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狼男×少女 非エロ

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狼男×少女 3 ◆IyobC7.QNk様

折からの寒さのせいか、その日は村の広場すら人影は少なかった。
そこを金色の髪をなびかせながら森へと向かって金髪の少女は駆け抜ける。
吐く息は白く、冬の訪れが近いことを誰にも分かりやすく感じさせていた。

森は一面落葉だらけで、軽い少女が踏みしめただけでもパキパキと小気味の良い音を響かせる。
が、そんな自然の音楽など全く意に介さずに焦げ茶色の防寒具に身を包んだ少女は息を弾ませたまま声を張り上げた。
「グーガル、グーガル?」
呼び声から暫しの間をおいて、背後から微かな音が響く。
視界の端を掠めた見慣れた姿に少女は満面の笑みで振り返った。
「真っ黒くろのバカ犬グーガル。元気だった? 今日はね」
ちょこんと頭を下げた少女に、黒狼は呆れた様子で踵を返す。
「あっ。待って、せっかく来たのに。まってってば」
引き止めようと慌てて相手の体の一部、目の前の尻尾を掴むと鋭い悲鳴が響いた。
「あの、ちが、えと。これは」
反射的に手を放し両手を振り回しながら言い訳をしようとする。
「……ごめんなさい」
しかし思い付かず、最終的に少女は項垂れて、謝罪をした。
もし今が夜で満月ならば小言の一つもあっただろうが今は日も高く、身体的には普通の狼と変わらない
グーガルは喋る事ができず低く唸った後、軽くため息を吐くと少し離れた場所に腰を降ろした。
戻る気は無くなったと見てとると少女は、その隣に陣取る。
いつもならば暖を求めて直ぐにグーガルを抱きしめるのだが少々の気まずさもあり近くに座り、ただ見ていた。
木の葉が舞い踊る冷たい風に彼がブルリと身を震わせる。
「寒いね」
それを好機とばかりに愚痴をこぼして上衣を拡げるとグーガルに一緒に被せ、毛皮にもたれ掛かる。
素肌だとチクチクしているが布越しだと、その身の暖かさと柔らかさが際立って感じられた。
「ね、暖かい?」
訊ねると、グーガルは大きく欠伸をして首を落とした。
抱き寄せると迷惑そうに目を伏せたが尻尾は忙しなく動いている。
それを視界の端で確認して、少女は嬉しそうにその首筋に顔を寄せ、身を丸めて横になった。
すると何かが額に当たる。
それは昔、少女がグーガルに付けた物だった。
狼男の時には窮屈そうなそれは今は身震い一つで落ちそうな程にゆるんでいる。
その青い首輪には自身の腕を差し入れてもまだ余りがあった。
暫くの間、首筋を撫でながらくたびれたそれを弄っていたが、少女は不意に口を開く。
「グーガル、寝ちゃった?」
眠りに落ちたらしく、ぺちゃんこになったグーガルに問うが反応は無かった。
普段は厳しい顔をしているが、こうしていると普通のおとなしい犬にしか見えない。
もっとも、少女が軽口をきかなければ良いだけの話なのだが、本人には悪気が全くなく、直そうとする気すら無いのが問題だった。
「もっともっと寒くなるよ。冬がくるもん」
独り言のように呟く。
規則正しく聞こえる寝息と少し間抜けな寝顔は少女以外は知らないものだった。
「ねぇ。偽物は捕まったし、誰も狼男のお話なんて信じて無いよ」
少し口調を強め、そっと口許を撫でる。その感触はむにっとして心地好く暖かい。
風が吹く度に巻き上げられた落葉はカサカサと乾いた音を立てていた。
「だから、だからね……」
続く少女の声は顎に回した手の甲に触れた固い感触と、いっそう強く吹いた風の音に阻まれる。
──また、家で暮らさない?
その言葉は口から先へは進まなかった。
少女、ディアが強く望めばグーガルはそうする、従うだろうと漠然とだが知っていた。
しかし、それではグーガルの決めた事を曲げる事になる。
縛り付けてでも傍にいて欲しいが自由であって欲しい。
矛盾する渇望と思慕に似た、複雑な感情だった。
「寝てる、よね」
そうで無ければ口には出来ない。
「ばか犬」
かつての主従の印である首輪を少し引っ張ってみる。
これを着けた頃は近くにはいたけれども、知らないことが多かった。
今は暮らす場所も別々で、こんな物しか繋がりがない。
その事実に、きゅうっと胸が締め付けられる。
「グーガルの、ばーか……」
呟いて、懐かしい温もりの中でディアは目を閉じた。

ざらついた暖かいものが頬を撫でる感触にディアは目を覚ます。
「んん、寒い……」
つい、うたた寝をしていたらしく太陽は山のすぐ近くに近づき、いつの間にか辺りはオレンジ色に染まりつつあった。
のんびり歩いたとしても今からならば夜の帳が落ちる前に家まで帰りつけるだろう。
そんな事をぼんやりと考えながら頭の位置を直すと枕の場所にあったはずの温もりが消えている。
体を起こすとグーガルは少し離れた場所に行儀良く座っていた、帰れとの意思表示だろうと寝惚けたディアの頭にも察しはついた。
ぼぅとしていると寒さが身に染み入る。
のろのろと上衣に着いた落葉を払い、ふと空を見上げると薄く白い楕円形の月が雲間に浮かんでいた。
グーガルは一声吠えて鼻先でディアを突ついて急かす。
青と橙色のグラデーションの間を白いものがフワリと横切った。
「あっ」
それは本格的な冬の訪れを報せる、初雪だった。
「ねぇ、もう少しだけ一緒にいて」
ディアはにっこり微笑むと鼻先に軽いキスを落として首を捕らえ、グイッと回転させるとグーガルを抱えて再び地面に寝転がった。
ちょうど先程とは逆の位置になり、眼前にある金の相貌には呆れの色が濃く滲んでいる。
薄明るい曇天模様の空の下、グーガルの黒い体と白い小さな雪が舞い落ちる様は本当に綺麗だった。
「もうちょっとだけ、ね」
諌めるように囁いて抵抗を止めたグーガルの背を撫でる。
「今日は特別なんだから」

雪化粧には未だ早く初雪は積もる事もなく、何かに触れると同時に儚く露となり消えていた。







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