両腕をブレさせながら、前方へと構える者がいる。
 その者の名は兜甲児。いや、今はマジンカイザーと呼ぶべきだろうか。
 デバイスと化したマジンカイザーを纏い、胸には『魔』の一文字が輝いている。今は暴走スイッチが入ったも同然の状態なのだ。
 相対するは、漆黒の戦斧を構えた金髪の少女。いや、戦斧は既に金の刃を持った大鎌へと姿を変えている。
 少女の名はフェイト・テスタロッサ。先ほど放たれた光線により、甲児を敵とみなしている。
 状況は既に一触即発。今はまだ停止してはいるが、一度動き出せばそう簡単には止まらないだろう。
 なお、フェイトと一緒にここにいたなのは達三人はすでに次元航行艦『アースラ』へと帰艦している。


 そんな一触即発の状況の中、―誰も気付いてはいないが―遠くからそれを見る男が一人。

「まさかマジンカイザーがこの世界に来ていたとはな……グレートのようにデバイスになっているのか?」

 その男は、マジンカイザーを知っていた。甲児と同じ世界の人間だろうか。
 まるでロボットのようなこの外見も、甲児同様にデバイスと化した機体を使っているのならば納得もいく。
 とにかく考えても仕方がないと思ったのか、男がぽつりと呟き、再びマジンカイザーの方へと目を移した。

「……貴様なのか? 兜……」


 そして、それから一秒と経たないうちに状況が動いた。


第二話『激突! 雷光VS魔神』


『Arc Saber.』
「はぁぁぁぁっ!」

 先手を取ったのはフェイト。囮のつもりか、空からマジンカイザーへと魔力刃のブーメラン『アークセイバー』を放つ。
 弾速はそれほどでもないので、十分避けられる。その上で本命を撃ち込むというのがフェイトの狙いだ。
 実際に多くの相手には通用するはずの手だし、普通なら通じる手だ……相手が暴走という、短絡的な考えしか持たない状態でなければの話だが。

『Turbo smasher punch.』

 突如、前方へと向けられていた腕のタービンが回転を始める。その回転は速く、それがもとで腕がぶれる程だ。
 タービンの回転速度がグングンと加速。その間にもアークセイバーはマジンカイザーへと迫る。
 そして着弾する直前、腕が前方へと飛んだ。いや、飛んだ後で生身の腕が残っていたのだから、あの腕がデバイスなのだろう。
 とにかく、腕部のデバイスを前方へと飛ばす『ターボスマッシャーパンチ』が放たれる。タービンの回転速度からか、竜巻という名の尾を引きながら。
 飛び出した腕はアークセイバーを弾き飛ばし、そのままフェイトの方へと飛んでいく。

「なっ!?」

 目の前で起こったあまりの現象に、フェイトは驚くことしかできなかった。
 アークセイバーを避けずに弾く、これはまだ予想の範疇だ。そうなったとしても他の攻撃魔法を叩き込むには十分な隙ができるはずだった。
 むしろ驚いたのはその方法、「腕を飛ばして攻撃に用いる」という行動だった。まるでロケットパンチである……いや、実際そうなのだが。
 幸いフェイトのスピードなら回避は可能。かわして距離を取り、飛んでいった腕を目で追った。
 腕はフェイトの後ろにあったビルの壁を直撃し、着弾箇所を中心にヒビを入れる。そしてすぐに飛んだ軌道を逆行し、再びマジンカイザーの腕へと収まった。
 それを見たフェイトは、先ほどからの攻撃方法も考慮に入れて考える。眼前の存在への対処方法を。
 眼からの光線に、口からの竜巻、さらにはロケットパンチ。いずれも中~遠距離の相手への攻撃だ。

『Fire blaster.』

 そして考えている間に放ってきた攻撃もまた、中距離への攻撃。胸からの圧倒的熱量を持った砲撃『ファイヤーブラスター』が、フェイトを焼き尽くさんと迫る。
 考えている間に停止という大きな隙が生まれ、その瞬間にぴったりのタイミングでファイヤーブラスター。回避は困難だ。

『Defenser.』

 すぐにバルディッシュが防御魔法『ディフェンサー』を展開。フェイトの身を迫り来る灼熱から守る。
 暴走状態でろくにコントロールできていないせいか、その威力はフルパワーとは程遠い。それが幸いし、最低限の防御力しかないディフェンサーでも防ぎきることはできた。
 もっとも、それでも結構な威力はあったらしく、防ぐ際の負担はかなり大きかったようだが。
 だが、これでフェイトは確信した。マジンカイザーは中~遠距離戦闘を得意とする、つまり距離を取るのは危険だと。
 そして、ふともう一つの事実に気付く。

「あの人……もしかして飛べないの?」

 そう、フェイトがこれまで空を飛びながら戦っているのに対し、マジンカイザーは空を飛ぼうとすらしないという事実に。
 マジンカイザーは専用の翼『カイザースクランダー』が無ければ飛べないという弱点があり、そのスクランダーは元の世界に置いてきてしまったのだ。
 それでも甲児の意識があり、コントロールできるモード『Z』や『神』ならば魔法で擬似的なものを作ることは可能なのだが、今のモードは『魔』。それを使うことは不可能。
 だが、今はそんなことを知る由も無いフェイトにとっては「相手は空を飛べない」という事実だけで十分。空を飛べる自分には機動力という大きなアドバンテージがあるのだから。

 さて、この状況で取り得る戦術は二つ。
 一つはバルディッシュを再び大鎌形態『サイズフォーム』へと切り替えての接近戦。相手が中~遠距離戦を得意とするならば、距離を詰めて封じるという手だ。
 もう一つは、相手の射程外からの長距離砲撃。相手が空を飛べないなら、上へ上へと行くだけでたやすく射程外へと逃れられる。
 現在フェイトの脳内では、どちらの戦術を採るかという会議が繰り広げられている。無論、戦闘を続けながら。
 そしてその会議は、片一方を否決することで早々に幕を閉じた。

(他はともかく、あの竜巻の射程は長い。その射程の外からの攻撃は……)

 片一方、射程外からの砲撃という案について考える。そしてすぐに首を横に振って否決。
 こういうものを得意とするなのはならまだしも、今のフェイトにはそれを当てる自信が無い。

(……だったら!)「バルディッシュ、サイズフォーム!」
『Yes sir.』

 腹は決まった。バルディッシュを大鎌へと変え、そして目一杯の速度でマジンカイザーへと突っ込み、一撃を見舞う。
 その一撃は見事に命中し、マジンカイザーを怯ませる。が、それだけだ。
 マジンカイザーは元々『超合金ニューZα』と呼ばれるデタラメな強度の装甲を纏っていたのだ。そしてそれがデバイスとなった。

「堅い……!」

 だから、その強度がデバイスに反映されていても不思議ではない。
 さすがに超合金ニューZαほどではないにしろ、それ相応の防御力はあるのだ。
 だが、それでもフェイトは攻撃を繰り返す。さすがに何度も攻撃すれば少しはダメージもあるだろうと考えてのことだ。
 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。徹底的に攻撃を繰り返す。さすがにこれだけ叩き込めばダメージもあったようだが……

『Kaiser knuckle.』

 両腕のタービンを回転させながらの殴打『カイザーナックル』を使い、フェイトへと拳を突き出す。
 ここからは鎌と拳の応酬となった。
 フェイトがバルディッシュを振るえばマジンカイザーはそれを受け止め、マジンカイザーのカイザーナックルが繰り出されればフェイトはそれをかわす。
 状況は現在、一見互角の戦闘であるが、その実フェイトが不利だ。
 かたやフェイトは速度で上回り、攻撃を当て、かわすことは十分に可能。だがその分非力な上、防御も薄い。マジンカイザーのようなパワー型の相手なら、一発喰らうだけで即座に不利になるくらいだ。
 かたやマジンカイザーは火力と防御力で上回り、フェイトのようなスピード型が相手ならば一撃当てれば沈められる。もっとも相手の動きが速く、なかなか当てられないのだが。
 一方は一撃当てるだけでよく、もう一方は倒れるまで何発も当てなければならない。どちらが有利かは明白だろう。


 そして遠くから見ていた男……『剣鉄也』もまた、その事実に気付いていた。
 フェイトの不利を悟り、その上でもう一つの可能性を考える。すなわち、暴走の可能性を。
 もしも本当に暴走しているのならば、倒れるまで止まることは無いだろう。ならば、止めてやる必要がある。
 そして今のフェイトは不利な状況にある……つまり暴走を止めるのは困難だ。
 それらを考慮した結果、鉄也がポケットから赤い戦闘機『ブレーンコンドル』の形を模したキーチェーンを取り出し、叫ぶ。

「行くぞグレートマジンガー! マジーン・ゴー!」

 声とともに小さな閃光。それが消える頃には剣鉄也の姿は無く、代わりに新たな魔神の姿が。
 これが鉄也のデバイス『グレートマジンガー』……甲児のマジンカイザー同様、バリアジャケットの上から全身に纏うデバイスである。
 そして鉄也は背から赤い翼を出し、フェイト達の元へと接近。右腕をマジンカイザーへと向け……

「アトミックパンチ!」

 マジンカイザーへと向けて撃ち出した。


 ドガァッ!
 飛来した青い拳『アトミックパンチ』がマジンカイザーを直撃し、多少よろめかせる。
 その間にフェイトは拳が飛来した方向を振り向き、そして見た。マジンカイザーによく似た、だが明らかに違う魔神を。

「兜! 聞こえるか!」

 その魔神……いや、鉄也がマジンカイザーに向かって呼びかける。飛ばした拳は既に戻っているようだ。
 それを見ているフェイトはというと、状況が飲み込めていないのか頭に疑問符を浮かべている。
 そしてマジンカイザーは……

『Rust tornado.』

 鉄也へとルストトルネードを放った。どうやら危惧していた可能性が当たったらしい。
 迎撃しようとしたが、間に合わない。そして竜巻は鉄也へと直撃……しなかった。

『Blitz Action.』

 バルディッシュからの音声。それと同時にフェイトが消え、ほぼ同時に鉄也がルストトルネードの軌道上から掻き消えた。
 どこだ、どこにいる……見つけた。フェイトが鉄也を抱えて飛んでいる。
 咄嗟に先ほどの加速魔法『ブリッツアクション』で鉄也を助けたということだろうか。

「大丈夫ですか?」
「ああ……すまないな、助かった」

 そのちょっとしたやり取りの後、フェイトは鉄也を下ろして話を聞き、その内容に驚いた。ちなみにここで自己紹介も済ませた。
 曰く、彼らは異世界からの次元遭難者。ここまでは理解できる。
 曰く、元の世界では戦闘用ロボットで戦っていて、こちらに来た際にそれがデバイスへと変化した。
 フェイトはこの時点で驚く。何せ全身に纏うデバイスなんて聞いたこともない上、それが異世界の物質が変化したものだとは。
 さらに曰く、マジンカイザーは使い手が意識を失うと暴走。おそらく今も暴走している……という事らしい。
 あれがもし本当に暴走しているのならば、止めなければならない。しばしの逡巡の末、意を決してフェイトが口を開いた。

「……鉄也、あれを止める。力を貸して」


「兜ォォォーーッ!!」

 鉄也が一振りの長剣『マジンガーブレード』を手にマジンカイザーへと仕掛ける。
 対するマジンカイザーはというと、再びカイザーナックルを起動させて迎え撃つ。
 再び戦闘開始。先ほどまでのフェイトとの戦闘と同じように、剣と拳の打ち合いが始まった。
 この二人、お互いに高いパワーを持つ。ならば決着までの時間もそう長くはかからないだろう。

 そしてそれから五秒後、マジンカイザーの背後に黄色の魔法陣が一瞬だけ現れ、消える。
 鉄也はそれを視認し、あらかじめフェイトから聞いていた捕縛用の魔法『ライトニングバインド』だと判断。そちらへと向かって胸部へと魔力を溜める。そして――――

「ブレストバーン!」

 前方へと思い切り放った。無論マジンカイザーを巻き込んで。
 先ほどのファイヤーブラスターと同様の魔法『ブレストバーン』……至近距離から撃ち込まれれば、いかに強靭なマジンカイザーといえど押し返される。
 そして押し返された先にはフェイトによって仕掛けられたライトニングバインド。仕掛けに引っかかり、動きを封じられてしまう。
 それを確認した鉄也は、上空に待機していたフェイトの所まで飛翔した。

 フェイトと鉄也の狙いはこうだ。
 まず鉄也が囮となり、マジンカイザーの注意を引き付ける。その間にフェイトはバインドの準備。
 準備ができたところで鉄也に見えるような位置へとバインドを仕掛け、そこにマジンカイザーを押し込む。
 ここまで出来れば後は簡単。全力の一撃を同時に叩き込み、それで行動不能に追い込むだけだ。

「「サンダー……」」

 フェイトはバルディッシュに、鉄也は右手にそれぞれ雷を形成。目標はマジンカイザー。威力の程度は……全力全開。

「スマッシャー!」「ブレーク!」

 声と同時に、二つの雷が同時に放たれる。
 フェイトの放った『サンダースマッシャー』と、鉄也の放った『サンダーブレーク』。二つの雷は狙い過たずマジンカイザーへと向かい、直撃。
 消耗が激しいのか、フェイトは着弾後すぐにバインドを解除し、雷を放った方向を見る。止まっていてくれという望みを込めた目で。
 ……マジンカイザーは立っていた。今の一撃は相当のダメージだったはずなのに、である。

 ――――フラッ

 マジンカイザーが前の方へとふらついて両膝をつき、そして倒れた。
 その直後にマジンカイザーの姿は消え、代わりにそこにいたのは兜甲児という一人の青年だった。
 これはデバイスの機能が止まったこと、すなわち暴走が止まったことを意味する。
 フェイトが地上へと降り、甲児の状態を見る。どうやら気絶しているだけのようだ。
 それを確認するとすぐに念話を使い、アースラへと連絡を入れた。次元遭難者の受け入れ許可を得るための内容の連絡を。

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最終更新:2022年08月24日 22:29