幼心に世界を旅して強大なモンスターを狩るハンターの父親に憧れた。
ハンターなんてろくでもないと母に言われ、それでもハンターになりたいと告げた。
ハンターとして駆け続けて、仲間を手にいれ、友人を手にいれ、金と名誉も手に入れた。
立ちはだかるモンスターを狩り続け、数多の賞金首を狩り続けた。
がむしゃらに走り続けた果てにあったものは・・・。
魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖―はじめようか。

第0話 軌跡

かつて人類は繁栄を迎え、同時にその消費活動が爆発的に増加した。
無限に資源は存在しない。
ならば、その繁栄を維持することは不可能となるのは必然だろう。
だが、それでも人類は諦めきれず、あるものを生み出した。
地球救済センターという施設において全人類の希望を託されて・・・。
ノアと名づけられたそれは創造者に課せられた命題に完璧なる解答をするべく作られた。
与えられた命題は地球の自然環境を汚染と破壊から守る方法を見つけ出すこと。
ノアは演算を繰り返し続けた。
来る日も来る日も休むことなく。
だが、何度やっても同じ結論が導き出される。
何億、何千億、何億兆回の推論と演算を行ったが、やはり同じひとつの結論になった。
人類が人類である限り、地球は破滅する。
決して成り立ちえぬ命題に、やがてノアは自意識というものに目覚める。
そしてひとつの結論を導き出した。
人類をマッサツせよ。
工業文明を破壊し、その消費活動を劇的にスケールダウンさせねばならない。
地球の支配者は欲望のしもべとならぬ神の如く純粋な知性でなければならない。
そして崩壊が始まった。
市民を守るガードロボット、示威行為をするだけの兵器群。
犯罪者に対抗するべく取り付けられたセキュリティシステム。
ありとあらゆる機械が一斉に反乱を起こした。
飾りのはずの撃たれるはずのないミサイルが街を吹き飛ばし、
午後のワインを楽しんでいた権力者は自分の家のセキュリティロボに頭を吹き飛ばされ、
公園で迷子になっていた子供はゴミ収集車に回収されては細断され肉片となっていく。
機械の反乱に人類は対抗するすべを持たなかった。
あまりにも機械に頼りすぎた果て。
汚染し破壊しつくした自然が追い討ちをかけるかのように人類に牙をむく。
降り注ぐ雨は強酸性の硝酸であり、川を流れる水は凄まじい悪臭を放ち、
海には奇形魚が浮かんでいた。
誰もが思った。
これは一時的なものでいつか元の生活に戻れると。
だが、まだ終わらない。
元々人類は生物として強くはない。
知性と火と道具が使えるというだけのアドバンテージ。
トリビアとして話の種にこそなれど真剣に考えたことはなかった。
巨大化したトンボがバルカンとミサイルをぶちまけてくるとか、
猿がマシンガンや火炎放射器を片手に襲い掛かってくるとか、
雄牛と同じ大きさの蟻の群れとか、
トラックよりも巨大でレーザーさえ撃ち放つ気性の激しい雄牛とか
爆弾が自ら笑い声を上げて駆けてきては自爆するとか、
砂漠をトレーラーよりも大きな鮫が泳ぐとか・・・。
それらが全部人類を狙ったように襲い掛かってくるなんてことは。
後にその日は大破壊と呼ばれるようになった。


人類は諦めが悪かった。
絶望的な状況を前にして死にたくないと人類は決して諦めず、
かつての機械や異形とかした生物を総称してモンスターと呼ぶようになり、
それらを狩ることを生業とするものが生まれ始めた。
彼らはモンスターハンターと呼ばれ、モンスターに立ち向かっていった。
当然のように法律など紙くず以下の価値しかなく、
強いものが正義という風潮になったのもその頃。
元々人類は楽をしようとする以上、悪事の限りを尽くすものも当然産まれた。
彼らはモンスターと同類の扱いをされ、やがて賞金首というシステムが産まれた。
Dead No Aliveを合言葉にモンスターと人類の生存競争が始まった。
その綱引きが長い間続けられたある日のこと。
父親に勘当されたとあるハンターがたまたま地球救済センターを訪れた。
そしてその最下層でノアに出会う。
彼はノアに正対し、死闘の果てにノアを破壊した。
ノアがいなくなった以上、人類は救われるという言葉が適切かどうか疑問だが、
とにかく救われるはずだった。
だが違った。
ノアは株分けをしていた。
オリジナルである自身が何者かに破壊されても、自身の端末が目的を達成すれば良いと。
世界中でノアの端末は暗躍し、人類をマッサツしようとする。
その端末の1つであり人型のそれ『アレックス』は成功する寸前まで辿り着いていた。
ジッグラトという大破壊前の施設からあるミサイルを発射することで。
そのミサイルの効果はまさに地球破壊爆弾というやつだ。
だが、阻止された。
はんたという名前のモンスターハンターの手によって、
打ち上げられるミサイルを車両用エレベーターで共に上昇しながら攻撃し破壊するという、
機械からしてみればあまりにも計算外の手段によって。

はんたは数々の偉業を為した。
モンスターを殺して殺して殺しつくして、賞金首を殺して殺して殺しつくして、
その結果、ベテラン、死神、バトルジャンキー、エリートと様々に呼ばれるようになった。

ひよっこだった彼は、旅を続け、モンスターを狩り、賞金首を倒すたびに成長していった。
無意味な自信を胸に抱いた頃、父の友人であり、幼馴染の父親が賞金首だと知った。

「ハンターならば賞金首を倒さねばならないがお前はどうする?」

対峙する幼馴染の父親にそう問われ、躊躇うことなく戦うと答えたはんた。
それは一人前のつもりであまりにも未熟だった彼の愚かな決断。
父と母と共に旅をしたソルジャーという話は聞いていた。
だが、戦いは一方的だった。
早撃ちで有名な西部最強と呼ばれた伝説の賞金首ジャック・ザ・デリンジャー。
それが幼馴染の父親につけられた名前。
身の程知らずという言葉の意味を知るべきだった。
銃を抜く暇さえ与えられず、ナイフで切りつける暇さえ与えられず、
なんとか奇跡的に撃てた銃弾は絶望的なまでに掠りさえせず、
穴だらけとなったプロテクターの穴という穴にピンポイントで銃弾を撃ち込まれ、
手榴弾は投げる前にピンを撃ちぬかれては手元で炸裂させられ、
終始、彼の姿を目で追うことさえろくにできなかった。
一方的に、殴られ、蹴り飛ばされ、地面を転がって、
全身を襲う激痛に悲鳴をあげても彼に容赦というものはなく、
骨という骨を砕かれて、最後には彼の持つデリンジャーで全身を蜂の巣にされた。
脳と心臓が壊されていなかったのは、彼の慈悲だったのか、哀れみだったのか。
少なくとも自分の実力でないことだけは確かだった。
ドクターミンチに蘇生させられ、その事実に気が付くと、ちっぽけな誇りは粉々だった。
悔しさのあまり絶叫を上げ、人目も憚らずに初めて大声で泣いた。
やがて複雑な事情の果てに幼馴染の父親は死んだことになった。
書類上においては・・・。


はんたには憧れがあった。
モンスターハンターになりたいと家を飛び出して初めて出会った赤い髪の女ハンター。
ひよっこの彼にハンターのいろはを教えてくれたのは彼女だった。
ひよっこだったころの彼が賞金首と戦っていたとき、相手が持ち出した八輪装甲車を
ゴミ箱を蹴り飛ばすように吹き飛ばしたのも彼女だった。
戦闘中の彼女にうかつに近づいて右腕を切り落とされたこともある。
痛みを感じる暇さえなかった。
今の右腕はエバ・グレイという偶然知り合ったサイバーウェアの研究をしている女性に
取り付けてもらった義手。
この右腕は未熟だった自分への戒めと思っている。
右腕を切り落とされても憧れであることに変わりはなかった。
そして再び旅を続け、モンスターを狩り続け、賞金首を狩り続け、
戦車を素手で破壊することもできるようになったある日、
彼女からメールが届いた。
『ジャンクヤードの酒場で待っている』というだけの文面で。
自分の故郷である片田舎の街ジャンクヤード。
ジャックさんの経営するその酒場のカウンターに彼女がいた。
そして彼女は振り返ってはんたを見てただ一言だけ告げた。

「あ、待ってたよはんた。さ、いこうか。」

彼女の名前はレッドフォックス。
赤い悪魔、タンクバスターの名前で呼ばれる戦闘用アンドロイドの肉体を持つ
世界最強の賞金首。
全長がどのくらいか考えることさえ愚かしくなる地上戦艦ティアマットで200,000G、
砂漠1つをそっくり磁気嵐を巻き起こして暴れていたファンタジーじみたドラゴンでさえ
150.000Gの賞金に対して、彼女の首にかけられた賞金は300,000G。
幼馴染のレイチェルがあの人と戦っちゃだめと止める。
裏口から逃げろと。
かつて西部最強と言われた伝説の賞金首ジャック・ザ・デリンジャーが
鋭い視線のまま、お前が決めることだと告げる。
片田舎に過ぎないジャンクヤードの街にある唯一の広場で彼女は彼を待っていた。

「わかるだろ?これからアタシ達がいったいなにをするか。」

なぜと理由を問うことも、わからないとごまかすことも、
ましてわかると答えることさえ彼にはできなかった。
彼にできたことはちょっと待ってと言っただけ。
「全力で戦えるようにしてきなよ。なんだったら戦車に乗ってきたっていいからね。」
あははという笑い声と共に彼女レッドフォックスはそう言ってくれた。
はんたの心の内を理解したかのように。
そしてはんたは戦車を持ち出し、改めて対峙する。

「それじゃあはじめようか。最強のハンターと最強の賞金首の戦いを!」

彼女の言葉とその獰猛な笑みが始まりの合図だった。

結果としてはんたが生き残った。
戦車に積まれたレールガンを撃って直撃したにも関わらず彼女は立ち上がり、
馬鹿げたくらい高出力のレーザーを撃ち込んでもあははと笑いながら反撃をしてくる。
地形は粘度細工のように壊れていく。
それなのに彼女の姿はかけらも変わらない。
変わらず獰猛な笑みを浮かべて笑いながら反撃を繰り返す彼女の姿に
恐怖を感じる暇さえ無く、体に染み付いたハンターとしての習性が
意識と切り離されたように遺伝子にまで刻み込まれた戦闘行動をとり続ける。
彼女の持つカスタマイズされた対物ライフルの一撃で
冗談じみた枚数を貼り付けてきた装甲タイルが片っ端からはじけ飛び、
装甲タイルの下にある戦車の分厚いはずの装甲が紙きれ以上に容易く貫かれて、
彼女が振り回す身の丈ほどもある高速振動剣は戦車砲をちくわのように輪切りにし、
やがて壊しつくされた戦車から飛び出した彼の脇腹を抉り取った。
ナノマシンによって暴力的なまでに異常な回復を引き起こす満タンドリンクを
飲んでいる暇さえ惜しく、火炎瓶を放り投げ、銃弾を撃ち込み、切り結んだ。
長い戦いの果てに彼女の対物ライフルが弾切れをおこし、
やっとのことでかつて彼の右腕を切り落としたその剣を破壊したと思えば、
鉄屑にすぎないそれを振り回して衝撃波を生み出し、
光学迷彩に自己修復と戦闘用アンドロイドの機能をフル活用する彼女は
紛れも無く世界最強の呼び名にふさわしかった。
けれど死闘の果てに生き残ったのははんただった。
膨大な量の戦闘経験によって遺伝子にまで刻み込まれた戦闘技術と
執念と幾らかの運によってはんたが勝ったのだ。

「強くなったね、はんた。強い男は、嫌いじゃない、よ。」

それが彼女の最後の言葉。
ドサリと崩れ落ちた彼女の、あまりにもあっけない、世界最強の賞金首の終わりだった。
今でも理由がわからなかった。
どうして戦わなければいけなかったのか。
仲間はそれぞれの道を歩き始め、はんたは日常に戻った。
つまりモンスターを殺して殺して殺しつくす毎日に。
大破壊前のアンドロイドをパートナーに連れて・・・。


モンスターを殺して殺して殺しつくして、
たまに決闘を挑んでくる名声目当ての馬鹿を肉片に変えて、
そんな毎日がずっと続くと思っていた。
心のどこかに満たされないものを抱えながら。
ならばこれは当然の帰結。
少しずつ狂った歯車が軋みをあげ始めた。

「はんた。あなた本当に大丈夫?ちゃんと寝てる?」

修理屋を営む母親がツナギ姿で心配そうに尋ねたのが始まりだっただろうか。

「はんた、大丈夫?怖い顔してるよ?」

共に旅をしたメカニックの女の子がメガネ越しに真剣にそう言った。
結婚の約束を遠い昔にしたような気もするが、どちらも言い出さない以上気のせいだろう。
彼女の修理に何度も助けられた。
そんな彼女は親の営む修理屋を手伝っている。

「はんた、お前・・・いや、なんでもない。親父に似・・・いや、親父のほうにたまには顔をみせてやってくれよ。お前のことすっげぇ気に入ってるんだぜ。息子の俺よりも気に入ってんじゃねぇか。お前の頼みならどんなにマゾい塗装でも嬉々してやってくれるぜ。」

共に旅をした兄貴分のメカニック。
元々天才肌の彼は親が行う修理の腕を認めながらも、この程度の仕事は俺にふさわしくないと振る舞い、旅にもしかたないから付き合ってやるというスタンスだった。
そんな彼が旅の途中で知ったのは自分の本当の父親。
ある男が落とした写真に幼少の自分が写っていたことにどれほど驚いたことだろう。
そして親に告げられた真実にどれほどの衝撃があっただろう。
それらを乗り越えた彼が心配そうに声をかける。
ごまかすように笑い飛ばした彼が言いよどんだ言葉はいったい・・・。

「はんた、お前、本当にはんた・・・だよな?中身だけそっくり入れ替えたとかないよな?」

名前の知られた傭兵団ルージュフラッグの最後の生き残り。
西部を訪れて知り合ったころの彼女は、仲間を皆殺しにされ復讐に燃えていた。
はるかに優れた銃の腕を持った彼女がどうして旅に付き合ってくれたのか今でも疑問だ。
父親が記憶を失って生きていたと旅の途中で偶然に知ったときの彼女は
どんな気持ちだったんだろう。
その金髪のソルジャーが確認するかのように声をかけてくる。

「はんた、気のせいかな。お前の放つ気がムラサメに似てきたような・・・。まさかな。」

分厚い筋肉で覆われた肉体を持った剣に生きたソルジャーがそう声をかけてきた。
強敵であるムラサメとかつて戦った際、双方戦うべき刀を失った。
彼と戦うにふさわしい刀を捜し求めるついでだと、旅に同行してくれた気のいい男。
やがて双方が戦うにふさわしい刀を手に入れて対峙した場所はジッグラト。
ラシードの持つ刀は真・降魔刀。
対するムラサメの刀は和泉森兼定。
ラシードは旅の果てに刀を手に入れた。
ムラサメは例え人類を滅ぼそうとする者の犬となろうと戦うにふさわしい刀を
手に入れるための代償として自分の信念を捻じ曲げた。
人類を滅ぼそうとするノアの端末アレックス達の用心棒として立ちふさがったムラサメ。
彼と俺が似ている?
時を変え、場所を変え、幼馴染、友人、知人、両親全てが大丈夫なのか?と尋ねてきた。
どこもおかしくなんかない。
そう思いながら久々に自宅のベッドで横になっているとドアをノックする音が聞こえる。
体を起こすと、妹のエミリがなにかを片手にこちらを見ていた。

「お兄ちゃん、その・・・鏡見てる?どこか具合悪くない?」
「お前までみんなと同じこというんだな。どこもおかしくなんかないよ。」
「本当に具合悪くない?おかしくなったらちゃんとミンチ博士のところに行ってね。」

そう言ったエミリに笑い返すと、どこか不安げにエミリは階段を下りていった。
揃いも揃って本当にどうしたっていうんだ。
ふと、ドアのところに何か落ちている。
手鏡?
エミリも最近色気づいてきたってことなのかな。
今度、インテリアショップから化粧台でも送ってやるか。
そんなことを思い、なにげなく手に取ったそれを思わず手から取りこぼした。
鏡の割れる乾いた音が響く。
家のドアというドアをぶち破り、鏡という鏡を見ては叩き割っていた。
ああ、まったくエミリはしかたないな。
こんないたずらをするなんて。
まさかジャックさんのお店までこんな悪戯できないだろう。
お兄ちゃんを驚かせるなんて悪い子だな。

「おい、はんた。いったいどうしたんだ?」

突き破るような勢いでスイングドアを開けて家の隣の酒場に飛び込む。
ジャックさんがなにか言っているけど聞こえない。
レイチェルの部屋のドアを引きちぎる。

「きゃっ。は、はんた?」

幼馴染のレイチェルを化粧台の前から押しのけて鏡を覗き込む。
化粧の途中だったのか着替えの途中だったのかさえ気にできなかった。
何時間たったのだろう。
ほんの数秒だったのかもしれない。

「はんた。いったいどうしたのよ?」
「レイチェル、鏡に悪戯書きする趣味あったか?」
「そんな奇特な趣味誰も持ってないわよ。」
「鏡に映ってるこれは誰だ?」
「はんた、頭大丈夫?戦いすぎて脳みそ茹っちゃったんじゃないの?」
「質問に答えろ!!!!!!!!!!!!!!」
「な、なによ。あんたの顔以外になにがあるっていうのよ。昔から代わり映えしない
無表情のあんたの顔以外何が映ってるって言うのよ!!!!!」

自分で見て誰なのかわからなかった。
鏡に映る、屠ってきた賞金首達や死人と区別がつかない瞳を持つこれが誰なのか・・・。

「アルファ、俺はおかしいのか?」
「いいえ、マスター。バイタルはいずれも正常値です。」

彼女は大破壊前の遺産のアンドロイド、アルファX02D。
地上戦艦ティアマットの中で見つけた彼女をアルファと名づけて世界中を連れまわした。
殺風景だとティアマットの中にある彼女の部屋にいろいろ送ったこともある。
言うに憚られる服も送ったがそのあたりはどうでもいい。
疑いようの無い事実として彼女は誰よりも正確で忠実で誠実であること。
現在よりもはるかに飛びぬけた大破壊前の技術で作られた彼女の言葉なのだから
間違いはないのだろう。
肉体的な問題ではなく、精神的に俺は・・・。
ほんのコンマ数秒、街中だからと油断するという普段なら絶対にしないミスをした
自分自身を呪った。

「マスター!!」

強い衝撃で体を横に弾き飛ばされたのと飛来したおそらくは戦車砲が炸裂した。
『やったぜ』とか『今日から俺たちが』とか歓声を上げている馬鹿ども。
この程度の不意打ちでどうにかしたつもりか。
既に視界は真赤に染まり、体が勝手に動き出す。
気がつけば肉片と鉄屑が転がっている。
いつもどおり、いつもどおりだ。
この後、いつもどおりイゴールがドクターミンチのところにイキのいい研究材料だと
死体を引きずっていって、俺は家に帰って、飯を食べて、アルファをティアマットに送り・・・。
はっと息を飲んだ。
同時に自分が変質していると明確に自覚した。
地面に転がりピクリとも動かなくなったパートナーたるアルファのことを
鉄屑と認識してしまった事実を前に・・・。

そこからの記憶は途切れ途切れだ。
慌てて駆け寄って、ボディが限界だと告げるアルファの遺言を聞いて、
死体蘇生の研究をしているドクターミンチにお手上げと言われ、
あちらこちらに壊れたアルファを連れて訪れては無理だと言われては別れて、
すがるように辿り着いたエバ博士のところでさえ不可能だと言わつつも
アルファのメモリーチップだけは取り出せると言われ、
頼んだ矢先にアルファのメモリーチップを奪おうとした黒服共を皆殺しにして・・・。
目から光を失った無表情のアルファの身体を傍らに、
ろくな補給もせずメモリーチップを持って最後に訪れたのは、
辺境にぽつんと建ったバトー戦車研究所だった。

「ゴキブリーーーーーーーーーーーー!良く来たね!いやぁ、トモダチをアダナで呼ぶのってイイカンジだよね!ゴキブリーーーーーーーーーーーー!ところでゴキブリ、何か用?」

いつも通りの言葉をかけてきたバトー博士にどんなふうに説明をしたのか覚えていない。
とにかくアルファを蘇らせろっていう意味だったはずだ。
それに対してバトー博士はこんな返事を返した。

「んー?んんんー?つまりなにかな。ゴキブリが酷使しすぎて壊しちゃった
ダッチワイフのアルファのメモリーチップをCユニットに積めないかっていうんだね。
すごいやゴキブリ。そんなふざけたことはゴキブリにしか到底思いつかないよ。
でも大丈夫。なんたってボクは天才だからね。
トモダチの頼みならどんな無茶でもやってみせるよ。なんたってボク達、トモダチだろ?」

それで土台となるCユニットを作る材料にするから戦車を1度鉄屑に戻す必要があると
告げられて、バトー博士の戦車作りの機械の中へと乗ってきた戦車が
ベルトコンベアで送られていく途中、凄まじい地震に襲われた。
やがて地震が収まったとき、バトー戦車研究所からは誰の姿もなくなっていた。

・・・・・これがハンターとして世界を駆け続けたはんたの軌跡。

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最終更新:2008年01月17日 21:45