その途端、彼女の全身に痙攣が走っていくのを、僕もはっきりと感じ取ることが出来た。その瞬間、僕の触手にすがるかのように、彼女は僕を握りしめた。どきりとした。
 ビク、膣口が閉まる。ビク、クリトリスの根元が息づく。ビク、アナルが、ビク、膣内が、瞼が、尻肉が、勢いよく開閉を繰返し……。
 ビクビクビクッ!
 瞼の奥に星でも見ているのだろうか、情けなくよだれを垂らしながら彼女は達した。膣奥からも、とろとろと愛液がこぼれ出す。
 彼女の痙攣が収まるのを見計らって、僕はブラシ型の触手を離した。彼女のそこは、まるで海底の貝のように、パクパクと開いていた。
 ぐったりとした体を、背中にまわした触手で支えてあげる。そして、別の触手でおもむろに、真っ赤なタンクトップを脱がせた。

 抵抗らしい抵抗はなかった。



 ……甘い。口の中が、まるでなめこを食べた後のように、ぬるぬるしている。でも、その甘さは、果物みたいなさわやかさが無くて……。
 しいて言うなら、人工甘味料をたっぷり使ったチューイングキャンディのような、べたつく甘さだ。
 しかし、それでも、不思議と不快には思わないのだ。現に今も、わたしは喉を鳴らしてその液体を飲み下し――目を覚ました。
 初めに目に入ったのは、いつも通りの、自室の天井。まだ暗いうちに目を覚ましてしまったみたい。

 しかし視界の淵に、薄紅色のホースのようなものが映った瞬間、わたしはすべてを思い出した。
 「う、あ……!」
 自分は、触手の生えた恐ろしい生き物につかまっている。そのおぞましい触手たちに絡みつかれて、素っ裸になって。全身を余すところなく刺激されていたのだ。
 今も、ぬるつく二本の触手が腕に絡みつき、足は開いたままで固定され、それらとは別の細く器用な触手たちが、わたしのわき腹や内モモ、脇の下なんかを、触れるか触れないかの微妙な力具合で、撫でまわしている。
 耐えがたいほどおぞましい光景のはずなのに、わたしは身体がびくびくと反応するのを止められなかった。よく考えたら、今だって口の中を触手に犯されている。
 わたしは耐えがたいほどの膿んだ熱をはらんでいるというのに、この生き物の体温は、あまりにも生ぬるい。
 汗ばんだ乳房の端に、ぬるつく感触があった。あろうことか、さっき私をオーガズムにまで押し上げた、あのブラシ状の触手。
 それが、私の乳房を押し上げては戻すような動きを始めている。

 「ふ、ん、ふぅ……」
 ああ、また性感帯を。そう思っていた私の顔の前に、新顔の触手がお目見えした。
 ノーマルな触手たちは、先っぽが丸く閉じている。ちょうど人の指の先みたいに。しかしこの触手はどうだろう。まるでホースのように、穴が開いたままになっているではないか。
 その穴の中は、まるで生物の内臓の中を覗いているかのように卑猥で、グロテスクで、怪しくうごめいている。
 ぐぱ、と、奥の方から、いきなり筋肉でできた口のようなものが押し出されるように現れた。つまり、ホースを当てて真空状態にした対象の肌をついばむための器官なのだろう。
 ちょうど、ブラシに撫でられて火照り出した私の乳首をついばむのに、ちょうどいい大きさ……。

 わたしは、とっさにそんな連想をしてしまった自分に気づいて、愕然とした。
 そんな、まるで私が、こんな化け物相手でも乳を差し出して、快楽を求めてしまうような、人として終わった存在であるかのようじゃないか。
 さっきまでオナニーはしてたけど。でも、アレだって、つい一昨日別れた彼の感触が、思い出が忘れられずに、たぎる思いを鎮めようとして仕方なくした行為なのだ。
 言い換えるならば、性欲を抑えておくための、ガス抜きとしての行為。儀式といってもいい。必要だから下までで、別に私がエロいからとかそういうわけじゃ……。

 ちゅぅぅぅっ。
 「うひゃぁぁぁ……んっ!」

 そんな自問自答に気を奪われていたせいだ。わたしは先ほどの触手が乳房に迫っていることを失念してしまっていたのだ。
 吸いつかれた瞬間、ものすごい声が出た。でも、もうこうなっては、自分の中で自問自答を繰り返すような余裕は全くなくなっていた。
 この触手、すごい吸引力だ。私の視点からは、ホース状の触手が、右の乳房の真ん中にほんの少しめり込んでいるようにしか見えない。
 しかしその中では、先ほどくぱくぱと目の前で息づいていた口のような機関が、痛いほどに乳首にくらいついている。いや、その表現では正しくない。
 痛みを感じるほど圧力がかかるのはほんの一瞬で、真空から解放され、立ち上がった乳首を、まるでフェラチオでもしているかのように、擦りながら引き抜かれる。
 そして、かすかな真空状態を残したまま、ちゅっという音を立てて触手の唇が離れたかと思えば、次の瞬間にはまた痛いほどについばまれ、しかもついばむ角度を細かく変えるような動きに入っている。
 まるでキスの雨だ。こんなけだものに、そんな、まるで愛情みたいな概念があるなんて、とても思えないけれど。

 ぐにゅ、ぎゅにゅ、ちゅぱっ、ちゅっ……。なすがままにさせていると、部屋中に陰卑な水音が響いて、恥ずかしい。否応なしに、頬が熱くなる。
 しかしこれ、めちゃくちゃ気持ちいい。
 いつの間にか、左の乳首にも、先ほどのブラシ状の触手が張り付き、揉みしだくような動きをしていた。その度に、おわん形の乳房が、まるで中途半端に水を入れた風船のような動きで、たゆんたゆんと揺れる。
 もう十代じゃないから、プリンに例えるのはやめておいたけど。
 その頂点の赤い実にも、器用な繊毛たちが余すところなく愛撫してくれて、そこを中心に体中がどんどん熱くなる。ああ、やばい。わたしはまた、興奮し始めてしまっている。

 でも、いくら乳房を刺激してもらったところで、わたしは訓練された二次元女じゃないんだ。こんなに吸われているのに、お乳もでなければ、胸への刺激だけで、頂点に達してしまうような技能も持っていない。
 身体の中には、どんどん熱がたまるのに。こんなに切ないのに……ここだけの刺激では、この熱を開放することが出来ないのだ。
 いくら待っても、いけないのだ。

 「……も、やめて……くら、さい……」
 私の口からは、知らず知らずのうちに泣き言が漏れていた。いや、いつの間にか目頭にも熱がたまり、口は引きつって、ひどい顔になっていた。
 こうやって冷静に自分を客観視している自分もいるというのに……感情に流された身体が、言うことを聞かない。ノリノリじゃないか。わたしのプライドなんて少しも気に留めないで、素直すぎるお願いの言葉を発し始めている。
 情けない、情けないよ……。
 しかし、悲壮なまでに嗚咽して、鼻声になりながら、私はもう一度、一生懸命に声を出していた。おねだりのセリフ。恋人にしか言ったことのなかったセリフだったのに。

 「っ、けなくっ、て……苦しいん、です……っく……だ、からっ……ここに、入れてください、入……れてください!」

 ああ、とうとう言ってしまった。言っちゃったんだ。こんな、言葉もわかるかどうか定かではない、未知の生命体を相手にして。人間、失格じゃないか……。
 しかし、私が言葉を言い終わった瞬間、触手の固まりに変化が起こった。
 ふにゃん、と、わたしのお尻をを乗せていた、おそらく本体であろう部分が、とろけるような感触に軟化した。
 腕や足を拘束していた触手たちも、まるで瞬間的にゲル化でもしたかのように、ふにゃ、と、脱力する。胸の上のブラシとホースも、ぺちゃり、と、わたしのからだの曲線に沿って、スライムのように張り付く。
 そして。
 まるで、ボイラーに火がともるときのように。死にかけていた心臓が、再び鼓動を刻み始める時のように。暗い地平の彼方から、徐々に太陽が顔を出していく時のように。
 少しずつ、その生き物は、熱を持ち始めた。どんどん、どんどん。わたしの身体よりも熱くなるくらいに。

 ぐわっ、と。

 そんな擬音が一番似つかわしいと思う。
 まるで、海底の食べられそうなひとでが、瞬時に身体を硬化させる時のように。
 むせかえるような臭気を発しながら、触手が、どくんどくんと熱く脈打つ触手が、一瞬で身体を作りなおした。以前よりも硬く、以前よりもとげとげしく……。
 先ほどまでのこの生き物がイソギンチャクのようなふにゃふにゃとした筋肉で出来ていたとすれば、雄々しく全身をこわばらせたこの生き物は、まるでサンゴに擬態したタコだ。
 わたしの身体に触れる所こそ、つるつるとしたハリのあるビニールのような質感になっているけれど、わたしの身体の前に回した装飾的な触手は、アロエの枝のように、返しのようなとげで装飾されている。

 まるで、もう逃げられないぞと、檻に閉じ込められてしまったような。優しいとばかり思っていた人に、いきなりナイフで脅されたかのような。
 一瞬裏切られたような気持ちになったけれど、どれもこれも、わたしが「おねだり」をした結果なのだろう。
 もう後戻りはできないと、物言わぬ触手に釘を刺されてしまったような気持ちだった。

 それと、もうひとつ。
 先ほどまでとは決定的に違う個所があった。

 わたしのお尻が触れる場所。そこのすぐ前に、一本の肉柱が屹立していた。
 大陰唇が、すぐにも触れてしまいそうな場所にあるそれ。鼓動に合わせて、びく、びくと蠢いている。間違いない、この生き物の生殖器だ。
 これまでに見て来た、男性器。子供の時に見た父のものとも、彼氏と添い遂げたときに初めて咥えたそれよりも、アダルトビデオを通じてみた、幾多の男性のものよりも。
 大きい、かもしれない。
 太く、ぼこぼこといぼのような突起のあるその柱は、人間のペニスよろしく、立派な傘を広げていた。
 こんなもの、わたしの中に収まるのだろうか……。徐々に、不安が身体を浸す。現実を見て、さっきまで盛り上がりかけていた気持ちが、萎縮してきた。

 しかし、触手の方は、少しも許してくれる気はないらしい。
 ぺたり。
 「――――ひっ……!」
 右の太ももに、さっきよりも太く、こわばった触手が絡みついた。ほとんど同時に、左のももも拘束されている。
 そこを支点に、身体を持ちあげられそうになる。
 「やっ、やあっ!」
 わたしは青ざめた顔で、せめてもの抵抗をと、全身の力を抜いた。
 推理小説で読んだ、「気絶した人の肉体を運ぶということは、意識のある人間を運ぶことよりも何倍も難しい」という、しょうもない知識に触発されての行動だった。
 その機転は一応の所、功を奏したらしい。
 触手は、二点の支点では、どうにもわたしをうまく持ち上げられなかったらしく、いったん、わたしを元の場所に戻した。

 ――助、かったの……?

 と思う間もなく、四方から別の触手が伸びて来て、腕の付け根と、腰回りを痛いほどに締め付けながら、わたしの身体を軽々と持ち上げた。
 「やっぱりやめ、やめやめ、やめてっ、……!!」
 お腹を圧迫されて、胃の中のものを戻しそうだ。しかし、それ以上に、不自然な力点で吊りあげられた四肢が、ギリギリと千切れそうに痛む。
 「あ、あ、あ……」
 この触手は器用だ。だから、わたしの身体をゆっくりとおろしながら、着実に、ヴァギナの中心に自らの生殖器が来るよう、微調整をしている。
 その間もわたしは吊るされっぱなしで、肩の関節が、ミチミチミチ、とおかしな音を立てているのを、どこか遠くの景色のように眺めていた。
 そして。

 熱い熱い触手の生殖器に、わたしの膣口が、ぴたりとあてがわれる。
 わたしの女性器が、反射的にピクリ、と息づくと、それ以上に、ビクン、と剛直が反応する。
 ああ、とうとう、本格的に犯されてしまうのだ。
 腕を吊るしていた触手たちが、やんわりと力を抜き始める。それに伴い、わたしの濡れ、しかし冷え切った生殖器の中に、太く熱い、触手の生殖器が浸入を始めた。

 ぎち、ぎち……。
 予想していた通り、傘が入りきらないうちに、わたしの膣口は悲鳴を上げ始めていた。いくら大きいからとはいえ、赤ん坊の頭ほどの大きさはないのだが、それでも限度というものがある。
 しかも、触手たちは、無理やり押し込むことをせず、重力に任せてわたしが犯されるのを待っている。まるで、串刺しにされているような気分だ。
 「ん、んぅ、……ん」
 わたしの喉から漏れたのは、まぎれもない苦悶の声だったはずだが、少しだけ、艶めいてしまったように思うのは錯覚だろうか。
 その間も、傘は、張り詰めた肉棒は、根気良く、わたしの身体に押し込まれるのを待っていた。
 そして。






タグ … 人間♀ 触手

タグ:

触手 人間♀
目安箱バナー