僕の力が誰かの役に立つなんて、思ってもみなかった。
人の心を否定する力……
悪魔によって与えられた、殺戮の為の力……。
だけど、僕はあの人達と出会えた。
初めて誰かを護りたいと思えた。
……初めて命を救いたいと思えた。
その気持ちに嘘は無い筈だ。

だが、それでも……
僕にはやらなきゃならない事がある。
倒さなければならない、敵がいる……!

宇宙の騎士リリカルなのはBLADE……
始まります。


八神家。ある朝の食卓。
今日のメニューは白米や目玉焼き等、和風の朝食だ。特に会話も無く、一同は黙々と箸を進めている。
数日前までは、もう少し明るい空気だったはずだ。それなのに、今ではどこか重たい空気となってしまっている。
そしてその原因となったのは、シンヤだ。ブレードに敗北したあの日から、シンヤは無口になってしまったのだ。
人間、ストレスが溜まると、その影響は普段の生活にも現れる。シンヤはその傾向が顕著に現れていると言えるだろう。
ブレードへのリベンジで頭が一杯なのだ。
そんな辛そうなシンヤを見兼ねたはやては、箸を止め、シンヤに話しかけた。
「シンヤ、最近元気無いけど……なんかあったん?」
「別に何も無いよ……」
「……なんか悩み事があるんなら、相談してくれてええねんで?シンヤも私らの家族やねんから……」
「ああ、分かってる……」
言うと同時に箸を置くシンヤ。自分の分の朝食を平らげたのだ。
シンヤは「ごちそうさま」と言いながら立ち上がると、そのままリビングを出た。自室へと戻ったのだろう。
シンヤが立ち去ったのを見届けたはやては、一同に質問した。
「シンヤ、なんかあったん……?」
「あの、その……えぇと、シンヤくんは……」
シャマルは何か適当に、はやてが心配しないような理由をつけて話を終わらせようとした。
だが思うように言葉が出ない。こんな時、なんて言えばいいのか……。
「何でもありません」
「……シグナム……?」
そんなシャマルをフォローしたのは、シグナムだった。
「シンヤは最近、ようやくやりたい事を見付けようです。色々と迷う事もあるのでしょう。そっとしておくのが得策かと」
「そ、そうよね……シンヤくんならきっと、またすぐに元気になってくれますよ」
シグナムに合わせ、シャマルも笑顔を作る。
「そうなん?それなら別にええけど……」
はやてはまた、朝食の続きに手を付け始めた。とりあえずは誤魔化せたらしい。
シャマルは小さく、ホッと息をついた。

それから、軽く1時間程度が経過していた。シンヤは赤いテッククリスタルを見つめながら、自室のベッドで寝そべっていた。
その時だった。ドアの向こうから、声が聞こえて来る。
「シンヤ、少しいいか?」
「シグナムか……入れよ」
相手はシグナムだ。シンヤの部屋のドアが開き、シグナムが入ってくる。
「何の用だい、シグナム……?」
「シンヤ……最近のお前は、挙動が不自然過ぎる。あまり主に心配をかけさせないで欲しい……」
ベッドに座り直したシンヤを見つめるシグナム。
「……分かってるさ……それでも……」
「ブレードか?」
「…………」
シグナムは、何かを言おうとしたシンヤを遮った。図星を突かれたシンヤは、黙ってシグナムを見つめる。
「ああ、そうさ……俺は、奴を越えない限り……前には進めない……!」
「……シンヤ……」
目をギラつかせ、テッククリスタルを握り締めるシンヤ。やはり兄・タカヤの話となると平常心ではいられない。
「シンヤ……どうしても、強くなりたいか……?」
「当たり前だ!俺は昔からずっと……兄さんを倒すのが目標だったんだ!それなのに……」
「……昔からだと?」
シンヤの言葉に、少し気になるポイントを見付けたシグナム。テッカマンになる以前からこの因縁は続いていたというのだろうか。
「兄さんは昔からそうだった……たった少しの差で、いつだって俺を置いて行く……!」
「…………」
「たった30分だ……たった30分、あいつの方が産まれるのが早かっただけで、俺はあいつを一生兄さんと呼ばなければならない!」
「双子……か……」
「だから俺は奴と戦うんだ!奴を追い越す為に……!」
シンヤは悲痛な表情で、声を荒げる。シグナムも、そこに立ったまま黙ってそれを聞く。
「………ならば私に付いてこい。お前ならば、強くなれるかもしれない……」
「何だと……?」
シンヤは、「どういうことだ?」という表情で、シグナムを見上げた。

第8話「見捨てられた世界」

ユーノは無限書庫で、数冊の本の中身を調べていた。
ユーノの下に緑の魔法陣が展開。周囲を数冊の本が浮かんでいる。現在検索中だ。
無限書庫は「世界の記憶を納めた場所」と呼ばれる程。管理局が今までに出会った世界の歴史の全てが詰まっている。
「…………」
「……それだけで本の中身が解っちゃうの?」
「え……まぁ、はい……」
リーゼロッテに問われたユーノは、顔を引き攣らせながら答えた。ユーノからすればリーゼ姉妹は少し苦手だ。
「それで……何か見付けた?」
「あ、はい……これは……」
ユーノは、眉間にしわを寄せた。どうやら、色々と驚くべき内容らしいが……。

一方、海鳴のハラオウン家。
「そっか、フェイトちゃん、ケータイ買って貰ったんだね」
「はい、さっきリンディさんに……♪」
リンディに携帯電話を買ってもらったばかりのフェイト。現在、なのはやエイミィと一緒に、晩御飯の食材を整理している。
「そういえば、そのリンディ艦長はもう出掛けちゃったの?」
「はい、アースラの武装追加が済んだから、試験航行だって……」
「武装追加っていうと……アルカンシェルかぁ…………
あんな物騒な物……最後まで使わずに済むといいんだけど……」
エイミィは、「ふぅ……」とため息をつきながら言った。
アルカンシェルとは。クロノ曰く、「闇の書を封印するための最終手段」らしい。それだけに物騒さのレベルもずば抜けている……らしい。
「でも、ハイコートボルテッカとかも充分物騒な気が……」
「あれはアルカンシェルよりも破壊力高い割に、周辺への被害がまだ少ないからね」
「ボ、ボルテッカで少ないって……」
冷や汗をかきながら、苦笑いするフェイト。ボルテッカよりも被害の規模が大きい兵器。まったく以て恐ろしい話だ。
「……ってそういえば、Dボゥイはどうしてるの?」
「Dボゥイなら、部屋で寝てますよ。体調が悪いみたい……」
「この前の戦闘くらいから、なんだか体が不調みたいだけど……大丈夫かな?」
Dボゥイを心配するなのはとフェイト。前回の戦闘から数日が経過したが、やはりDボゥイの体調はたまに崩れるらしい。
「そういえばDボゥイ、目眩がするとか言ってたね……」
エイミィも、買ってきた野菜を袋から出しながら呟いた。病院に連れて行こうにも、異世界人のDボゥイには保険証も住民標も無い。
ましてや、テッカマンであるDボゥイの体がちゃんと見て貰えるかが解らない。いざとなったら本局で治療を受けるしか無いのだ。
「とりあえず……クロノ君もいないですし、戻るまではエイミィさんが指揮代行だそうですよ?」
「責任重大~」
話を変えるなのは。子犬携帯で肉に噛り付いていたアルフも、茶化すように言った。
「それもまた物騒な……
ま、とは言えそうそう非常事態なんて起こる訳が……」
その時であった。
鳴り響くアラート。モニターに表示されるエマージェンシーの文字。一同は、アラートに合わせて光る赤いランプに照らされる。
「………………」
エイミィは、持っていたカボチャを、「ゴトッ」という音をたてて落とした。

一方、シンヤとシグナムは、とある辺境の世界に転移していた。
「……この世界は……」
目を見開くシンヤ。口はポカンと開かれている。目の前に広がるのは、余りにも信じられない光景だった。
「……ここは、原生生物の余りの凶暴さから、管理局すらも見捨ててしまった世界……」
「原生……生物……?」
「ああ。正確には、異世界からの使い……とでも言うべきか。」
つらつらと説明を始めるシグナム。
「数年前……異世界からやってきた奴らには、この世界のどんな兵器も通用しなかった。
そして奴らは、その圧倒的な戦力で、介入してきた管理局すらも凌駕した……」
「そんな…………」
わなわなと奮えるシンヤ。見渡す限り一面の荒野だ。だが、所々から、紫色の奇妙な樹が伸びている。
「奴らは、このままでは管理局すらも滅ぼされかねなかった……
そうなった管理局は、この管理外世界を……」
「…………?」
シグナムの顔を見るシンヤ。
「……記録から抹消し、無かった事にした……」
眉間にしわを寄せるシグナム。どうやら、シグナムも不満に思っているらしい。
手に追えない世界は管理外世界と指定する。それが管理局のやり方だと、シグナムはそう言うのだ。
「この世界は管理局にとっても忌むべき世界だ……恐らく、この世界の付近には近寄らないようにしているのだろう」
「そんな……じゃあ、シグナムは……」
「もちろん、こんな世界に近寄りたく無いのは、私とて同じ事だ
……だがシンヤ……お前はもう、他の世界の生物では満足出来ないだろう」
二人の目の前では、緑色をした巨大な虫のような生物が徘徊している。巨大生物も、こちらに気付いたらしく、ゆっくりと近付いて来る。
シグナムはシンヤを見つめた。「お前はどうする?」といった目付きだ。
「………………」
「もちろん、無理に戦えとは言わない。嫌なら帰っても構わんが……」
「ふざけるな!!」
「……ッ!?」
厳つい表情で、そう叫んだシンヤ。ポケットからテッククリスタルを取り出し、シグナムに見せる。
「こいつらは……ラダムだ!俺と同じラダムだ!!」
「なッ……何だとッ!?」
驚愕するシグナムの横で、シンヤはテッククリスタルを翳している。
「テェックセッターッ!!」
次の瞬間は、シンヤの姿は。赤と黒の悪魔へと変わっていた。エビルはそのまま動かずに、緑の生物-『ラダム獣』-を睨んだ。
10秒程時間を置いても、未だに動きを見せないエビル。痺れを切らしたシグナムは、騎士甲冑を装着、レヴァンティンを構えた。
「どうしたシンヤ、何故動かない!?」
「……ダメだッ!こいつら……言う事を聞かない……!」
ついに、シグナム達の元へと飛び込んできたラダム獣。二人は飛び上がって、それを回避する。どうやらシンヤは、ラダム獣達を支配下に置こうとしたらしい。
「どういうことだ、シンヤ!?」
「……こいつらはもう、俺の敵という事だ!!」
背中から赤いスラスターを噴射したエビル。次の瞬間には、1番近くにいたラダム獣に、両手に装着した短剣-ラムショルダー-を突き刺していた。
「そうか……ならば解りやすい!」
シグナムに襲い掛かる二匹目のラダム獣。それを回避し、レヴァンティンをシュランゲフォルムへとフォルムチェンジ。
ラダム獣へと長く伸びるレヴァンティンの連結刃。シグナムの、『シュランゲバイゼン・アングリフ』だ。
シグナムの連結刃は、ラダム獣を搦め捕り、巻き起こる砂塵と共に、敵を襲撃した。

一方、エイミィ達は試験航行の為出港したばかりのアースラに合流。
ヴォルケンリッターが現れたと思しき世界をモニターに写していた。
「文化レベルは……ゼロ。でも……なんだろう、この世界……こんな座標、見た事無いよ」
「あれ……シグナムと、エビル……」
未知の世界。そこにいるのは、シグナムとエビル。
「エビル……ッ!!」
性懲りもなくまた現れたエビル。Dボゥイは、モニターを睨みながら拳を握り締める。それを見たクロノは、Dボゥイに向き直った。
「Dボゥイ……君は休んでなくて大丈夫なのか?」
「俺は大丈夫だ……エビルが現れた以上、眠っている訳にはいかない!」
「……そう言うと思ってたよ」
フフッと微笑むクロノ。Dボゥイも、つられて軽い笑みを浮かべた。
一方で、エイミィは冷や汗をかきながら、パネルを叩いていた。
「まずいなぁ……座標が遠すぎる……
この分じゃ、結界を張れる局員が集合するまで、何時間掛かるかわかんないよ……」
「エイミィさん……私達が行きます……!」
エイミィの説明の通りだ。目標が遠すぎるらしい。焦るエイミィを安心させようと、フェイト達が一歩前へ出る。
「ううん……ダメなんだ……座標が遠すぎる上に、データベースにも無い未知の世界……
フェイトちゃん達だけを転送するのは、ちょっと厳しいよ……」
「ならばどうすればいいんだ!?」
エイミィに食いかかるDボゥイ。このままエビルを見逃せというのは、Dボゥイにとっては酷過ぎる。

……その時だった。艦長であるリンディが、口を開いた。
「なら、アースラごと行けばいいんじゃない?」
「な……艦長、それは……!?」
驚いたクロノは、「また何を言い出すんだこの人は」みたいな口調でリンディを見上げる。
「それに試験航行もまだ途中だし……
試験航行も兼ねて、その世界まで行けば、一石二鳥じゃない」
「まぁ確かにそれなら、行けない事も無いですけど……」
「けど、未知の世界に無断で接触すれば、後から上の奴らに何を言われるか解らない!」
声を荒げるクロノ。確かに言う事は正しい。無断で未知の世界に干渉するなど、間違いなく違反事項だ。
「それしか、方法は無いのか……?」
「うん、今思い付く限りでは、最善の方法だと思う」
「そうか……」
その言葉を聞いたDボゥイは、クロノへと歩み寄った。
「頼む、クロノ……俺は今、奴を見過ごす訳には行かないんだ!」
「Dボゥイ……」
クロノは、「はぁ……」と大きなため息をついた。もうこうなったら何を言っても無断だろう。
「分かったよ、Dボゥイ……」
「感謝する……!」
話は決まった。クロノ・なのは・フェイト・エイミィ……それからDボゥイの4人は、リンディを見詰めた。
「じゃあアースラ……未知の世界に向けて、発進しましょうか!」
「了解!」
リンディの号令と共に、エイミィは目標世界の座標の入力を始めた。

「ハァッ!!」
シグナムが、エビルが。次々とラダム獣を切り裂いてゆく。それにより少しずつ数を減らしてゆくラダム獣。
あと少しで殲滅だ。エビルがテックランサーを振り上げた、その時だった。
「ん……何だ?」
「動きが止まった……?」
さっきまで大暴れしていたラダム獣が、突然その動きを止めたのだ。戦いは終わったのか……?
否、まだ終わってはいない。
「シンヤ……後ろだ!!」
「……ッ!」
刹那、「ガキィン!」という金属音が響き渡った。エビルのテックランサーとぶつかり合う、もう一つのテックランサー。
相手は、エビルのよく知るテッカマンだ。
「ク……貴様ァ!!」
「エビル……そんな蟻と行動を共にするとは、ついにラダムの心を忘れたか!」
相手は薙刀状のテックランサーを、エビルのテックランサーとぶつけ、距離を取る。
「……3人目の……テッカマンだと……!?」
シグナムも、二人を眺めながら呟いた。シグナムの視界に映るのは、全体的に丸いフォルムをした、ベージュ色のテッカマン。
「忘れた訳じゃないさ……お前こそ、こんな世界で何をしている!?テッカマンランス!!」
エビルは、ベージュ色のテッカマン……『テッカマンランス』に、テックランサーを突き付けた。

………………
…………
……。
それから、数分後。
シグナムの前に立っているのは、シンヤと、紫の髪を後ろで束ねた青年だ。
青年の名はモロトフ。テッカマンランスの人間態だ。
「なるほど……つまりそこの蟻は人間では無いと……そう言うのか……エビル?」
「蟻だと……?」
モロトフに顎でしゃくられたシグナムは、顔をしかめながらモロトフを睨み付けた。
「そうだ……それに俺はラダムを裏切った訳では無い。お前こそ、こんな辺境の世界で何をしている……?」
問われたモロトフは、少し間を空けてから、話し始めた。
「……あの時、貴様と裏切り者ブレードのボルテッカはぶつかり合い……拡散した……」
ゆっくりと解説を始めるモロトフ。
「それは俺も覚えている。だが、オメガ様の艦にいた筈の貴様が、何故こんな場所にいるのかと聞いている!」
「フン……ボルテッカの光は、エビルが放ったPSYボルテッカにより、私達の元にまで迫って来たのだ……!」
「何……?」
少しばかり表情を緩めるシンヤ。
「そして気付けば私は、ラダム母艦に眠っていた大量のラダム獣の卵と共に、この世界に飛ばされていたのだ」
「ならば、ランス以外のテッカマンはどうした……!?」
「知る物か。この世界に飛ばされたのは私と……」
「…………?」
シンヤは何を言い出すのかと、モロトフの顔を見詰めた。
それにしても、このモロトフという男。しばらく見ないうちにシンヤに対する態度がでかくなっていないか……?
と言うのも、元々ラダムのテッカマンランスは自分こそが最強のテッカマンだと自称していた。
それ故に、ブレードを倒すという同じ目的を持ったエビルは、ランスからしてもライバル的な存在だったのだ。
だが、そのエビルはしばらくラダムから離れ、もはやラダム獣を操ることすらもできなくなってしまっている。
こうなってしまったエビルは、もはやランスの上官などでは無いのだ。

時間を少し戻して、視点をアースラへと変える。もうすぐで例の世界に到着するらしい。
だが、その前にDボゥイの目は。アースラのモニターに映るサーチャーに釘付けとなる。
モニターに映るのは、エビルと同じテッカマンと思しき熱源。
「これは……ランスかッ!?」
「ランス……?」
Dボゥイの言葉に反応したなのは。モニターを見詰めるDボゥイの顔を見上げる。
テッカマン同士は、お互いの感応派を感じる事ができるのだ。確証は無いが、これは恐らくDボゥイの知る、ランスの波長なのだろう。
「急いでくれ、ラダムのテッカマンが、もう一人いる!」
「はいはい、わーかってますって!言われなくても……アースラ、到着したよ!」
エイミィが、そう言い、パネルのボタンを一つ、弾くように押した。
同時にアースラブリッジの周囲の映像は、さっきまでの暗い宇宙のような景色から一変。一気に明るい世界が広がる。
「これは……」
「砂漠……っぽいね」
見渡す限りの砂漠。だが、所々で紫色の奇妙な樹がそそり立っている。
「この世界にも現れたのか、ラダム……!」
拳を握り締め、怒りに身を震わせるDボゥイ。なのは達もDボゥイに近寄る。
「これが……ラダム?」
Dボゥイは「そうだ……」と言いながら、リンディに向き直った。リンディにはもう、Dボゥイが何を言うのか解っていた。
「すぐに出撃させてくれ!」
「……わかりました。では、なのはさん達も一緒に……」
リンディが言葉を続けようとした、その時だった。

「ちょっと待ったぁーーー!!!」

ブリッジに響く大声。一同は、ビクッと驚き、振り向く。その声の主は……。
「ユーノくん……?」
「お前……直接アースラに飛んで来たのか……!?」
ユーノだ。ぜえぜえと肩で息をしながら、ブリッジの入口に立っている。
「ユーノ、無限書庫にいたんじゃないの?」
「そのことなんだけど……すぐ伝えなきゃって思って……!」
膝に手を付き、ハァハァと息を切らすユーノ。だが次の瞬間、ユーノは何者かに押され、尻餅をついていた。
「すまない、ユーノ!話は後にしてくれ……俺は行かなければならないんだ!」
言いながら転送ポートへと走ってゆくDボゥイ。ユーノは、壁に手を付いて、立ち上がりながら叫んだ。
「待って……ダメだDボゥイ!君はもう、戦っちゃダメなんだ!!」
ユーノは、力一杯叫んだ。Dボゥイに聞こえるように。Dボゥイが立ち止まるように。
だが、Dボゥイは止まらない。気付けば、既にDボゥイは姿を消していた。

「ユーノ……どういうことなんだ?」
「Dボゥイさんが戦っちゃいけないって……」
クロノとなのはが、ユーノに歩み寄る。ユーノはまだ少し、息を切らしながらも二人に向き直った。
「Dボゥイの体は……」
「皆、新たな熱源が、多数接近!!」
説明しようとするユーノ。だが、その声はエイミィの大声によって遮られてしまう。
モニターには、緑の虫のような生物……ラダム獣が、10匹ほど映されていた。
同時に、ペガスに乗ったブレードがラダム獣へと突撃していく映像が映される。
こうしてはいられない。フェイトはとなのはは、お互いの顔を見合わせた。
「なのは、私達も!」
「行こう、フェイトちゃん!」

「うぉおおおおおおおおッ!!!」
ペガスから飛び降りたブレードは、背中のスラスターを噴射しながらラダム獣へと突撃する。
「どけラダム!貴様らの相手をしている暇は無い!!」
テックランサーをワイヤーで飛ばし、シグナムのシュランゲバイゼンと同じような要領でラダム獣を絡めとる。
「ハァッ!!」
そしてそのままラダム獣を引き寄せ、もう片方のテックランサーで引き裂く!
「キシャアアアアアアアッ!!!」
「ペガァスッ!!」
苦しむラダム獣。Dボゥイはすかさずペガスを呼ぶ。
呼ばれたペガスは、地上を這い回るラダム獣へと、魔力でできたフォトンガトリングを乱射。
放たれたガトリングは、数匹のラダム獣を直撃し、激しい砂塵を巻き上げる。
恐らくそれほどの威力は無いのだろう。目眩まし程度の砲撃だ。

「サンダーブレイドッ!!」
『サンダーブレイド』
フェイトが放った無数の稲妻の短剣は、1匹ラダム獣に突き刺さる。
これもデバイスの強化により増えた、フェイトの新技。サンダーレイジの強化版だ。
「クキャアアアアアアアッ!!」
「ブレイク!」
次に、フェイトの声に合わせて、突き刺さった短剣が爆発。ラダム獣の体に電撃がほとばしり、見事に爆発。
流石に体内で爆発・放電されれば、ラダム獣と言えども一たまりも無い。

「レイジングハート……あれ行くよ!」
『All Light』
なのははレイジングハートを構え、ラダム獣へと向ける。
次の瞬間、レイジングハートの先端から、ピンク色の砲撃が放たれた。高濃度に圧縮された魔力は、ラダム獣を飲み込んだ!
「やったかな……?」
「まだだ!油断するな!」
「なっ……!?」
空から聞こえるブレードの声。なのはは、すぐに砂塵に視線を戻す。
その刹那、砂塵の中からラダム獣が放ったと思しき毒液がなのはに向かって飛んで来たのだ。
『プロテクション』
「うわっ……」
だが、毒液がなのはに届く事は無かった。間一髪で、レイジングハートにより張られた障壁に遮られたのだ。
障壁に当たった毒液は、「ジュワッ」と、何かが溶けるような音を立てて、地面に流れ落ちる。流石のなのはでも気持ち悪いと感じた。
「なのは、フェイト!奴らの目を狙え!」
「え……目!?」
ブレードが、彼方から叫ぶ。
ラダム獣は皆、いくつかの赤い単眼を有している。なのは達の知る生物で言うと、蜘蛛などに近い目だ。
なのはの砲撃ではラダムに決定打を与える事はできない。一方で、フェイトの攻撃は、威力はあるものの、なかなかクリーンヒットさせることができない。
ならば、なのはが動きを止め、フェイトがトドメを刺せばいい。二人はすぐにそれに気付いた。
「行くよ、フェイトちゃん!」
「わかった!」
なのははすぐにアクセルシューターを展開。それをラダム獣の単眼に向けて、たたき付けた。
「クキャアアアアアアアアアッ!?」
「今だ!」
『サンダーブレイド』
再び唱えられた魔法。雷の刃は、ラダムの装甲へと突き刺さる。突き刺さった刃は、フェイトの号令で爆発。また1匹、ラダム獣を撃破した。
サンダーブレイドによる内部からの破壊は、ラダム獣に対しても有効らしい。

二人は協力しながらラダム獣の数を減らしてゆく。ブレードもまた、テックランサーでラダム獣を斬り裂いてゆく。
どうやらブレードのテックランサーは、例えラダムの装甲であってもたやすく切り裂く威力があるらしい。
「エイミィ、エビルはどうしてる!?」
『それが……エビルももう一人も、もう消えちゃったみたい……』
「チッ……遅かったか!?」
嘆くブレード。その隙に、一瞬だがラダムから目を反らしてしまった。
次の瞬間、ラダム獣の爪がブレードへと振り下ろされる。
「ぐあッ!?」
「キシャアアッ!!」
ラダム獣の爪により、地面にたたき付けられたブレード。ラダムは、さらにトドメを刺すべく爪を振り上げる。
その時であった。ブレードに爪を振り下ろそうとしていたラダム獣の頭が吹き飛んだのだ。
それによりラダム獣の爪は、予想していた軌道を大きく逸れ、ブレードの横に突き刺さる。
「……フンッ!」
ブレードは自分に覆いかぶさっていたラダム獣を蹴り上げ、ラダム獣の頭を吹き飛ばした砲撃の出所に視線を送った。

「あれは……?」
「人間……かな?」
一方で、なのはとフェイトが交戦していたラダム獣達も、彼方から飛んで来た砲撃に苦しんでいる。
そして、こちらに向かって走ってくる何人かの人間。後ろからついて来るのは巨大なトレーラー。その上に乗った人間達が、前を走る人々を援護している。
前方を走る隊長格の人間が放つライフルの弾丸は、なのは達ですらダメージを与えられなかったラダムの装甲を傷付けていく。
「凄い……あの人達……!」
「でも……なんで!?」
なのはもフェイトも、その人々の行動が不可解だった。バリアジャケットを装着している訳でも無いのに、ほぼ生身でラダムに立ち向かって行くのだ。
そんな中、隊長格と思しき人間が、大きな声で叫んだ。
「死ぬんじゃねぇぞ、野郎共!この戦いが終わったら、上物のウイスキーを御馳走してやるからよ!」
その言葉に、一同の士気はさらに増す。

「本当に凄い……ラダムの数が、一気に減っていく……!」
フェイトも、サンダーブレイドの雨を降らしながら嬉々とした表情で呟いた。
増え続けたラダム獣も、残り僅かとなり、残ったラダム獣は本能で撤退しようとする。
地を這うラダム獣のは大半は撃破され、翼の生えたラダム獣は、空に帰ろうとする。
だが、そんなことを許すブレードでは無い。
「逃がすかッ!」
次の瞬間、ブレードの瞳は光り輝き、両肩の装甲が大きく開いていた。
そして、そこから放たれるのはエメラルド色の閃光……ボルテッカだ!
「ボルテッカァーーーッ!」
地上でボルテッカを放つブレード。そこから宇宙に向かって、美しく煌めくエメラルド色の柱がそそり立った。
もちろん、空のラダム獣も一匹残らず消滅だ。

「はぁ……はぁ……」
ボルテッカを放ったブレードは、その姿を人間の姿……Dボゥイの姿へと戻した。
「Dボゥイ……!」
「大丈夫……!?」
元々体調が優れなかったというのに、これだけ戦ったとあれば、さすがのDボゥイでもただでは済まない筈だ。なのは達は、すぐにDボゥイに近寄った。
フラつくDボゥイは、そのままバランスを崩す。なのはは直ぐにDボゥイの後ろに回り込み、Dボゥイの体を支えた。
「Dボゥイ……無理するからだよ……」
「なのは……」
なのはの名を呼び、軽い笑顔を作るDボゥイ。なのははそんなDボゥイを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
だが、なのは達は知らなかった。ライフルを抱えた男達が、そんな二人を冷たい視線で見つめていたということを。
それから数分、ラダム獣を殲滅したなのは達は、男達の隊長格を一人。アースラへと案内した。

リンディは、男から大体の話を聞いた。彼らは、ラダム進攻によって半分以上を滅ぼされた人間の生き残りで結成されたレジスタンスらしい。
「……つまり貴方達は、残った戦力でラダム獣達への抵抗を続けていた……ってことでいいのね?」
「ま、そんな所だ。別品の艦長さん……俺の名はバーナード……バーナード・オトゥール軍曹だ。」
左目を失った、体格のいい男-バーナード-が、リンディにそう名乗った。
「私はリンディ・ハラオウン……この戦艦、アースラの艦長です」
リンディも名を名乗る。現在アースラは、この砂漠地帯にぽつんと浮かんでいる状態だ。
だが、アースラはエビルとヴォルケンリッターを追って来ただけに過ぎない。残念ながら、アースラスタッフ一同が彼らと行動を共にする事は無い。
「それで……貴方達は、これからどうするのかしら?」
「俺達はこれから、この先のレジスタンスの基地で合流する。軍の最新兵器とやらを受領するためにな」
「最新兵器……?」
軽く首を傾げるリンディ。
「ああ、そうだ……ま、お前らにゃ関係無い話だがな」
「……そうね」
リンディは少し俯きながら、ため息をついた。バーナード達を助けたいのは山々だが、そもそもこの世界には無断で来ているのだ。
そこまでお節介を焼くことは出来ない。
「ま、俺は最初っからアンタ達を信用してねぇけどな……ましてや、テッカマンの坊やと一緒にいるなんざ、問題外だ」
「ちょっと……それ、どう言う事ですか……?」
後ろでバーナードの話を聞いていたフェイトが、一歩前へ出る。その後ろにはなのはやユーノ、Dボゥイ達も揃っている。
ユーノだけは何故かチラチラと心配そうにDボゥイを見ているが。
「嬢ちゃん……俺達人類はな、そこにいるテッカマン達に滅ぼされたんだよ……!」
「「「な……っ!?」」」
この言葉には、さすがにアースラスタッフの一同も驚いた。確かにエビルがテッカマンである以上、同じテッカマンであるDボゥイもラダムという可能性はある。
それは「30分以上の戦闘でラダムに心を支配される」ということからも推測出来るだろう。
「でも、Dボゥイは違います……!Dボゥイは人間です!」
「どうだろうな……俺はその坊やも、お前達も信用しちゃいねぇんだよ」
残った右目でなのはを睨むバーナード。左目が無くなっている為に、右でしか睨めないのは、やはり痛々しい。
「お前ら管理局は俺達を見捨て、尻尾を巻いて逃げ出した……忘れたとは言わせねぇぜ……?」
「ちょっと待ってくれ、僕達が君達を見捨てたって……どういうことだ?」
一歩前へ出るクロノ。
「ケッ……知らねぇなら知る必要はねぇ……
……もう話す事もねぇだろ」
「俺は帰らせて貰うぜ」と、バーナードはきびすを返した。
もはや何も言う事は無かった。黙って転送ポートへと歩いてゆくバーナード。
「あの……そろそろ僕の話を……」
「艦長ッ!!」
話は終わったと思ったユーノは、皆に聞こえるように口を開く……が、またしてもエイミィにより遮られてしまう。
ユーノは、「あの……大事な話が……」ともう一度声を出すが、やはり遮られる事に。
「12時の方向から、急速接近してくる熱源を確認!!」
「12時って……正面から!?」
「間違い無いのか!?」
「……はい!凄い速度……もうすぐ黙視できる範囲に入られます!」
リンディとクロノに状況を説明するエイミィ。一同、何が起こっているのかさっぱりわからない。
そんな中、帰りかけたバーナードが再びブリッジへと歩を戻す。
「おいおい、冗談じゃねぇ……!こいつは……」
「……テッカマンだ!」
バーナードに続いて、Dボゥイが叫んだ。
そして、次の瞬間。
アースラの目の前にいるのは緑色をした、まさしくテッカマンだ。

「久しぶりだな、タカヤ坊……いや、裏切り者ブレード!!」
「ゴダード……いや、テッカマンアックス!!」
アースラの中で、Dボゥイは拳を握り締めた。
相手はラダムの、テッカマンアックス。緑の甲冑のような装甲を身に纏った、Dボゥイの敵だ。
「残念だが、ここでお別れだ……さらばだブレード!」
そして、両腕を広げるアックス。胸から赤い光を吸い込み始める。どうやら、早速アースラを潰しに来たらしい。
「まずいぞ、艦長!ゴダード……いや、アックスはボルテッカを放つつもりだ!」
「なんですって!?」
「アックスはボルテッカのチャージが遅い!この隙に、離脱するんだ!早く!」
「それは無理だよ!今からじゃ、空間転移も、旋回も間に合わない!」
エイミィの言葉に、一同の顔は真っ青なる。ここで終わりだというのか……?
そんなこと、悔し過ぎる。まだブレードはテッカマンを滅ぼしていない。ラダムへの復讐を成し遂げていない。
Dボゥイは、力の限り叫んだ。
「クッ……やめろぉーーーーッ!ゴダードォォーーーーーーッッ!!!」

「さらばだ!喰らえ……ブレェードォォォ!!!」
だが、Dボゥイの願いがアックスに届く事は無かった。アックスの胸には既に、発射寸前にまで反物質粒子が吸収されていたのだ。
アックスのボルテッカはチャージが長いだけに、密度が濃い。つまり、それだけ威力が高いのだ。
こんな物を受ければ、アースラはもちろん、アースラの周囲は纏めて吹き飛んでしまう。
だが、そんな事など、アックスの知った事では無い。
そしてアックスは。大きく胸を大きく反らせた。
「……ッ!?」
その刹那、アースラのブリッジ内は、眩ゆい反物質の光に照らされた。
アックスから放たれた赤い閃光-ボルテッカ-は、アースラを丸ごと飲み込んだのだ。
「ボルテッカァァァーーーーーーーッ!!!」
その威力は凄まじい物だ。アースラ諸共、アースラの周囲の全ての物質は、アックスの放った反物質の輝きに飲み込まれた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年12月29日 18:49