第11話「兄弟の思い」


「ギャオオオォォォォォッ!!」
「くぅっ……なんて馬鹿力なんだい!!」

ドラゴリーの強力なパワーを前に、アルフが毒づいた。
先程、ムルチを惨殺した時点で薄々感じてはいたが、ドラゴリーの怪力は尋常じゃない。
チェーンバインドによる拘束を力ずくで破り、防壁による防御も強引に打ち砕く。
恐らくは、なのはが対峙していたレッドキングと互角以上。
しかもドラゴリーは、遠距離用の破壊光線も持ち合わせている。
一方それが乏しいアルフにとっては、こういったパワータイプの相手はかなり相性が悪い。
不幸中の幸いは、小回り面で完全に上回っている事だった。
アルフはヒットアンドウェイを基本に、真正面からはなるべく挑まずにいる。

「はああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

拳に魔力を集中させ、後頭部へ全力で叩きつけた。
その衝撃で、ドラゴリーがよろける……ダメージは確実に通っている。
少し時間はかかるが、このままいけば何とか倒せそうである。
尤も、それには攻撃を回避し続けなければならないという問題はある。
相手の攻撃は、一発一発が大きい……一撃見舞われるだけで、形勢が一気に変わってしまうからだ。

「ギャオオオォォンッ!!」

ドラゴリーは大きく咆哮し、アルフ目掛けて拳を振り下ろしてきた。
アルフは即座にスピードを上げ、その一撃を回避。
拳は地へと打ち付けられ、莫大な量の砂塵が立ち上った。
アルフはその影に隠れ、ドラゴリーへと一気に接近。
この距離ならば、破壊光線はこない。
その腹部目掛けて、飛び蹴りを叩き込もうとする……が。

「ギャオォォ!!」
「なっ!?」

ドラゴリーが口を開き、火炎を放射してきた。
まさか、まだこちらに見せていない攻撃手段があったとは。
とっさにアルフは防壁を展開し、火炎放射を耐え切ろうとする。
しかし……防御の為に動きを止めてしまうのは、あまりに危険だった。
ドラゴリーは、この隙を狙い……全力の拳を叩きつけてきた。



ガシャン。

「キャアアァァァァァァァッ!?」

防壁が、音を立てて砕け散った。
アルフは後方へと大きくふっ飛ばされ、派手に地面に激突する。
そのまま、その身は砂の中に埋もれこんでしまった。
焼けた砂が肌を焼く。
早く脱出しなくてはと、アルフは上空へと飛翔。
砂の中から、何とか抜け出す……が。

「えっ……嘘!?」

脱出した彼女の目の前には、ドラゴリーの拳があった。
出てくる瞬間を、完全に狙われてしまっていた。
距離が近すぎる……防壁の展開が間に合わない。
アルフはとっさに腕を十字に組んでガードを取るが、これでどうにかできる筈も無い。
ここまでか……そう思い、彼女はたまらず目を閉じてしまう。



しかし……その瞬間だった。

ドゴォンッ!!

「ギィャアァァァァァァァァァァァァッ!!??」
「えっ……!?」

アルフに激突寸前だったドラゴリーの拳が、突然止まった。
よく見るとその肩からは、煙が生じている。
アルフもドラゴリーも、何が起こったのかまるで分からない。
しかし直後に、事態の意味を理解する。
ドラゴリーの背後に立つ……拳を突き出した、青い巨人の姿を見て。
アルフはすぐさまドラゴリーから離れ、その巨人の傍らへと近寄る。

「青い巨人……あんた、もしかしてメビウスが言ってた……ヒカリって奴?」
「ああ……メビウスの仲間だな。
何とか、助けられてよかった。」

ウルトラマンヒカリ。
かつてメビウスと共に地球を守り抜いた、青き光の巨人。
ゾフィーがメビウスの元に現れたのと同様に、彼もまたアルフを助けに現れたのだった。
アルフは彼の話を、メビウスから既に聞いていた。
メビウスすらも上回るかもしれない、強力な力を持ったウルトラマンと。
ドラゴリーはすぐに二人へと振り返り、破壊光線を両の瞳から放つ。
しかし、とっさにアルフが前に出て防壁を展開。
その攻撃を塞ぎ切ったのを見て、ヒカリは首を縦に振り彼女に礼を言う。

「ありがとう、助かったよ。」
「いいってこと、さっき助けられちゃったしね。
じゃあ、二人でとっととこいつをやっつけちゃおうじゃないの。」
「ああ……頼むぞ!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「キュオオオォォォンッ!!」
「くっ……!!」

バードンが大きく羽ばたき、突風を巻き起こす。
メビウスとゾフィーはしっかりと地面に足を突き、踏ん張ろうとする。
その二人の体が盾代わりとなって、なのはを羽ばたきの猛威から守っていた。
彼女は二人の御蔭で、受ける被害が少なくてすんでいる。
この隙にと、なのははカートリッジをロード。
迎撃に出るべく、周囲に魔力弾を発生させ始める……が。
なのはがそれを放つよりも早く、バードンが動いた。
強く地を蹴り、三人目掛けて真っ直ぐに滑空してきたのだ。
その嘴の狙う先は、ゾフィー。
まずは彼から始末するつもりらしい。

「ジュアアッ!!」
「ギュゥゥッ!?」

しかし、ゾフィーとてここであっさり敗北するほど愚かではない。
嘴が胸に突き刺さろうとしたその直前に、嘴を両手で掴みとったのだ。
突撃を阻止されたバードンは、ならばと大きく翼を羽ばたかせる。
ゾフィーをそのまま、上空へと持ち上げていったのだ。

「ジュアッ!?」
「ゾフィーさん!!」
『Accel Shooter』

この状況では、両手を離した瞬間に嘴で刺されてしまうだろう。
すぐになのはは、魔力弾を一斉に放った。
ここで注意しなければいけないのは、ゾフィーに命中させてはならないということ。
彼に当ててしまっては、元も子もない。
精神を集中させ、魔力弾を操作する……狙いは、飛行の要である翼。

「いっけぇぇぇぇっ!!」
「ギュオオォォッ!?」

攻撃は、見事に全弾命中した。
翼を撃たれたとあっては、バードンも現状を維持することは不可能……体勢を崩さざるをえない。
その瞬間を狙って、ゾフィーは嘴から両手を離した。
失速したバードンの嘴は、空しく空を切る。
契機……ゾフィーは、バードンの顎に蹴りを打ち込んだ。
バードンは空中へと打ち上げられ、そしてそのまま脳天から地面に激突する。
数秒遅れてゾフィーが着地……バードンが起き上がるのとほぼ同時に、右手を突き出し、その指先から蒼白い光を発射した。
Z光線―――かつてゾフィーがバードンと対峙した際に使った、必殺光線の一つである。

バゴォン!!

「キュオオオォォンッ!!」

爆発が起こり、羽根が飛び散った。
バードンは皮膚から黒煙を上げながら、悲鳴を上げる。
仕留め切ることこそ叶わなかったものの、確かなダメージは与えられている。
ならばと、メビウスが追撃にかかった。
まっすぐに飛び出し、その胴体に拳を打ち込む。
バードンはその攻撃に怯むも、すぐにメビウスへと翼で打ちかかった。

「ミライさん、伏せて!!」
「!!」
「キュオオォォ!!」

なのはの言葉を聞き、とっさにメビウスはその場に伏せた。
直後、バードンの翼が彼の頭上を掠める。
その次の瞬間……レイジングハートから、莫大な魔力光―――ディバインバスターが放たれた。
今度は先程までとは違い、本来の威力を取り戻している。
バードンは翼へともろにその直撃を喰らい、大きく吹っ飛ばされた。

「今だ!!」

なのはは、間髪いれずにバインド魔法を発動させた。
彼女は以前、ミライからウルトラマンが使う武器についての話をしてもらったことがあった。
そしてその時、彼は確かにいった。
その武器の内の一つ―――ウルトラマンタロウのキングブレスレットは、バードンを相手に絶大な効果を発揮したと。
タロウはかつてのバードン戦において、ブレスレットでバードンの嘴を縛るという奇策を取った。
それにより、バードンが放つ強力な火炎を封じ込んだのだ。
なのはが放ったバインドは、まさしくそれと同じ。
バードンの嘴を縛り上げ、しっかりと閉じさせたのである……これでは、もう火炎は使えない。

「よし……メビウス、離れろ!!」
「はい!!」

これで間合いを離せば、残る遠距離攻撃は羽ばたきだけ。
そしてその羽ばたきも……恐らく、先程までに比べて大幅に威力は落ちているに違いない。
アクセルシューター、Z光線、ディバインバスター。
ここまで使ってきた技の全ては、バードンの翼に集中して放ってきたのだ。
その翼は、今やかなり傷ついている……飛行して間合いを詰めてくるのも、容易では無いだろう。

「キュオオオォォン!!」

バードンは大きく翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こそうとする。
だが……やはり、その勢いは衰えていた。
なのはでも、十分に耐え切る事が可能なレベル。
バードンは確実に弱っている……今こそが、撃破する最大のチャンスである。
三人は互いの顔を見て頷きあうと、トドメの一撃を放つべく行動に移った。

「ジュアアァッ!!」

勢いよく、ゾフィーが飛び出した。
風の勢いが無い今、バードンに近寄る事は容易い。
彼は上空へと飛び上がり、突風に逆らいながらバードンへと接近。
そのまま急降下し、その脳天へと蹴りの一撃を叩き込んだ。
バードンはその場に倒れこみ、脳天を押さえ悶えている。
それを合図に、なのはとメビウスが動く。

「ハァァァァァァァッ……!!」
「レイジングハート、カートリッジロード!!」
『Divine buster Extension』

メビウスがメビウスブレスのエネルギーを開放し、なのはがカートリッジをロードする。
それから僅かに遅れて、ゾフィーが両手の指先を己の胸元で合わせた。
その右手が、眩い光に包まれる。
直後……メビウスとなのはが、必殺の攻撃を打ちはなった。

「ディバイン……バスタアァァァァァァァァッ!!」
「セヤアアァァァァァァァッ!!」

メビュームシュートとディバインバスターが、バードンに直撃する。
バードンは呻き声を上げ、もがき苦しむ。
後もう一押しで、バードンを倒す事ができる。
そして、ゾフィーがそのもう一押しを打ち込むべく、動いた。
光り輝く右手を、バードン目掛けて真っ直ぐに突き出す……その右手から、轟音を上げて光が放出される。
ウルトラ兄弟最強の光線―――M87光線が、今放たれたのだ。

「ジュアアアァァッ!!」

メビウスとなのはが放った光線を、更に上回る破壊力。
その一撃を見て、なのはは驚きを隠せなかった。
もしかすると、スターライトブレイカー以上の破壊力があるかもしれない。
これが、ウルトラ兄弟長男の実力。
その直撃を受け、とうとうバードンは限界を迎えた。
大きく唸りを上げた後……爆発四散。
バードンは、ついに倒されたのだ。
なのはとメビウスが、喜び声を上げる。
そして、その後……二人は、ゾフィーと向き合った。

「ゾフィー兄さん……」
「メビウス……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ハァァァッ!!」
「そこぉっ!!」

アルフとヒカリの拳が、ドラゴリーへと同時に叩き込まれた。
ドラゴリーは後ずさり、叫び声を上げる。
だが、ドラゴリーもそう簡単には倒されてくれない。
両腕を二人へと向け、そこからミサイルを放って反撃する。
アルフはとっさに、障壁を展開してそれを何とか防ぐ。
そしてヒカリは、右手のナイトブレスから、光り輝く剣―――ナイトビームブレードを出現させ、ミサイルを切り払った。
そのまま間合いを詰め、ブレードを真っ直ぐに振り下ろす。
メビウスのメビュームブレードを上回る、ヒカリ必殺の剣。
その一撃を受けて、ドラゴリーの右腕が見事に切り落とされた。

「ギャオォォォォンッ!!」
「今だっ!!」
「ああ!!」

ドラゴリーが片腕を失った今こそが、攻めに出る最大の契機。
アルフはチェーンバインドを発動させ、その身を縛りにかかった。
怪力を誇るドラゴリーならば、チェーンバインドから抜け出すのは本来容易。
しかし、それはあくまで両腕があればの話……片腕の力だけでは、難しかった。
ヒカリは剣を収め、そしてナイトブレスに手を添える。
ナイトブレスの力を解き放ち、敵へと浴びせる必殺の光線―――ナイトシュート。
ヒカリは腕を十字に組み、その一撃を放った。
メビウスのメビュームシュートとは対照的な、蒼い光。
そしてその威力は……メビュームシュート以上。

「ギャオオォォォンッ!!??」

直撃を受け、ドラゴリーが背中から倒れこむ。
そして直後……爆発し、消滅した。
その様子を見て、アルフはガッツポーズをとった。
ヒカリもそんな彼女を見て、頷く。
お互いの協力の御蔭で、この強敵に無事打ち勝つ事ができた。
二人はその事を、相手に感謝していた。

「ありがとう、ヒカリ……えっとさ。
あんたがこうしてここにいるって事は、ミライの事……?」
「ああ、メビウスが出したウルトラサインの御蔭で、見つけ出す事ができた。
メビウスの元にも、もう仲間は向かっている。」
「そうかい……あっと、こうしちゃいられなかったね。
悪い、ヒカリ……折角助けてもらったのにさ。」
「分かっている、待っている人がいるんだろう?
俺の事は気にせず、行ってやれ。」
「うん……ありがとうね!!」

アルフはフェイトの元へと駆けつけるべく、転移魔法を発動。
この世界から姿を消し、元の世界へと戻った。
ヒカリはそれを見届けると、その場にしゃがみこむ。
そして……バラバラにされたムルチの死骸を手に取った。

「水生生物のムルチが、こんな所にいるわけが無い。
やはりこれは、何かしらの改造を受けているに違いない。
ならば、ドラゴリーが現れたのを考えれば……全ての元凶は、あの悪魔か……!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『そうか……分かった。』
「ゾフィー兄さん……ヒカリは、何て言っていましたか?」
「やはり、異世界に現れた怪獣はヤプールが解き放ったものである可能性は高いそうだ。
……予想していた以上に、事態は進んでいるようだな。」

ヒカリからのテレパシーを受け取り、ゾフィーは重い顔をする。
今、メビウスとなのはは、ゾフィーから全ての事情を聞かされていた。
先日、ゾフィーとヒカリの二人は、メビウスの捜索に当たっていた。
ヤプールとの決戦に臨んだ異次元世界。
その入り口だった地点を、重点的に二人は探していた。
しかし、メビウスの足跡は全く見当たらなかった。
捜索を開始してから、それなりの日にちが経つというのに、全くの進展が得られない。
最早、メビウスを見つけ出すのは不可能なのではなかろうか。
光の国には、そう思う者も中にはいたが……決して、ウルトラ兄弟達は諦めなかった。
最後まで諦めず、不可能を可能にする。
それこそが、ウルトラマンだからだ。
そして、その末……ついに彼等は、メビウスを見つけ出した。
崩壊した異次元世界の入り口から、かすかな光―――ウルトラサインが見えたのだ。
メビウスが、毎日欠かさずにウルトラサインを送り続けてくれた御蔭だった。
すぐさまゾフィーは、ヒカリを連れてその向こうへと飛んだ。
ゾフィーは、異世界へと渡る力を持つ数少ないウルトラマンの一人。
かつて、エースがヤプールとの決戦に望んだ際も、彼の御蔭で異世界へと渡ることが出来たのだ。
その為、彼等はメビウスの元へと駆けつけられ……そして話は、今に至る。
ちなみにゾフィーは、ウルトラサインの御蔭で全ての事情は把握しているので、話はスムーズに進めることが出来た。

「はい……ゾフィー兄さん、僕は……」
「分かっている……共に戦いたいというのだろう。」
「はい。
僕は、時空管理局の皆さんにとてもお世話になりました。
皆がいなきゃ、僕はこうしていられませんでした。
だから……一緒に、戦いたいんです。
闇の書の事も、ダイナの事も、ヤプールの事も……皆と協力して、解決したいんです!!」

メビウスの強い決意の言葉を聞き、ゾフィーは首を縦に振った。
助けられた恩は、返さなければならない。
きっと、自分も同じ立場ならそうするだろう。
それに……ダイナとヤプールという要素が出てきた今、これは自分達の問題でもあるのだ。
ゾフィーはなのはへと視線を向け、自分の意思を彼女へと告げた。

「メビウスの事を……よろしく頼む。」
「ゾフィーさん……はい!!
こちらこそ、よろしくお願いします!!
あ、自己紹介がまだでしたね……私はなのは、高町なのはです。」
「ありがとう、なのは。
メビウス、この世界での地球に関しては、このままお前と時空管理局に頼もう。
我々兄弟は、近辺の異世界の捜索に当たるつもりだ。」
「分かりました。」

闇の書を初めとする地球での問題は、メビウスと時空管理局が変わらず引き受ける。
そして、近辺世界の捜索はウルトラ兄弟達が当たる事となった。
レッドキングやバードンといった自分達の世界の怪獣が、異世界に現れるようになってしまった。
このまま、怪獣達を野放しには出来ない……被害が及ぶ前に、自分達ウルトラ兄弟が怪獣を撃破する必要がある。
それに、恐らくヤプールは近辺世界のどこかに潜んでいるに違いない。
ヤプールの撃破の為にも、自分達がやらなければならないのだ。

「リンディさん達に、帰ったら伝えませんとね。」
「うん……じゃあ、ゾフィー兄さん。
ヒカリや兄さん達に、よろしくお願いします。」
「ああ……気をつけるんだぞ。」

その後、なのはが術を発動させ、この異世界から離脱した。
それを見届けると、ゾフィーも空高く飛び上がっていった。


宇宙警備隊と、時空管理局。
今この時……二つの組織は、手を組んだのだ。
平和の為、共に戦い合う仲間として……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よかったですね、ミライさん。」
「はい、ありがとうございます。」

数時間後、時空管理局本局。
帰還したなのは・ミライ・アルフの三人は、リンディ達と共に会議室にいた。
彼等はあの後、皆に異世界で起こった事の全てを説明した。
ヤプールが改造したと思われる怪獣が、異世界に解き放たれている事。
無事、ミライがゾフィーと再会できた事。
そして、ゾフィー達は今後異世界の捜索に当たってくれるという事。
話を聞き、リンディ達は大いに驚かされこそしたものの、全て承知した。
今回の事件は、かつてのPT事件とは比べ物にならない規模になっている。
宇宙警備隊の者達が協力してくれるというのは、願っても無いことであった。
直接会って話を出来なかったのが唯一残念ではあったが、目的は同じもの同士、いずれ再会は出来るだろう。
その後、リンディはフェイトの容態について説明を始めた。

「フェイトさんは、リンカーコアに大きな損傷を受けたけど……命に別状はないそうよ。」
「そうですか……よかったぁ。」
「そうですね……私と同じように、闇の書にリンカーコアを蒐集されちゃったんですね。」
「アースラが起動中でよかった。
御蔭で、なのはの時以上に素早く対処に回る事が出来たから。」
「だね……」
「……あの後、駐屯地中のシステムが全部、クラッキングでダウンしちゃって。
ごめんね……あたしの責任だ……!!」

エイミィは、今回の事件に対して深い責任を感じていた。
フェイトの救援を要請した後、何者かがハラオウン家中のシステムに侵入を仕掛けてきていたのだ。
その所為で、全てのシステムがダウン……一時的に、誰とも連絡が取れない状態になったのだ。
ミライ達が連絡を取る事が出来なかったのは、これが原因だった。
その後、エイミィは急いでシステムを復帰させ、本局への連絡を繋いだ。
丁度その時本局では、アースラの試運転の為にスタッフが大勢集まっていた為、迅速な対応を取る事が出来た。

「そんな、エイミィさんの責任じゃないですよ。」
「そうだよ……エイミィがすぐシステムを復帰させてくれた御蔭で、何とかなったんだしさ。
それに、仮面の男の映像だって何とか残せたわけだし……」
「けど……おかしいわね。
あのシステムは全部、本局で使われてるのと同じ物なのに……あんな頑丈なのに、外部から侵入できるのかしら?」
「そうなんですよ。
防壁も警報も素通りで、いきなりシステムをダウンさせるなんて……!!」

このクラッキングには、一つだけ腑に落ちないことがあった。
一体、どうやってあの厳重な防御を潜り抜け、システムを落としたのだろうか。
それも……一切の防御プログラムを、全く反応させずにという離れ業でである。
現在、防御システムはより強力なものへの組み換えを行っている。
再度の侵入だけは、どうあっても防がなくてはならない。

「それだけ、強力な技術者がいるってことですか?」
「組織立ってやってるのかもしれないね。
闇の書の守護騎士達か、仮面の男か、それともヤプールなのかは分からないけど……」
「タイミング的に、ヤプールの可能性が一番高いが……ミライさん、心当たりは?」
「あるにはあるんだ。
マケット怪獣っていって、怪獣のデータを実体化させて戦わせる技術なんだけど……
このマケット怪獣をネット上に出現させれば、ネットワークを侵略する事も可能なんだ。」
「怪獣のデータって……まあ、滅茶苦茶やばいウィルスってとこ?」
「そういうことになっちゃうね。
でも……これはGUYSのメテオールだから、ヤプールが持ってるとは思えないんだ。
もしかすると、僕みたいに体をデータ化させて、ネットワーク内に侵入できる超獣がいるのかもしれないけど……」
「体のデータ化……ミライ君って、そんなのまで出来るわけ?」
「はい、出来ますけど。」

さりげなく、かなり凄い能力について言ってのけた。
本当にウルトラマンというのは、人知を超えた力の持ち主である。
しかし、この話の御蔭で可能性は出てきた。
ヤプールによるクラッキングと考えるのが、現状では妥当な判断だろう。

「アレックス、アースラにはもう問題はないわよね?」
「はい、すぐに動かせます。」
「分かりました……予定より少し早いですけど、これよりアースラを司令部に戻します。
なのはさんは、御家の方も心配しているでしょうから、そろそろ帰らないとね。」
「あ、でも……」
「フェイトさんの事なら、大丈夫。
私達が見ているから……何かあったら、連絡するわ。」
「リンディさん……はい。」

駐屯地のシステムがクラッキングされるというアクシデントがあった以上、司令部はアースラに戻すのが妥当な判断である。
無論、それでフェイトの折角の学校生活を潰すという真似をするつもりはない。
出動待ちという形で、今まで通りの生活を送ってもらう予定である。
ミライも、彼女と同様の状態でいてもらおうと思う。
フェイトが回復するまでは少々時間もかかるだろうし、現状では彼が一番の戦力である。

「それじゃあ、私はこれで……」
『なのは、ちょっと待って。
少しだけ、話させてくれないかな?』
「あ……ユーノ君?」

なのはが帰還しようとした、その時だった。
無限書庫から回線を開き、ユーノが通信を入れてきたのだ。
彼がこうして連絡を入れてきたということは、闇の書についてなにかが判明したという事だろう。
なのはは足を止め、彼の話を聞くことにする。

「ユーノ、何か分かったんだな?」
『うん……ただ、分かったのは闇の書の事だけじゃないんだけどね。』
「え……ユーノ君、それってどういうことなの?」
『……ウルトラマンダイナの正体が、分かったんだ。
ミライさんの予想は当たってた……ダイナはやっぱり、異世界のウルトラマンだったんだ。』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「助けてもらったって事で……いいのよね……?」
「少なくとも、奴が闇の書の完成を望んでいる事は確かだ……」

同時刻、八神家。
ヴォルケンリッター達とアスカは、今日の事に関して話をしていた。
突如として戦いの場に乱入し、そして自分達を助けていった仮面の男。
彼に関しては、あまりに謎が多すぎる……一体、何が目的であんな真似をしているのだろうか。
唯一分かっているのは、闇の書の完成を望んでいるという事実だけなのだが……

「完成した闇の書を、利用しようとしているのかもしれんな。」
「ありえねぇ!!
だって、完成した闇の書を奪ったって、主以外じゃ使えないんじゃん!!」
「完成した時点で、主は絶対的な力を得る。
脅迫や洗脳に、効果があるはずも無いしな……」

完成後の闇の書を扱えるのは、唯一主であるはやてのみ。
他のものがそれを利用するというのは、どう考えても不可能なのだ。
ならば、何故仮面の男が自分達の手助けをするのか……それが、全く分からない。
皆が考え込むが……その時だった。
アスカが、ある可能性に気付いて口を開いた。

「……もしかしてさ。
あの仮面の男……俺達と同じように、はやてちゃんを助けたいって思ってるんじゃないのか?」
「あいつ等が?」
「まあ、それだったらどうしてはやてちゃんの事を知ってるんだって話にはなっちゃうけど……
あ、あくまでこれは、もしもそうだったらいいなって願望だから。
結局のところ、どんなつもりなのかは分からないし……やっぱ、警戒は必要だよな。」
「……一応、この家の周囲には厳重に魔力結界は張ってあるから、はやてちゃんに危害が及ぶ事はないと思うけど……」
「念の為、シャマルは主の側からなるべく離れないようにしておいた方が良いだろうな。」
「うん……」

兎に角、厳重注意する以外に今は手が無い。
はやての身に何も起こらないよう、自分達で精一杯守り抜かなければならない。
皆はこれまで以上に、一層気を引き締めて事態に当たろうと決意する。
しかし、そんな中……ヴィータが不意に、口を開いた。

「あのさ……闇の書が完成して、はやてが強力な力を得て……
それで、はやては幸せになれるんだよな?」
「どうした?」
「闇の書の主は、絶対的な力を得る。
私達守護騎士が、それは一番よく分かっているでしょう?」
「そうなんだけどさ……私はなんか、なんか大事な事を忘れてる気がするんだ。」
「大事な事って……ヴィータちゃん、どうしたのさ。
急にそんなこと言い出しちゃって……」
「……実を言うと、急にってわけでもないんだ。
ちょっと前から、こんな風に考えちゃってて……」
「ちょっと前から……いつ頃からだ?」
「あの、変な怪獣が現れた時から。
あの辺から、何か嫌な感じがしてさ……」
「怪獣……確かメビウスは、あれをヤプールだとか呼んでたけど……」

以前、結界を打ち破って現れた怪獣―――ミサイル超獣ベロクロン。
あの謎の生物の御蔭で、自分達は無事逃げ延びられた。
だが……あれが出現した頃から、ヴィータは何か違和感を感じていたのだ。
そう、ヤプールという名前を聞いた……あの時から。
自分達は、もしかしたら何か大切な事を忘れているんじゃないかと。

(ヤプール……何なんだろう。
前にも、どこかで聞いた事があったような……)

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最終更新:2007年11月21日 18:24