「どうだ…モンスター潰されたんなら、お前は戦えねえだろ」
 シザースの方へと向き直り、ヴィータが言い放つ。
確かにモンスターが潰されたとなると、ライダーの力は急激に衰える。
シザースもまた例外ではない。ライダーの鎧『グランメイル』の色が灰色へと変化し、ブランク体へと変化していった。
「分解されねえ程度にそこで反省してろ。あたしは帰る」
 そう言うと、ヴィータはミラーワールドを出た。
(爺さん達…仇はとったぞ…!)

「ミラーワールドに刑事はいらない…!」
 そう言うと、一枚のカードを取り出し、装填した。
『FINALVENT』
 先ほど使ったのとは違う、もう一枚のファイナルベント。
メタルゲラスのファイナルベント『ヘビープレッシャー』だ。
そして立ち上がろうとしたシザースの腹を、ヘビープレッシャーで貫いた。
「が…そん…な…私は…こんな…所で――――」
 その言葉とともに変身が解け、シザース…いや、須藤がその場に倒れる。
その腹には大穴が開き、そこから大量の血が流れている。もう助からないだろう。
「つまらねえな…」
 王蛇はそう言うと、ミラーワールドを去った。
後に残された須藤の体は粒子化を始め、やがて消滅していった…

「あれ?今日はやていないのか?」
 現在の時刻は昼過ぎ。先日のシザース戦の疲れからか、もの凄く寝坊したヴィータが聞く。
「ああ、主はやてはシュベルトクロイツの試作型を作るため、アースラに行っている」
 はやての杖『シュベルトクロイツ』は幾度かの試作を経ている。そして現在も完成版は出来ていない。
少し前に『試作型バージョン2』が破損し、そのデータをもとにバージョン3の製造に向かっているのだ。
…ちなみに関西人のたしなみとでも言うのか、バージョン2にはハリセンが仕込まれていた。
「ふーん…今回はハリセン仕込むのかな?」
「期待しているのか?」
「まさか」
 この後ハリセンがシュベルトクロイツに仕込まれているのをヴィータが見つけ、思わず失笑するのは別の話。
ちなみにバージョン5の時点でようやく「ハリセンを仕込むと空洞ができ、そのせいで強度に問題が出る」と分かり、ハリセンを仕込むのを止めている。

第十八話『真司の冤罪』

 OREジャーナルで電話が鳴り響く。大久保がそれを取った。
「はいOREジャーナル」
『OREジャーナル編集長の、大久保大介だな?』
「はいそうですけど…何か?」
 突然名指しで呼ばれ、怪訝そうに答える大久保。
『島田奈々子を預かっている』
「はぁ?あんた一体何言って…」
『こう言わなければ分からないか?「島田奈々子を誘拐した」と』
「誘拐?どこに?」
『一度しか言わない。身代金三千万円を用意しろ。それと、身代金は城戸真司に持ってこさせろ。
もし警察に知らせた場合、島田奈々子の命はない』

 数時間後、閑散とした山奥の廃墟。
『いいか、真司。間違っても犯人を刺激するな』
「はい、分かりました」
 大久保からの電話に、真司が答える。
連絡を受けたときにはかなり気が動転していたようだが、今は皆、幾分落ち着いている。
そして要求された場所へ、要求通り真司が三千万もの現金を持って来た。
「もしもーし?OREジャーナルの城戸ですがー?」
 呼びかけても返事は無い。
「要求通り金を持ってきましたー!」
 そう言い、件の廃墟へと踏み込む。
「島田さーん?無事ですかー?」
 反応が無い。もう一度「島田さーん?」と呼びかけるが、全くもって反応が無い。
とりあえず携帯を取り出し、大久保へと連絡を取る。
『真司か。どうした?』
「はぁ…それが、指定の場所に着いたんですが、応答が無くて…うわ!?」
 物陰から何かが飛び出してくる。その何かに真司が吹っ飛ばされた。
何とか立ち上がり、その何かを見る。人間の成人くらいの体格、言葉を話す、さらには鉄パイプを振りかざす。
となると可能性はただ一つ、誘拐の犯人だ。人間か、それとも使い魔かは不明だが。
『おい、真司?おい!真司!!』
 吹っ飛ばされた衝撃で、携帯電話を落としてしまう。
その携帯電話から大久保の呼びかける声が響くが、拾えないのだから反応のしようが無い。

「おい!真司!! …ダメだこりゃ。令子、警察を呼べ」
 そう言われると同時に、令子が警察に連絡した。

「やめろって、おい!」
 鉄パイプを振り回す相手を必死に説得する真司。だが、相手は聞く気が無い。
…と、外が騒がしくなってきた。警察が到着したのだろうか。
音に気付いた犯人が姿を消す。どんな方法を使ったのか分からないが、目の前から忽然と「消えた」のだ。
「あれ…?一体どこに…って、今はそれより島田さんだ!」
 犯人が消えたことを疑問に思うも、今は島田の無事を確認するときだと判断し、部屋の隅で気絶している島田に駆け寄った。
「島田さん?しっかりして下さい!」
 気絶している島田の目を覚まさせるため、声をかける。
…と、その時、その部屋のドアが破られ、たくさんの人が踏み込んできた。
「警察だ!」
 その人影が警察だと分かり、安堵する真司。だが、ここである既視感に捕われる。
(…あれ?これが前の通りだと…まさか!)
「逮捕!!」
 やっぱりである。タイムベントの前の通り、真司が逮捕された。

「は?真司が誘拐犯?ある訳ねえだろ」
「全くだ。二重の意味であり得ん」
「もちろん、何かの間違いだろうけど…状況は城戸君にとってかなり不利ね」
 一時間後、八神家にて。現在令子が事情を説明している真っ最中だ。
ちなみに、真司とのつながりで八神家の人間とOREジャーナルの人間はちょっとした顔見知りなので、敬語も使っていない。
「ところで、二重の意味って…?」
「ああ、城戸には誘拐などという真似ができるとは思えんからな。
それに、島田が誘拐されたのは昨日の晩なのだろう?その時城戸はこの家にいた。だから不可能だ。
何なら、私が証言台にでも立とうか?」
 シグナムがアリバイを証明してくれるという。真司にとっては僥倖といったところか。

「北岡、仕事の依頼がある」「お断りします」
 同じ頃、蓮が北岡へと会いに行った。真司を助けるよう、仕事の依頼に来たのだ。ちなみに蓮と北岡は交戦経験があるので、お互い顔見知りだ。
…だが、北岡は依頼内容すら聞かずに拒んだ。
「…何も聞かずにか?」
「アンタからは金の匂いがしない。それに、依頼内容ってあの城戸って奴の弁護だろ?」
「察しがいいな。城戸の弁護はしたくないとでも言うのか?」
「そりゃまあ、せっかく何もしないで敵が減るチャンスなんだしさ」
「やれやれ、やはり人としては最低のようだな」
「かもな。でもアンタには関係無いだろ?」
「あるさ。あんたは俺の仕事をするんだ。金なら何とかする」
「本当か? …ま、いいか。この依頼、請けるよ。
あいつにも聞きたいことがあるし、令子さんからもさっき頼まれたしね」

 真司が面会室へと連れてこられる。
「き、北岡さん!?えっ、まさか俺の弁護士って…!!」
「そういう事。令子さんと秋山に感謝しなよ?」
 面会室に来た真司は、かなり驚いているようだ。
それもそのはず、多分依頼されても来ないだろうと思っていた北岡が来たのだから。
とにかく席に着き、北岡との対話を始める。
「しかし分からんな。お前じゃないなら、本当の犯人はどこに消えたんだ?」
「それは…」
「なあ、本当はお前がやったんじゃないのか?」「違う!」
 北岡に疑われ、思わず声を荒げる真司。
「ま、どっちでもいいさ。お前だろうが違ってようが、必ず無罪にしてやるからさ。で、その前に聞きたいことがあるんだが…」
 そう言った北岡の雰囲気が変わる。
「前に浅倉が立て篭もり事件を起こしたことがあったよな?で、その時あいつが俺を呼ぶよう指示する前に、アンタが俺に連絡を取ってきた。
どうやってあいつの正体と狙いを知ったんだ?あいつと連絡を取るか、未来を知りでもしない限り、狙いなんか知れないだろ?」
 聞きたいことというのは、真司がなぜ浅倉の正体と狙いを知っていたかだった。
確かに、真司はタイムベントで戻る前を知っている。だから浅倉に関してのことを知っていたのだ。
「…ひょっとして、それを話さないと弁護しない、とか?」
「あー…なるほど、それもいいかもな」
 ここまで言われ、真司としても話さないわけにはいかない。
意を決し、北岡に真実を話した。

「なるほどね、オーディン…だっけ?その13人目って。
そいつが時間を戻すカードを持ってて、アンタは戻される前を知ってる。そういう事だろ?」
「ああ。だから浅倉の正体も、狙いも分かったんだ。前のときもそうだったからな」
 北岡に全てを話す真司。北岡は正直言って半信半疑だ。
「時間を戻す…ねぇ。随分非常識じゃないか?」
「それを言ったら、ライダーだってかなりの非常識じゃないか」
「…確かにな。じゃ、事件当時の状況を詳しく話してもらえる?」

「えぇ?真司君が警察に捕まった!?」
「そうなの。やってない誘拐の罪で捕まっちゃって…」
 同じ頃、大通り。はやてに事情を話しながら、なのは・フェイトが警察署へと向かっている所のようだ。
「その誘拐って、いつ頃起こったん?もし昨日の夜やったんなら、真司君やないって私が証言できる」
「だったら証言してあげて。事件が起こったのって、その昨日の夜らしいから」
 話しながらも走る。走る。警察署はもうすぐ近くだ。
…と、フェイトが走り去る何かを見つけ、立ち止まった。それを怪訝に思ったなのはが声をかける。
「フェイトちゃん、どうしたの?」
「…ごめん、二人とも。先に行っててくれる?少し用事ができたから」
 そう言うと、フェイトはその何かを追い、どこかへと走り去っていった。

「上手くいきましたよ、プレシア」
 先ほど走り去った何か…プレシアの使い魔リニスが報告する。
かつて、プレシアにはリニスという使い魔がいた。だが、そのリニスは契約が果たされ消えている。
ならば今ここにいるリニスは誰だ?答えは簡単だ。プレシアの手によって作られた、二代目のリニスだ。
アリシアを生き返らせるためには、ライダーの戦いに勝つ必要がある。そのために使い魔を使うのは有効な手だ。
そう考えたプレシアは、再び使い魔を作り出したのだ。愛着があったのか、リニスの名をつけ、リニスと同じに作って。
「そう、これで一人は脱落…かしらね?」
「でしょうね。こうすれば餌を与えられませんから、契約違反でいずれモンスターに食べられますから」
 どうやら、今回の誘拐事件はプレシアの策だったようだ。
どうやって真司のことを調べたのかは不明だが、とにかく真司の関係者を誘拐し、その罪をなすり付けて逮捕させたのだ。
急に消えたのも、本来の姿である山猫形態に戻っただけである。あまりに急だったため、目の前から消えたように見えたのだ。
「そういう事だったんだ…」
 突然の声に振り向く両名。そこにフェイトがいた。
「フェイト…立ち聞きとは、趣味が悪いわね」
「母さん…そこまで堕ちたとは思いたく無かったよ」
 一言二言ほど言葉を交わすフェイトとプレシア。
すでに両者の周りには、雷が帯電している。お互い戦う気だ。

「やれやれ、俺は必要無かったみたいだな」
 はやての証言で、真司の無実が判明。さらにシグナムの証言がそれを裏付け、出所と相成った。
そのまま出所し、今は皆で帰路についている。
「はは…なんか、すいません。お仕事取ったみたいで…」
「ああ、いいっていいって。多分もう一仕事あると思うし」
「もう一仕事って…何かあるんですか?」
「知ってるか?こういう時ってさ…警察を告訴すれば賠償金と慰謝料取れるんだ」
 その言葉に、北岡以外の全員が驚く。真司もだ。
「えっ!?そうなんですか?」
「お前な…ジャーナリストだろ?その位知ってろよ」
「とにかく、警察に謝罪させることが出来るんやろ?それなら…く、くくく…」
 はやてが突如笑い出す。凶悪なオーラを発しながら。
「私の家族に無実の罪着せた報い、しっかり受けて貰わなあかんな…」
 かなり強力なオーラが放出されている。心なしか、「ゴゴゴゴゴ…」といった感じの効果音と、例の金属音がハーモニーを奏でているように聞こえる。
…って、え?例の金属音?
「あーモンスターだ。早く何とかしに行かないとー」
「じゃ、じゃあ俺も行くよ」
 そう言うと、真司と北岡がモンスター退治に向かった。全力疾走で。
「…逃げたな」「ああ…」「私も逃げたいよ…」
 いや、あんたらも行けよ。システムを使えばミラーワールドにも入れるだろう。
「あれ?真司君と北岡さん、どこ行ったん?」
「あいつらなら、モンスター退治に行ったぞ」
「そうなん?ほんなら、私も行ってくるわ」
 そう言って、はやてもモンスター退治へと向かった。
「…今のうちにモンスターの冥福でも祈る?」
「今回ばかりはお前に賛成だ」
 この後、モンスターがはやてからイジメじみた攻撃を受けた挙句に、オーバーキル同然の死に方をしたのだが、それはまた別の話。

「闇に沈め!」
 モンスターに無数の短剣が刺さる。ブラッディダガーの集中砲火を浴びせたのだ。
「あの子供、怖いな…」「いつもはああじゃないんですけどね…」
 モンスターにとっての地獄は、まだまだこれからである。

「くっ、どこに消えたの!?」
 こちらはフェイトVSプレシア。現在戦闘の真っ最中。
プレシアがベルデへと変身し、クリアーベントで透明化。撹乱しながらフォトンバレットやバイオワインダーで攻撃しているのである。
「フフ…どこにいるか、分かるかしら?フェイト…」
 分からないということが分かっていて聞くベルデ。多少意地悪に思える。
「どこにいるか分からないなら…! サンダーブレイド!」
『Thunder Blade.』
 遥か上空へと飛翔するフェイト。そして雷の剣を降らせて爆発させる攻撃魔法『サンダーブレイド』を放った。
雷の剣が地面へと突き刺さる。そして…
「ブレイク!」
 爆発。そして放電。強烈な電流が暴れだす。
これ程の電流、しかもかなりの広範囲だ。いくらなんでも逃れることは出来ないだろう。
フェイトやリニスもそう思っていた。だが…
「終わりかしら?」
 その声、そしてその後に見たもので、フェイトは自分の目を疑った。
バリアのような防御魔法を張り、完全に防ぎきっていたのだ。
「そ、そんな…」
「それじゃあ、そろそろ倒させて貰うわ」
 言うが早いか、フェイトに杖を向けるベルデ。
刹那、フェイトのいた箇所が爆発する。特大のフォトンバーストがフェイトを捉えたのである。
ダメージに耐えられず、墜落していくフェイト。それをリニスが受け止めた。
「リニス、その子は死んでいるわね?」
「…はい」
「そう…なら、その死体を片付けてきなさい」

「フェイトちゃんがまだ帰ってない?それって本当なの?」
『ああ。全く、どこをほっつき歩いているんだ?もう夕飯時だというのに…』
 その晩、なのはにクロノからの連絡が入った。
今日の昼、なのは達と別行動を取ったフェイトがまだ戻ってきていないというのだ。
「フェイトちゃん、どうしたんだろう…」
『さあな。とにかく、見つかったら連絡を「なのは!大変!フェイトちゃんが…!」
 突如、高町桃子の声が響く。聞こえた内容からすると、フェイトが大変なことになっているようだ。
クロノとの電話は繋がったまま、急いで下に降りるなのは。
そこで見たのは、重傷を負い、高町美由希からの手当てを受けているフェイトの姿だった。
幸い、まだ生きてはいるようだが…このまま放置すれば死にかねない。
「クロノ君!フェイトちゃんが…!急いで医療班をうちに回して!」

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最終更新:2007年09月02日 19:40