メインキャスト

  • カイ・キタムラ――戦技教導官として地上本部に招かれている軍人。
  • レジアス・ゲイズ――我らが中将。地上本部へ積極的にPTを受け入れている。
  • 量産型ゲシュペンスト――量産型ゲシュペンストに緑のカラーリングを施した機体。カイのゲシュペンス
トは、ジェットマグナムがフル改造されている。
  • グルンガスト改式――グルンガスト弐式のプロトタイプを改修した機体。スペックはオリジナルを上回る。


※電撃スパロボVOL2およびVOL5の公式外伝が出展ですが……VO2はどうやら外伝に出そうですね。
とっても楽しみ『量産型ゲシュペンスト改』。そして背負い投げジェットマグナム。
※ただし、まだ詳細がわからないのでカイの機体は『量産型ゲシュペンスト』のままです。けどあのプラズ
マバックラーのモーションがかっこよすぎる……!
※アインストは、VOL5のアインスト・ウィングガストとアインストガストランダーのオマージュです。
というかアルフィミィの台詞がそのままですね。

※本編は二部構成です。



『踊るゆりかご』




――カイ・キタムラ


 その男の肉体は、鋼できている。
 パーソナルトルーパー――鋼の鎧を纏っているカイ・キタムラは、一心不乱に拳を上下させる男を見て、
そんな印象を覚えた。
 拳は一度肩のあたりにまで持ちあがり、そこから一気に落とされる。
 腰を回した。
 連動するように肩に螺旋が伝わり、折られていた右腕が伸び、拳が砂袋にたたきつけられる。理想的な形
で男の全体重が打突部に乗った。
 おんっ。
 砂袋が拳の形にへこむ。衝撃波は真下の床につきぬけ、振動が十メートルは離れたカイの元へと伝わった
――。


 一時間前。
 深夜といってよい時間、重要施設以外の明かりが消された地上本部のなかで、カイ・キタムラは砂袋に拳
を叩きつけ続ける男を見つけた。
 こんな時間に利用者はいまい、と足を運ぶまで思っていたがどうやらアテがはずてしまったらしい。
 幾人かの男女がトレーニングルームでおのおの汗をかいている。男性が大半だったが、なかには女性がま
ざっている。中央には簡易なリングが取り付けらていた。
 さらにリングの周囲にはサンドバックやウォーキングマシンがならび、下手な軍事施設のものよりも充実
したトレーニングルームだった。
 熱気とやる気が部屋に充満している。腕時計を見る。深夜だ。針は僅かに零時を回っている。皆、日中の
任務のあとにここへ来ているのは間違いない。
「これは……圧倒されるな」
 出向扱いといえ、同僚となった彼らのどこまでも高い士気には感じ入るものがあった。。地上を守ってき
たというプロ意識が、防衛隊、武装隊ともに浸透しているのだ。
 そしてそれは深夜でも衰えない。彼らは自分を高めることに余念が無かった。
 ただ、やはり撤収の準備をしている局員もいた。
 カイ自身は半休で、明日の朝は余裕がある。だからあえてこの人の少ない時間にトレーニングルームを訪
れたのだが――。
 予想外の人数にしばし圧倒されたが、空いているサンドバックの傍に荷物を置いた。
(さて、やるか。若い連中に負けてるわけにはいかん)
 上着を脱ぎ準備体操をはじめた。
 どれくらい経ったのか。
 汗をぬぐう暇もなくサンドバッグを打ち続けたカイは、部屋の隅につけられた時計を見る。時計は一時を
過ぎていた。
 タオルを取り出し、息をつく。
 まわりはすでにあらかたかえってしまったようだ。
 だが、ただ一人、サンドバッグを叩いている男がいた。
 先ほど砂袋に拳をたたきつけていた大柄の男だ。着ているシャツには汗が染み、乾いている部分がないほ
どだった。体型自体は太く重そうだ。しかし拳の力強さを見ればその体型も納得できる。たゆまぬ鍛錬が見
て取れた。
 男のとなりに、女性がいる。ジャージ姿で、手にストップウォッチを持ち、男の挙動を見守っていた。
「ラスト30秒です」
 女性の言葉が引き金になり、男の拳がさらに鋭さと速さを増した。
 たかだが30秒。だが、人間が全力で動ける時間とほぼ同じ。
 腕は上がらなくなり休憩をもとめ、荒い息は空気を求める。
 肉体の要望にしたがってしまえば楽だ。腕を下ろし座り込む。そんな誘惑が男を襲っているに違いない。
「あと10秒です――」
「ウォォォォォォォ!!!!」
 男が吼えた。
 肉体の疲弊を精神で補う。身体を叱咤し、激励する。全力を出し尽くす。粒一滴の体力さえも残さぬ勢い。
 最後の一秒、男が繰り出した前膝蹴りは、サンドバッグに深く食い込み、それを吊っていた鎖に鈍い音を
させた。
(ここまでとは――。どこの武装隊の人間だ?)
 カイは思わず覗き込む。疲労に座り込む男を眺めた。
(馬鹿な!)
 女性にタオルを渡され、汗をぬぐう男に見覚えがある。
 レジアス・ゲイズ中将。
 地上本部の事実上のトップがそこにいた。
「なんという……」
「驚いたかね。カイ・キタムラ少佐」
「……」
 熊が笑う。
 カイは思わずうなずいていた。ミッドチルダ地上本部に出向となったときにカイは、レジアスとは顔を合
わせている。だが今とはあまりにも印象が違いすぎた。
 レジアスはひげの汗をぬぐいながら、顔を覚えるのが仕事なのでな、と冗談めかして笑った。しわが寄る。
深く刻み込まれたもの。カイのものとはまた別種の苦労をかさねた人間のしわだった。
 カイは自分の汗を拭きながら言った。
「最後の30秒――あれは日ごろの精神と鍛錬がなければ、なしえないことです」
「連邦軍の特殊戦技教導隊の鬼教官に、そこまで言われるほどのものではない。ただの手慰みだ」
「失礼ですが……中将はどこかの部隊出身の方でしたか?」
「むかし、少々。魔法なしのインファイトなら負けなしだった」
「お父様……そろそろお休みになりませんと」
 レジアスのとなりにたった女性が言う。うむ、とうなずいたレジアスの顔からは、すでに汗と疲労がひい
ている。
 大した体力だ。
 局員制服の時には膨れて見えたが、ランニング一枚の姿では、レジアスの身体が引き締まっているのがよ
くわかる。着膨れするのか、あるいは――。
 そう見せているのか。
(惜しい。もしも中将という役職におられなかったら……いや、俺たちの世界にいらっしゃったら、間違い
なく教導隊に入っておられたはずだ……)
 めったに居ない逸材が目の前にいた。
 カイが見ていたのは、体力だけではない。
 サンドバッグを正しく叩き続けるにはコツが居る。
 的は蹴られ殴られ、一定していない。
 天井から吊られているだけのサンドバッグは拳や蹴りをうけて挙動をかえる。
 その微妙に狂う「芯」に、レジアスは拳と蹴りを当て続けていた。
 カイが見ていた限り、あそこまですさまじいラッシュでありながら、一撃も「芯」をはずしていない。
 おもわず出してしまいがちな大雑把な拳は一つもなかった。
 判断力と肉体のコントロールがずば抜けて優れている証拠だった。
「中将どの」
「なにか?」
「ぶしつけなお願いですが、今度……お相手していただきたい。そこのリングで」
 久しく心が躍っていた。立場を刹那の間だけ忘れた。
 だが、それはレジアスも同じのようだった。
「ふむ……。オーリス。次にここに来られるのは?」
「三日後の早朝が空いていますが……」
 オーリスの名を聞いて、カイはやっと思い出した。彼女はレジアスの娘だ。何かの式典の際、レジアスの
後ろに控えていたのを思い出した。
「というところだが……カイ少佐。いかがか?」
「はっ。早朝ならば」
「楽しみにしている。ではこちらもお願いしようか。一応PTの操縦技術も身につけている。なにかの折に
ご教授願おう」
「は、はぁ――中将みずからですか?」
「うむ。手慰みだがな」
「……いえ、中将の能力ならば、並みのパイロットではたどり着けないところまで行くでしょう」
「世辞などいらんぞ。これもただの保険だ。いざという時に動けないのは、な。管理局地上本部の人間とし
てはほめられたことではないだろうが……」
「……」
「――後悔は先にたたん。使える力があるのならなおさらだ。使う方法くらい知っていても悪くはないだろ
う」
 では、たのしみにしていると言い、レジアスとオーリスは去っていった。
 去る男の背中にはどこか哀愁が漂っていた。
 望む望まぬにかかわらず、男の背中は過去を語る。
 一人のこされることになったカイは、再びサンドバッグにむかった。
「中将……本当にPTに乗ったら強敵になるぞ……ゼンガーや俺でも止められるかどうかという存在になる」
 拳をサンドバッグに叩きつける。特殊戦技教導隊のなかでも、もっとも多くの部下を見てきたカイがそう
断言できるほど、レジアスの潜在能力は高い。

 それ以前に。
 覚悟が違う。


「心が躍る……とは久しいか。とりあえずは三日後の勝負だ」
 カイがここに呼ばれた理由はもう一つある。それは管理局員へPT操縦技術指導だ。
 そしてその逸材がいまさきほどまでここに居た。
 惜しすぎる人材――レジアス・ゲイズ中将。
 カイは呼吸を整え思考を止める。三日後の勝負、苦戦は目に見えていた。
「拳一つ……届くか」
 サンドバッグを叩く音は、早朝まで続いていた。





 が、二人の対決は実現することはなかった。
 約束の三日後、その一日前に、カイとレジアスは、後にDG事件――人物名をあてドナ・ギャラガー事件
とよばれる、聖王教会過激派のテロ行為に巻き込まれ、約束の日にリングヘ向かうことができなかったのだ。




――カイ・キタムラ



 カイは両手をさすりながら、地上本部に急造したPT用の格納庫に駆け込んだ。
「カイ少佐!」
 顔みしりの整備員がカイのゲシュペンストのリフトの上で、手を振った。
 カイは応えながら、おろされてくるリフトを見上げる。
「状況はどうなっとる」
「いま量産型ヒュッケバインmkⅡが出たところです。他の隣接基地の格納庫はすべて破壊されてしまいま
した。出撃不可だそうです!」
「あの特機――餓鬼だな、あれは」
「特機? 少佐、どこでそれを」
「市街地で暴れまわっていればイヤでも目立つ。それに心当たりもある。さきに出ている連中と通信はでき
るか」
「ジャマーがかけられていますので……。少佐のゲシュペンスト。いつでも出られる状態です。ただ火砲は
訓練弾からの換装作業がおわっていません」
「了解だ。左腕はつかえるな?」
「それはもう――フルチューンですので威力も折り紙つきです」
 降りてきた整備員といれかわりに、カイはリフトに飛び乗った。胸部のハッチまでリフトを上げる。十メ
ートル以上の縦移動を経て、コクピットに身を滑らせる。緊急時だ。背広はそのままだった。
「こちら管制! 先に首都防衛隊が出ていますが、そちらとも連絡がとれません!」
(魔導師との連携か。高町空尉やフェイト執務官やはやて嬢ほどの手錬が出ているとは思えん……逆に厄介
か?)
 以前、ゲシュペンストの評価試験時に出会い、臨海空港火災でも戦場をともにした少女たちの姿を思い浮
かべる。
「そのクラスの魔導師がここに幾人も居れば、俺が呼ばれることもなかったか」
 何十度、何百回。繰り返し続けたゲシュペンストのパイロット登録認証を行い。状態をあらわすコンソー
ルに視線をすべらせる。
 武装チェック。
 たよりの拳――左腕のプラズマステーク、ジェットマグナム――は正常に稼動する。
 コクピットが微細に揺れた。動力の起動が完了する。
「チャーリー1。カイ・キタムラ機! でるぞ!」




――???


 特機。スーパーロボット。
 一般的にはPTよりも巨大かつ、特殊な武装を装備した機体のことを呼ぶ。
 その呼称はミッドチルダにあっても変わっていない。
 ――公開意見陳述会の一週間まえに現れた特機は、さまざまな形を持つ特機種のなかでもあまりにも異形
にすぎた。
 その特機は皮膚のない骸骨と形容できる。フレームにはりついた装甲が骨のように見えている。動力部を
確保するためか、腹は妊婦のように膨れていた。
 人体のパロディ、悪質な人体模型。スポットライトに点々と照らされた機体は、陳腐な怪獣映画のような
ギミックとなっている。
 いかに強力な光量でも三十メートルの巨体をもつ特機のすべてを照らし出すことはできない。
 これが暴れまわるのだ。
 これが暴力を振るうのだ。
 腕を振るい、ビルを破壊する。
 逃げ出す人々の間近に足を振り落とす。
 にごった瞳――否、黄色に光る頭部センサーが眼下で逃げ回る人々を睥睨した。
 いま、『彼』は巨人だった。
 異星人の襲来によって四肢を動かせなくなった『彼』。
 『彼』の母親は不自由になった『彼』のために、新たな器を用意した。
 パトロンである聖王教会の過激派によってつくられた不細工な特機が『彼』の新たな身体だった。『彼』
の足は、コンクリートに埋まる足だ。『彼』の腕は、構造物を叩き潰す腕だ。『彼』の目は、頭部の視覚セ
ンサーだった。

 ああ、なんと深い母の愛情(狂気)!
 思いのままに動ける感動(義体)!
 世界が砕けたかのような開放感(錯綜)!

 『彼』は飛び回る//特機が街を蹂躙する
 『彼』は呼吸する//特機が散布型シールドを展開する
 『彼』は号泣する//特機が腕の外側につけられたブレードを振るう
 『彼』は赫怒する//特機が腕をふるいあげて、迎撃にでてきたPTを破壊する

「こ、このやろぉぉぉ!!」
 『彼』の優秀な聴覚は首都防衛隊の空戦魔導師の慟哭を聞き取る。
 魔導師が手持ちのストレージデバイスから魔力弾を撃つ。しかし、装甲を抜くまでの威力はなかった。
 駆け出しの魔導師らしい。
 勢いで飛び出してきたものの、後が続いていなかった。
 圧倒的な力を持った『彼』に恐怖はなかった。
 興奮物質であふれた感情は、羽虫を払うのに何の罪悪感も感じなかった。
 べしゃり、と魔導師がつぶれた。
 いや、手ごたえはあったものの死んではいまい。バリアジャケットは展開されていた。落下死までは責任
取れない。
 次にきたのは、魔導師よりもはるかに大きなパーソナルトルーパー。だがこれも相手にならなかった。
 シールド粉塵散布システム。特殊な粉塵を撒き散らし、必要時に凝固させる。
 単純な物理装甲となるシールドは、熱量兵器や質量兵器の双方にも効果的だ。通信を妨害する効果もある。
電波障害はこのあたり一面に発生していた。
 PTが撃ってきた。弾丸はシールドを抜けない。
 腕の外側についているブレードがPTに埋もれた。
 なおもしつこく迫るPTに、粉塵を吐きつける。
 視界を奪われたPTが、あらぬ方向に視線を向けている。
 『彼』は、右往左往するPTをあざわらう。
 特機は巨体に似合わぬ静粛性で、PTの背後にまわる。
 叩き潰す。撃ってきた。もう一度叩きつぶ――




――カイ・キタムラ


 危ういタイミングだった。
 振り降ろされる特機の腕をかいくぐり、僚機をよこなぐりにかっさらう。
「僚機の要因を回収後、防衛隊のバックアップに回れ!」
 特機の追撃をかわしながら、僚機を放り出す。
「急げ!」
「は、はい!」
 撤退する僚機に向かおうとした特機の道をふさぎながら、ゲシュペンストに構えをとらせる。
 右を手刀、左を拳。
「さて……」
 コクピットから特機をにらみつける。間近にみた印象はやはり、カイの故郷に第187管理外世界の『餓
鬼』に酷似していた。
 腹が膨れ、痩せ細った身体に骨と皮のみの、無限に満たされない欲望を持つ、子鬼。
(餓鬼か。とんちにしては気が聞きすぎている。へたなことを聞くべきではなかったな)
 あの特機に載っているものの正体を知っているカイは無意識に奥歯をかみ締めた。

 カイ・キタムラがドナ・ギャラガーという女性に出会ったのは数週間前のことだった。
 仕事後にたちよったバーで声をかけられ、似たような境遇から――同病相哀れむ――から顔見知りになっ
た。
 カイはドナがテロ事件の構成員だとは、もちろんしらなかった。
 様子では、ドナもカイの本職はしらなかったようだ。普通の飲み友達として愚痴あっていた。
 それが――数時間前に一変する。
 いつものようにバーの奥の席にこもっていたカイは、ドナに銃口をむけられ、なだれ込んできた構成員に
捕らえられた。一暴れならできただろうが、バーの店主を人質にとられたカイは、おとなしく彼らに従った。
 カイはドナの息子に出会った。自由に動かない四肢のかわりに、特機の身体を与えられた彼女の息子に。

「他人の子供を叱りつけるのは気が進まんが……ともかく、戦場を変えるか」
 この市街地ではまともに戦えない。暴れまわるだけで被害がでる。該当区画の位置を確認し、カイはジェ
ットマグナムの出力を上げた。
「では……追いかけっこといこうか」
(娘ともあまりやってやれんかったが……まさかこんなところでやるはめになるとは)
 カイはコクピットで苦笑いした。




――チンク


「やっぱり下がる……か。さすがの戦歴ですねぇ?」
 防衛隊の戦力把握をおこなっていたクアットロが、護衛のためにともに出ていたチンクに声をかけた。
「ああ。ゼンガーやエルザムの所属していた特殊戦技教導隊。その上司とならばこれくらいの戦術は思いつ
くだろう」
 実際、緑色のゲシュペンストはよく動いていた。いくら射撃武装が無いとはいえよく避ける。
「これですこし、防衛戦力が減ってくれるとありがたいんですけどねぇ。まあ、当初の目的はPTの破壊で
すから、もう用なしだとはおもいますけど」
「……」
 緑のゲシュペンストは、じょじょに戦場を移行している。追いすがる特機に適度な反撃をあて、さらに下
がっていく。
 なにもない――廃棄区画へ。
「じゃあそろそろ帰りますか」
「だが、まだあの子――アルフィミィがでるのだろう?」
「そうですけどぉ。アルフィちゃんなら、何されても無事に帰ってきますよ」
「かもしれん、がな」
 不気味なアインストの中で唯一人間の姿をしている彼女も、この戦場に出てきている。赤い修羅――
ペルゼイン・リヒカイトとともに、宵闇にまざっている。
「わたしは見届けてから帰るとしよう」
「そうですかぁ? じゃあ、わたしはドクターへの報告もありますのでおさきにぃ……。ああでも、チンク
姉さま?」
「なんだ?」
「同じような体型だからって、余計な仲間意識はいりませんよ」
「な……クアットロ!」
「おさきにぃ~~~」
 言うがはやい。クアットロは飛行魔法ですでに空中へ身体を投げ出していた。
「まったく……すこしは気にしているのだぞ……わたしでも」
「なにを気にしていますのです?」
 ふ、と背中の空気がゆがみ、赤い修羅が現れた。音もなく。暗がりからいきなり顕れたかのように、ペル
ゼイン・リヒカイトはチンクの背後に出現した。
 だれも気がつかない。
 特機に相当する大きさを持っているにもかかわらず、人間たちはペルゼインに気がつけない。
「チンクねえさま……おなやみですの?」
「アルフィミィ――いや、なんでもない」
 チンクはあたらしく妹分になった少女に微笑をむけた。
 アルフィミィはペルゼインの中から出てくることができない。姿をみることができるのは、映像通信くら
いだ。そのせいで感情が読みにくい、と言ったのはノーヴェだったか。
 チンクはアルフィミィを他の妹とおなじように扱っている。
 彼女の正体については妹ともども――チンクの姉とクアットロは別のようだが――知らされていない。だ
が、彼女に付きまとう寂しさのようなものを、チンクは敏感に感じ取っていた。
「そっちの準備はおわったのか?」
「ばっちりなのです……」
「そうか」
 チンクが背後のペルゼインにうなづいた。
 緑のゲシュペンストが廃棄区画に到着する。
「さて……なにが出てくる?」
 戦士の瞳でチンクは、あらたな戦場に目を向けた。


――???
 ――???
  ――???
    ――???
 杖をかざしたアインストがいた。それは白と青の身体を持っていた。
 剣をかざしたアインストがいた。それは金と黒の外殻を持っていた。
 刃をかざしたアインストがいた。それは紫と白の甲冑を持っていた。
 槌をかざしたアインストがいた。それは赤と紅の装甲を持っていた。


「つくって……しまいましたの」
 ペルゼイン・リヒカイトの胎内で、少女は切なげに笑む。
 あらたな同胞の誕生に祝福あれ――。


――地上本部地下超ド級秘密格納庫

 この格納庫の存在自体が機密だった。
 管理局の建前『質量兵器の原則封印』に真っ向から立ち向かう、そんな代物が格納庫には眠っていた。
 ありとあらゆるものがこの空間には詰まっている。

 ひときわ目立つ機体が一歩をふみだす。格納庫がその一足で振動した。

 黒い山が動きだした――。

次回『黒い超闘士』。

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最終更新:2007年12月08日 08:55