OSGS
第一話「いつか、来るべきときのために(前編)」
※今回のザブトン十枚のキーワードは「黒い白虎ブラグ」です。皆さんはりきっていきましょう。おっさん&マイナーキャラ同士の会話から初めていいのかな……?


――レイカー・ランドルフ

 第187管理外世界。
 連邦軍極東支部司令官レイカー・ランドルフは、ラングレー基地の司令官ケネス・ギャレットと、通信を行っていた。レイカー横には副指令サカエ・タカナカが控えている。
 極東――伊豆基地の地下、レイカーのデスクで腹芸が展開されていた。

「では、このたびのEOTI機関の武装テロ、さらに格納されていた量産型ヴァルシオンは、おまえの預かりしらんところなのだな」
「当然だ。だれが好き好んで犯罪者など囲むものか」
「……」

 レイカーは、モニターをにらみつける。その先、ケネスの顔には、なんの感情も浮かんでいない。だが――サングラスの向こうの目はせわしなく動き、頭髪のない頭には、粒の汗が噴出していた。明らかに様子がおかしかった。

「だが、取引といこうか」
「取引? ふん。こちらはなんの関係もないと表明しているのにか?」
「ああ。そちらが協力を要請していたイスルギ重工の社員はすでにとらえてある。金の動きもな」
「……なにが望みだ」
「そちらに預けているATXチーム――。今度ミッドチルダ地上本部で新たに創設される部隊に出向としたい」
「なに? なぜだ」
「お前と同じだ。政治的観点からな」

 この手の人種は、金や地位に関するところに同意を入れる。レイカーが使ったのはそこだ。地球権防衛――否、時空圏防衛の手段をまじめに伝えるよりも、相手の土俵で居たほうが手っ取り早い。

「ふん。貴様も俗物か。地上本部からの要請だろうが……」
「なんとでもいえ。だが悪い取引ではあるまい。今後一切、この事件には触れん」
「いいだろう。こちらもあの扱い憎い隊員たちに辟易していたところだ」
「……では了承でいいのだな」
「手続きはそちらでしろ」
「了解だ。では、ケネス。息災でな」

 通信をきる。傍にいたサカエにうなづき、サカエはさらに別の通信を確保する。暗号通信。さらに厳重に。通信は異世界へとつながっていく。

 モニターに通信相手の顔が大写しになった。三人だ。
 壮年の男が二人。もう一人は蜂蜜色の髪を流した女性。
 レイカーは円卓を囲む彼らに――古の騎士を思い出した。

「とりあえず戦力は確保したぞ。しかし、わたしたちがこんな会話をしていることを知れば、部下はどんな会話をするだろうか。ビアン、マイヤー、騎士カリム――」

 卓を囲む彼らはおのおのにうなづいた。

 数日後、ATXチームに辞令が下った。

『キョウスケ・ナンブ以下ATXチームは、時空管理局本局遺失物管理部、陸士部隊「機動六課」への出向を命じる。』


――キョウスケ・ナンブ


 ATXチーム隊長、キョウスケ・ナンブは、
輸送機レイディバードをあやつるヴァイスとその相棒「ストームレイダー」の後ろの座席で、何度も読み返した資料に、
再び目をとおしていたところだった。
 日はまだ明るい。
 座席に放り出してあるDコンを見ればまだ十時を回ったばかりだった。
 EOTI機関の急進勢力がおこしたテロ事件を、辛くも解決したATXチームを待っていたのは急な出向命令だった。
 ATXチームは今朝早く、復興されたミッドチルダ北部の臨海空港に到着、迎えのヴァイス陸曹、アルト二等陸士と合流した。

(どうにも手持ちぶさ……だが)

 何度も読み返した出向先の資料に、再び目を通す。
 まだ少女、といっても過言ではない年齢の女性の顔写真が、資料とともに添付されていた。

(部隊長、八神はやて二等陸佐を筆頭に、戦技教導隊から高町なのは一等空尉……
時空管理局本局の執務官、フェイト・T・ハラオウン……。魔導師に疎い俺やエクセレンですら名前を知っている魔導師が、二人も出向している部隊、か。ハガネ隊やヒリュウ隊に居た俺たちが言えることではないが……)

 異様な戦力の充実ぶり。ロストロギアの危険性は身をもって知っているキョウスケだったが、この編成には違和感をもっていた。
 まるでもっと巨大ななにかを――少なくとも古代遺失物『レリック』専門の部隊ではない気がしてならない。

(エアロゲイター、というのも考えられるが。L5戦役から半年間、ヤツらはなにも動きを見せていない……となれば)

「あ~っと。キョウスケ中尉」

 キョウスケは資料から目を離した。
 正面をみると、苦笑しながらこちらを振り向いているヴァイスがいた。

「何度か、お呼びしたっす」
「……すまん」

 資料に集中しすぎたようだった。
 ヴァイスは別段気分を害した様子もなく外を指差した。
 いままで眼下の森の緑と、切り立った崖くらいしかなかったが、じょじょに人の手が加わった光景にかわってきている。民家や集落がちらほらと見えはじめた。
 クラナガンを挟んだ位置にある空港と六課隊舎は、移動するにあたり、かなりの迂回をしなければならない。クラナガン上空では、大型輸送機の飛行は認められていないからだ。

「もうちょいで、ミッドの首都クラナガン周辺っす。そろそろ気流に入るんで、エクセレン少尉を呼んでいただけます? キャビンにいるほうが安全ですから。俺はアルトに」
「了解」

 まだ操作に慣れないパネルを開き、格納庫でヴァイスリッターの調整をしているエクセレンに通信を繋いだ。

「エクセレン――なにをしてる」
「ぎやぁ!!」

 すさまじい悲鳴を上げながら、エクセレンがのけぞった。

(もう少しマシな悲鳴はあげられんものか)

 キョウスケは心のなかで思う。
 ATXチームの暫定副隊長エクセレン・ブロウニングは胸を抑えながら、大きく深呼吸をする。

「……落ち着いたか?」
「もう、キョウスケ。いきなり顔出されたらびっくりするじゃない。わたしのリンカーコアがばっくばくに……」

 どうやらいきなり目の前にパネルが開いたらしい。
 驚くエクセレンの背景は、ヴァイスリッターのコクピット。

「あの、リンカーコアの使い方が全般的にまちがってるような……?」
「なんだ。そこにいたのか、アルト」

 あらたなパネルがキョウスケの前に開き、苦笑した少女とヴァイスが映し出される。
 控えめにツッコみを入れたのは、調整を手伝っていたアルトらしい。
 小柄なアルトはエクセレンと並びあって、コクピットに身体を入れている。

(やはり若いな。管理局の局員は……)

 時空管理局とキョウスケとエクセレンの属する連邦軍は、協力体制にあるが、さまざまな部分でちがいがある。年齢もその一つだ。
 キョウスケは口元をゆがめながら、エクセレンに言った。

「ふっ。若いほどリンカーコアの修復ははやいそうだ。早く修復しろ」
「う……微妙にきっついこと言ってない?」
「六課の平均年齢にくらべただけだ。ヒリュウやハガネの隊員よりも若い。おまえが最年長ではないのか?」
「――ここから操縦席打ち抜いちゃおうかしら。こう、ばっきゅ~ん」
「……」

 キョウスケは口をつぐむ。
 エクセレンのこめかみに浮かんだ青筋を見て、ヴァイスがあわてて口を挟んだ。 

「ま、まあまあ。子守、おつかれさまっした。エクセ姐さん」
「アルトちゃんは夜泣きもしないでい~い子だったわよ。ただ、小学校の男子トイレの話はちょっと引――」
「うわあああああ!!? ちょ、どうしていきなりバラそうとしてるんですか!?」

 アルトが悲鳴を上げながらエクセレンの口をふさぐ。

「む、むぐむぐ。だってヴァイス君は知ってるんでしょ?」
「キョウスケ中尉がいますって!」
「大丈夫。キョウスケは私以外の女性には興味ないから。てかほんとに苦し――。落ちるって! 降参!」

 狭いコクピットのなか、必死にタップをいれるエクセレンの様子を見てキョウスケはため息をつく。ヴァイスも同様のようだ。

「というか、アルト。お前は自分の恥を自分から漏らしすぎだっての……」

 ヴァイスもため息まじりに言う。
 興奮しているアルトをなだめながら、エクセレンが言った。

「まあそれは置いておいて。で、アルトちゃん。クエスチョンは解決できた?」

 荒い息をととのえ、やっと落ち着いたと見えるアルトがエクセレンにうなずく。

「はい。TC-OSまわりのことだったんですけど、もう大丈夫です。これでATXチームの機体整備、参加できそうです」
「そう。ブロウニング先生の蜂蜜授業もまんざらじゃないってことね。次のコース、体験しとく?」
「つ、次のコースっていうと……?」
「組み技から寝技、立技から寝技、射撃から寝技? あとはカイ少佐直伝のダンディな押さえこみ込みから、貫け、マグナ~ム?」
「マ、マグナム……?」
「ゲシュペンストのモーションセレクトまわりの事だろうがな。あとにしろ」

 何を考えたのか、顔を真っ赤に染めたアルトと、絶好のからかい相手を見つけたエクセレンの会話を強引に打ち切る。エクセレンのスキンシップは一度はじまると長い。ブリットがいない分、他にちょっかいが行っているのだ。
 そのちょっかいの対象――アルトが小首を傾げた。

「ってヴァイス陸曹? 操縦中のパネルは原則禁止じゃあ」
「それはヘリの話だ。ここまではほとんどオートパイロットだし、ストームレイダーが細かい調整をやってくれっから、俺は座ってるだけだ。だがそろそろ腕の見せ所だな。輸送機のライセンスにも挑戦すんだろ? 見せてやるから戻って来い」
「あ、もうクラナガン付近ですか?」

 パネルのむこうでヴァイスがそうだ、と頷いてみせる。
 キョウスケはレイディバードのゆれの種類が、さきほどとは違ってきているのに気がついた。身体で感じるほどはっきりとゆれている。

「とりあえず、二人ともこっちに戻れ。そろそろ気流がはげしくなるらしい。コクピットに頭をぶつけたいなら別だが」
「あら、ざんねん。じゃあ、そろそろ戻りますか。アルトちゃん。初心者の落とし穴には気をつけてね」

 コクピットから出ようとしていたアルトの動きが止まった。

「落とし穴ですか?」
「そう。ちゃ~んとリフトに足をかけないと、地面まで一直線だから。五階建てビルの屋上くらいの高さはあるからね。冗談じゃなくて真っ赤なアルト。縁起わるいわよ~」

 キョウスケは眉をひそめた。

(俺はその赤いアルトに乗ってるんだが……。さっきのことを根に持っているのか?)

 現在オーバーホールに回している愛機を思い出した。
 修理に出したときは青の夜間迷彩で塗装されていた愛機――アルトアイゼン。

「気をつけます……」
 アルトがリフトの向こう側を見ながら言った。
「じゃあ、こっちはゆっくり、慎重にいくから。まっててね、ダーリ――」

 通信を強引にうち切り、キョウスケは手元の資料に視線をもどした。
 ヴァイスの押し殺した笑いが響いた。

「ヴァイス陸曹」
「いや、ほんと面白いコンビっすね。まだ初対面から二時間も経ってませんが」
「……不本意だ」
「この分だともう一人のパイロットのほうも期待できますね。たしかブルックリン・ラックフィールド曹長?」
「ブリット。アサルト3だ。前の任務でヒュッケバインmkⅡが大破していなければ、今日に間にあったのだが。アルトアイゼンも含めてオーバーホール中だ」
「アルトアイゼンに、ヒュッケバインmkⅡっすか。俺も含めて整備班の連中は楽しみにしてましたっけ」
「向こうのローテーションがやや過剰だった。機体の磨耗も不安だったが――」

 それに加えて、ヴァイスリッターのオクスタンランチャーも修理に出されたままだ。エクセレンがやっていた調整は代わりに持ってきた武装まわりのセッティングだ。

「そういえばその任務って先日の――EOTI機関急進派のテロ事件っすか」
「なぜ知ってる」

 キョウスケは資料から目を離す。
 報道はされたものの、すぐに管制がひかれ後続情報はほとんどなかったはずだ。
 ヴァイスは再び苦笑しながらこちらを振り向く。いやいや、報道じゃないっすよ、と手を振りながら。

「現場で会いませんでした? 鉄槌の騎士ヴィータって、スターズ分隊の副隊長っすよ。たしか『おっさん』少佐の応援部隊と一緒に出たって」

 キョウスケの脳裏に、鉄槌を掲げながら、リオンやガーリオンを叩き落していく赤い騎士の姿が浮かんだ。

「……思い出した。彼女がそうか。ロクに名乗る暇もなかったが、印象には残っている」
「まあ、ある意味かなり目立ちますからね。ヴィータ副隊長。それを言ったらウチの隊長、副隊長は有名人ばっかりですか」
「……」

 戦闘機以上の機動力をもつリオンやガーリオンに、いとも簡単に追随し、いとも簡単に装甲をぶち抜く。
 それでいて死者は一人もだしていない。キョウスケがL5戦役中にであった魔導師に、そんな芸当をできる人間はいなかった。
 資料のページをめくると、たしかに見覚えのある赤毛の少女の写真があった。
 赤い衣装――騎士甲冑の印象が強かったせいか、局員制服の彼女にキョウスケはいまのいままで気がつけなかった。

「特機につっこんだ馬鹿がいた……と、副隊長が言っていましたが……マジだったんすね」
「……」

 特機、量産型ヴァルシオンを一人で相手にし、帰還したキョウスケは思わず閉口した。

「で、キョウスケ中尉の代車があのゲシュペンストってわけですか。でも、やっぱり、愛機が恋しいっすか」
「まあ……な。愛機といえば、ヴァイス陸曹はヘリのライセンスも取得しているのか?」
「ええ。というかヘリが本業っすね。新人は陸戦魔導師ばっかりで――。アルトが輸送機ライセンスとるまでは、ヘリもお預けっすか。俺くらいしか輸送機扱えるのいませんし」

「そうか。だが、わざわざ迎えをだしてくれているとは思わなかった」
「八神部隊長直接のご指示ですんで。それにタイミングとしては丁度よかったんすよ。六課の隊舎の備品や、もろもろもレイディバードの格納庫の隅に置いてあるっす」

「……あの着せ替え人形用の机もそうか」

「あれはなんていうか、まあ備品には間違いないんすけど。ウチの上司の趣味です。ミッド出身じゃないなら驚きますよ――っと。そろそろか、ストームレイダー」

『はい。この先に乱流が。最短ルートですが、山脈を越えた冷たい風が吹きつけています。加えて、三時方向の切り立った崖と谷の凹凸が流れを返しますので、このあたりの気流は不安定になりがちです』

 インテリジェントデバイス・ストームレイダーの音声とほぼ同時に機体がすこし揺れる。
 外の風景の印象はかわっていないものの、気流は確実に乱れているようだ。

「お待たせ~」

 キョウスケの背後の扉がスライドした。
 当然のようにキョウスケのとなりにエクセレンが座り、アルトは操縦席のとなりにはアルトが座る。アルトは心なしかぐったりとしていた。
 ここまで来るまでにエクセレンにからかわれてきたのだろう。

「エクセレン……あまりからかってやるな」
「あ~……だってほら、ブリット君いないし」
「じゃあテスラ研に通信でも送っておけ」
「無理無理。きっと山奥で素振りでもしてて、通信なんて返す暇ないでしょ」
「……ヤツらしいがな」

 エクセレンはすばやくベルトを締める――同時――アラートが鳴り響いた。


「!」

 パネルに表示されたアラートに、アルトがすばやく対応した。手早くヘッドセッドを頭にかぶせる。

「ヴァイス陸曹!」
「わぁってる。シャーリー! どうなってる!

「陸曹! いまどこにいらっしゃいますか!?」

 大型のパネルがうきあがり、ブラインドタッチで情報をいち早く把握しようとするシャリオが画面に浮かぶ。

「いまか? 隊舎の北西――十キロってところか。ストームレイダー! 位置情報を転送してくれ」
「位置確認しました。その位置なら――間に合うかも! 陸曹、その位置から十時の方向で戦闘が発生しています。アーマードモジュールとイスルギ重工製の最新鋭実験機の戦闘です!」
「は? んな話きいてねえぞ。大体フライトプランは通ったはずだろ」
「本来はもうすこし西で行われるはずだったんですが、所属不明のアーマードモジュールと戦闘状態に陥り、戦線がながれてきたみたいです。このままじゃ……」

 ヴァイスとシャーリーが情報を交換している間に、アルトは自分の前に開いたパネルでマップを引き出していた。シャーリーが纏めたデータをマップに反映させる。

「この位置……」
「隊舎のすぐ近くね。このまま戦線が流れると、間違いなく……まずいわね」

 シートベルトをはずし、アルトの開いたパネルに身をのりだしながら、エクセレンが小さく舌打ちする。
 キョウスケはちらりとモニターを見る。現場はレイディバードの速力ならものの五分といったところか。

「おまたせや!!」

 パネルの向こうで声が響いた。

「モニターと資料こっちまわして。グリフィス君はシグナム隊長に連絡! 準備できしだい出てもらって」
「八神部隊長!」

 シャリオの顔が輝く。

「いまヴァイス陸曹のレイディバードがこちらに向かっています!ATXチームのお二人も一緒です。通信ひらきます」
「了解や。キョウスケ中尉、エクセレン少尉」

 画面が切り替わる。大きな瞳と髪留めが印象的な少女が大写しになった。

「はっ」

 パネルに大写しになった部隊長に、キョウスケとエクセレンは敬礼する。

「私服のままで失礼します。連邦軍ATXチーム隊長。キョウスケ・ナンブ中尉、副隊長エクセレン・ブロウニング少尉です。本日づけで機動六課に出向となりました」

 はやては頷く。

「よろしくな。機動六課課長兼部隊長八神はやてです。
 出向そうそう、まだロクに挨拶もできてへん状態で申し訳ないんやけど……出撃、たのめるか?
 こっちからはライトニング副隊長、シグナムに出てもらう。ほかの分隊長は出払ってるし、地上の武装隊にも応援は要請したんやけど、いつもどおりの到着になると思う」
「応援はない、と?」
「そう考えてもらってかまわへん。ちなみにウチの周りの部隊も合同演習中や――」
「了解です」
「では、シグナム副隊長と合流するまで、そっちの指揮をおねがいします。あ、コールサインと小隊はそのまま、キョウスケ中尉がアサルト1、エクセレン少尉はアサルト2。それから暫定的ですけど二人をそれぞれ、一等陸尉、二等陸尉とします」
「わお……もしかしたら出世じゃない?」

 緊張感のない発言にアルトとヴァイスが目を見開いた。

「エクセ姐さん! んなこと言ってる場合じゃないですって。コイツをぶっ飛ばせばすぐに作戦領域っすから! ゲシュペンストmkⅡとヴァイスリッターの立ち上げ、お願いします」

 レイディバードの機首の向きを変更しながら、ヴァイスが叫ぶ。

「ま、パーティに遅れたくはないわよね。キョウスケ」
「ああ。では、レイディバードは俺たちをおろした後に待避。指示を待て」

 パイロットスーツを着ている暇は無い。
 私服のままで狭い通路を進み、薄暗い格納庫に踏み込んだ。

 二機のパーソナルトルーパーが直立で立っている。
 青の装甲のPT量産型ゲシュペンストmkⅡと白の装甲を持つヴァイスリッター。

 キャットウォークリフトでハッチに移動し、ハッチを開けて、閉める。
 リンカーコアによる個体認証がおわり、ゲシュペンストに火が入る。
 隣のヴァイスリッターから通信が入る。

「ハイブリットアーマーに、メガブースター……それにあの武装。mkⅡナンブカスタムが洒落になってないわよ」
「アルトとおなじように使えはせんだろうが多少はマシなはずだ。チューンする暇もなかった」
「それはこっちも。ブーステッドライフルとスラッシュ・リッパー。まだ調整が完璧じゃないのよねぇ」
「不安要素はあるが出ないわけにはいかん。着任早々に拠点を失うのはもう真っ平だ」

 キョウスケの声色にかわりはなかった、が。僅かににじんだ悔しさを感じ取ったのか、エクセレンの表情が神妙なものになった。

「昔のラングレー……か。そうね。六課には、面白い子も多いみたいだし、任務のあとにお楽しみってことで」
「……」
「ちょ、ちょっと。べつに局員全員、からかい倒そうってわけじゃないわよ」
「スキンシップはおまえの担当だ。四の五のは言わん」
「な~んか、ひっかかる言い方だけど」
「おまえは機動六課をどう思う」
「どう、って……もうちょっと肩の力ぬいてもいいんじゃない?
 たしかにどこか裏がありそうだし、魔導師隊とPT隊の同時運用はめずらしいケース。
 でも、それも一年の期限をつけられた実験部隊ならではのテストケース、なら納得できない?」
「それならばもっと早くから出向要請が来てもおかしくない。急すぎないか?」
「そりゃそうなんだけどね……おっと。アルトちゃん、そろそろ出れる?」

 ゲシュペンストとヴァイスリッターの動力が安定する。
 画面に映ったアルトがエクセレンに応える。

「そろそろ……はい。カタパルト開きます!」

 レイディバードの簡易カタパルトが開き、外の光景があらわになった。

(部隊がすべて演習中のタイミングというのも解せん……。ここでなにが出てくる?)

――W17



「ベルカの騎士を相手にするには――ん? なんの言語モードだ」
「トラブルか? W17」
「いや、任務には支障ない。言語野のバグだろう。自己診断システムの上では異常はない」
「了解。戦闘を続行する」

 機密通信が途切れると同時に、W17が搭乗する機体の足元がえぐれてはじけた。
 敵機――戦闘機に四肢を追加した形状のが上空を旋廻しながら胸部に取り付けられたマシンキャノンを連射する。
 通常の戦闘機では自殺行為ともとれるほぼ垂直に近い動力降下も、重力慣性制御機関テスラドライブの恩恵によって、当たり前のようにリカバリーできる。減速をほとんど加えないまま地表のぎりぎりまで下降。W17に襲いかかる。

「回避……」

 W17は飛行能力のないアサルト・ドラグーン「量産型アシュセイヴァー」を巧みに操り、四肢を生かしてステップを踏ませ、すれ違うリオンに火砲の射線を向ける。
 連射性に特化したガンレイピアの銃口からレーザーが発射され、銃口と機体を青のマズルフラッシュで染めあげる。

 だが、すでに上空のは機首を空にひるがえし、有効射程範囲から逃れている。まるで予知していたかのような機動だった。

「ドール1。機体の挙動が不審すぎる。回避パターンが一定化しているぞ。戦闘プログラムのレベルを上げろ。実戦の機動でかまわん」
「了解。戦闘レベル――。修正終了」

 再びリオンが機首を返す。旋回半径が小さくなり、よりシャープな機動に代わった。テスラドライブの緑の燐光が機体の尾から噴出する。手加減のない戦闘機動だ。リオンの左腕に取り付けられたレールガンがアシュセイヴァーに向けられ、加速された弾体が地面を穿つ。

 微妙に射線はずれているようだが、装甲の薄いアシュセイヴァーでは、一撃が致命傷になりかねない。

(だが、これでいい。このまま戦線を流していけば、いずれ)

 W17は適度に撤退と反撃を繰り返す。ただ悪戯に戦線を延ばしているのではなく、結果的に戦線が流していく。そんな演技をしながら、W17は目的がこの場にあらわれるのを待っていた。

 別働隊から通信が入る。

「W17。目的方向から高速で飛行する空戦魔導師を確認した」
「誰だかわかるか?」
「特徴はライトニング2のものだ」
「――よりにもよって彼女か」
「は?」
「なんでもない。これよりフェイズ2に以降。わたしはここで足を止める。ドール1」
「了解」

 アシュセイヴァーの足裏から噴射剤を噴出し、バッグステップさせる。同時に機体が揺れて、傾いだ。リオンのレールガンがアシュセイヴァーの右脚につきささり、装甲を貫通。バランサーが働くよりもさきに、アシュセイヴァーは地面に膝をついた。
同時に、ガンレイピアをフルオートで発射させ、リオンを追い払う。

(ここまでは計画通り――だが)

 破損箇所もほぼ予定通り。
 足まわりに不調を抱えたアシュセイヴァーの機動力は、目に見えて落ちていた。
 背部のブースターを全開にし、機体を大きく上昇させた。そのまま森を抜ける。
 開けた草原と荒野に降り立つ。さらに先には建物の一群があった。
 アシュセイヴァーの頭部のカメラが機動六課隊舎の映像を拾った。距離にすれば三十キロというところだろうか。

「ぬ……ランドリオンが追いついたか」

 さらに森を迂回していたランドリオン二機と、リオン二機が合流し戦力を増す。計五体。
機体下部にとりつけられた四本の棒状のキャタピラ――スティック・ムーバーで、ランドリオンは地面をすべるように移動する。草原を疾走し、向かってくる。

「ファイアーダガー。マルチロック……ファイア!」

 W17は胸部の連装ミサイル・ファイアーダガーを地面と上空にばら撒く。
 ミサイルが噴射の尾を吐き出しながら、リオンとランドリオンに向かうが、マシンキャノンで打ち落とされ、残ったものは回避された。
 加速された弾体、レールガンの閃光が三機から発射される。
 避けられないわけではなかったが――W17は動きをとめた。

「そこを動くな――イスルギ重工のテストパイロット!」
「!」

 思わず動きを止める。
 アシュセイヴァーに音速をはるかに超えた弾体が突き刺さる瞬間、人影が割り込んだ。

 人影が剣を振るう。センサー越しにW17が見切れた剣線はわずかに二つ。が、何かを切り裂く甲高い音は三つ聞こえた。
 機体をそれた弾体は、真っ二つになりながら飛んでいく。
 知覚するのも難しい速さのレールガンの軌道を見切り、切り裂いて見せた人影は、さして感動も無い声でいった。

「ベルカの騎士を相手にするにはまだ早い……だが、任務なのでな。無事か?」

 アシュセイヴァーのセンサーを通して、W17は彼女の姿を確認する。

「烈火の将シグナム。炎の魔剣レヴァンティン……」

 W17はコクピットのなかでつぶやいた。

(ここで出会うのも運命か……)

 W17はそんなことを思いながら、刹那の間、桃色の髪を美しくなびかせる女性と鋭い輝きを持つ魔剣に目を奪われていた。

※今回はここまでです。ご精読ありがとうございました。
 次はド欝っぽい展開ですので、関東圏が雨になったときにでも投下します。

※プロローグにあったように、キョウスケたちがいたのは管理外世界です(名称募集中)。
 ミッドと交流ができたのは五年ほど前からです。
 さらに、質量兵器封印を建前にしているので、あくまで連邦軍とは『協力』体制です。
 認識としては、対異星人用の戦力。
 六課に招かれた理由はのちのち。
 でもあんまり歓迎はされてない。

※PTやAMの生産ラインがミッドや管理世界のいくつかで確立されてしまったため、質量兵器が広がりを見せてしまっている。
 当然、ライセンス以外の機体は管理局の破壊対象になります。

今回の番外編
――月村すずか


 ちゅどーん。

 ある日空から巨大な神様がおちてきて、コテージの外を掃除していたアリサちゃんに、津波のような水しぶきが降ってきた。

 いきなり服をびしゃびしゃにされ、怒り拍子に顔を真っ赤にさせたアリサちゃんは、泉に横たわる神像に近寄った。
 神像は泉のそこに腰をおとす格好でいた。かなり広いはずの泉がまるで風呂のようだ。
 全体が俯瞰できないほど巨大だが、手足くらいはよくわかった。

 そして顔の、

 頬にあたる部分から、

 金属製の、

 髭が、

 生えていた。

「ねえ、すずか。わたしたちってこういう『巻き込まれる』こと多くないかしら?」
「……六課の出撃回数って、そんなに多くないからじゃないかな? SS入れても、かなり少ないし」
「それはなに? アグスタ防衛戦でウォーダンが出てくる予防線? ネタかぶるのいたしかたなしって言ういいわけ?」
「ううん、それはちょっと……」

「う、う~ん……ここはどこだ……? 君みたいな美人にキスしてもらえれば記憶が戻るかも……」

「うっさい! あんたなんかアホセルでいいのよ! バカチン!」
「いきなりかよ! 初対面だ、これがな! オレ年上だよ、たぶんな!」
「ま、まあまあ……」

 『髭面の神像』。これがわたしたちを巻き込む災厄の源だとは、神ならぬわたしたちには、まだわかりませんでした。

 次回OSGS巻末番外編――文学少女リリカルすずか。

「”文学少女”と飢え乾くシステムLIOH」

 もとい。冗談です。

「”文学少女”と飢え乾くゲシュペンスト」

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最終更新:2007年12月07日 21:20